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おっさんは、次の一手を仕掛けるようです。


「では、俺は少し出てくる」


 席を立ったクトーは、そのまま話を続けた。


「一日、ここで滞在する。体を休めておけ」

「どこに行くのよ?」

「黒色人種領だ」


 レヴィの問いかけに答えると、シャザーラが疑惑の目を向けてきた。


「ワイバーンに乗っても二週間はかかる場所へ……? どんな方法でだ?」

「手の内を明かすと思うか? 行き先を伝えたのは、余計な詮索によってお前が疑心暗鬼になるのを防ぐためだ」

「余計に疑わしい物言いだが」

『ヒヒヒ。別にお前さんをハメようとは思ってねぇ、ってことさね』

「それはそうね。クトーは嘘はつかないから」


 転移のことを知っている二人のフォローに、シャザーラは不愉快そうな顔をする。


「レヴィとトゥスは残していく。それが終われば、次はジェミニだ」


 ドアを開けて夜空を見上げたクトーは、【風の宝珠】を取り出して魔力を込めた。


『おう、待ってたぜ』

「リュウ。黒色人種領(目的地)に着いたか?」

『とっくに待ちくたびれてるよ』

「ミズチ、お前は?」


 クトーがリュウとはまた別の場所にいるミズチに話しかけると、彼女の返答が戻る。


『準備が完了しました。足の確保は滞りなく済み、もうすぐ発ちます』

「そうか。くれぐれも、海洋王国には気をつけろ」


 レイドの作戦でも特に重要な部分……海洋王国との折衝を行い、海側から帝国入りする作戦の指揮を、クトーはミズチに任せていた。

 順当に考えればクトー自身かリーダーであるリュウがそちらに当たるべきなのだが……。


 リュウは腹芸を好まずレイドの最大かつ最速移動可能な戦力。

 クトーは利害の折衝は得意だが、初対面の相手に対して警戒心を与える性質を自覚しており、知名度がない。


 そこで、人当たりがよく頭が回り、かつ聖女という肩書きが強いミズチに回したのである。


『クトーさんの状況は?』

「もうすぐジェミニだ。着いたなら、先にそちらを片付ける」


 彼女の質問に答えると、リュウが意外そうな声を上げた。


『早いな。もう黄色人種領を落としたのか?』

「いや」


 クトーがア・ナヴァとの関わりと状況を説明すると、リュウが嫌そうに呻く。


『……なんか腹黒そうだな、そいつ』

「利害が一致している限りは信用できる相手だ。俺としてはむしろやりやすい」


 少なくともジェミニを落とすまでは邪魔をしないはずだ。

 その後は、こちらの作戦行動通りに物事が運べば裏切られても支障はない。


「ディナと手を組んでいるということは、獣人領を攻めることもないだろう」

『あいつも腹芸なんかするようになったのか……』

「総領の立場に立って成長したんだろう」


 魔王が健在だった頃のイザコザで、貴族連筆頭がジョカに交代したように、獣人領でも色々なことがあったのだ。


「成長しないのはお前だけだ」

『そりゃ俺は必要ねーからな』


 そのやりとりに、ミズチが小さく笑みを漏らしたところで話をやめ、クトーは二人に告げる。


「転移する。ミズチ、繋げ」

『はい』


 そのまま、絆転移バンドテレポートによって跳んだクトーが目を開けると、そこには絶景が広がっていた。

 

 どこまでも広がる星空と、視界を遮るもののない広大な草原。

 その中にリュウがこちらに背を向けて座っており、すぐ近くで三バカとジクが思い思いにくつろいでいる。


「……ここは?」


 軽く手を挙げる仲間たちにうなずきで答えてリュウに尋ねると、こちらを振り向きもしないまま答えた。


「黒色人種領辺境伯、マナスヴィンの領地の真ん前だよ」


 親指を背後に向けたリュウに言われて振り向くと、そこには初めて見る景色が広がっている。

 草原の中に、巨大で上が平らな岩……おそらくは王国の王都ならばその上に乗せられるだろう巨岩がそびえていた。


「あれが、グレート・ロックか」

「そう、大自然の神秘だか古代の遺産だか知らねーが、あの上とくり抜いた岩の中がマナスヴィンの街だ」


 広大なサバンナの広がる帝国南部において、亜人たちから第四星の居城が『難攻不落』と呼ばれる理由である。


 基本的な移動はワイバーンなど飛翔可能なものに限られ、地上から繋がる道は兵たちによって厳重に管理されているのだ……ということは知識として知っていた。


「実際に見てみると凄まじいものだ」

「俺らにゃ関係ねーけどな」


 リュウが薄く笑いながら立ち上がり、こちらに近づいてくる。


 マナスヴィンは亜人領と接する中央からは外れた南東地方の辺境伯だが、獣人領と接する黄色人種領よりもさらに屈強な軍勢を持っていると言われている。


 貴族連筆頭であるジョカの家に伝わる秘術に似た『舞闘』という天地の気を利用した武術を使うと言われている。


「調査はまだか?」


 クトーはリュウに尋ねた。

 

 こちらは魔王軍四将は帝国全領土を完全に掌握しているわけではなく、中央部の重要拠点のみを支配している、という仮定で動いている。

 しかし最初に出会ったア・ナヴァだけが帝国七星の中で特に有能である、という保証もなければ、マナスヴィンが魔族の手中に落ちていないという保証もないのだ。


 それを危惧しての質問だったが。


「いや、やったよ」

 

 リュウにしては珍しく、軽快に肯定の返答があった。


「どんな印象だ?」

「街は荒れてねぇ。そして領主の評判も、悪くねぇ」


 笑みと共に、リュウは話を続ける。


「どうやら、マナスヴィンは奴隷上がりらしい。一代でそこまで上り詰めるのもヤベェが、酒場での聞き込みじゃ仁治にして公明正大、しかし武断の男だとよ。文句の付け所もねぇ立派な領主様だ」


 こちらの肩に肘を置いてどこか嬉しそうに口にしているのは、気持ちのいい男が好きな相方らしい。

 クトーはメガネのチェーンをシャラリと鳴らしながら頷いた。


「支配もされていない様子だった、ということか?」

「直接見ちゃいねーから確証はねーが、少なくとも瘴気の気配はねぇ」


「ふむ」


 クトーはアゴに指を添えた。


 ならば仮に辺境で何かが起こったとしても、おそらく中枢の動きは鈍いだろう。

 しかし逆に、帝都を含む中央部で何かが起こった場合は、辺境に配されている有能な者たちは迅速に動くと思われた。


 支配されておらず、しかも高潔な人物だとくれば。


「殺すには惜しい男だな」

「へぇ、殺す気だったのか?」


 からかうように口にするリュウにかすかに眉をしかめてから、クトーは答えを返した。


「いいや。できれば話し合いを持ち、味方に引き入れたいとすら思っている。が、今はそれほど多くを望んでいる暇がない」

「じゃあどうする? 攻めねーのか?」

「それでは陽動にならんだろう」


 見せかけだけでも争う姿勢を見せ、相手に警戒心を抱かせなければならない。

 多方向から攻めてきている、と見せかけて戦力を分散させるのがクトーらの陽動の目的なのだ。


「だが、何も知らねー帝国民を殺すつもりはねーぜ。俺は」

「当然だ。俺たちは魔王軍四将の支配から帝国を解放しに来た。それでは本末転倒だ。……しかしマナスヴィンがすでに敵の手中に落ちていないという確証は欲しい」

「俺は落ちてない方に賭けるが、どうやって確かめる?」


 リュウの質問に、クトーは淡々と答えた。


「最初にデカい一撃を見舞っておびき出し、直接顔を見るのが一番手っ取り早いだろう」

 

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[一言] シアkしマナスヴィンって誰でしょう?
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