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おっさんは、少女とともに魔獣と戦い始めるようです。


「あれ、何?」

「クレイジー・ベヒーモス……に似ているが」


 奥にいる魔獣を見てレヴィが小声で疑問を口にするのに、クトーはアゴを指で挟んだ。


 本来なら紫の体色をした魔獣で、ランクはSに分類されている巨大な魔獣である。

 Bランクのドラゴンすら餌にする強い四足獣系の魔物であり、牛のような頭に巨大な二本角、金のたてがみを備えている。


 だが目の前で、おそらくは封印や強化の刻印を施された鎖によって繋がれている個体は、黒に近いほど深い青の毛並みを持っており、赤いたてがみをしていた。


 瞳孔のない目は血走り、荒い鼻息は興奮状態にあることがうかがえる。

 口の端からはぶくぶくと泡を吹いており、その泡が割れると瘴気が立ち上っていた。


「……狂っている、のか?」


 ベヒーモスは本来雑食で、巨大で強いというだけで獰猛なわけではない。

 普段は草を食んでいるような大人しい部類の魔物なのだ。


 色違いのベヒーモスは、死体の小山の一つに頭を突っ込むと、ガリボリ、と音を立ててそれを貪った。

 そして不意に、グルルルルル……と唸り声を上げて、自分を繋ぐ首輪を爪で引っ掻き始める。


 首元は何度も同じことを繰り返したのだろう、傷痕だらけなのだが、首輪には傷一つつかないようだった。


 しばらくそうしていたが、不意にピタリと動きを止める。

 するとシュウシュウ、とまた瘴気を上げながら傷口が塞がっていった。


『哀れだねぇ……』


 その様子に同情したようにトゥスがポツリとつぶやき、レヴィがうなずく。


「なんか、可哀想ね」

「繋がれて長いのかもしれんな」


 自由に動き回れず、ストレスを溜めた挙句に狂ったのかもしれなかった。


「だが、最低でも無力化しなければな。光源のピラミッドに近づくことも出来ん」


 クトー自身も哀れだとは思うが、救う方法があるわけでもなかった。


「トゥス翁。狂った魔物を元に戻す方法はあるか?」

『ヒヒヒ。あるわきゃねーさね。魔法の影響で暴走させられてるってんなら、解放してやりゃ元に戻りはするかも知んねーけどねぇ』


 トゥスはキセルから煙を吐きながら、キセルの先でベヒーモスを示す。


『あんだけ瘴気に侵されてちゃ、もう手遅れだろうねぇ』


 魔物は魂の穢れを生まれ持つ種族ではあるが、死霊系の魔物以外でそれを常に放ち続けているのは高位の邪龍くらいである。


「なら、せめて眠らせてやろう」


 やることに変わりはない。

 クトーが軽く【死霊の杖】を構えると、レヴィも肩のむーちゃんの背中をぽん、と叩いて飛び立たせ、ニンジャ刀を構える。


 だが、彼女は浮かない表情をしていた。


「気が進まないわね……」

「言っていても仕方がないだろう。それに狂っていたとしても、あれだけの人を殺している」


 大人しくさせたところで、ギルドから始末の命令が出るのは確実だった。

 クトーはまず自分とレヴィに身体強化魔法をかけ、トゥスも彼女に憑依する。


「むーちゃんはどうする? おっきくする?」

「やめておけ。巨大化するにはレヴィの力を使うんだろう?」


 ここから先、確実にカンキやバッツとの戦闘になるのである。

 力はできるだけ温存しておかなければならない。


「むーちゃん、俺の側から離れるな。なるべく速やかに無力化するぞ。できれば魔法の遠距離攻撃で片付けたいが……ベヒーモスは魔法耐性が高い。一撃で無力化出来なければ襲ってくるから注意しろ」

「鎖に繋がれてるけど、こっちにこれる?」

「鎖の長さと死体の山を見る限り、広場全体は走り回れるように見えるがな」


 一応通路の中に控えたまま、レヴィがすぐに飛び出せる準備をしたのを確認して。

 クトーは魔法を放った。


「ーーー〝貫け〟」


 光の貫通魔法。

 パッと空中を筋が走るのと同時に、ベヒーモスを繋ぐ鎖が青く光った。


 ベヒーモスの周りに防御結界が展開され、パキィン! と音を立てて魔法がそれを貫く。

 が、光が拡散して威力が弱まり、ベヒーモスの表皮に弾かれて散った。


『おやおや、あの鎖も古代文明の遺産かねぇ』

「……少し予想外だな」


 痛みが走ったのか、グゥルアアアアアア!!! と魔物が怒りの声をあげてこちらを見るのと同時に、封印の鎖がユラっと空間に溶け消え、ベヒーモスが解放される。


「そういうカラクリ……!」

「来るぞ。右に走れ!」


 クトーは言いながら通路を飛び出し、左に走る。

 続いて通路から飛び出したレヴィが右に向かうのを視界の隅で捉えながら、クトーは次の魔法の準備を始めた。


※※※


 一方、その頃。


 迷宮の別の場所に降り立ったバッツは、ベヒーモスの咆哮を聞いてニヤリと笑みを浮かべていた。

 どうやら連中はもう迷宮の中央に達したらしい。


「随分と早いな……さすがは【ドラゴンズ・レイド】といったところか」


 魔王殺しのパーティーに所属し、兄のカンキを出し抜く連中には、この程度の迷宮では物足りなかったようだな、と考えながら、バッツは剣を引き抜く。


 ーーー魔剣イヴィルブリンガー。


 血を吸えば吸うほど使用者に加速の効果を与える、闇の神器である。


「ヒャハハ……」


 カバン玉から水袋を取り出したバッツは、剣の刀身に罪人を殺して抜いた血をダバダバとかけて吸わせる。

 紫の怪しげな光を纏った魔剣は、その光を煙のように揺らめかせてバッツの全身を覆っていく。


 袋の中身が空になるまで振りかけた時には、剣の効果は最大限にまで引き出されていた。


「さぁ……愉しませてくれよォ……?」


 どこまでも沸き立つ殺意のままにバッツは地面を蹴り、ベヒーモスのいる広場に向かって駆け出した。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] こりゃまたなかなか厄介なことに。 ベヒーモスだけでも面倒なのに。
[良い点] なんという罠 攻撃を受けると鎖が消える・・・ 繋がれてると思ってからかった犬が襲い掛かるようなもんか    痛かったなぁ・・・ [気になる点] やっぱ魔族か?この兄弟 [一言] ベヒモス…
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