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北の覇軍は、血の華を咲かせるようです。

 

 ーーー現世への道、第四門。


「整列!」


 ルーミィは、門をくぐった先で少し隊列の乱れた展開をしている兵らに対して声を張り上げた。

 見覚えのあるレイドの連中が、周りに展開して陣地を確保している。


 ザ、と音を立てて隊列を整えた連中を見て少しうなずいたルーミィは、脇に避けて軽く頭を垂れた。


 背後で待っていた主上……ミズガルズは、最外壁とその周りにいる魔物の群れを眺めて軽く鼻を鳴らす。


「夢見と同様の道をくぐった先にも帝都。向こうにあるだけでも目障りな国家が、どこへでもしゃしゃり出て行くのは不愉快だな」


 〝苛烈〟の二文字が人の形を取っているような覇王は、大剣を地面に立ててルーミィに目も向けないまま命じた。


「勇者どもを援護する。北狼の意地を見せろ」

「ご意志のままに。ーーー全軍、食い荒らせ!」


 風の魔導具で拡声したルーミィが再び声を上げると、北の軍勢が即座に動き始めた。


 北は気候の問題から、航空戦力である竜が有効に使えないため、ほとんどいない。

 だが逆に敵から同様の戦力で攻められることもないため、大地を駆ける戦闘においては無類の力を発揮する部隊が数多く存在していた。


 バック・ベアと呼ばれる熊型巨獣やフェンリル・ラインズと呼ばれる狼型の魔物を駆る、獰猛な黒き戦士たちである。


 その後ろに追従して、クトーたちが住む王国を含む小国連の兵団も動き始めた。


 住む国も戦法も違う即興の部隊を構築しても、練度など知れている。

 そのためミズガルズは、指揮官ごとに中隊に分けて各一部隊ずつのペアにして、先駆けと後詰めを任せる形を取った。


 人は小さく分ければ纏まることを主上は理解しており、また北の兵は厳しい大地で生きる者たちは生存競争において助け合うことの大切さを知っている。


 自軍が凶暴なのは、敵に対してだけだ。


「……仲を深めれば、今後小国連の土地が攻めづらくなるがな。難儀なことだ」


 ミズガルズがポツリと漏らした言葉に、ルーミィは小さく笑みを浮かべた。


「我が王の代においては、交易に関する心配はないと思われますが。この戦地に王自らが赴き、十分な恩を売っております」


 国王ホアンは、自国に引きこもっている。

 自らの国を奪い返して善政を敷く、年若いが勇敢で聡明な王ゆえに自らの意思ではないだろう。


 が、レイドやギルド本部を含むかなめの国で、後方の総指揮を執る者が不在、というわけにはいかないのだ。


 ーーーあの国は、有事においてはありがたいが平時においては目障りな国だ。


 そんな風にルーミィが考えていると、同じことをミズガルズも考えたのか、常のように厳しい表情のままポツリと呟いた。


「事後に、どこかの商人ほど恩着せがましく取り分の交渉は出来んだろう。今回のこれは『貸し』ではなく『借り』を返すためだからな」


 その言葉に、ルーミィは内心ではうなずいた。

 ミズガルズの肉体は、一度魔王に奪われているのだ。


 その奪還の際にレイドの協力を仰ぎ、またルーミィ自身も腕を一本失っていた。 

 今は代わりに、現在はジグとやらが作り出してくれたゴーレム技術を応用した義肢をつけている。


「が、ここから先どれだけ敵を殲滅出来るかで、それ自体は交渉材料になるだろう。ーーー他のどの連中よりも多く、魔物を殺す」


 鞘から、ミズガルズが大剣を引き抜いた。

 全身に纏う覇気の圧が増し、飢えた獣のような強烈な意思が肌で感じられる。


 ルーミィは自分も黒白二本の剣を手にしながら、小さく漏らした。


「御意……我王がそうで在ればこそ、北は安泰であると理解しております」

「戯言はいい。始めろ」

「は。センカ、ノリッジ。そしてスナップ」

「「「は!」」」

  

 声をかけると、二刀流の刀使いである侍従と、大斧と大槌をそれぞれに持ったノッポとチビのコンピが答える。


「主上の仰せだ。ーーー誰よりも魔物を殺せ」

「「「はっ!」」」


 全員が、返事と共に走り出した。

 センカを先頭に、ノリッジとスナップが左右を固めて魔物たちに突っ込んでいく。


 あの二人は戦力としてはセンカに見劣りするが、我を抑えるだけの頭を手に入れた後は自身の力を弁えて他者の背中を守ることに徹し始めた。


 今では、センカに『自らの背中を守るのを任せるに足る』と言わしめるほどに成長している。


 二人に後ろを任せた彼女は、全身から強烈な殺意と炎の気が膨れ上がらせ、黒白の刀身を赤い天地の気で包み込んだ。


 そして、魔物の群れの中でも大型の一体に狙いを定め、両刀を振るう。


「《炎華繚乱エンカリョウラン》ーーー」


 連撃が魔物の武器を弾き、返す刃でその体を袈裟斬りにする。


「ーーー灰の一刀!」


 トドメに、炎で形成された隠しの一刃で魔物の頭を貫いたセンカは、そのまま身を翻してノリッジとスナップが抑えている魔物たちを始末し始めた。


「私も参ります」


 ルーミィはミズガルズに言い置いて、センカたちとは別の魔物の群れに向かって駆ける。


「オォオ……!」


 呼気を吐きながら土気を放つと、自分の髪が黒から黄金色に変化し、全身に同じ色の燐光を纏った。

 光輝に包まれたルーミィは、勢いを一切緩めずに魔物の群れに突っ込む。


「《百華繚乱ヒャッカリョウラン)》ーーー」


 双刀、対八閃の十六連撃。

 駆け抜けながら一刃一匹を斬り伏せたルーミィは、最後両手の剣を交差させて地面に突き立てる。


「ーーー〝センノ太刀タチ〟」


 足元の地面に、土の気を走らせると、自分の周りの地面から無数の鋼の刃が生まれて天に向かって突き立った。


 その刃に貫かれた残りの魔物たちが絶命し、同時に突如出現した刃の林に、こちらに突っ込んでこようとしていた魔物たちも引き裂かれる。


 両刀を引き抜いてルーミィが振り向くと、ミズガルズは、敵の数が多くこちらの手勢が手薄な方に目を向けていた。

 一枚の札を取り出して手にしている。


 ルーミィ自身が、魔王に主上の体を貸してやる(・・・・・代わりに手に入れた魔導具……『転移の札』である。


「〝跳べ〟」

 

 ミズガルズの口元がそう動き、その姿が掻き消えた。

 視線を移すと、ミズガルズが姿を見せたのはルーミィと反対側、より深い魔物の真っ只中である。


 彼は大剣を振り上げて、無造作に周囲を薙ぎ払った。


「《蛮華繚乱バンカリョウラン》ーーー」


 剛剣が、一息で十数の魔物を屠る。

 だがミズガルズの剣はそれで終わりではなかった。


「ーーーオク刺刀サスガ


 引き裂かれた魔物の体から勢いで外に散った血、それ自体が無数の鋭い刃となってさらに周りの魔物を貫いていく。


 たった一息で百に届きそうな魔物を屠ったミズガルズの剣の腕は、全く鈍っていないようだった。

 北の玉座は、知のみでも武のみでも統べることはできないのだ。


「力無き者に王座なし……」


 主上健在の事実に満足しながら、ルーミィは周りの鋼刃を消滅させて再び魔物に挑みかかる。


 ーーー魔王不在の玉座を守る将兵など、恐るるに足りん。

  

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― 新着の感想 ―
[一言] あまり人類側の攻撃が美味く行き過ぎても帰って不安が高まりますね……。 そんなに甘い相手じゃないはずなので。
[良い点] 繚乱シリーズ開花! 血の花が咲き乱れてる 魔物の血って赤いのか黒いのかw [気になる点] あくまで 貸してやった なんですねw [一言] 主人公出番無しw ま 今回は助っ人の回でしょうから…
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