表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/365

おっさんは、白竜を倒したようです。


 クトーは白竜の初撃を避けて、即座に反撃した。


 ゴッ! と間近を突き抜けた風圧に、シャラシャラとメガネのチェーンが鳴る。

 それを聴きながら、右手に持った双銃で白竜の体を斬りつけた。


 炎の魔法で赤く輝いた銃底の刃は、白竜の表面を一筋分だけ焼き切る。

 が、幾重にも連なった毛並みに阻まれて肉までは届かなかった。


「やはり無理か」


 跳ね返ってきた手応えは、腕力を底上げしたところで浅い傷しか付けられないだろう、と思われるような強固なものだった。


 クトーは左手の小指に銃のトリガーガードを引っ掛けると、空いた4本指でピアシング・ニードルを引き抜く。


(みなぎ)れ」


 呪文とともに、針先を自分の足に押し当てた。

 身体強化の魔法を撃ったピアシングニードルが崩れ去る。


 同時に、銃をクルリと回してグリップし直したクトーは、両手を構えて引き金を絞った。


 距離を取りながら風雷二種の弾丸を放つと、飛翔したそれが白竜の体表で炸裂する。

 魔法弾は先ほど刃で攻撃した時よりも広範囲に傷を負わせはしたが、やはり浅いようだ。


 わずかに、雷の弾丸で付けた傷の方が大きい。


「元は水竜か? 翁」

『そこまで助言をくれてやるほど、親切にゃなれねーねぇ』


 クトーの問いかけに答えたトゥスが、白竜の体を操って両手の白珠を強く握りしめた。

 珠の発光が増したと同時に、弾丸でつけた傷が癒される。


 どうやら、あの珠は回復魔法を使用できるもののようだ。


「……厄介だな」


 そのまま攻撃を続けようとするが、当然相手もやられっ放しではない。


『兄ちゃん。ーーー似たような芸を、わっちも出来るんだよねぇ』


 クトーの放つ炎と氷の弾丸に合わせて、トゥスは針のように細い水と地の攻撃魔法を撃ち放った。

 炎と水、氷と地の対属性同士が衝突して、威力が相殺される。


「なるほどな」


 白竜の体を取り巻いている珠は、それぞれの属性魔法を放てるようだ。


『他にも、こういうこととかねぇ』


 トゥスは属性魔法の輝きを纏う珠そのものを、クトーに向けて撃ち出した。

 闇魔法を行使する隙を与えないつもりなのだろう。


 ひと抱えある珠自体も、トゥスの任意で動く投石以上の脅威だ。

 外套の裾を翻しながら3つを避けたが、残り2つ……地と風の珠が両脇から、挟み撃ちの形で迫ってくる。


 クトーが大きく上に跳ぼうと足をたわめたところで、不意に珠が加速した。


「……!」


 避けきれない攻撃。

 とっさに両手を十字に組んで防御姿勢を取り、地の珠に向けて自ら突っ込む。


 衝撃を食らって吹き飛ぶ反動で、挟み込まれるのをなんとか防いだ。


「ぐ……ッ!」


 着地の際に、強く地面を踏んで靴跡で線を残しながら止まる。

 そのまま詰めていた息を吐き、衝突と振動を叩き込まれて受けた痺れを逃した。


 属性魔法によるダメージはほとんどないが、珠自体の体当たりはかなり重い。

 何度も受けるわけにはいかない、とクトーは判断した。


「……外套がダメになったな」

『余裕だね、兄ちゃん』


 振動魔法で擦り切れ、垂れ下がった袖を見てかすかに眉をしかめる。

 クトーは、邪魔なだけになったそれを破り捨てた。


「新調する時に、金を請求するぞ」

『あいにくと持ち合わせがねーねぇ。それに、兄ちゃんが無事に装備を手に入れたらお釣りが来るさね』

「では、俺が負けたら(・・・・・・)働いてもらおう」


 トゥスが茶化すように白竜の首をかしげるのに、クトーは双銃を顔の両脇にかかげる。


『しかし、骨も砕けねぇか。そこそこ威力あるんだけどねぇ、コレ』

「王都の地下迷宮で手に入れた、籠手のお陰でな」


 漂う珠に目を向けるトゥスに、クトーは軽く腕を動かして黒い籠手を示した。

 九頭龍の籠手は、身につけるだけで属性魔法を軽減する常時結界を張ってくれるのだ。


 トロル・ミスリルゴーレムほどの完全耐性ではないが、十分過ぎる効果を持っている。

 

『なるほど、厄介だねぇ』

「回復魔法を行使する高位竜ほどではない」


 クトーは、今度は自分から踏み込んだ。

 トゥスは変幻自在の五色珠を大きく天蓋の部屋全体を使って動かし、それを防ごうとしてくる。


 細い針のような魔法と、属性付与による珠自体の体当たり。

 混合攻撃を予測して避け、あるいは弾丸を放って消滅させながら白竜に肉薄する。


 まず狙うのは、両手の白珠だ。

 回復手段を潰すために、クトーは引き金を絞った。


 放たれた弾丸が白珠に命中する……と思われたが、空中で不自然に歪んで弾かれた。


「……」

『迂闊だねぇ、兄ちゃん』


 弾丸が弾ける際に、白珠は輝きを放った。


 おそらくは、聖属性の防御結界。

 それもあの珠が持つ効果の1つなのだろう。


 狙いを外したクトーを、白竜の振るった尾が襲う……が。


「ーーー想定内だ」


 尾を避けたクトーは、すでに腰のベルトに右手の銃を差していた。

 代わりに引き抜いたのは2本のピアシング・ニードルだ。


(おか)せ」


 先ほどの弾丸はフェイク。

 本命の戦針を、一息の間に左右に腕を振って投擲する。


 1つ目が再び聖結界によって防がれ、宙で黒い闇と化して弾けた。

 それによって結界を相殺したところで、2本目が突き抜ける。


 今度こそ命中したピアシング・ニードルが、パキィン、と白珠にヒビを入れると、光が失せてただの石に変わった。

 直後に、白竜の右腕ごと闇が白珠を覆う。


『お?』


 トゥスが驚きの声を上げながら、腕を振って闇を払い飛ばした。

 右手の毛皮が黒く染まり、薄い白煙が上がっている。


『相変わらず、こういう芸当が上手いねぇ!』

「正確さにはそれなりに自信がある」


 クトーはすでに、白竜の足元に潜り込んでいた。


 闇属性の魔法は、瘴気に近しい。

 ゆえに毒を付与する作用など、対象に苦しみを与える効果が大きいのが特徴だった。


 今放った闇魔法に、そうした効果はない。

 が、闇の上位魔法の中でも扱いやすい魔力球を放つものだ。


 本来物理現象を伴わない闇の魔力塊や魔風は、肉体に影響を与えない代わりに魂の消耗を強いる。

 もう1つの白珠に向かって弾丸を放つが、トゥスは腕を軽く引き寄せるだけでそれを避けた。


『殺す覚悟で来なよ、兄ちゃん』


 トゥスは、白竜の体を多段で蹴り上がって顔の近くに到達したクトーに、そう呼びかける。

 残った白珠で瞬時に腕を癒し、その手でこちらを掴もうとしてきた。


 鋭い爪の隙間をすり抜けるように空中に脱したクトーと、トゥスのものによく似た白竜の目が合う。




『ーーーじゃなきゃ、ジリ貧だぜ?』




「俺は仲間を、自分の手では殺さない」


 頭や心臓部を狙わないのは、それが魂そのものであるトゥスに悪影響を及ぼすだろうからだ。

 試練だという仙人の目的は分からないが、少なくとも悪意からではない。


 助言はしない……そう言いながらも決して本気ではなく、トゥスは手の内を明かしながら戦っているのだ。


 ーーーこれはどう対処するのかねぇ。

 ーーー次はこう行くさね。


 そんな風に、謎かけをするように。


「翁を殺さずに、白竜を無力化する」


 クトーは攻め手を緩めなかった。

 

「護れーーー爆ぜろ、惑わせ」


 九頭龍の籠手に魔力を注いで結界を強化しながら、落下する自分の足元……何もない空中にピアシングニードルを放ち、火の爆裂魔法を使う。


 爆炎によって白竜の視界を塞ぎながら、爆風に乗って自分の体を上空に打ち上げた。

 しかし、トゥスは正確にこちらの動きを追っている。


『小賢しさなら負けねぇさね』


 ーーーそれはどうだろうな。

 

 心の中で思った瞬間。

 トゥスは一気に五色珠を集中させて、落下を始めたクトーを押し潰した。


『……手応えがねぇ』


 クトーが行使した魔法は、爆裂魔法1つではなかった。

 

 もう一つのピアシングニードルで使ったのは、初歩の水魔法……幻影の魔法。


 自分の真横に、鏡写しの自分の姿を映し出すだけの魔法だ。

 それの発動を散々戦闘で荒れた場の魔力流に隠して誤魔化した。


 無傷のまま白竜の眼前に迫ったクトーは、手を開く。


「遊びは終わりだ、翁」


 ーーー言葉と共に、魔力を宿した掌底をその額に叩き込んだ。


 内部に威力が浸透して、白竜が動きを止める。

 

『ぬ……ぉ……!?』


 重圧を感じているかのようなトゥスの声が聞こえ……直後に、白竜の体から仙人の魂が叩き出された。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ