0話 [始めたい(始める)ジョーカー部!]
「部長っ!!」
「ひぅっ!? ………なんだ、赤司かぁ」
部長は赤い花が胸ポケットに入った学生服を着ている。子供らしいツインテールは降ろして、ロングの、なんというか…………可愛い。
「もうすぐ始まりますよ。さっさと行きましょう」
「むー、なんで毎回上からなのさっ!! 私はぶちょーだよ!!」
「はい、ぶちょう。それでは行きましょう」
「あーうー、わ、わかったよぉーだから服の袖離してー」
部長の袖を掴んで体育館まで小走りで歩く。
顔が見られねぇ………。
今の俺の真っ赤な顔は、恐らく見られないだろう。
「あ、赤司はどうしてそんなに急いでるのさっ!? あるいていこーよー!!」
「ダメです。5分前なんですよっ!?」
「えぇ!? そうだったの? じゃぁ走って行かなきゃじゃん!!」
部長は俺の手を握り返し、足早に走る。
俺はそれを握り返し、走りだす。
「それでは、第29回、玄園学園卒業式を行います。てなわけで、ここはジョーカー部が貸しきったよっ!! それじゃあ皆っ、せーのっ!!」
「えっ!? なんだなんだ!? つかなんで部長がそんなとこ―――」
『『『ジンバブエェェェェェエエエエエエエエエエエ!!!!!』』』
「なんで皆合ってるんですかねぇ!? ねぇなんで!?」
何故か全員目から血を吹き出して叫んでいたっ!! まて、なんだこれは。
生徒会長席を乗っ取り、まさに上々気分の部長が。
「今日のジョーカー部、始めちゃうよぉ――ッ!! イン、卒業式ィィイイイ!!!」
『『『イイェェエエエエエエエエエエエエエエエィイイイイイイイイ!!!!!!』』』
「もうやだぁこの学校っ!!!
「改め、在校生送辞です」
『パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ』
「モチベーションちゃんと持ちませんかねぇ!?」
『……………』
ひぃっ!! 全員に黒目で睨まれたぁ!! 瞳孔ガン開きだぁ…………。
コホンと部長は咳払いし、全員の目が前に戻る。お前らどんな調教受けたんだよ。
「それでは、卒業生。二年C組、赤司 拓」
「はい」
俺は前に出る。一歩ずつ、一歩ずつ。
舞台に上がり、周りを見渡す。一万以上の瞳が俺を見つめる。
革命を始めよう。
「俺は、凡人でした」
「凡人な俺は、彼女らの優しさに救われたんだと思う。その中で、道化師の集いを作り、彼女らを招待した。それが正解だったと思っている。いや、必ず思う」
「だけど、やっぱりそれは正解だった。部活の中で恋も、友情も、楽しさも、ぜーんぶ貰った。部長的に言うには、完全制覇だ」
その瞬間部長の顔が真っ赤に染まる。一度部長に目配せし、再び前を見据える。
今、目の前に見えるのは。
友達しかいねぇだろ。
「今の俺は、まず凡人以下じゃないと思う。だけど、それが違うとも言えない。けど、やっぱり不安だ」
「先で良くできると思いたいけど、やっぱり不安だ。だけど、それでも支えてくれる友達が居るって事だけで、不安は消え失せるって、面白いもんだよなぁ」
「だから、使え古るされた言葉だけど、それでも卒業生の皆さんに言いたい。同じこの学校の卒業生として、言いたい」
「旅立ちは、やっぱりサヨナラじゃない。出会いの始まりです。以上っ!! …………ひっく」
「…………うえぇ………ひっく」
『(司会が泣いてるぅ!?)』
「うぅ……………こほん、ざいこうちぇい、あるがとおございまひた………続いて、卒業生答辞……です」
泣いていた部長が珍しく泣き止み、目を擦りながら舞台の上に上がる。
それを在校生と卒業生の皆が優しく見守るって、なんだかシュールだ。
「卒業生答辞は、私、真樹乃 ひのきが勤めます。………えぇそれでは」
部長は大きく息を吸い、大きく吐き出す。
「私は、この学校が大好きでしたぁ!!」
「大好きで、大好きなこの学校で、大きな部活を立ち上げましたっ!! 理由は沢山あってね。演劇部を立ち上げました」
「まだまだ真っ白いこの部屋で何が起きるんだろうなーって、面白くなるのかなーって思ったら、本当に面白くなっちゃったの。皆何処かで可笑しくて、皆何処かで優しい皆と居れて、本当に、ほんっっとうに、良かった」
「だけどね、サヨナラは、絶対に来ちゃうんだよね。寂しいよ。皆と居られなくなるの」
「だからこそ」
「笑うの。皆泣いてない。にこにこ笑うの、どんなに辛くても、痛くても、寂しくても、絶対に泣かないの。それがジョーカー、それが道化師。私の、この玄園のジョーカー部は、それを忘れない」
「だからこそ皆にも教えたい。広めたい。ジョーカー部を。だから、私は笑うよっ!!!」
その瞬間、会場の隅から、一つの小さな笑い声が聞こえた。それを待っていたかの様に次々と当たりから笑い声が聞こえてくる。
やがて会場全体へと笑い声は広まる。
「わーっはっはっはっは――!! わーっはっはっはっは――!! わーはっはっは………はは……………。うぅ……ひっく………まだ一緒に居たいよぉ………玄園にもっと居たいよぉ…………」
またしても部長は泣いてしまう。それに応じてさらに会場の隅から泣き声が聞こえてくる。
その時だった。
「泣くなぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
会場のド真ん中で、そんな盛大な叫び声が上がる。
その声の主は。
「ひっくぅ………………あ、あかしぃ…………?」
俺だった。
「あぁもうこんな卒業式なんかやめちまえ!! 俺はもっと部長達と居たいんだぁ!!! 泣かないでいいからとっとと部室戻って部活動をするんだろ!!」
「待て赤司、お前流石に………」
「赤司君っ!! 何してるんだいっ!?」
周りのクラスメイトが俺を止めるがその静止は聞かず、舞台へと走り出す。
だが。
「全く、もう泣かないからっ!! 今はこの私ぃ!! この部長の出番でしょうがっ!! ヘボ赤司はすっこんでなさいよねっ!!」
一発で止められました。
「コホン、あぁ、その赤司は適当に焼却炉で焼いて細切れにして肥料にでもしといて。あ、ところてんに加工しておいて結構です、はい。えぇ、コホン。赤司の言う通りにしますっ!! 旅立ちを恐れず、我々は進むことをっ!! せーのっ!!!」
『『誓いますッ!!!!!!!』』
衝撃の展開でした。
その日の卒業生を歓迎する会が終わった後、深夜のジョーカー部室。改め。
新ジョーカー部。
「おっしゃ今日のジョーカー部、開始ぃぃいいいい」
『うおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお』
本日のジョーカー部は深夜からのお送りとなります。一部テンションがおかしい点がありますが、そこんところは適当に流して下さい。マジで。
「さぁて、写真撮るですよー!!」
「はいはい、部長さんも赤司もくっついてー」
「えぇ………イカ臭いからやだよぉ」
「なんでそういう時だけ俺アウェーなんですかね!? イカ臭くないですよ、ほらほら、くっつきますよー」
「ギャァァァアアアアアアケダモノ来るなぁあああああ――ッ!!!!!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
部長が俺の腕を思いっきり引っ掻く。
その時に目映いフラッシュが瞬く。
《パシャリ》
そこに映るのは、全員の笑顔だった。
全員がそれぞれの笑顔で笑い、全員が煌めいていた。
「あ、そうそう赤司。ちょっと来て来て」
「えぇ? な、なんですか急に…………」
部長がいきなり服の袖を引っ張る。すると部長は俺の耳に口を近付け――――
「後でメアド教えなさいよねっ」
「………はいはい、部長」
「あ、それと」
いきなり元のボリュームの声に戻すものだから大音量が耳に入る。
部長と美智と冬美ちゃんが俺の目の前に整列し、大声で、凛々しく、美しく、可愛く、そしてかっこよく。
「私達は、ずっとジョーカー部だよっ!!!」
「私達は、ずっとジョーカー部だぜっ!!!!」
「私達は、その、ジョーカー部です…………ずっと……!!」
「み、みんな………本当にありがとう…………」
クソみたいな幸せに、ここに集えた奇跡に、いつまでも叶えられる軌跡に、全ての感謝を込めて俺も。
かっこよくは無いと思うけど、それでも、精一杯のかっこよさを込めて。
「ジョーカー部、永遠に不滅だぁ―――ッ!!!」
完。
皆様のお陰でついに卒業を迎える事にしました。詳しい事はまた後日。それでは。