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213/365

おっさんは、鬼の少女を取り込み始めたようです。


 改めてシャザーラの話を聞いたところ。


 ジェミニの獣人は奴隷でこそないものの、明確に被差別的な立場にある、という話だった。


 兵士、商人であっても街の中心部へ立ち入ることは許されておらず、大半は防壁の外にあるスラムに住んでいるのだという。


「ウチは七星にはなったが、領地は与えられなかった。……だから帝国内で亜人が一番集まっているジェミニにいる」


 ナンダ兄弟の配下ではない、とシャザーラはそう悔しげに呻いた。

 が、聞いている限り獣人が〝帝国七星〟になっているだけで快挙と言えるような状況である。


 それはおそらく、話に聞く第一星、正騎士団長タクシャの公正な人柄ゆえなのだろう。


 シャザーラ自身も、不平を漏らしつつもタクシャに関してだけは特に思うところがないようだ。


「だが、攻めやすくはあるな」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。中心部に獣人がいないということは、お前に配慮した動きをする必要がない」

「……最初から争うのか?」


 シャザーラの不可解そうな問いかけに、クトーはあっさり答える。


「ジェミニに関しては、元々そのつもりだ」

「どういうことだ」

「会える、というのなら実際に相手を見極める機会になるだろう? ア・ナヴァの使者となればそこまで警戒はしない。情報を集めるのは戦術の基本だ」


 相手の手を知っていれば対策も立てることができる。

 そこで、シャザーラは気になっていたのだろう、こちらの目的を訊いてきた。


「貴様らが帝都を攻める理由はなんだ?」

「それを明かすほど、現時点でお前を信用しているわけではない。現状、ジェミニに関する目的が一致しているから行動を共にしているだけだろう?」


 クトーはシャザーラの目的も行動原理も、そこまで複雑ではないと思っている。


「同族のためを思う行動はよく分かるが、お前は少し思慮が浅い」

「何だと?」

「目的は獣人の解放か、地位の向上だろう。おそらく同族が行方不明になったことを調べるうちにアーノの元にたどり着いたんじゃないのか?」


 しかし、実際あの辺境伯は獣人領と協力して亜人の帝国脱出を手伝っていただけだ。


「お前には地位はあっても権力がない。だから調べ上げたことの深い部分まで知ることが出来ない」

「……!」


 トン、とテーブルを指で叩いたクトーは、シャザーラの瞳を覗き込む。


「戦うことに関しては自信があるのだろう。だが、権力との戦いは単純な強さだけでは決着をつけることが出来ない。よほど圧倒的でない限りはな」


 アーノを狙うのは、普通に考えれば非常に危険な行為だ。

 彼女に正体を気づかれれば、確実に帝国側に報告されて粛清の対象になるだろう。


 結果として気づかれていたものの、アーノ側も目論見があって事なきを得ているのである。


「本当に同胞を救いたいと思うのなら、冷静になることだ。アーノが実際には獣人たちを助けていたように、賢く立ち回ることを覚えてな」

「偉そうに……!」


 ギリ、牙を見せるシャザーラに、トゥスがニヤニヤとレヴィに目を向ける。


『何だか懐かしい景色な気がするねぇ?』

「嫌味かしら……?」

『いんや、褒めてんのさ』


 しかし鬼の少女は、そちらに意識を向けなかった。


「ならば貴様らには考えがあるというのか? ジェミニを攻め落とすなど、口にするほどたやすいことではない」

「考えがあって当然だろう。こちらは帝都を攻め落とす算段を立てているのだからな」

「たった二人で何が出来る」


 トゥスやむーちゃんを含めれば四人なのだが。

 そこはあまり重要ではないので、クトーは話を先に進める。


「戦闘とは、力と、数と、戦略を総合的に加味して行うものだ。だから頭を使えと言う。我々は攻め落とすつもりではあるが……攻め落とせなくとも構わない」

「意味の分からないことを……」

「その意味が分からないから、お前は目の前のことしか見えていないという」


 クトーはメガネのブリッジを押し上げて、シャザーラに回答した。


「我々の目的は、帝国戦力の分散だ。そもそも帝国に入っているのはこれで全員ではない」

「……他にも仲間がいる、ということか」

「当然だろう」

「だが貴様らがジェミニを攻め落とさないというのならば、ウチの目的は達成されない」

「いますぐにはな。だが俺たちが帝都を攻め落とした後の混乱に乗じて何か手を打つことは可能だろう?」


 その言葉に、シャザーラはようやく考え始めたようだった。

 敵意のほうが勝っていた目つきが変わり、ジッとテーブルの一点を睨み始める。


「……貴様は先ほど、外壁の亜人は狙わん、と言ったな」

「必要がないからな。中へは入れる。後の問題はナンダ兄弟をどれだけ迅速に始末できるか、だ。帝国における七星の名は軽くはないだろう?」


 クトーの言葉に、シャザーラはうなずいた。


「ナンダ兄弟がやられた、となれば降伏する者も多いだろう」

「もし今回で墜とせた時は、同じ七星であるお前が亜人たちを引き連れて制圧に来ればいい。我々がそれで引けば、ジェミニの何割かはお前に従う可能性がある」


 全員ではないだろうが、支配者代理として立てようとする可能性もあるのだ。


「ーーーこちらの策に、そういう形で乗るか?」


 クトーが問いかけると、シャザーラは少し間を置いて言った。


「……考えておく」

 

 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] これは悪巧みといっていいのかw うまくいくといいなぁ~
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