おっさんと少女は、『主』の部屋にたどり着いたようです。
「右上だ、レヴィ」
夢見の洞窟で最も厄介な魔物の出現により、クトーたちは足止めを食らっていた。
場所は洞窟中にある変化しない空間である。
『主』の住む最奥部に近いこの場所は、水路から無数の石柱が伸びている空間だった。
柱の高さや太さは様々で、足場のようになっている柱は基本的に太く広い。
足場同士は橋で繋がれていて移動するのに水に入る必要などはない、のだが……。
「ーーー見えた!」
クトーの呼びかけに、即座に風竜の長弓を構えていた彼女は矢を放つ。
上にある足場に、レヴィそっくりの姿で顔を覗かせた相手が胸を貫かれた。
パキィン! と砕け散った相手はニック・ミラーと呼ばれる魔物で、鏡面に似た光をキラキラさせながら水路に落ちていく。
「ったく、やりづらいわね!」
レヴィが毒づくのを聞きながら、クトーは下に飛び降りて槍を振るうケインを【双竜の魔銃】で支援した。
鏡の魔物と同時に出てきた、ディープ・リトルクラーケン……大柄な魚人の口元をイカの触手に変えたような奇怪な魔物……が、頭を炎や氷の弾丸に包まれて悲鳴を上げる。
「ほれほれ」
ケインは、余裕のある動きでクトーが攻撃を加えた2体に対して穂先を向けた。
そのまま一息で、ディープ・リトルクラーケンの鱗に覆われた分厚い胸元をそれぞれに刺し貫いて絶命させる。
振り向きもしないまま、背後で自分の姿を写し取ろうとしていたニック・ミラーにも柄尻を叩き込んで破砕すると、ほっほ、と笑った。
「手応えがないのう」
「油断して、見えないところまで行かないで下さい」
高低差がある足場と、それらを繋ぐ橋の立体交差を利用して死角からこちらの姿を写し取るニック・ミラーのおかげで、大きく陣形を広げることが出来ない。
見えない位置で姿を映し取られると、見分けがつかなくなるからだ。
腕前までもが同じ練度になるわけではないのだが、本人を映し取った魔物だけを相手にするのは非効率極まるし、戦闘後にいちいち確認を取るのも骨が折れる。
「くだらぬ」
クトーとケインの会話にそう吐き捨てたムーガーンが、ケインの近くでディープ・リトルクラーケンの首を掴んでは握力だけでへし折って、水路に投げ捨てていた。
「このような弱きモノどもに、せせこましいである」
「もう少しの我慢です」
出来るだけ暴走は控えて欲しかった。
複数体に襲われたところで二人の腕なら問題はないだろうが、焦れて巨人化でもされればこの足場が崩れて非常に困難である。
すでに敵の数は半数以下なので、このまま押し切れるはずだ……というクトーの見立て通り、ほどなく魔物は襲ってこなくなった。
「先に進むかの?」
槍を肩に担いでこちらを見上げる、ケインが首をかしげる。
「ええ。目的地はもう少しです」
以前この場を訪れた時よりもはるかに、この場所にたどり着くのは早かった。
やはり『主』が呼んだのだろう。
足場と橋を使って、以前の記憶を頼りに最奥に進むと、明らかに他とは違う景色が見えてきた。
轟音を立てる滝が左右に流れ落ちる、断崖の前。
水路から流れ込んだ水と滝壺で作られた大きな池の奥に、島のように四角い床が壁面から突き出しており、四方に双頭の蛇が巻きついた杖を模した柱が立っている。
厳かな気配を持つ青い石で作られた扉の前にクトーらが立つと、ギギィ、と音を立ててゆっくりと開いた。
「ここかの?」
「そうです」
ケインの問いかけにクトーがうなずくと、レヴィが小さく首を傾げて腰に右手を当てた。
「ひとりでに開く扉……」
「神の領域ではたまに見かけるな。それに古代遺跡でも」
「どうやってるのかしら?」
「魔力かカラクリによって動かしているんだろう。似たようなものなら、人間やドワーフ、それにエルフなどの者たちも作れる」
特定の魔力に反応して開く扉、というものは、王宮の宝物庫などにも使われているのだ。
作らせようと思うと高いので一般的ではないかもしれない。
クトーの説明に、レヴィはますます首をかしげた。
「ふぅん……そんなスゴいものをこんなとこに作っちゃうような存在が、私になんの用があるのかしらね?」
その疑問は、クトーが先ほどから考えていたことだった。
クトーとレヴィ、ケインにムーガーン。
この4人の共通点など、正直に言えばケインとの繋がりくらいしか思いつかない。
であれば、『主』はケインに用があるのか、とも思うが、そうであればクトーらを呼び寄せた意味が分からない。
4人に共通の繋がりがある、と見るのが妥当なのだが、情報が足りないのだ。
「ケイン元辺境伯」
「なにかの?」
「何か心当たりがありますか?」
「ふむ」
主語のない問いかけだが、この程度の意図が通じない相手では、豪胆の辺境伯として名を轟かせることなどない。
深いシワを寄せて、だがくしゃりと少年のような印象の笑みを浮かべたケインは、軽く返事をした。
「さてのう。ワシは神に類する存在にはとんと縁がない。しょせん俗物だからの」
「私もないわよ、お爺ちゃん」
「むーちゃんに懐かれ、魔王と直に会っているが」
「気絶してたし。それにむーちゃんって神様なの?」
「少なくとも普通のドラゴンではないな」
そんな言い合いに、ムーガーンが軽く眉をしかめた。
不快そうな様子で言葉を返してくる。
「下らぬ話をいつまでしている。扉の向こうに在る者に会えば解決するであろう」
それももっともな言い分だった。
「そうさの。クト坊の言が真であるのなら、時間もあまりかけたくはないのじゃろう?」
「目覚めてみればまばたきの間、ということもありますが、おっしゃる通りですね」
時間の流れが違う、というのは、長いばかりでなく短いこともある。
が、今の話を会う前にしているのと同様、どちらも最悪の状況を想定してのことだ。
『主』に害意があってこちらを呼び寄せた、ということもないだろう。
「じゃ、行きましょ。ちょっと楽しかったけど、長居するようなところでもなさそうだし」
「ああ」
レヴィの言葉にうなずいて、クトーは開いた扉の奥に歩を進めた。
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『無敵のおっちゃん魔導職人は、伝説の装備を作ります。〜拾った勇者に装備させるより、お前が魔王倒したほうが早い〜』
アラガミのおっちゃんは、伝説の装備が作りたい魔導具専門の職人だ。
自作した大型魔導車の運ちゃんとして各地を走り回りながら、伝説の装備を作れる素材を探している。
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と、アラガミは魔物はびこる世界で、お宝素材を求めてあっちへぷらぷら、こっちへぷらぷら。
勇者より強い魔導職人は、伝説の装備を作るために今日も元気に駆け回る。
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