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雑用係は、全ての雑用を終えたようです。


「これは……?」


 クトーは、自分が手にしていた偃月刀と勝手に飛び出してきた双銃が融合し、姿を変えたそれに目を見張った。


 長さは偃月刀よりも短く、不可思議な光を放つ金属だったものが材質すらも変わっている。

 木のような触り心地だがのっぺりとした黒いそれは、自らの手に馴染んだ旅杖によく似ていた。


 突いて歩く際に持ち手となる部分の膨らみに刻まれた円環と、円環の上に配置された3つの球体。


 一つは、真っ白な透き通った球体で、もう二つは勾玉(まがたま)を互いに違いに組み合わせたものだ。

 それぞれの勾玉は、双銃の持つ4属性の色をしていた。


『名前は【死竜の杖】ってとこかねぇ』


 何が起こったのか分かっていないクトーの様子を楽しむように、トゥスは笑った。


『兄ちゃんに合わせた武器なんだろうが……ま、今はどうでもいいことさね』


 後々使い方を覚えな、と仙人は告げて、キセルの先でジョカを示した。


『魂はこの場に留め置いてる。そいつを使って、後は反魂したらいいだけだねぇ』

「何? だが、それは」

『死霊にゃならねぇ。なぜなら、その杖は輪廻を司るヤツの許可を受けたモンだ』


 クトーはその言葉に、眉根を寄せた。


「……ずいぶんと軽い調子で言う」


 そんなことは世界のどの文献にも記されておらず、また真理も解明されていない。

 同時に、明らかに彼が語っているのは女神ティアムとも時には並び称される神のことだろう。


『昔馴染みさね』

「翁は本当に何者だ?」


 クトーの問いかけに、トゥスはキセルの頭で耳の後ろをコリコリと掻いた。


『そんな事が、今重要かねぇ? わっちはほんのちびっと人より長く生きてるだけの小僧だからねぇ』

「……ジジイの間違いじゃないの?」


 口を挟んだのはレヴィだった。

 彼女は先ほどからは一転して苛立った様子でクトーに語気の強い言葉を投げる。


「どうでもいい事話してないで、さっさとジョカのことやりなさいよ! 助けられるってんならさっさと助けるのよ! さっき言ってた事はなんだったの!?」

「む」


 いつもの調子を取り戻しているレヴィの言葉に、クトーはすぐにうなずいた。


「それに関しては、まったくもってお前の言う通りだ」


 たしかに、後回しにしてもいい話だ。

 クトーが杖を構えると、トゥスが話の続きをし始めた。


『反魂の術で蘇った生き物が死霊になんのは、あの術を作り出したヤツが闇雲に魂をこの世に戻すのを望まねぇから、なんだよねぇ』

「……」


 集中し始めたクトーは言葉には答えなかったが、耳は貸している。


『だが、ヤツはお前さんに肩入れするのを決めた。邪魔はしねぇさ。ーーーその武器は、そのためのモンさね』


 クトーは魔力を練り上げ終えると、深く息を吸い込む。


「〝死と輪廻の神、ウーラヴォス〟」


 クトーが静かに、杖に魔力を流し込むと想像以上にすんなりと杖はそれを受け入れ、柄頭の宝玉を光らせた。


「〝御名において、彷徨う魂への語りかけを望む。摂理に反し、死を拒絶する意思をもって、再び世界に魂が根付くことを請い願う〟」


 クトーは、ジョカの魂に強く呼びかけた。


 ーーー戻ってこい、ジョカ。

 ーーー俺にはまだ、お前が必要だ。


 青白く、死んだように目を閉じたその顔に、クトーはかすかな笑みが浮かぶのを見た。


 魂が、再び肉体とのつながりを取り戻し始めているのだ。

 クトーは締めの祝詞とともに、柄頭をまっすぐにジョカに向けた。


「〝今再び、甦れ。その魂の名は、ジョカ・ファン!〟」


 ォオオオオォォォ……と、魔王が嘆きの瘴気を操る時のような亡者を想起させる風が巻き起こる。


 風竜の長弓を握ったレヴィのフードや服の裾をはためかせながら、ジョカの周りで円を描いた風の中に、闇が発生した。


 ポツポツとその中に光が浮き上がり、星のようにまたたく。

 やがて、その光が弱まり闇が薄れるとともに、ジョカの体に血色が戻り始めた。


 反魂の術。

 それが本当に成功したのかを、微動だにせずに見るクトーの目の前で。


 ジョカは、うっすらと目を開けた。


「……クトー? なんだか、安らかな眠りを妨げられたような不快さだわ」


 微笑みを大きくしながらそう言うジョカに。


「それは、すまないことをしたな」


 安堵を覚えて肩の力を抜くクトーの目の前で。


「ジョカさんッ!」


 レヴィが涙を流しながら、彼の体を抱きしめた。

 

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