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おっさんは、別に心配してなかったようです。


「帝城が浮遊を開始。浮遊後の空洞下に小国連宗主国への直結空洞を確認した」


 見えた光景を全軍に通達すると、小国連軍の一部が色めき立った。

 

「中心部にいた敵航空戦力が降下を開始。現地点から空洞までの距離は徒歩で半日。敵軍突破を敢行した場合、最短でも一両日だ」


 こちらの被害を最小限の抑えることを考えると、下手をすると二日かかる可能性もあった。


「各国総指揮に伝達。戦闘を継続しつつ緊急連絡網を【風の宝珠】で繋ぐ。また【ドラゴンズ・レイド】に帰投命令。……最速でこちらに来い」


 風の拡声を終えると、レヴィが再び話しかけて来る。


 ーーーどうするのよ、クトー!? 一日以上掛かるなら助けに行けないじゃない!?


 鳥人たちの間を、リュウと共にすり抜けて来る彼女を見やりながら、クトーはメガネのブリッジを押し上げた。


「助ける……? なぜそんな必要がある?」


 ーーーえ……? だって魔物が向こうの現世の門をくぐって、不味いことになってるんでしょ!?


「なっているな」

「だから、助けなきゃマズいんでしょ!?」

「それがイマイチよく分からん」


 むーちゃんを滑空させつつ、その背中から真横に飛び降りたレヴィの言葉に、クトーは首を傾げた。

 すると、同じように足裏で地面に一対の筋を描きながら勢いを殺したリュウが口を挟んでくる。


「話が噛み合ってねーな。クトー、一体何がマズいのかきっちり説明しろ」

「……前線に出てきて欲しくない老人が、嬉々として参戦するだろうが」


 クトーが眉根を寄せると、レヴィとリュウが顔を見合わせる。


「老人……」

「ケインの爺さんか」

「そうだ」


 今、あの王都には王国南部、元辺境伯……国王ホアンの大伯父である剣聖ケインが、彼の護衛として留まっているのだ。


「王都が襲われたなどと聞けば、誰の制止も聞かんぞ」

「そりゃそーだろうな」


 クトーの言葉に、リュウがうなずいた。

 なんせ、あの老人は魔王を相手にするのを喜んでいる戦闘狂なのである。


「ま、マズいってそういう話……?」

「他にどういう話がある。まかり間違って死のうものなら国家の一大事だぞ」

「言ってる場合!? 王都が滅ぼされるよりはお爺ちゃんが前線に出る方が百万倍マシじゃないのッ!!??」

「ケイン元辺境伯が出なくても、そんなことには絶対にならん」


 はっきりと断言すると、いきり立っていたレヴィが面食らったように勢いを緩めた。


「な……なんで?」

「いやまぁ、言いたいことは分かるけどな」


 リュウが頬を掻くのに、クトーは軽く髪を撫で付けた。


「考えは、ほぼほぼ纏まった。後は数点、各国軍にどの程度の案が実行可能か、というのを確認すればいいだけだ」

「ぜ、全然意味が分からないわよ!?」

「……あそこの王都には何があると思ってるんだ、お前は」


 クトーは少しレヴィに呆れながら、言葉を投げ返した。


「まず、あの王都はギルドの総本部がある。それはAランク以上冒険者で構成される精鋭部隊と、全員がBランク以上の暗部が常駐している上に、ニブルとユグドリアがあの場にいる、ということだ」

「あ……」


 こちらの言葉に、レヴィはようやく理解したようだった。


 知性のない悪魔はせいぜいCランク〜Bランク程度の存在なので、彼らにしてみれば個々の個体はさほど苦戦するような相手ではない。


「次に、あの場にはバラウールの本体が存在している。アレを何のために異空間に設置したか、忘れたのか?」

「……結界……」

「そうだ」


 本来は魔王の侵攻に備えて、王都を守護する結界を強化したのである。


 内部に、瘴気を検知されない方法で、あるいは最初から入り込まれていたから前回は機能しなかったが、外部からあの程度の魔物が中に入り込もうとしても結界に焼かれるだけだ。

 

「王都の中にいる限り、民衆は安全だ。ならば通常依頼での『街に進路を向けた魔獣の駆除』と大差はない。数は多いが、その分こちらも1パーティーではなく冒険者ギルドの総力だ」


 対象の護衛依頼の方が、討伐依頼より難しいのだ。


 つまり護衛を考えなくてもいいのなら、緊急依頼を受けて普段より報酬が高い冒険者たちは自らの力を存分に発揮できる上にやる気が違う。


「その上ケイン元辺境伯が、おそらくは王国軍兵力を率いて最前線に立つ。……負ける要素がどこにある」


 ケインが本来なら護衛される側の立場であることさえ除けば、何の心配もないとすら言えるのだ。


 問題が起これば、最終的にバラウール本体であるミスリルゴーレムを起動して殲滅に向かわせても構わないし、クトーにはもう一つ策もあった。


 それが受理されるかどうかは相手の出方次第だが、おそらく拒否はされないだろう。


「何より、俺はそれらが無くてもあの王都に関しては心配などしていない。状況さえきちんと伝えられれば良い」

「な、無くても、って……?」


 あまり時間がないので早口に説明したことで怯んだのか、レヴィがどこか恐る恐る聞いてくるのに、クトーははっきりと答えた。


「あの国の国王が、ホアンだからだ」


 彼は魔王軍四将に支配された叔父、先代国王を討つために兵を集めて立ち。

 一度たりとも弱音を吐かずに自らの手に王国を取り戻し。


 ビッグマウス大侵攻中においては英断を行い、事後処理においてはクトー自身も感心するような素晴らしい立案指示、実行で被害からの復興を鮮やかに成し遂げたのだ。


「奴は俺とリュウの旧友であり、聡明で果敢な男だ。ーーーお前の住む国の王は、まだ若いが得難い名君であることを、少しは知っておけ」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自国の守備力は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃー! こうですね?w [気になる点] 浮かぶ城見ると思い出す 「真上か真下 もろい物よのう」 この台詞誰か言いそうでw [一言] 対策はばっちりとい…
[一言] うーん、魔族の連中が意味もないことをするとは思えないのだけど……。
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