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201/365

おっさんは、少女たちと連れ立って街へ向かうようです。


「雑用係?」


 きょとん、と少女は首をかしげた。

 それにクトーが答える前に、レヴィが口を挟む。


「ただの冒険者よ。今は元のパーティーと別行動してるの」

「へー」

「俺はクトーという。そちらはレヴィだ」

「ボクはアーノだよ、おにーさん」


 少女はニッコリと白い歯を見せた。

 ショートカットの頭によく似合う、快活な笑顔である。


「キミたち、お揃いの真っ白な格好してるからてっきり正騎士かと思ったんだけど、違ったんだねー」


 正騎士、というのは、帝国中央を守護する帝王直属の騎士団である。


 〝帝国七星ていこくしちせい〟と呼ばれる帝国最強の称号を持つ七人の内の一人、正騎士団総大将タクシャが率いている。


「騎士にしては軽装だと思わないか?」

「知らないよー。そんな知識があるわけじゃないもん」


 あっけらかんと答えたアーノは、軽く髪を掻き上げた。

 まるで無知な様子で返答する彼女に、クトーは目を細める。


「帝国に住んでいるんじゃないのか」

「そんなこと言われても、正騎士なんか辺境でそう見かけないし。キミたちこそ冒険者にしては派手な格好してるけど、もしかしてよそ者?」

「ああ。獣人領の方から流れてきた」

「ふーん」


 嘘は言っていない。

 本当のことも言っていないが。


 しかしアーノは、こっちの素性に特に疑いを持った様子もなくうなずいた。


「なぜお前はニンジャに襲われていたんだ?」

「え〜……っと、それは……」


 彼女はこちらの問いかけに、少しごまかすように視線を逸らした。


「こっちにもほら、話せない事情とかがね?」


 しかもストレートの、ごまかす気があるのかどうかすら分からない返答だった。

 それは襲われていた事情があります、と白状しているのと同じである。


「そうか」


 しかしクトーは深く突っ込まなかった。

 こちらがあっさり引くと、それが意外だったらしく彼女は目を丸くする。


「え?」

「どうした?」

「いや、なんでもないんだけど」

「ならいい」


 ニンジャの正体は気になるが、たまたま行きがかりで助けただけの相手をいきなり追求しても警戒されるだけだ。


 それに、アーノとの会話からすでにいくつか情報は得ていた。

 

 彼女はこの近辺、おそらくは辺境伯直轄領地に住んでいる。

 こちらを正騎士と見て、しかし恐れていないので彼女自身に帝国に対する後ろ暗い事情はないだろう。


 おそらく権力者の部下として立場か、正騎士の権力自体に対抗できる後ろ盾があるのだ。

 

 そのくらい分かっていれば今の段階では十分だ。

 残りは街に着いてから調べても遅くはないだろう。


「俺たちはこれから辺境伯直轄の領地に向かうが、付いてくるか?」


 領地はここから半日と掛からない距離だ。


 そこで多少情報収集をし、自由に行動するためのブラフとしてギルド依頼を受ける手続きをしてから先に進むつもりだった。


 アーノはこちらの問いかけに、顔を明るくした。


「え、いいの? ちょうど帰りたかったから助かるかも!」


 彼女の反応に、それまで黙ってやり取りを聞いていたレヴィが口を挟んでくる。


「え、ついて来るんだ?」


 どうやらレヴィにはその返事が意外だったらしい。


「あれ、何かおかしい?」

「そういうわけじゃないけど。断るかと思ったから」

「またニンジャが襲ってくる可能性があるからだろう」


 レヴィにそう告げたクトーに、アーノは浮かべた笑顔を引きつらせた。


「そ、そんな理由じゃないよ?」


 バレバレすぎてわざとなのかと思えるような分かりやすいごまかしだった。


「そう言えば、お前はパーティーを組んでいないのか?」

「ボク、冒険者じゃないよ。ちょっとした用事で出かけただけだし」


 ーーー冒険者ではない?


 それは少し引っかかる言葉だった。

 ただの町人ということだろうか。


「まぁいい。行くぞ」


 クトーは歩きながら考え始めた。


 この近辺に、日帰りでたどり着ける直轄領地以外の街はない。

 となれば、関所か地図に載っていない場所に向かった、ということで、彼女の素性がさらに謎になる。


 ―――権力者や『運び屋ポーター』の関係者にしては、言動が迂闊すぎる気もするが。


 運び屋、というのは、誰かに狙われた依頼者を別の街へ逃す依頼を専門に請け負う者達である。

 

 いわゆる斥候スカウト連合の一つであり、現状存在する組織の中で最も正確かつ詳細な地図を作成する集団としても知られていた。


 さらに彼らは街と街を繋ぐ者であり、脱出側の街と潜伏側の街の情報にも通じている必要がある。

 それはありとあらゆる情報に通じているということと同義であり、ギルドとも協力契約を結んでいる情報のプロである。


 アーノはそうした連中の同類には見えなかった。

 普通に考えれば誰かの子飼い、それも下っ端の類いだろう。


「……あの子、信用できるの?」


 少し経って、横に来たレヴィがぼそりと言う。


「後ろから襲ってきたりはしないだろう。何か気になるのか?」


 街に着いた後は分からないが、と思いながらクトーは問い返した。


「……上手く言えないけど、なんかザラッとするのよね」


 レヴィも、具体的な言葉にならないまでも彼女の素性について違和感を覚えている様子だった。


 その理由は、彼女の態度と出会った状況のギャップによるものだろう。


 アーノの服装そのものはごく普通に見える。

 手に少し刃の反ったナイフに皮の胸当てと外套、背負った荷物は近場に出かける程度のもの。


 だが彼女は、その態度や服装と裏腹に。




 ―――あれだけの時間、複数のニンジャに襲われていて傷一つ負っていなかった。



 


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― 新着の感想 ―
[良い点] ( ̄~ ̄;)ウーン・・・不可思議 いったい何者? [気になる点] おそろいの白い装備 目立ちそうw [一言] ニンジャもけっこうなテダレそうだったし・・・ わからん!
[一言] 傷一つ負っていないのは謎ですね。 本当はよほどの腕前なのでしょうか?
2019/11/23 19:04 退会済み
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