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【完結】最強パーティーの雑用係〜おっさんは、無理やり休暇を取らされたようです〜【書籍全3巻】  作者: 凡仙狼のpeco
第3章:首脳会談下準備編

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おっさんは、仲間を引き連れて山へ向かいます。


「ぷにぃ!」

「あ、もう! むーちゃん、勝手に先に行ったらダメでしょ!」


 王都を出て1日。


 フシミの街で一泊してイッシ山に向かう街道に出ると、白い毛玉が元気に飛び出して行く。

 レヴィが慌てて追っていくむーちゃん自身はといえば、小さな羽をパタパタ羽ばたかせてご機嫌な様子だ。


 その可愛らしさに目を細めてから、クトーは周りを見渡した。

 街道の往来は、以前温泉街クサッツへ向かった時とさほど変わっていない。


 一つ違うのは、道の脇……街を守る鉄柵の外側だ。

 土地が開墾されつつあり、今も木を切って根を掘り起こしている者や、草を刈って土地を踏み固めたりしている者の姿が見える。


「交通設備の拡充は順調に進んでいるな」


 フシミのギルド職員であるサピーに、交通関連の責任者であるナイルとの連絡係を頼んだのは正解だったようだ。

 寄るついでに顔を見たが、元気そうで何よりだった。


『ありゃ何かねぇ?』


 姿を消しているトゥスが、開墾を見て疑問を口にする。


「飛翔種や乗合馬車の発着場と待機場所を増やしているんだ」


 興行のために人を集めるにしても、王都に直接全ての旅客は受け入れられない。


 一斉に詰めかければ容易に飽和するのだ。

 そこで近隣にある街の設備を拡充し、宿泊できるように準備をしているところだった。


 陸路は空路に比べて時間もかかる。

 飛獣も、飛び続けるというわけにもいかない。 


 特にフシミは、そうした輸送手段の中継地点としても有用で、かつ宿泊に適していた。

 徒歩だと一日かかるが、主街道を通った先にあるため、乗り物を使えば半日かからずに王都に辿り着く程度の距離だ。


「お、嬢ちゃんが毛玉を捕まえたな」


 反対側をてっこてっこと短い足で歩いているバラウール2号が、むーちゃんを捕まえたレヴィを見て呑気に言った。


「……むーちゃんの遊び相手はお前だったはずだが?」

「オレは保護者じゃねぇんだろ? 余分に張り切ったら後で疲れちまうしな」


 外見の可愛らしさに似合わない飄々とした仕草でちっち、と爪を模した指を振るバラウールに、クトーはため息を吐いた。


「……使った思考オーブの特性か?」


 学習すると個性が出てくるのが思考オーブの特徴とはいえ、最初からこれほど自我の強い存在になることは稀だ。

 その分賢いとも言えるが、微妙に納得のいかないクトーである。


「めんどくせぇ……」


 そんなやり取りをするクトーたちの後ろで、ぼそりと呟いたのはヴルムだった。


「なんで俺がイッシ山なんてなんもねぇところに……」

「不満か?」

「そりゃもう」


 面倒臭がりの剣闘士に問いかけると、彼は相変わらず眠そうな目で頷いた。

 昨日、バラウールと夜遅くまでカードに興じていたが、深酒はしていないようだ。


 しかし、護衛の補助として連れてくるのに彼以上の人材はいない。


 リュウを王都から離すのは論外、ズメイは攻撃的な者の多い冒険者の中にあって、誰とでも組ませられる防衛に関して有用な人材だ。


 三バカは【ドラゴンズ・レイド】の中でも付き合いが古いだけあって、実力もトップクラスである。


 残るはギドラとヴルムだが、ギドラは実のところ、戦闘能力が場所や気候によって左右される。

 天地の気を、場所に合わせて操るのに長けているのだ。


 人間や魔物が相手でも、またどんな場所でも一定の実力を発揮できるほうが、今回は向いている。

 クセの強い仲間たちの中で、周りに興味がないために逆に広い視野と冷静な思考を持つのがヴルムという男だった。


 パーティーの中で、一番自分に似ているかもしれない。


「フシミの街の食事は美味かっただろう?」

「ええ」

「なら、不満は述べても仕事はきっちりしろ」


 昨日の宿は、以前レヴィと共に泊まった安価な割に美味い食事を出す宿だ。


 同行は【ドラゴンズ・レイド】としての業務ではある。

 が、クトー自身の装備を手に入れるための旅程なので、彼には別途、私財からボーナスを与えていた。


 『業務に支障が出ない範囲で酒飲み放題、飯食い放題、プラス成功報酬上乗せと即払い』という特典である。

 女に関してはむーちゃんの護衛任務だから認めなかったが、欲望に素直なヴルムはそれで条件を呑んだのだ。


「めんどくせぇっすけど、仰せのままに」


 どう見てもやる気がなさそうな態度でヒラヒラと手を振るが、彼はそういう態度が普段通りだ。

 クトーがうなずくのと同時に、声が聞こえた。


「むーちゃん。元気なのはいいけど、危ないんだからね!?」

「ぷにぃ……」


 こちらに戻ってくる道すがらレヴィに怒られて、むーちゃんが涙目でしょんぼりしている。

 少し可哀想になったクトーは、レヴィに苦言を呈した。


「まだ人通りの多い街道だ。そこまで目くじら立てなくてもいいだろう」

「普段から自分の行動を意識してないと、いざという時に問題が起こるって言ってたの誰だっけ!?」

「……」


 自分自身だ。

 レヴィは、冷たい半眼でこちらを見てから、改めてぷくりと頬を膨らませる。


「大体、人通りが多いって言っても少し前の森で魔物が出たの忘れたの!?」


 それに反応したのはバラウールだった。


「出たって言っても、ただのビッグマウスじゃねーか」

「むーちゃんにしてみたら、自分の2倍以上もあるデッカい敵よ!!!」

「過保護すぎだろ……」


 バラウールは、大ざっぱではあるが表情が動くように作ってある。

 今は困ったような表情だが、多分レヴィの剣幕に引きつっているのだろう。

 

 言ってることまで、本当に人間くさいゴーレムである。


 ーーーバラウールが口にしているのは、先日、レヴィと初めて出会った森で『懐かしい』という話をしていた時のことだ。


 その時に、ビッグマウスが1匹草木をかき分けて現れた。


『ぷ、ぷにぃ!?』


 ちょうど、全員で休憩してむーちゃんを遊ばせている時だった。

 一番近くにいた……と言っても、距離はクトーたちよりビッグマウスとの方が遠かったのだが……むーちゃんが驚いた声を上げたのだ。


 向こうも驚いたのか、魔物は戯言魔法を発動させた。


『ヘイヘイ、小ッチャイノ、食ッチマウゾ!』


 それがレヴィの逆鱗に触れたのだ。

 誰よりも早く立ち上がったレヴィが、白装束の高速効果の補助を受けて一瞬でビッグマウスとの距離を詰めた。


『うちにむーちゃんにィイイイ……脅し掛けてんじゃないわよぉおおおお!!!』


 そのままレヴィが放った駆け足蹴りをなすすべもなく受けて、ビッグマウスが数十メートル吹っ飛んで気絶したーーー。


 という事があったのだ。


「……いい? むーちゃん。魔物は怖いの。特にビッグマウスはリュウさんも認める最強の魔物よ。見つけたら絶対に近づいちゃダメよ?」

「ぷに!」


 森のことを思い出したついでなのか、レヴィが腕の中の子竜に優しくそう語りかけると、むーちゃんはふさふさの尻尾をパタパタさせた。


「間違った情報を教えるな」

「クトーは黙ってて!」


 ガウ、と一転して牙を剥くレヴィは、まるで子を産んだばかりの母竜のごとき迫力だった。

 クトーが黙ってメガネのブリッジを押し上げると、バラウールがぽん、とクトーの足を叩く。


「おめーも大変だね」

「……まぁ、実害はないからいいだろう」


 魔物に近づいてはいけない、という言葉そのものは、間違ってはいない。

 クトーは意識を切り替え、街道を人波に乗って歩きながら改めてレヴィを観察した。


 白装束に慣れたのか、むーちゃんを守るためだからなのか、恥ずかしがることもなく白装束に身を包んでいる。

 背中にはトゥス顔カバンを背負っていて、中にはむーちゃんの食事などが詰まっていた。


 王都でむーちゃんと出かける際に使っていて、慣れたらしい。

 しかし、クトーは単にその格好を愛でていたのではない。


「レヴィの腕に刻まれるタトゥーには、装備者自身の意思に反応する効果があるようだな」

「え?」


 あまり心地よくはないだろう胸に、すりすりと頭を寄せるむーちゃんの頭を撫でていた彼女は、きょとんと顔を上げた。


「いきなり何?」

「その装備に関してだ」


 青龍の闘衣が持っていた効果や、武器を変化させる効果だけでなく、ギドラの言葉を信じるならば魔導具の効果まで増大させたという白装束。


 あまりにも多岐に渡り過ぎている効果の理由を、ずっと考えていたのだ。


「レヴィを術者として、望んだ事象に関する効能を増大させる魔法式が組み込まれているのかもしれん」


 魔法は呪文と魔力によって発動する。

 媒体として、術者の意思を反映するのが呪玉であり、決まった効果を顕すのが魔法陣だ。


 その中間に、魔法陣を組む際に使う魔法式がある。

 古代文字などには、一文字で魔法を発動する簡易魔法なども存在しているのだ。


 レヴィの腕に浮かぶタトゥーが、その古代魔法文字に類似した何かなのではないかと、クトーは思ったのだ。


「それを身につけて、トゥス翁に憑依してもらったことは、まだないな?」

「ないわね」


 レヴィはうなずいて、少し表情を曇らせた。


「何かマズそう?」

「下手な状況での憑依は、控えたほうがいいかもしれん」


 レヴィは王都に戻った後も鍛えさせてはいるが、ビッグマウスをひと蹴りで吹き飛ばすほどの力は、まだないはずだ。


「ヒステリックバードの時も、追いつかれなかったんだろう?」

「うん」

「いかに青龍の闘衣の効果があるとはいえ、Cランクの飛獣に対して、お前は地を駆けていた……」


 しかもギドラに、彼が本気ではないとはいえそれなりの速さで並走したという。

 逃げる意思に反応して、脚力が強化されていた可能性もあった。


「えっと、つまり?」

「その装備の時には、もしかしたらトゥス翁の憑依の効果が増すかもしれん、ということだ」


 街中で下手に憑依されたとして、拳で家屋を破壊するほどの力を発揮しないとも限らない。

 具体的に、リュウのやらかした事を元にそうした例をいくつか提示すると、レヴィの頬が引きつった。


「気をつける……」

「そうしておけ」


 一度効果を確認する必要もあるかもしれん、とクトーが考えていると、トゥスがヒヒヒ、と笑い声を立てた。


『嬢ちゃんは、本当にいいモン手に入れたねぇ』

「この外見さえなんとかなればね……」


 白装束を見下ろして微妙な顔になったところを見ると、受け入れてはいるが、まだ不満があるらしい。


「可愛らしいのだから問題ない」

「問題ありすぎよ!! 誰のせいでこんなことになってんのよ!!」

「……パーティーの中ではそれなりに好評だが」

「求めてないのよそんな事ぉおおおおおおおおおおお!!!」


 レヴィが叫ぶと、むーちゃんがハッと顔を上げた。

 全身の毛が逆立っている。


「ぷ、ぷにぃ……?」

「毛玉の心拍数が上がってんよ。怯えてんじゃねーか?」


 むーちゃんの状態に関する観察機能をつけてあるバラウールの言葉に、レヴィが慌ててプルプル震える子竜をあやした。


「あ、ご、ごめんねむーちゃん。声おっきかった?」

「さっきから、お前はもう少し落ち着け」

「誰のせいだと思ってんのよ……!」


 むーちゃんをあやすために笑顔を浮かべて、肉球で頬を触られながら、器用にレヴィが青筋を浮かべて唸る。


『ヒヒヒ。お前さんらは相変わらずだねぇ』

「見てておもしれーな」


 メンタリティが近い様子のゴーレムと仙人がうなずき合う後ろで、ヴルムが空を仰ぎながら髪を掻き上げた。


「こいつらめんどくせぇ……さっさと帰りてぇ……」

 

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