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最強魔導士は学園生活を送りたい  作者: 藤谷キヨト
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路地裏の一戦

「お前ら、行くぞ!」


その掛け声共に、3人のうち左と右の2人が身体強化魔法を発動して叶に襲いかかり、正面の奴が右手を前に突き出して魔法の発動準備に入る。


魔法の発動をする時はどのような魔法でも魔法陣が展開され、理論上、魔法陣を解読することで魔法を発動する前にその魔法がどういったものなのかを見分けることが出来る。最も、同じ魔法でも人によって微妙に違ってくるし、何より何千、何万ものパターンを覚えられるならの話だが。


しかし、ここにはそれを可能にする者がいた。


(あれは拘束魔法・・・【チェーン】か。捕まったら面倒くさいな・・・)


そんなことを、襲いかかってくる2人を躱しながら叶は思う。


「くそっ!このっ!」

「ちくしょう!なんで当たらねぇ!?」


向ってくる2人はがむしゃらに拳を振り回しているわけではなく、ある程度統率性が見られる。・・・恐らくこういったことをするのは1度や2度では無いのだろう。それでも、叶には掠りもしない。


「お前ら、どけ!俺がやる!【チェーン】!」


それまで魔法の発動準備をしていた奴がそう叫ぶと、殴りかかっていた2人が横に飛び退く。すぐさまその後ろから5本の鎖が伸びてきて、叶を捕らえようとまるで生きている蛇のようにうねりながら迫ってくる。


(5本・・・?【チェーン】は最低でも10本だったはずだが・・・俺の記憶違いか?)


叶は迫り来る鎖の数に疑問を感じながらも、対処方法を考える。



◇◇◇◇◇◇◇



迫ってくる鎖に対して、目標ターゲットは一切動く気配がない。それを見た男は自らの魔法に降参したのだと思った。拘束魔法は習得難易度が高く、同年代でも使えるものはそうそういない。だが、拘束魔法は優秀であるが故に、消費魔力量が多い。そのため、男が使えるのももって1分というところだった。しかし、それで十分だ。一度捕まえてしまえば、他の2人が拘束されて身動きできないそいつを再起不能まで痛めつければ良いのだから。


男は勝利を確信した。それは驕りなどではなく、今までこの魔法を使って捕まえられなかった者がいないという自信と実績から来るものだった。


これでいつものように捕まえたら後は一方的に殴るだけだと、男は歪んだという表現が似合う笑みを浮かべる。


が、その笑みも次第に驚愕の表情に変わる。


(嘘だろ!発動してからもう30秒は経つぞ!何で捕まらないんだよ!)


そう、今まで相手した者は全員10秒も経たないうちに捕まえられた。だが、目の前の目標ターゲットは30秒経っても捕まえられない。この前代未聞の事態に動揺し、他の2人を見やると2人共ある1点を凝視しながら微動だにしていなかった。何事かと2人の視線を追っていくと、そこには目標ターゲットが。そこで俺は気づいたのだ。いや、気づいてしまった。そして本能的にアイツには勝てないと悟ってしまった。


動いていないのだ。魔法を発動してから、1歩も。


目標ターゲットは迫り来る鎖を全て手の甲や腕で弾き、いなしているのだ。その顔は冷静そのもので、焦りや恐怖といったような感情は一切見られない。流れ作業をするかのように、淡々とこなしている。


次第に俺の魔力が尽き、魔法の鎖は霧散する。


「・・・終わりか?なら次は俺の番だな。」


目標ターゲットはそう言うと、無造作にこちらに向かって歩き出す。俺と目標ターゲットの間の距離は20mほどあり、その間に他の2人が両壁に沿うように立っている。


刹那、目標ターゲットの姿が掻き消え、次いでボグッという音と共に何か大きな物体が飛来して来きて俺の左を通過していった。ズザァァァという物体が地面を滑る音が収まると、俺は何が起こったのか確認するために後ろを振り返る。そこには白目を剥いてピクリとも動かない仲間の姿があった。


俺は事態の整理が追いつかず、元々仲間が立っていた場所にいる目標ターゲットに問い詰める。


「テメェ、何をしたっ!」

「何って・・・唯近づいて鳩尾に肘鉄を食らわせただけだけど。」

「ハァ!?」


おかしい。目標ターゲットは身体強化魔法を使う素振りも見せなかったし、ましてや仲間とは10m近く離れていたはずだ。・・・とても一般人の出来る技じゃない。


「お前は・・・何者だ。」

「さぁ、なんだろうね?」


目標ターゲットは人を食ったような態度で乾いた笑みを浮かべる。その一切笑っていない瞳を見て俺は思わず後ずさりする。


「この!調子乗ってんじゃねぇ!」

「待て!早まるな!」


忠告をしたが既に遅く、もう1人の仲間が懐からナイフを取り出して目標ターゲットに切りつける。目標ターゲットはそのナイフを半身になって躱すとガラ空きになった仲間の体の下に潜り込み、ナイフを持つ手の手首を左手で押さえつけながら、右手で仲間の顎に掌底を打った。バキャッという骨が砕けるような音が辺りに響き渡ると、仲間は白目をグルンと剥き、口から泡を吹きながら膝から崩れ落ちていった。


「クソッ!」

「さぁ、後はお前だけだな。」


目標ターゲットの視線を俺に定めたまま、ゆっくりと近づいてくる。


(ヤバイヤバイヤバイ!!!!!あんなの勝てるわけがない!どうするどうするどうする!?)


俺はパニックで思考が上手くまとまらない中、必死で現状の打開策を模索した。が、考えがまとまるよりも早く、目標ターゲットが近づいてくる恐怖に負け、反射的に目標ターゲットに背を向けて走り出した。それは何か考えがあってとった行動ではなく、ただただあの異常な存在から逃げたいという思いからでた行動だった。


足は鉛のように重く、けれども必死に動かしてようやく5m進んだというところで、突如、世界が一転した。


続いて顎に強い衝撃を受け、気がつくと俺は地面にうつ伏せになっていて、上から何かに押さえつけられている状態だった。何が起こったのか分からなくて、俺はひたすら困惑する。


「お前には聞きたいことがあるんだ。逃げるなよ。」


叶は男の上に置いていた足をどかし、男に目線を合わせるようにしゃがむ。男は恐怖で逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、今さっきの一連の動作で逃げることは最早叶わないということは知っていたので、せめて相手の一挙一動を見逃さないように向き合う。


そして叶は男が話を聞く態度になったのに満足したような表情になると、おもむろに男の右手を両手で包む込み、質問を開始した。


「お前たちは誰だ?」

「・・・関東魔導学園2年Cクラスの学生だ。」

「何故こんな事をした?」

「ある人に依頼されたからだ。」

「そのある人ってのは誰だ?」

「・・・知らない。匿名で依頼された。」


そこまで聞くと叶は眉をピクッと動かし、次いで悪魔のような所業に出た。


ボキッ


「ぎゃあああああ!!!!!」


男は絶叫を上げながら自らの右手を押さえるようにする。その手を見ると、人差し指が手の平とは真逆の方向に折れ曲がっている。叶が両手で男の右手を包み込んでいたのは指を折る為だと男が理解した時には、叶は既に男の中指に手を添えていた。


「もう1度聞く。ある人というのは誰だ?」

「それは・・・」


男は躊躇う。今ここで"あの人"の名前を出した後と、言わないでいた時のどちらが自分にとって都合がいいか。指を折られてもすぐに話さないあたりは褒めてもいいだろう。しかし。


「・・・!!!わ、分かった!話す!話します!俺らと同じ2年Cクラスの嘉田かだ正彦きみひこです!」


叶が男の中指を包む手に少し力を入れると、男はあっさりと一連の首謀者の名を吐く。男がその者に抱く思いはその程度だったということだ。


「・・・分かった。なら俺からすることはもう無い。ただし、今後2度とこんなことはしないと誓え。」

「ち、誓います!」


男は叶の目を見て驚愕する。その目は一切の光をうつしておらず、見るだけで吸い込まれそうな深い闇がそこにあった。


(あ、悪魔だ・・・!!人の目じゃない・・・!!)


「そうか。その言葉、忘れるなよ。」


そう言って叶はその場を後にする。後に残った男は自らの右手を押さえ込みながら、自分は見てはいけないものを見てしまったのかと、自らの不運を嘆いた。












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