おっさんは、仙人と再会したようです。
『お帰りかねぇ。首尾よく行ったかい?』
絆転移でレヴィたちの元に戻ったクトーは、キセルを吹かして笑みを浮かべるトゥスにうなずいた。
「予想とは違った決着になったが、目的は達した」
『そいつは重畳さね』
トゥスがヒヒヒ、と声を上げるのを聞きながら周りを見回す。
そこは岩場で、村の中ではなかった。
「どこだ、ここは」
『村の近くにある採掘場さね。もっとも、質の悪い石を捨てるだけの場所で、他に人はいねーけどねぇ』
「こんなところで何をしている?」
不審に思ったクトーが眉をひそめると、トゥスはキセルの先で打ち捨てられた巨岩の上を示す。
『アレさね』
クトーはそちらを見上げ、それぞれ別の岩に立つ二人の少女を見つけた。
シャザーラはこちらに襲いかかってきた時の黒衣を脱ぎ捨てて、青いニンジャ服を身に纏っている。
レヴィは、こちらもトゥス耳カブトを被ったニンジャ姿になっており、リョーちゃんが彼女のそばを舞っていた。
ーーー状況が読めんな。
見る限り、敵対しているように感じられるが。
「仲違いでもしたのか?」
『いんや』
トゥスは面白そうに、宙にあぐらを掻いたまま二人を見ている。
『嬢ちゃんが、待ってる間ヒマだと言い始めてねぇ。先立って鬼の嬢ちゃんが見せた『分身術』を教えろってゴネたんだよねぇ』
「勝手なことを」
余計な真似をしていらないケガをする可能性がある軽率な行動だ。
「なぜ止めなかった?」
『そりゃ面白そうだったからさね』
トゥスの答えはあっさりしたものだった。
悪びれた様子もない……が、元々この仙人はこんな性格である。
そもそもついて来た理由もクトーらに興味を持ったからであって、こちらの目的そのものは彼にとってはどうでもいいのだ。
「敵地で、未だ信のおけない相手だぞ。殺されたらどうする?」
『兄ちゃんが心配するほど、今の嬢ちゃんはもう弱かねぇと思うけどねぇ』
過保護さね、と片目を閉じたトゥスが、瞳に思慮深さを浮かべている。
メガネのブリッジを押し上げたクトーは、それで彼の狙いを察した。
八割方は、口にした通り単純に面白がっているだけなのだろうが……。
「レヴィをさらに鍛え上げることになる、と判断したのか?」
『嬢ちゃんは伸び盛りだからねぇ』
トゥスはそのまま、レヴィの成長の過程を列挙し始めた。
『温泉街からこっち、気合で魔族の縛りを跳ね除けたかと思ったら、聖白竜の加護を得て、風の力に火の力、聖の力も得たあげく、世界樹にまで認められたさね』
末恐ろしいねぇ、と肩をすくめる彼の言葉に、クトーもようやく彼女の成長が常軌を逸していることに気づいた。
「言われてみれば、そうだな。想像以上の逸材だ」
『兄ちゃんも大概だとは思うけどねぇ』
「そうか?」
彼女に比べれば、保留にしていた女神と契約したこと以外は【死竜の杖】を手にした程度である。
そう告げると、トゥスに呆れた顔をされた。
『程度、ねぇ。魔王を二度も殺した男とは思えねぇ発言さね』
「仲間の力がなければどうにもならなかった。俺一人で倒したわけではない」
自分はせいぜい、多少の指揮が取れる程度の雑用である。
そんな風に思っていると、トゥスは、はいはい、とでも言いたげに首を横に振った。
『人間ってのは、我がことは中々見えねーもんだよねぇ』
そのまま、反論する前にレヴィたちに意識を移した仙人は、お、と声を上げる。
『そろそろ始まるみてーだねぇ』
「ああ」
クトーがうなずくのと同時に、岩の上に立つ二人は、お互いに岩を蹴って動き始めた。




