十話 [終わらせるジョーカー部]
「それじゃ、今日も今日とてジョーカー部、開始ぃ―――!! インお正月っ!!!」
『いえー』
「遺影? そんな物騒なのじゃないよっ!! そもそもの赤司までそのテンションはなんなのさ!!」
「お正月まで元気なんですね…………つか、もうすぐじゃねぇの? 早く神社行かなきゃじゃないっすか!?」
「おう、えぇと……………って、もう58分だぞ!?」
「お姉ちゃん、一時間ズレてる………」
本日は部室ではなく、近所の神社に来ている。
毎年行われる冬春祭と呼ばれる歴史のある祭りがある神社。
こんな寂れた北国だが、お祭りだってある。部長も甘酒を飲むのに必死だ。お酒じゃないけど。
「おい、本当に良いのか? 拓の気持ちは」
「あぁ、俺はそれでいい。やっぱり押し込めちゃ駄目な気持ちだ、ちゃんとぶつける」
「……………かっけーな、お前ってさ」
「な、何だよ急に。………ありがとよ」
「…………友達を手伝う事なんて当たり前だろ? サポートするぜ」
「あぁ、助かる。美智」
さぁて、今日しなければいけない事が二つある。そのどちらも重すぎる荷だ。
一つは、この学校にサヨナラをする事。
ずっと別居していた父親と母親が寄りを戻すという話がきっかけで、故郷の東京まで戻らなくてはいけない事になってしまった。
これまで二年間も無視してきた事には変わりない。
だが、あの二人が再び楽しくやれるとも思わない。
その為の、その為だけの思い決断。
もう一つのしたい事。いや、する事。
彼女――――――真樹乃ひのきに、告白をする。
この二年間、ずっと暖めていた思い。
ふと気が付けば、彼女を目で追っていた。
ふと気が付けば、彼女と居るのが楽しく思えた。
ふと気が付けば、ずっと好きだった。
そんな気持ちが取り巻き、それは完全に愛情なのだと思ったのは、ちょうど二年になる頃だった。
愛も、友情も、信頼も、楽しみも、見えなかった景色も、かけがえのない思いでも。
全部。
彼女に貰った。
それを今日、彼女に伝える。
「おーい、何してんのさっ!! 早くいこーよ赤司!! 甘酒無くなっちゃうー」
「あ、はーい。つか年明けてからでしょうがっ!! ほら、境内までダッシュ!!」
「年明ける前にする事じゃないよね!? まぁいいや、いっくよー!!」
『それでは、カウントダウン、三秒前――!!』
『3っ!!』
『2っ!!!』
『1っ!!!!』
『ハッピィーニューイヤァー!!!』
年が開けた。盛大な声と共に鐘の音が境内に、町中に鳴り響く。
「よしっ、甘酒甘酒~♪」
「駄目ですよ部長。先ずは鐘を鳴らしに行きますよ」
「えぇえ~? 面倒だから赤司だけで行ってよぉ~!!」
「我が儘言っちゃ駄目です、ほら行きますよー」
今のうちだけ美智と冬美ちゃんは場を離れてくれた。有難い。
俺達は境内の奥、鐘を鳴らしに行く。バカデカい大槌で鳴らす鐘の音は1000年も続く音だと言われてるが、ぶっちゃけ一分程度でなり終わる。
だが、鐘の音が響いている間、願い事をするとその願いが成就するという言い伝えがある。
「ねぇ、赤司は願い事、何を願うの?」
「俺っすか? …………秘密です」
「えー!? ケチっ!」
目の前に聳える巨大な鐘。少し足がすくみそうになるが、たかが鐘。
だが、いざ願うとなると、やっぱり気恥ずかしい。胸がきゅぅってなる。
先ずは俺が鐘を鳴らす。
《ボォォオオオオオオン……………》
音が指に響いてビリビリ来る。勿論願ったのは…………言うまでも無いか。
「うぅ………次は私だね。………い、いっくよぉ………!!」
《ボォォォォオオオン……………》
「うぅう………手がビリビリ来るよぉ………!!」
「願い事、しましたか?」
「…………うん、したよ。まぁ届くかどうか分からない夢だけど、うん。夢を見るだけ夢を信じるよ」
「は、はぁ。そうですか」
届くかどうか分からない夢?
俺はその夢を気にせず、先へ進んだ。
その時の部長の朱色に染まった頬は、その時には良く分からなかった。
俺達は祭りを存分に楽しみ、夜も更けきっていた。空は青白く染まり、時期に太陽が昇る。
さぁ、切りだそう。
「部長」
「ふぇ!? どうしたの赤司………」
「今から、学校行って初日の出、見ませんか?」
「う、うん。いいよ。じゃあ行こうかっ!!」
部長は先に進む。部長の足がどんどん早くなって、追い付くのにやっとにまで加速していく。
「あ、あの、部長早すぎ………」
「………ふぇ!? ご、ごめん………」
やっぱり1月の風は寒い。屋上の事もあってか、倍に寒い。屋上から見る青白い空は自棄に綺麗に見える。
霞みきった空は星空の残像を残しながら黒みを消していく。
格好いい事は言えない。
だけど格好わるい事も言えない。
俺はそこまで主人公気質でも無いし、勇気もある方ではない。
だけど、相手が好きな人だから言える。
部長だから言える。
部長の後ろ姿を見据え。
俺はクソカッコ悪い言葉(クソカッコ悪い告白)を、言い放つ。
帰って来たのは、ゴメンでも無く、いいよでも無く。
柔らかな抱擁だった。
終わるにはどうしたらいいか。探求した十話。生暖かい目ではなく、
熱い目で。