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帝国に潜む者たちが、蠢き始めたようです。


「やぁ、シャザーラ。上手くいったみたいだね」


 クトーが旅立った後。

 半日と立たずに面会に現れた少女を、シャザーラはしかめ面で出迎えた。


「まさか、貴様本人がやってくるとは思わなかったぞ……ア・ナヴァ」

「内政に明るい有能な人材が欲しいんでしょ?」


 ニコニコと答えた黄色人種領辺境伯は、ピ、と指を立てた。


「うちの領地はもう一人有能な人材が滞りなく運営してくれるからね。それに、ボク自身がここにこなきゃいけない理由もあった。クトーには内緒だけどね」


 相変わらず自信満々な態度が鼻につく。

 ジェミニ城の面会室から見える窓の外に目を向けたシャザーラは、そこに広がる光景に警戒しながら問いかけた。


「なぜ辺境伯軍を引き連れている」


 城の前にある大広場の一角を占拠する物々しい一団が、そこで野営の準備を始めていた。

 黄色人種兵だけでなく、黒い服を身に纏った者や、獣人たちの姿まで目に留まる。


「あ、食糧はちゃんと自分たちで確保してあるから安心して」

「そんなことを聞いているのではない!」


 ジェミニを(おと)すまで、という約束で協定を結んでいた相手が、自身の兵力を引き連れてやってきたのだ。


 警戒するのも当然だった。


 しかしア・ナヴァはそんなシャザーラの心配をからかうように、軽く両手を上げる。


「心配しなくても、ある程度準備が整ったらすぐに出ていくよ。もちろん領地を治めるために協力もする。ジェミニの街を手に入れたいのは山々だけど……」


 そこまで行って、ア・ナヴァは背後に目を向けた。


「入ってきて」


 呼びかけに応えてガチャリと扉が開き、入室してきたのは竜人族の女性だった。


「……誰だ?」

「獣人領総領、ディナ」


 シャザーラは口にされたその名に、大きく目を見開いた。


「総領……!? では、外の獣人たちは!」

「獣人領の兵士たちだね」

「貴様、他国の軍勢を国内に引き入れたのか!!」

「今更? 君もクトーに協力したじゃない」

「規模が違うだろうが!」


 魔王を倒したとはいえ、一介の冒険者パーティーと軍ではその意味合いが違う。

 彼らが領民に牙を剥けばそれは立派な侵略……戦争行為なのである。


「宣戦布告の報も受けていないぞ!?」

「してないからね」


 どこまでも人を食ったような態度のア・ナヴァに思わず掴みかかろうとしたシャザーラに、ディナの後ろからさらに声がかかった。


「……やめておきなさい、シャザーラ」


 その声に、ピタリと動きを止めた。

 丁寧な語り口の聞き覚えのある声……しかし入室してきた彼の姿に、シャザーラは息を呑む。


「私が許可を出したのです。事はもう、国同士で争う時期をとうに過ぎているのですから」

「貴方が……なぜ、ここにいるのです……それに、そのお姿は……」


 あまりにも痩せ細って変わり果てた相手に、シャザーラは震える声で問いかける。

 彼は小さく微笑んで、情けなさそうに自分を見下ろした。


「力を奪われましてね。死にかけていたところを、ア・ナヴァに頼んで助けていただきました」

「これが、クトーにも言ってなかったボクの秘密。……それに、帝都を攻め落とそうと思った意味、さ」


 ア・ナヴァの、それまでとは違う静かな声に、シャザーラは目を閉じた。


「ボクが君と争ってジェミニを攻め落とすつもりはない、ってこと、理解してくれた?」

「ああ」


 彼がいるのなら、それはそうだろう。

 シャザーラが目を開くと、ディナが辺境軍と獣人軍の混成部隊を見つめながら、無表情のまま口を開く。


「時は満ちた。小国連や東との協定を破ることになるが、これは必要な措置だ。悪いが道中、未だ奴隷とされていた獣人たちも開放させてもらった」

「もちろんそれ以外に被害なんかは出してないけど」


 ア・ナヴァが軽く言い、悪意に満ちた笑みを浮かべる。


「獣人がいなくなったことで破産する奴までは面倒みれないよ」

「ウチもそんな連中がどうなろうと問題にはしない」


 そもそもシャザーラ自身が迫害されていた側の鬼族である。


「つまり、このまま帝都まで南下するのか……だが、帝都からも人が来るぞ」

「分かってるよ。当然ボクらも彼らを待つさ」


 そこで、ア・ナヴァはそばに来た痩せ細った人物に目を向ける。


「それで、構いませんよね?」

「ええ。こちらの話に聞く耳を持つなら良し。そうでないならば、撃破いたしましょう」

「「御意」」


 頭を下げたア・ナヴァとシャザーラに、彼は満足そうにうなずいた。


「よろしくお願いいたします」


※※※


 一方、南西帝国帝都、帝王の居室にて。


「あ、全員揃ってますね」


 パラカが戻ると、そこには彼以外に四人の姿があった。


 二人は当然、魔王軍四将である、帝王の体を乗っ取ったハイドラ、もう一人は以前魔王が使っていた行商人の体に入ったラードーンである。


 もう一人は、白髪(はくはつ)の中年男性だった。

 正騎士の白い鎧に身を包み、腰に同様の材質で鞘を作った剣を下げている。


 帝国の紋章が入った赤いマントをつけ、精悍な面差しと恵まれた体躯を持つ人物だった。

 一分の隙もない雰囲気でひっそりと立つ彼は、無表情にパラカを一瞥する。


「準備は終わったのですか」


 ーーー〝帝国七星〟第一星・タクシャ。


 名実ともに、帝国の武の頂天に位置する人物である。

 彼の問いかけに、パラカはうなずいて美貌に浮かぶ笑みを深くした。


「ええ。滞りなく……まもなく、クトー率いる【ドラゴンズ・レイド】がこちらに現れるでしょう」


 その言葉に、ピクリと反応したのが最後の一人だった。

 ドレッドヘアが特長的な舞闘士(ソード・ダンサー)……マナスヴィンである。


「君が一番手です。良い戦いを見せてくれることを期待していますよ」

「……」


 パラカの言葉に、マナスヴィンは沈黙で応えた。

 特にその態度を気にもせず、ほかの面々を見回して言葉を重ねる。


「これが最終決戦になる……どんな愉しい戦いになるでしょうね」

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 御意 ということは・・・ [一言] マナスヴィンどうする?
[一言] hと段落つ行けたかと思ったけどむしろ状況はますます混迷の度合いを深めていましたか。 色んな人達の思惑が絡んでるのでしょうがないのでしょうけどね。
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