いつもの日常
カーテンの隙間から薄く差し込む光にまどろんでいた意識が覚醒し、藤堂叶の1日が始まる。
現在時刻は午前5時。学園の登校時刻まであと3時間はある。本来はもっと寝ていてもいいのだが、軍にいた頃の名残で今でもこの時間帯に自然と目が覚めてしまう。ベッドから起き、寝巻きからジャージに着替え、日課である朝のランニングに向かう。
俺の寝泊まりしている宿舎は学園から1km程離れたところにあり、宿舎と学園を一直線で結んだ距離を直径とした円を描くように1周するようにしている。さほどスピードは出していないため、これで45分程経つ。そして俺は自炊が得意でないために、いつもランニングの帰りにコンビニに寄って朝ご飯を買って行く。昼は学食を食べるため、朝ご飯だけだ。夕飯は学校の帰りに買って行く。あまりコンビニのご飯ばっかり食べるのは良くないと理解していながらも、自炊ばっかりは苦手なため、やむを得ない。
家に帰ったら汗をかいたためシャワーを浴び、先程買ってきた朝ごはんを食べたら制服に着替える。これで丁度いい時間になるので、学園に向かう。家のドアを開けるといつもの通りユキが制服に身を包んで立っていた。
「おはようございます、叶様。」
「ん、おはよう。」
学園に通い始めてから今日で1週間。その間毎日これだったのでもはや驚かない。
「なぁ、ユキ。毎日ここまで来るのは大変だろ。」
「いえ、全然大丈夫です。」
「そんなこと言ったってユキが泊まってる宿舎からここまでは学園から真反対じゃないか。」
「この程度、苦とは思いません。・・・それとも、ご迷惑ですか・・・?」
「いや、全く。」
ユキに上目遣いでそう聞かれたら、ハイとは答えられない。まぁ、実際迷惑とはつゆほども思っていないが。しかし、毎朝無駄な労力を使わせていると思うと忍びない。
「・・・なら、何処かに一軒家でも買って一緒に住むか?昔みたいに。」
「・・・!!はい!そうしたいです!」
「あ、ああ。それならそうしようか。じゃあ今日の帰りに一応軍の方に報告しに行こうか。リュウたちの様子も見たいしな。」
「はい、そうしましょう。」
その後、学園に着くまでのユキは今にも鼻歌を歌いそうなほど機嫌がよかった。・・・今の会話で少し昔のことを思い出す。まだ俺とユキが出会ったばかりの頃、歳が近い俺達は軍の宿舎の同じ部屋で寝泊まりをしていた。当時、ユキはふさぎ込んでいてコミュニケーションをとるのは苦労したが、今のユキを見ているとその努力が報われたのだと思う。
「・・・?叶様、どうしたのですか?」
「いや何、ちょっと昔のことを思い出してな。出会ったばかりのユキは冷たかったなって。」
「!!やめてください!あの頃の私は愚かだったのです!今思えばあの頃の私は叶様になんて失礼な態度を・・・」
「ははは。まぁ、今こうして笑えているんだからいいじゃないか。」
「それはそう・・・ですけど・・・」
とか言っている間に学園に到着。校門をくぐると人だかりができており、何事かと思ってみると、その中心にいる人物を見て納得した。
「ああ、あの人か。」
「神峰月先輩ですね。」
ここ、関東魔導学園の生徒会長を務める神峰月。容姿端麗、成績優秀、品行方正。絵に書いたように完璧な彼女は学園で男女問わず人気がある。それこそ、自然と周りに人だかりができるくらいの。
「あんなに人に囲まれて疲れないのでしょうか。」
「例えそうでも顔に出さないのが彼女の凄いところだろう。それに、人に囲まれるという点はユキも同じだろう?」
「それは・・・否定はしませんが。」
ユキは登校初日からたくさんの人に話しかけられていた。それはとても喜ばしいことなのだが、男子の下心丸見えの態度を見ると、何とも複雑だ。
「ま、仲良くなりたいと思わないやつは適当にあしらえばいいさ。」
「はい、そうします。」
未だ囲まれている神峰先輩を尻目に俺達は教室に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「えーそれで、アンノウンが出現してから、今では日本で人が住んでいるところは大きくわけて北海道、東北、関東、関西、九州の5つになった。それぞれの地域で軍が戦っていたが、年々人類の生活圏は狭まっていた。そしてアンノウンが出現してから30年。当時34歳だった江口一翔氏が率いる魔法研究チームが大規模展開防御魔法【フィールド】を開発し、それによって人類の生活圏が狭まることはなくなった。そして今関東地域で守れた土地は東京都全域と埼玉、神奈川、千葉、山梨のそれぞれ2分の1ほど。他の地域も同じくらいだ。そして彼らの開発した【フィールド】は時代と共に進化していき、今のは確か16代目・・・だったかな?まぁ、強化されていってるわけだ。」
現在は、3時限目の現代社会だ。ここは魔導学園だから魔法を使った実習が主だが、こういったいわゆる普通教科の座学もする。そしてそれを教えるのは担任だ。といっても、軍や魔法に関することのみだが。
「ーーーで、生活圏を確保出来たのはいいとして、ここで1つ問題が出た。そうだな・・・橋本。何か分かるか?」
「食糧不足・・・でしょうか。」
「そうだ。アンノウンによって人口が約5分の3になったとしても、それだけの人数の食糧は確保出来なかった。備蓄していた食糧も限りがあるし、【フィールド】の有効範囲も畑や田んぼを作れるほど広げられなかった。人類が餓死にするのは時間の問題だった。」
そこまで言うと、千代田先生は頭を抱え、わざとらしく狼狽する演技をした。千代田先生のこういうちょっとしたユーモアがあるところが俺は好きだ。
「だが、神は人類を見捨てなかった。いや、神がいるのかどうかは置いといてな。【フィールド】が開発されてから1年後、角野幸蔵氏の魔法研究チームが新たな魔法を開発した。それが【浮遊魔法】だ。【フィールド】は強力な防御魔法だが、範囲を広げるのは困難だった。だが、土地を横に広げるのではなく縦に広げるなら、【フィールド】の効果範囲に収まることが出来る。こうして人類は食糧問題を解決したという訳だ。これらの魔法は現在、世界の多くの国で利用されており、日本の魔法技術力はトップクラスといっても過言ではない。」
千代田先生の最後の方の言葉に俺は納得の色を浮かべる。確かに、軍で行っていた研究や設備はどれも最先端だった。しかし、だからこそ、非人道的な研究が裏では行われていることも俺は知っている。
「で、ここ関東地域の土地は浮遊地を含めて3階層ある。1階層は今私達がいるここ。一般人の住宅や各種店舗などがある。2階層は田畑や工場などの生産系統。3階層は首相官邸や日本魔導軍の本部など、国の核となる部分が集まっている。つまり、偉くなれば3階層に行けるってわけだ。」
「先生は3階層に行ったことがありますか?」
クラスの誰かが千代田先生に聞く。
「まぁ、行ったといえば行ったかな。ただ、それは軍に入るときに1回行っただけで、それ以降は1度も行ったことがないよ。・・・ちなみに、ここを卒業してから軍に入るつもりのヤツってどれくらいいる?」
それを聞いてクラスの全員が手を挙げた。
「んじゃあそん中で戦闘兵を希望してる人。」
全員挙げていた手のうち数人が下げ、残ったのはクラスの3分の2ほどだった。
「ふーん・・・なるほど。研究者は研究所が3階層にあるのが殆どだから行けると思うけど、戦闘兵は基本1階層と駐屯地だからなぁ。お前らが3階層に行くには【Nos.】クラスの実力が無いと無理だな。」
【Nos.】。日本魔導軍により定められた日本最高戦力。10人いる彼らはそれぞれ一騎当千の力を持っており、並のアンノウンの大群を寄せ付けない程だという。そんな彼らを目指せと言われれば、尻込みしてしまう者が大半だろう。
「ま、見るだけでいいってんなら軍の報告とかでも行ったりするけどな。」
先生は生徒たちの暗くなった表情を見て気を使ったのだろう。適当に見えて、生徒の微妙な変化を感じ取れているのはさすが教師というとこだろう。
キーンコーンカーンコーン
「んじゃここまで。おまえら次体育だろ。遅れんなよー。」
教室から体育をする第2演習場まではなかなか遠い。俺達は急いでジャージに着替えると、すぐに第2演習場に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
「どりゃあああ!!」
バン!ドン!ぐはっ!
「おりゃあああ!!」
バチン!バゴン!ぐほっ!
雄々しい掛け声と共に放たれる大砲の玉に仲間が次々と吹き飛ばされていく。
「このやろう!くらえ!・・・な!ぐペっ!」
こちらも負けじと応戦する。だが、その倍の力でねじ伏せられる。
今、俺はバレーボールをしている。ただ、身体強化魔法を用いてだが。
「どうしたどうした、この程度かぁ?」
バレーボールとは思えないスパイクの音と本来聞こえない人のうめき声が聞こえるのは、相手チームにいる土門和弥のせいだ。入学式の日から薄々気づいていたが、やはり和弥は身体強化魔法が得意らしく、この体育の時間で無双している。俺はセッターなので和弥の打つスパイクを受けたことがないが、先程から和弥のスパイクを受けた人が吹き飛んでいるのを見ると、受けたいとは思わない。
「一旦休憩にしよう。このままじゃこっちのチームの選手がもたない。」
「オッケー。お前らー休憩だってよー。」
和弥の言葉を皮切りに男子は各々休憩をする。
「はぁ、和弥にはかなわないな。」
「ま、これだけが俺の取得だからな。他の魔法は殆どダメな分、身体強化魔法は誰にも負けたくねぇ。」
身体強化魔法は基本中の基本の魔法で、魔導学園に入学する者には必須の魔法だ。現に、今の体育の授業中も皆身体強化魔法を使っている。
だが、これは基本であると同時に応用でもあり、極めれば最前線の戦場で通用する。俺が知る中で最も強い身体強化魔法の使い手は、素手の一撃でコンクリートのタワーマンションを半壊させたという。もちろん、そのマンションは元々解体予定だったものだ。
「和弥は戦闘兵希望だっけ?」
「ああ。俺は頭を使ったりするのが苦手だからな。腕っ節でのし上がってやるぜ。」
「確かにアンタは脳まで筋肉だからね。」
「なんだと!ってか何で美那がここにいんだよ。飛鳥と雪まで。」
意地悪そうな笑みを浮かべた美那がやって来て、和弥を皮肉る。そのうしろには、飛鳥とユキもいた。
「アタシ達も今休憩中なのよ。それより和弥、アンタ何か勘違いしてない?戦闘兵にだって思考能力は必要なのよ。」
「ぐっ!それは・・・まぁ・・・そうだろうけどさ。でも、何とかなるさ!」
「はぁ、呆れた。アンタほんと脳筋ね。」
和弥の脳筋丸出しの発言に美那がやれやれというように首を振る。
「で、でしたら、和弥君が目指すのは【No.3】ですか?」
「ああ!あの人は俺の憧れだ。いつの日か同じ戦場に立ちたいと思ってる。」
【No.3】、本郷拳護。【Nos.】の1人であり、身体強化魔法の達人。過去にSS級アンノウンを単騎で撃破したこともある、近接戦闘のエキスパートだ。ちなみに先ほどのマンションを半壊させたのもこの人だったりする。
「あームリムリ。あんたじゃあの人の足元にも届かないよ。」
「なんだと!言わせておけば!」
「そこ!騒がしいぞ!真面目にやれ!」
「「・・・はい。」」
先生からの注意を受け、2人は大人しくなった。
「アンタ、あとでおぼえてなさいよ・・!」
「そっちこそ・・・!」
訂正、大人しくなったのは見かけだけだった。まぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うしな。二人共マジギレじゃないから大丈夫だろう。そんな2人を見て俺とユキと飛鳥は静かに笑った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここ関東魔導学園には、全校生徒が1度に座れそうなほど広い食堂がある。テーブルや椅子は白色で統一されており、どれも汚れ1つ見当たらないほど綺麗だ。席は長方形の大きなテーブルにソファタイプの座席が設置されているのと、丸テーブルに4つの椅子が付いているのがあり、中庭にはテラス席もある。こんな立派な設備があるのだから当然メニューも豊富で、和、洋、中、あらゆるジャンルの食べ物が取り揃えてある。ドリンクはファミレスなどでよく見るドリンクバー式になっていて、十数種類あるうちの1つに『おしるこ』があったのに驚いたのは俺だけじゃないはずだ。
「しっかし叶、お前よくそれ食えるな。」
醤油ラーメンを食べていた和弥は咀嚼していた麺を飲み込むと、俺にそう言った。
「何だ、これは凄く美味いぞ?1口食べるか?」
「いや、遠慮しておく。」
「あっならアタシ食べてみたい!」
「ん、いいぞ。」
そう言って皿を美那の方に向けると、美那はガッカリといった表情で俺の方を見やり、次いで予想だにしなかった発言をした。
「そこは普通、『あ〜ん』じゃないの。」
「なっ・・・!」
俺は動揺し思わず驚愕の声が出たが、美那の期待するような眼差しに負け、努めて冷静を装いながらいわゆる『あ〜ん』をした。
美那の不意打ちになんとも言えない気持ちになっていると、直後左隣から極寒のような視線を感じ、恐る恐るそちらを見ると無言で俺を凝視するユキがいた。
「あの〜ユキさん?な、何でしょうか・・・」
「・・・」
意を決して話しかけるも帰ってくるのは無言の凝視。これは俺の手に負えないと周りに助けを求めるが、和弥は一心不乱に麺を啜っていて、飛鳥は不自然に目を逸らされる。神は俺を見放したか・・・と遠い目をしてると、この事態の元凶の美那が火を噴く。
「辛!!!!!!!!辛い辛い辛い辛い!!!!!」
「ミ、ミナちゃん!ど、どどどどうしよう!あ、これ、オレンジジュース!」
「ほら、言わんこっちゃない。」
喉を押さえつけながら必死にオレンジジュースを飲む美那を見て、和弥が呆れたような目をする。
「叶様、何を注文されたのですか?」
「ん、ウルトラスーパーデンジャラスファイヤーインフェルノ麻婆豆腐だ。」
「はぁ、はぁ、はぁ、っアンタ、味覚おかしいんじゃないの!?何で普通にそれ食ってんのよ!」
「何でって、普通に美味いじゃないか。」
「ハァ!?・・・はぁ、もういいわ。」
「諦めろ美那。こいつはもう手遅れだ。」
なんだよ、人を重症患者みたいな目で見て。本当に美味いと思ってるんだからいいじゃないか。
「叶様、私にも1口貰えますか?」
「っ雪、やめなって!ホント冗談抜きで辛いから!」
「大丈夫ですよ。叶様、いいですか?」
「あ、ああ。良いけど・・・」
ユキは俺の使ったスプーンを手に取り、麻婆豆腐を1掬いして、スプーンを持つ手と逆の手で髪を耳にかけながら食べる。
しばらく咀嚼していたユキはゆっくりとそれを飲み込み、俺に自然な笑顔を向けた。
「叶様の言うとおり、確かに美味しいですね。」
さっきまで散々否定されてきた俺の味覚が初めて肯定されて、俺は自然と笑みを浮かべる。
「ありがとう。やっぱり俺を分かってくれるのはユキだけだよ。」
そう言ってユキの頭を撫でる。
ユキは照れたように目を伏せるが、それがまた愛らしい。
「なに・・・この桃色空間。」
「あ、あわわわ・・・」
「これが愛の力ってやつなのか。」
美那が砂糖を吐き出しそうな顔で揶揄し、飛鳥は見てはいけないものを見るように両手で目隠しをしているが、中指と薬指の間からガッツリと見えている。和弥は雪の自然な動作に戦慄を覚え、それでいて感嘆したように考察を述べる。
その後、和弥のラーメンのチャーシューを美那が奪って喧嘩になったり、雪が叶に『あ〜ん』を要求してまたもや桃色空間が発動したりして、楽しい昼食の時間は過ぎていった。
そのさなか、遠くから叶達の様子を伺う4人の者達がいた。
「クソッ何であんな奴が・・・!!」
「ええ、全くです!」
「貴方様こそがあの少女に相応しいのに!」
「ちょいと懲らしめてやりましょう。」
「そうだな・・・おい、耳を貸せ。」
叶達の知らないところで魔の手が忍びよろうとしていたが、それを知るのは少し後のこと。
◇◇◇◇◇◇◇
キーンコーンカーンコーン
「じゃあ今日はここまで。部活か委員会、何入るかぼちぼち決めとけよー。」
「なあなあ叶。この後どっか寄ってかねぇ?」
「ごめんな。今日は用事があって行けないんだ。また今度な。」
「そっか。オッケーまた今度な。」
「行くぞ、ユキ。」
「はい。」
叶と雪は朝に決めたとおり、軍に報告するために教室を後にする。
「・・・なぁ、叶の用事ってやっぱ雪とデートかな?」
「え!?違うでしょ。だってあの2人兄妹じゃん。」
「そうだけどなんかワケありっぽいんだよな。もしかしたら血は繋がってないとか。」
「あーだとしたら有り得るかも。普段の行動見てると唯の兄妹って感じじゃないもんね。」
「明日あたりに聞いてみっか?」
「あ、あの、それはやめた方がいいと思います。隠しているなら何らかの理由があると思いますし。」
「まーそれもそうだな。いつか話してくれるのを待つか。」
「うん。そうしましょ。」
叶と雪の関係について3人は無理に聞かず、自然と話してくれるのを待つ方針に決めたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
学園からの帰り道、叶と雪は朝に話したとおり、軍に報告行くためにいつもの宿舎には向かわず、メインターミナルへ向かった。
メインターミナルは1〜3階層の中央にある施設で、そこには階層を移動するためのエレベーターが設置されている。
「ユキ、ユキはどんな家に住みたい?」
「叶様と一緒に住めるならどこでもいいです!」
「んー、それは困ったな。俺も特にこだわりはないからなぁ。なるべく学園に近い所にするか?」
「そうですね。それがいいと思います。」
「分かった。それで探そう・・・何だ?」
「?どうかなさいましたか?」
「いや・・・何でもない。ちょっと先にメインターミナルに行っててくれ。俺はあとから行く。」
「分かりました。お気を付けて。」
雪は叶の言ったことを最初は理解していなかったが、すぐに気付くと了解の意を示した。
そこから叶は人通りの多い中央通りから人通りの少ない路地に入り、脇目も振らずに進んでいく。ある程度進んでいくと不意に立ち止まり、誰もいないはずの真後ろの空間に語りかける。
「で、あんたらは何の用だ?」
傍から見ると虚空に向かって話しかけるおかしな奴に見えるだろう。だが、叶は分かる。姿は見えないがそこにいるのだ。
「お前と、お前と、お前。隠れてないで出てきたらどうだ?」
叶は虚空を3箇所指し、場所はわかっていると示す。
すると次の瞬間、叶が示した空間がグニャリと歪み、3人の男が姿を現す。
「驚いたな。どうやって気づいた?」
3人の男の内、真ん中の男が聞く。
だが、叶はその質問をガン無視する。
「その制服・・・学園の生徒か。それに、今の魔法・・・空間干渉魔法の【カモフラージュ】か。」
「・・・お見事。俺は空間干渉魔法には自信があったんだがな。まぁいい。始めるとすっか。」
すると3人の内左側の男が魔法を展開し、辺りが薄い緑色の膜で覆われる。
「よし。ここは完全防音になった。これで好きなだけ泣き叫べるぜ?」
「お前ら、何が目的だ。」
「なに、お前が藤堂雪さんのそばに居るのが気に食わない方がいてな、少し痛い目を見てもらうぞ。」
「なるほど。要は俺をユキから引き剥がそうということか。」
「そういうこった。お前ら!やるぞ!」
真ん中の男の言葉を皮切りに3人が一斉に襲いかかってくる。
だが、彼らは知らない。目の前にいる男が、唯の学生ではないことに。いや、人ですらも危ういことに。
そして、路地裏の一戦が始まる。