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おっさんは、勇者と連携して魔王に一撃を加えるようです。


 クトーたちは、着実に敵を追い詰めていた。


 カギになったのはチタツだ。

 ルーミィやセンカと違い、不完全な変態をしている上位魔族はその本来の力を発揮できていない。


 歪な魔獣のそばに戦場を移した後は、ゴーレム主体で相手をさせてジョカとギドラが進路を誘導していた。

 ルーミィとセンカに関しては、ルーとケインが相手をしつつクトーがサポートに入っている。


 片手には偃月刀を持っているが、もう片方の手には【双竜の魔銃】の片割れである炎と風の魔銃を握っていた。

 二種の魔法弾で的確にルーミィとセンカの連携を潰し、ケインとルーの戦闘を補助していく。


「ギドラ」


 ーーー後ろだ。


 チタツの相手をするギドラに背中合わせになったクトーが心の中でささやくと、彼は後ろを見もせずに裏拳で肩の上辺りの空間を叩いた。


 ミズチによって、この丘近くで戦っているレイドの人間は全員繋がっている。


 ボッ! と空気が音を立て、ギドラの背後に回り込もうとしていたセンカに向けて風の気弾が撃ち出される。


 当然狙いは甘いが、クトーは魔銃から炎の弾丸を撃ち出して気弾に叩きつけた。

 炸裂した気弾の爆風によって魔銃弾の炎が広がり、センカの視界を塞ぐ。


 そこに、ケインが飛び込んでいった。


 爆炎を黒い大太刀でクルクルと巻き取ったセンカは、尾を引く炎を旗のように振りながら、返す刃を老剣聖に叩きつける。


 造作もなくそれを防いだケインは、相手に笑みを向けた。


「ほほ。おぬしもなかなかいい腕前じゃの」

「敵を褒めている余裕がおありで?」


 二人のやり取りを聞きながら、クトーは振り向いてギドラとやり合うチタツに偃月刀を向ける。


 ーーージグ、ルーミィを足止めしろ。


 内心で今度は人形遣いに話しかけながら、呪文を口にする。


「〝貫け〟」


 殺傷力の高い光の貫通魔法を、チタツは避けた。

 だがそれは退路を塞いだ上での一撃であり、そこしかない(・・・・・・)方向へと相手が避けたところで即座にジョカが飛びかかる。


 チタツの位置がさらに魔王とリュウが戦う場所へと移動したことで、少し離れた場所にいるジグが手の空いたゴーレムを操ってチタツの補助に回るルーミィを牽制する。


 ついに魔王の間近にまで迫ったところで、クトーは相棒に声をかけた。


「リュウ!」


 サマルエが、リュウの振るう大剣をいなしながら挑発するように声を上げる。


「やれやれ、相変わらず馬鹿力だねぇ」

「おおよ、これしか取り柄がねーからな!」


 チラリとこちらを見た後、勇者の鎧と半分一体化した竜人の肉体のまま跳んでくる。

 

 ーーーそろそろ仕掛けるのか?

 ーーーああ。手が揃った。


 ルーミィの意向も理解した。

 むーちゃんを人質に取る、という手段の手荒さだけは後で謝罪させねばならないが。


 残る不確定要素は先ほど消えた残り二人の四天王だが……これ以上時間を置く余裕はないだろう。


「じゃ、行くぜ!!」


 リュウが魔王に打ちかかる。


 左足を踏み込んでからの右横薙ぎ、その斬撃を魔王が剣で受けた。

 そこから、リュウはさらに一歩逆足を踏み込んで自身の右肩を突き出す。


 肩口からの体当たりに対して、魔王は軽く身を引いてその威力を殺した。


「おっと、速くなった」


 リュウはそこから、さらに上半身を下に押し込むように空中で斜めに回転し、上段から叩き下ろす左後ろ回し蹴りを叩き込む。


「ガァルゥ!!」

「でも、まだ甘いよ?」


 首を狙う蹴りを、サマルエは薄く笑みを浮かべながら大剣を握るのと逆の手で受けた。

 左右に腕を交差させた姿勢で止まった魔王に、すかさずクトーは魔法を放つ。


 サマルエはこちらのチラリと目を向け、さらに笑みを大きくする。


「〝貫け〟」

「〝(はば)め〟」


 魔王は即座に応答し、貫通魔法は瘴気の盾で防がれる。

 だが、防がれること自体は想定内だ。


「〝貫け〟」


 同じ魔法を数度連射しながら、クトーは指示を出した。


 ーーーケイン伯、ジグ。攻撃の手を緩めろ。


 ーーーふむ?

 ーーーヌフ?


 クトーの指示に対して疑問を返しながら、二人が動きを変える。

 さらに。


 ーーーミズチ!


「〝世界樹よ、(かせ)と成れ〟!」


 ひっそりと全員の意識をつなぎ、リュウを補助することに集中していたミズチが、指示に応えてサマルエに仕掛けた。


「お?」


 魔王の体に、木のツタに似た幻影が巻きついて拘束する。

 時止めの秘術の一つであり、対象の動きを鈍らせる上位魔法だ。


 動きが鈍ったのを悟ったリュウが、左手をかぎ爪に変化させてそれで魔王と斬り合う。

 同時に、勇者の大剣に竜気を込め始めた。


 その間も、クトーは愚直に光の貫通魔法を連射し続けて、魔王に盾を維持させ続ける。


「魔法が使わせてもらえないのは少し厄介だなぁ」


 そこで、サマルエの劣勢に気づいたルーミィとセンカが動いた。

 予想通りに、手を緩めたケインとゴーレムのそばを離れ、ミズガルズの肉体を操るサマルエの元へと向かう。


「我が王に、傷をつけることは許容しない」

「……」


 2人は両サイドからリュウに襲いかかった。


「ーーー邪魔するんじゃねぇ!!」


 魔王の剣をかぎ爪で押さえながら、リュウが竜気を解放して全身から衝撃波を放つ。


 ゴッ! と地面から上に向かって吹き上げる破壊力をセンカは二種の太刀を交差させて防いだが上空に吹き飛ばされた。

 ルーミィはその場で耐えきりはしたものの、手にした剣が負荷に耐えきれずに砕かれる。


「ッラァ!!」


 リュウが武器を失っても前に出ようとしたルーミィに蹴りを叩き込んで弾き飛ばすのを見て、クトーはかすかに眉をしかめる。


 ーーー女性はもう少し丁重に扱え。

 ーーー言ってる場合かこの野郎! さっさとやりやがれ!

 ーーーああ。


 魔王は、貫通魔法の連射が止むと即座にミズチの拘束魔法を解除した。


「〝砕けろ〟」


 木のツタの幻影が闇に侵食されて崩れ落ちる間に、クトーは魔王の周りに魔銃の弾を撃ち込んだ。

 5連射した炎と風の魔法弾は、魔王を中心とした5ヶ所の地面を穿つ。


 クトーは自分の魔力が歪な五角形の頂点に漂うのを確認して魔銃をカバン玉に放り込むと、両手で持った偃月刀を体の前にまっすぐ掲げた。


「〝包め〟」


 発動させたのは聖結界の魔法。


 ただし、対象は魔王である。

 本来ならば自身の周りに、外からの攻撃を防ぐ形で発生させる魔法だが、今回クトーが行使したのは反転魔法だ。


 中のものを封じるように展開した聖結界に対して、魔王は瘴気を宿した大剣を振るう。


「次から次へと芸達者だね!」

「器用貧乏でな」


 聖結界が引き裂かれた瞬間、リュウが再び仕掛けた。

 勇者の大剣を肉薄して振り下ろし、魔王が聖結界を破壊した剣を即座に斬り返すと、衝突した剣同士の反発でビリビリと大気が揺れた。


 それまで以上の竜気と瘴気のせめぎ合い。

 クトーは、偃月刀を脇構えの位置まで下ろすと自分もサマルエに向けて走り出した。


 リュウは臨界に達しそうなほどに竜気を大剣に込めていたが、結界を魔王が裂く間にさらに左拳に竜気を込めている。


 拮抗していた剣からスルリと力を抜くと、魔王の剣を滑らせるように逸らしながら、懐に飛び込んだ。


 そこでリュウの瞳が黄金色に輝き、その姿が変わる。


 瞳から瞳孔が消えて、竜のものに変わった耳の上からツノが後ろに向けて長く伸びた。

 さらに、こめかみから牙の伸びている口元のあたりまで顔が竜の鱗に覆われて、完全に勇者の鎧と一体化した足の関節が逆関節になって発達する。


 ーーーより、青の体表を持つ竜に近い《真の人竜》と呼ばれる姿に変質したリュウは。




「魂だけーーー吹き飛びやがれ!!」




 凝縮した竜気を聖なる気へと変化させて、掌底を放った。

 まっすぐに突き込まれた攻撃は、正確に胸板に突き刺さる。


「グボ……!」

「我が王ーーーッ!!」


 大きく息を吐いて頭をうなだれさせるサマルエを見て、ルーミィの悲鳴に似た絶叫が響き渡った。

 

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