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232/365

おっさんは、青い瞳の男に邪魔をされたようです。


 翌日、ジェミニ領主城。


 クトーらが通された謁見の間は、外観同様に煌びやかな場所だった。


 ーーーまるで王のようだな。


 まるで玉座のように、一段高い場所に置かれた豪奢な椅子に腰掛けた男。

 長い赤絨毯の両脇にずらりと並ぶ兵士たちは完全武装で槍を立て、微動だにしていなかった。


 この街の支配者が誰なのか、というのが如実に分かる光景だった。

 グレート・ロックとは真逆の雰囲気である。


 それに、妙な違和感もあった。

 原因はよく分からないが、まるで耳を他人の手で塞がれているような不快な感覚である。


 ーーー?


 しかし、違和感の正体を突き止めるにもすでに部屋に入り口はくぐっており、目の前で会いに来た相手が待っている。


 一度疑問を意識の隅に追いやったクトーは、レヴィを従えて前に進み出た。

 そして書物で読んだ『帝国貴族への礼儀』に則って膝を折る。


「お初お目にかかります。黄色人種領辺境伯より預かった物品をお届けに上がりました」

「ご苦労様です」


 返ってきたのは。落ち着いた声音だった。


「顔を上げてください」

「は」


 素直に言葉に従って目線を上げたクトーは、改めて相手を観察する。


 ーーー帝国七星第三星、カンキ・ナンダ。


 壇上に腰掛けている金髪の男は、クトーの予想よりも遥かに年若い人物だった。


 年齢は自分とさほど変わりはないだろう。

 白色人種であり、特段の美男子というわけではないが清潔さと柔和さを感じさせる顔立ち。


 司祭のような衣服と帽子を身につけているが、それは紫の布地に金の刺繍を施した『成金の想像する高貴さ』に似た雰囲気を全面に押し出したものだ。

 

 体型などは特にだらしないわけではなく、かといって戦者のように屈強というわけでもない。


 だが微笑みを浮かべた表情と裏腹に、瞳の奥に他者を見下すような色があるのをクトーは見極めていた。


 カンキの横に立つ人物は彼によく似た顔と背丈だが、こちらは屈強な体格をしている。

 

 鎧こそ身につけていないが、腰に剣を()いた姿は、熟練の戦士であることを窺わせる物腰だった。


 十中八九、弟のバッツ・ナンダだろう。


「品の中身は?」


 問われてクトーは、預かった書状を掲げた。

 カンキがうなずきかけると、バッツが前に出て書状を手に取る。


 人差し指の付け根にある剣だこは、普通の戦士より遥かに分厚いものだった。


 戦闘の実力は弟のほうが上に見えるが、とクトーが思案している間に、元の位置に戻って書状を読んだバッツが兄に対して口を開く。


「要求通りのものだ」


 満足そうにうなずいたカンキは、改めて話しかけてきた。


「では、現物を。中身を確認した後に報酬の受け渡しを指示しましょう」

「御意」


 クトーは、ア・ナヴァから預かったカバン玉を手に取った。


 ーーーなるほどな。死骸愛好家か。


 一つ疑問だったことがカンキの表情を見て氷解する。


 現物を、と口にした時、顔にまるで子どものように嬉々とした色が浮かんでいたのだ。


 獣人の毛皮など、いくら美しくとも装飾品としての価値しかない上に、普通なら忌避される類いのものである。


 ア・ナヴァの用意したカバン玉にはフェイクの毛皮のほかに【真理の聖石】が入っている。


 ナンダ兄弟が魔族に支配されておらず聖石が発動しなかった時、あるいはフェイクに疑問を持たれた時……様々な状況を想定しながら中身を出そうとしたところで。


「少々お待ちを」


 ふいに、壇上の左右に掛かった垂れ幕……その上手側の袖から、一人の人物が姿を見せた。


 青い瞳を持つ、女性と見まごうばかりの美しい顔立ちをした男性である。

 鎧を纏ったその男を見て、カンキが微笑みを消さないまま話しかけた。


「どうされました、パラカ殿」

「少しお時間をよろしいでしょうか?」


 尋ねつつも、許可をもらう前に音もなくカンキに近づいた彼は、そっと何かを耳打ちした。

 その目線はこちらに向けられている。


 嫌な予感を覚えながら、手にした杖に念のために魔力を込めようとして……クトーは、先ほどの違和感の正体に気付いた。


 ーーー魔力が練れん、だと?


「なるほど……」


 耳打ちを終えたパラカが顔を上げると、カンキは得心した様子でうなずいた。


「あの女もずいぶんと大胆な手を打ってきたものです。まさか刺客を使者にして送り出すとはね」

「何の話でしょう?」

「とぼけるのは無意味ですよ、クトー・オロチ。……何を企んでいたのかは知りませんが、退場していただきましょう」


 カンキが優雅に腕を掲げるのを見て、クトーは舌打ちしながら立ち上がる。


「ッ……レヴィ」

「な、何でバレたの!?」


 クトーにならって、斜め後ろに膝をついていた少女は焦った声を上げるが、それに応える余裕はなかった。


 ゆら、とカンキの腕が瘴気に包まれたと思ったとたんに、視界の全てがまるで立ちくらみのように一斉に歪む。


「永遠の迷いの中で……命尽きるその時まで、後悔しなさい」


 そんなカンキの言葉を聞きながら。

 揺らぐ視界の中で、一人だけはっきりと姿が見える人物がいた。


 急変の原因……パラカと名乗った美貌の男である。


 彼がにっこりと笑って、楽しそうな様子でクトーに手を振るのを最後に、一切の音が消滅した。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] クトーはある意味有名人だから知ってる人は知っている かなw いかなる技を使ったのやら [一言] 尋問・・・じゃないよね 相手さんどうするんだろ?
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