黒人辺境伯は、もう一人の来訪者を出迎えるようです。
リュウとクトーが去った後。
「では、裏取りをいたしましょう。それと、混乱に備えていつでも出兵可能な状態に整えなければなりませんね」
ネアルがそう言ったので、マナスヴィンは彼の顔を見た。
「結局のところ、何がどうなっているんだ?」
「おや、お察しでない? 聡明なあなたにしては珍しいことですね」
「Hey、そういう嫌味は良くないな、ソウルブラザー・ネアル。彼らが帝都に向かうことくらいしか分かってないぞ」
賢い連中の会話というのは、1を聞いて10を察しろと言わんばかりだ。
なんでも話すタイプであるマナスヴィンにしてみれば、一番苦手な類いのものである。
「小国連と北や東の大国が手を組んで、帝国に仕掛けてくるのですよ。また商会連合も一枚噛んでいますね。グズグズしていると、食料の流通などがやられます」
「……What?」
想像すらしていなかった規模の大きな話に驚き、思わず目を剥いた。
「一体全体、なんだってそんなことに?」
「帝都が魔族に喰われた、というのは、中にネズミが混ざっているという話ではありません。おそらくは、帝王陛下もしくは中枢丸ごと行かれてる可能性が高いのでしょう」
ネアルは冗談は言わない。
いつも通り生真面目なその顔は、事実だけを述べているように見えた。
「……一大事じゃないか」
「そうですよ。私は、マナスヴィン様の人を見る目を信頼しております。【ドラゴンズ・レイド】というパーティーは、私利私欲のために周囲を害す者たちなのですか?」
「それは違うと言い切れるな」
それは、私利私欲がない、という意味ではない。
自分が満たされるために何かを人から奪い去る者たちではない、という意味だ。
「では、そんな彼らがこの地を、わざわざ変装までして攻めた理由としてはネズミ一匹では弱いと思われます」
複数の国家が動く事態、それも国家間戦争を厭わず、本来なら敵対関係にあるはずの者たちまで手を結ぶ理由は、とネアルは淡々と続けた。
「一つしかありません。過去に一度だけ人類一丸となって滅した存在が、今また再び現れている……としか」
「魔王が復活したと言いたいのか?」
「そこまででなくとも、残党が動いている可能性はありますね。それも誰にも気づかれることなく、帝都を手に入れた……」
ネアルの言葉に、マナスヴィンが真っ先に心配したのは、第一星である王都の将軍、タクシャだった。
高潔にして強大、公明正大で自分を認めて取り立ててくれた、帝国最強の男。
「まさか、彼まで?」
「それを確かめるのです、マナスヴィン様」
ガタリと立ち上がった自分に、ネアルはなだめるように手を上げる。
するとそこで、拍手の音が響いた。
「お見事。いやぁ、凄いなぁ。まさかクトーと同じくらい頭が回る人がこんなところにいるなんてね」
バッ、と二人が顔を向けると、そこに立っていたのは見覚えのない男だった。
一見女性と見間違うほどに美しい顔立ちをしているが、紫の鎧を身に纏う立ち姿は男性のそれで、腰に剣を差している。
「君は誰だ?」
マナスヴィンが腰のダンシングダガーに手をやろうとすると、ニコニコと微笑んだ彼は胸元に手を当てて名乗った。
「おっと、お初お目にかかりますね。私の名はパラカ、と申します」
宝玉のように青い、吸い込まれそうな瞳に明るい輝きを浮かべて、彼は言葉を重ねる。
「つい先日、先任者を倒して帝国七星第二星に任命された者です」
後半間に合わなかったので、分けて仕事終わりに上げまーす。




