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少女は、黒鎧の女性が何者かを知りました。


「あれ……?」


 魔物を退治した後。

 後からのんびりと山を登ってきたギドラが、休憩所の様子を目にして軽く目を細めた。


「どうしたの?」


 その場には、気絶している間に縛り上げて転がした襲撃者と、黒鎧の女性、それにセンカがいた。

 ノリッジとスナップは地面に正座しているが、縛り上げてはいない。


 どうも温泉街事件の後、単に利用されていただけの二人は、そこまでキツいお咎めもなく解放されたようだ。

 

 デストロを失い、食うに困っているところを襲撃者に雇われたようで、『女二人は悪い奴らだ』という以外の事情は特に聞かされていないらしい。

 レヴィたちがCランクの魔物を退治したのを見て、土下座しながらベラべラ喋った。


 抵抗しないので、とりあえずそのままにしてあるのだ。


「ルーミィさん。こんなところで会うなんて、どういう理由だ?」


 ギドラが話しかけたのは、黒鎧の女性だった。

 顔が真剣なので、レヴィは二人を見比べる。


 ルーミィと呼ばれた女性は、楽しそうに笑っていた。


「いや、ずっと後をつけていた連中が話しかけてきたので、鬱陶しいからさっさと始末しようと思ってな。言われるままについてきたんだが」

「質問の答えになってねぇ」

「おや、聞きたいこととは違ったかい?」


 わざとはぐらかしているのだろう。

 煙に巻こうとしているのではなく、ギドラをからかっているように見えた。


「あのな……」

「ギドラ、この人たちと知り合いなの?」


 声に険が混じったギドラに、レヴィは慌てて話しかける。

 先ほど助けてくれた恩人なのだが、何かマズい事情があるのだろうか。


 ギドラは軽く息を吐くと、呆れたようにルーミィを指差す。


「この人は、北の将軍だよ」


 言われて、レヴィは目を見開いた。

 北の国は、次の会談で話し合いの申し入れをしながらも、こちらを襲ってきたなどの情報が錯綜して飛び交っている不穏な国だ。


 そこの将軍と言われても、信じがたい。


「な、なんでこんなところに!?」

「だから俺もそう言ってるだろ? 理由がわかんねーから聞いてんの!」


 ダン、と地面を踏みつけるギドラに、ルーミィは口もとを手で抑えた。

 そんな彼女に、センカが静かに苦言を呈する。


「ご主人様。お戯れはそのくらいで」

「おっと、そうだな」


 彼女の言うことはあっさり聞いて、ルーミィは事もなげに答えた。


「私はもう、将軍ではないのさ。解雇されたからな」

「……解雇ぉ?」


 ギドラが疑わしそうに素っ頓狂な声を上げるが、ルーミィはあっさり頷いて喉もとに手を伸ばした。


「まさにその、王が代替わりした時のゴタゴタでな。自由の身になったので、冒険者でもやろうかと思ってこちらに来たのだ。暖かいしな」


 彼女は冒険者証をチャラリと胸元から取り出して、ギドラに示す。

 しかし、彼は警戒を解かなかった。


「あんたほどの人が?」

「反りが合わない相手、というのはいるものだ。身内の裏切りにまで気を使うのは鬱陶しい。違うか?」


 彼女の流し目や笑みからも、その背後に慎ましやかに控えるセンカからも、物騒な気配はしない。

 逆に、表情からそれが真実なのかどうかも読み取れなかったが。


 しかし、悪い人たちではなさそうだと感じたので、レヴィは口添えをする。


「こ、この人たちが助けてくれて、ヒステリックバード退治できたのよ」


 ギドラが眉を上げて、少しだけ考えるようなそぶりを見せた。

 が、すぐに面倒そうな顔になって手をプラプラと振る。


「ああ、もういーや。でも、リュウさんとクトーさんには報告するぜ?」

「2人には、もう会った」

「何!?」


 ルーミィが、チラリとこちらに目を向ける。

 見つめられてレヴィは落ち着かず、軽く肩をよじらせた。


「彼女に会ったのは偶然だが、【ドラゴンズ・レイド】の関係者だったのか?」

「おう。うちの新入りだよ」

「どうりでいい動きをするわけだ」


 ルーミィに上から褒められたような気がしたが、特に腹は立たなかった。

 彼女には、どこか人を不愉快にさせない雰囲気がある。


「クトーから話を聞いてな、こいつらが話しかけてきたのは好都合だったのさ」


 ルーミィは冒険者証をしまうと、襲撃者とノリッジスナップを手で示す。


「元々、この山を目指していたからな」

「どんな目的で?」

「ギドラ。私の得意とすることは知っているだろう?」


 ギドラは小指で耳の裏側を掻きながらうなずく。


「竜騎士だったよな。愛龍はどうした?」

「元は国の持ち物だ。離反者に下賜されるわけもない。……置いてきたよ」


 少し寂しげに見えたのは一瞬だった。

 彼女は、次に丸めた書類を一枚取り出す。


「『龍飼いの広場』への入場許可証だ。宰相ととクトーの捺印が入っている」


 ギドラは、その書面に目を走らせてますます奇妙そうな顔をした。


「どうやら、本当の話らしいな」

「そう言ってるだろう? 妙な竜の卵をクトーが拾ったと聞いてな。見たいと言ったら、許可をくれた」

「あ、それ私たちも」

「レヴィ」


 目的が同じなので、特に何も考えずに口にしたが、不用意に口を開くなと、ギドラに目で制される。

 思わず両手で口を押さえるが、ルーミィは肩をすくめて笑っただけだった。


「なら、より好都合じゃないか。監視したいならついてくるといい。目的は一緒なんだろう?」

「ああ。こいつらはどうするんだ?」


 ギドラが親指で襲撃者3人を示すと、ノリッジとスナップが青ざめて目を見交わす。


「そうだな……そこの2人」

「「は、はひぃ!」」


 ピン、と背筋を伸ばして返事をした2人に。



 ルーミィは、目に追えない速さで腰の長剣を引き抜いて、ノリッジの額に突きつけた。



 一瞬で目がひどく冷たいものに変わって、表情が消えている。

 張り詰めた空気に息を呑んだレヴィだったが、ルーミィから殺気は感じなかった。


「このまま憲兵に突き出してもいいが、それも面倒だ。なので、お前らにはしばらく私の小間使いとして働いてもらう。センカも休ませなければならんしな」


 青ざめ切って紙のように真っ白になっているノリッジと彼女の間で、せわしなくスナップが視線を動かしている。

 そこでニヤリと笑ったルーミィは、嗜虐的な顔で紅を引いた唇を舐めた。


「逃げるなよ? もし逃げれば、地の果てまで追って殺す。分かったな?」

「「はははははぃいいい!!」」

「いい返事だ」


 チャキン、と長剣を仕舞った彼女は、縛り上げた襲撃者を指差してギドラを見た。


「そいつの処遇はお前達に任せる。首謀者はそいつ1人だろうし、会談の裏を知っているかもしれんからな」


 そう言って、ルーミィがさっさと歩き出し、当たり前のようにセンカはそれについて行った。

 レヴィは、ギドラと顔を見合わせる。


「……どーするの?」

「連れていくしかしゃーねぇだろ。広場の憲兵に引き渡して、クトーさんに早文(はやふみ)でも飛ばしたらいいんじゃね?」


 急がないだろうし、とギドラはノリッジとスナップを立ち上がらせた。


「デカイ方。お前が担げ。さっさと行くぞ」

「わ、わかりましたぁ!!」


 元々三下っぽかったが、ますますそれが板についているようだ。

 前を歩き始める2人を監視がてら、後ろからついていく。


 歩き始めてしばらく経った後に、レヴィはこっそりとギドラに話しかけた。


「あの、ごめん……」

「いいよ。助けられたんだろ?」


 先ほど口を滑らせたことを謝罪すると、頭の後ろで手を組んだ彼は特に気にした様子もなく許してくれた。


「ルーミィさんたちって、どういう人たちなの?」

「言ったまんまだよ。北の将軍とその護衛。……もっとも、今は違うみてーだけど」


 まだ納得行かなそうに首を傾げながら、ギドラは説明してくれた。


 北の国に入り込んだ魔族の奸計で、【ドラゴンズ・レイド】とミズガルズ王が率いていた北の軍は対立していた。

 その時、最初に交戦したのがルーミィの率いる部隊だったらしい。


「あの当時は、クトーさんたちも俺らも今より弱かったが……ヴルムとズメイと3人がかりでやっても、あの2人と互角だったんだ」

「そっ……そんなに強いの……!?」


 思わず大きな声を出しかけて前を見たレヴィは、2人が振り向いていないのを確認して小声で問いかける。

 熟練した動きのセンカだったが、そこまでとは思わなかった。


「あの従者は、白い小太刀を抜くと性格が変わるんだよな。めっちゃ攻撃的なんだ。それに、ルーミィの愛龍が援護して、さらにその背からあいつが自在に飛び降りて縦の連携で翻弄してくる。めちゃめちゃ厄介だった」


 その戦闘は偶発的な小競り合いの領域だったので、双方ほぼ被害がないままに引いたらしい。


「だから、解雇されたってのが信用できねーんだが……」


 ギドラはボリボリと頭を掻く。

 それほどの戦力なら、たしかに理由が分からないと、レヴィも思う。


「でも、ルーミィさん気が強そうだし、本当に誰かと反りが合わなかっただけかも……」

「前王に心酔してたのは確かだな。それが理由なのかも知れねーけど。ま、俺が考えるだけ無駄だわ」


 ギドラはゴキリと首を鳴らして、肩をすくめた。


「クトーさんに任せりゃ、なんか分かるんじゃね?」

「そういう態度だから、いつもいつもクトーに怒られてるんだと思うけど……」


 レヴィは、増えた道中の連れを見て、軽く溜息を吐いた。

 なんだか最近、厄介ごとが多い気がする。

 

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