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222/365

おっさんは、黒色人種領に別れを告げるようです。


 ーーー領主城の会議室。


「Fu〜m……帝都が魔族に支配されている、か」


 クトーの説明を受け、椅子に座ったマナスヴィンはドレッドヘアを軽く押さえて整えながら、難しい顔をした。


「君はどう思う? ソウルブラザー・ネアル」


 チラリと見上げたのは、傍に立つ実直そうな副官だ。

 彼は直立不動の姿勢を崩さないまま淡々と答えた。


「今この場で信じる、とお答えするには情報が全く足りませんね。寝耳に水なので」

「HaHaHa。ソウルブラザー・ネアル。君のハニーは枕元でそんなイタズラするのが好きなのかい?」

「今はそんな話をしていませんが。言葉の意味が分からないのであれば、学がないですね」


 手厳しい返答に、マナスヴィンは口を曲げて大きく目を開けると、手を広げて肩をすくめた。

 それを見て、人の姿に戻ったリュウが頭の後ろで手を組みながらニヤリと笑う。


「冗談通じなさそうな副官だな」

「それが少々困りごとでね。有能で素晴らしい男なんだが、肩の力を抜いて欲しいと常々思っている」


 そのやり取りに、クトーは軽くため息を吐いた。


「今この場で必要な冗談かどうかを、まず弁えろ」

「全くもってクトー様のおっしゃる通りですね」


 ネアルはこちらの言葉に賛同し、マナスヴィンとリュウは顔を見合わせる。


「……お互い、似た者同士の相方で苦労するな」

「分かってくれるかい、ブラザー・リュウ」

「「苦労しているのはこちらです」」


 そんなやり取りを傍で眺めていた三バカとジクが、ボソボソと口を開く。


「スゲェ似てるな……」

「正直、どっちもどっちだけどな。メンドクセェ……」

「全員足して4で割ったら丁度いいスかね」

「ヌフン。結局今回、一発も殴られてないんだよねぇ……残念だなぁ……」


 最後の一人は、心ここにあらずなだけのようだ。


「聞こえているぞ」


 クトーは緊張感のなさに普段以上の拍車がかかっている面々を相手にするのを諦め、ネアルとだけやり取りすることに決めた。


「どのような情報が欲しい?」

「そうですね。まずは帝都が支配されている、という確たる証拠でしょうか」

「ないな。あればこんな回りくどいやり方はしていない」


 帝王の体が奪われていることを知っているのは、魔王が、北の覇王ミズガルズの体を乗っ取って侵攻してきた時にその場にいた者たちだけである。

 

「では、信用しろ、と言われても判断材料がないですね。マナスヴィン様の判断は尊重いたしますが」


 冷静な彼は、淡々と切り込んでくる。


「私の印象では、あなたたちはまだあくまでも我が領地を攻めて来た『賊』です」

「Oh……ネアル……」

「いや、構わん」

 

 クトーはパシリ、と大きな手のひらで額を叩いたマナスヴィンの言葉を制した。


 正直、このくらい正直で冷徹なほうがクトーとしてはやりやすい。

 理屈で動く者は、理屈で納得させればいいからだ。


「しかし副官殿。こちらとしても、作戦行動の詳細を伝えることは出来ない。そちらと同様に、信用し切れる材料がないのでな。周りに迷惑をかける」


 またこの手の相手にはーーー直接情報を伝えなくとも、言葉の裏にある意味を読み取らせればいい。


 案の定。


「【ドラゴンズ・レイド】の他の方々も帝国内に入られている、ということですかな」

「この国が盗られると、各所で色々と不都合があるからな。辺境に関しては、帝国内でも色々とありそうだが」


 ネアルは、一つうなずいて話の方向を変えた。


「そうですね。あなた方の話を真実と仮定するのであれば、我々にとってもゆゆしき事態です。通商・・国家間・・・の関係に軋轢が生まれるのは望ましくない話ですから」

「ああ。商会連合や小国連、北の国や東の大国も、最悪の事態は望んでいないだろう」


 お互いに目を逸らさないままのやり取り。

 クトーは、ネアルの目に納得が浮かぶのを見た。


「裏取りはしましょう。そうですね、例えば……マナスヴィン様が懇意になさっている第一星、タクシャ様がご健在かどうか……あるいは、黄色人種領辺境伯に最近変わったことがないかを尋ねるのも悪くはないでしょうか」

「良い判断だと思う。不審なゴーレムの大部隊に関する報告などをしてみてはどうだ?」


 これで、用は済んだだろう。

 席を立ったクトーは、ぽかんとしているリュウに目を向けた。


「俺は戻る。送れ」

「……もういいのか?」

「話は通った」


 ネアルを振り向くと、彼は直立不動のまま動かない。

 リュウと似たような表情をしたマナスヴィンが、こちらと副官の顔を交互に見た。


「Hey、まるで双子のように通じあっているじゃないか。少しは話に混ぜてくれないのかい?」

「頭より口や手足を動かす方が得意に見えるが」


 クトーはシャラリとメガネのチェーンを鳴らしながら首をかしげる。


「こちらとしては、下手な考えを起こされるより、ここで派手に踊っていてくれる方がありがたい」

「ムゥ……ブラザー・リュウ?」

「なんだよ」


 問いかけられたリュウは、クトーと同じように立ち上がると、首の後ろに手を当てて天井を見上げながら答えた。


「ソウルブラザー・クトーは、もしかして嫌味を言っているのか?」


 すると、おかしそうな顔をして相方はクトーの肩に手を置いてくる。


「コイツは文句は言うが嫌味は言わねーよ。そうして欲しい、ってんなら、本当にそうして欲しいんだと思うぜ」

「つまり……〝ここに敵がいるぞ〟と騒ぎ立てればいいんだな?」

「そう言うこったな」

「裏取りをしてから、と言いましたよ。マナスヴィン様」


 二人の会話に、ネアルが口を挟む。


「彼らがもし欺瞞を口にしていた場合は、利敵行為になります。あなたはタダでさえ目をつけられているのですから、少し自重してください」

「美味そうな肉を前にお預けは、酷だと思わないか?」

「少しは我慢をなさいますようにお願い申し上げますよ、マナスヴィン様。あなたに降りられたら困るのは領民です」

なんてこったッデム!」


 大仰に嘆くマナスヴィンだが、そろそろ彼らの茶番に付き合うのも飽きてきた。


「そろそろ動かないと、向こうとの約束の刻限を過ぎる」

「ていうか、どうやって戻るんだよ?」


 絆転移バンドテレポートは、ミズチ、リュウ、クトーの誰かがいる地点しか使えない……というのが、縛りだった。

 それゆえの問いかけだったが、当然ながら対策は打ってある。


「トゥス翁とむーちゃんがいれば、どうにかなる」


 そもそも、受け皿となる魔法陣の代わりに自分たち三人を座標に設定しているだけだ。

 あのくらい目立ち、力を持っている者たちならば目標としては十分機能する。


「では、世話になったな」

「ずいぶん忙しい来訪だったが、会えて嬉しかったよ。ソウルブラザー・クトー」

 

 マナスヴィンは片目を閉じながら、ヒラヒラと手を振った。


「願わくば、精霊の導きの元に。またの再会を」

「全てが解決した後であればいくらでもお誘いを受けよう」


 そう答えてファーコートの裾を翻したクトーは、リュウや仲間たちとともに会議室を後にした。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 似たような立場(と性格)なら話は早いw 似たような上司だもんなw [一言] さて次の一手は?
[一言] たしかにリュウとネアルトレードしたらお似合いコンビになりそうではありますね。 ドラゴンズレイドがだいぶ堅苦しくはなりそうですがw
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