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228/365

少女は、鬼の忍者に一泡吹かせることに成功したようです。


 レヴィが飛び出すと、パッとシャザーラと二人の分身は三方に散った。


 二つの巨岩から少し離れて、遮るもののない砂地。

 対戦相手に囲まれる前に、レヴィはトゥスの宿った土人形に意識を集中する。


 するとトゥスと共有した視界から、三人に囲まれようとしている自分がよく見えた。


 ーーーここから。


 レヴィはトゥスの体から、さらに外に自分の感覚を伸ばすイメージを頭の中に思い描いた。

 そして着ぐるみを着込むように、土人形の右腕に『イメージの右腕』を差し込んで、上に動かす。


 すると、土人形に変化があった。


 右腕が褐色に変わり、ヘナタトゥーの刻まれた自分の右腕と瓜二つになる。

 そして、少しぎこちないながら、腕を上に挙げた。


「よしっ!」


 思わず小さくつぶやいたところで、シャザーラの分身がくないを投擲してきた。

 避けたところで集中が途切れ、分身が動きを止める。


 レヴィは思わず舌打ちした。


「ッ邪魔しないでよ!」

「ただ土くれを動かしただけでいい気になるなよ、小娘。分身は戦闘中に動かせなければ意味がない」


 これ見よがしに本体が口を利いて、レヴィに向かって斬り込んできた。

 ニンジャ刀でそれを受けつつ、レヴィはギュ、と眉根を寄せる。


 二つの視界に、二つの体。

 思ったとおりにむーちゃんと共鳴した時に似た感覚だったが、違う点が二つある。


 一つはむーちゃんとは違い、分身は勝手に動いてくれないこと。

 もう一つは。


『ヒヒヒ。煽られてるねぇ』


 ーーーちょっと黙ってなさいよ!


 完全に面白がっているトゥスが、共有した意識に話しかけてくることだった。

 わざと邪魔をしているとしか思えない。


『失礼な嬢ちゃんだねぇ。伝わりやすいようにイメージを補助してやってるってーのにねぇ』


 ーーーその分気を散らしてんだからトントンよ!

 

 頭が痛くなりそうなくらい意識が混乱するが、負けてはいられない。


「どうした。さっさと動かないとうっかり殺してしまうぞ?」


 トゥスとのやり取りで体の動きを止めてしまったせいか、不意に足払いを掛けられる。


 慌てて受け身を取りながら土人形の視界に意識を向けると、足払いをかけたのは死角から間近に迫っていたシャザーラの分身だった。


 後転して立ち上がりさらにそのまま後ろに飛ぶが、分身は追ってこない。


 攻撃は手数も少なく、完全に手加減したもの。

 なんとか現状でも捌けるくらいで、訓練である以上当然なのだが……それでも腹は立つのだ。


 ーーーどいつもこいつも……見・て・な・さ・い・よ!?


 レヴィはナメられるのが一番嫌いなのである。


「フゥゥ……!」


 呼吸を整えつつ投げナイフを放つと、シャザーラとその分身は余裕で避ける。

 そのタイミングで、レヴィはもう一度土人形を動かしてみた。


 今度は足を一歩前に。

 そのまま身をかがめて。

 頭から、分身の一体に向かって……。


 ーーー突っ込め!!


 レヴィが脳内に描いたイメージに従って、レヴィと瓜二つになった分身が、無表情のまま背を向けたシャザーラに突っ込んでいった。


「動かしたか。ハハ、だがウチを捉えるには動きが鈍すぎるな!」


 前傾姿勢で突っ込んでくるレヴィの分身に振り向いたシャザーラは、これ見よがしに背中に手をついて馬跳びのように攻撃から逃れた。


 その隙に。


「……」


 シャザーラの分身その1が彼女と自分の間を遮る位置に動いたレヴィは、一本だけ投げナイフを撃った。


 対象は、自分の背後に位置しているシャザーラの分身その2。

 その攻撃は、あっさりと分身に命中した。


「ほう……!? やるな!」


 胸の中央にある核を射抜かれて分身がバシャリと水に戻ると、初めてシャザーラの声色が変わった。


 ーーーやっぱり、そうね。


 レヴィは自分の予測……『シャザーラは本体だけで見て分身を動かしている』のが当たっていたと確信し、次の一手に向けて動き始める。


 走り出した先は、二つの巨岩がある位置。

 そこでもう一度スクロールで水を撒いたレヴィは、最初と同じように掌で泥を引き上げて、巨岩の前に土人形を作り上げた。


 さらにレヴィは、トゥスの宿った分身をむーちゃんに補助させつつ、呼び寄せて近くに来させる。


「いきなり二体を操ろうとするのは少々無謀じゃないか?」


 また分身を作り上げ、三人に戻ったシャザーラがそう告げてくるのに、レヴィは言い返した。


「無謀かどうか、見てなさいよ!」

「口だけは大きいが、珍妙な仙人は二人いないぞ!」


 鬼の忍者は攻撃パターンを変えてきたようで、二体の分身がクナイを構え、レヴィの分身を追ってくる。


 分身を2つ目の土人形の近くで振り向かせたレヴィは、そのまま巨岩の後ろに回り込んだ。


「自ら分身が見えない位置に行くのは愚行だぞ!」


 やっぱり分身からは見えない、と思っているらしいシャザーラの言葉に、レヴィは逆に笑みを浮かべる。


 ーーー驚きなさいよ!


 岩の後ろにしゃがみ込んだレヴィは、ニンジャ刀を【風竜の長弓】に変化させた。

 そのまま弦を引き絞った姿勢で……大岩に向けて(・・・・・・)構える。


 そのまま分身に意識を集中したレヴィは、襲ってきたシャザーラの攻撃を一度捌いてみせたが……即座に二人目に背中から貫かれた。


『危ねーねぇ……死んだらどうする気さね?』


 シャザーラに向けたものか、自分に向けたものか分からない声を上げたトゥスは、ズルリと分身から抜け出す。


 死ぬもなにも、体がないのに何を言っているのだろうか。


 分身は土人形に戻って崩れ落ちたが、トゥスとの共鳴は途切れていない。

 彼の視界を拝借して状況を見定めると、二体目の土人形も、シャザーラの分身によって蹴り倒された。




 ーーーでも、狙い通りよ!




 巨岩の向こう……土人形を倒したシャザーラの分身は、縦に並んでいる。

 ちょうど、巨岩を挟んでレヴィの前に、一直線に、だ。


 レヴィはありったけの練り上げた気を込めて風の矢を生み出すと、撃ち放った。


 ギャォ!! と強烈な風の唸りとともに螺旋を描いて放たれた矢は、巨岩を穿った。


 爆発音にも似た衝撃音と共に巨岩に大穴を空けながら突き抜けた風の矢は、二体の分身をも貫いて消滅させる。


「何!?」

「どう!? 見た!?」


 今度こそ驚きの声を上げたシャザーラに、レヴィは拳を握りしめてグッ! と力を込めてから立ち上がった。


 巨岩が崩れ落ちる前にそばから離れて前に回り込み、目を丸くしている忍者に指を突きつける。


「あんまナメてんじゃないわよ!」


 ふん! と腰に手を当ててふんぞり返ると、クトーが遠くでアゴを指で挟んだまま首を傾げた。


「趣旨が変わっている気がするが」


 いつもの無表情で声を掛けてくる彼に対して、レヴィは言い返そうとしたが……。


 ーーーあれ?


 なぜは声は出ず、体も動かせなくなる。 

 そのままぐるん、と視界が回って青空が見えた。


 ーーーあ、れ、れ?


 疑問が頭を埋め尽くす中、唐突にぷつん、と視界が闇に包まれて、レヴィは意識を失った。

 



 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] あいかわらすレヴィは無茶しますなw 周りが良いように煽るから余計なんでしょうけど。
[良い点] 少しづつ上達してる が魔力切れ かなw 水より土のほうが魔力使うのかな それとも単に無駄が多いのか [一言] シャザーラはいい教師になる?w
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