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キスから始まる物理系女神様の世界更生伝説  作者: 朝月ゆき
【第一章】
5/41

〜恋雨(5)〜誘惑の紅

その姿は、闇の中に差し込む一筋の光ーー炎のようだった。


ーー 鮮やかな赤。燃える赤。輝く赤。


荒々しいけど、確かに美しかった。


*******



雨音が微かに小さくなった気がした。

背後にあった熱にも焦りが一時、消えた。


樹峯と二人きりで、冷える小屋の中にいた美耶の視線の先には、見慣れぬ男。

雫をしたたせながらもなお、見事に輝く紅蓮の髪。

こちらを凝視しながらも、なおかつ睨むように(すが)められた灰色の瞳。

体格は非常に良かった。

美耶よりも頭一つは大きい樹峯よりも、背たけはある。

はだけた胸元から露わになっている、程よく付いた筋肉。


ーーどこか、色気すらも感じるのは、気のせいだったのであろうか。


顔立ちも、優れていると言っていい。


(水も滴るいい男って、こういう人のことを言うんだろうなぁ…)


ーー自分の学校で一番女の子に人気があった男の子ですら、この男の前では霞むだろう。


そんな事をぼんやりと考えていた時だった。


突然、身体を深く抱き込められた。


(ーーは、はぃぃ?)


見上げると、そこには穏やかな風貌に似合わぬ厳しい顔をした樹峯がいた。

彼の険を宿した瞳は、こちらを睥睨(へいげい)してくる赤毛の男を睨み据えている。


ーーこの状況が理解できない中、ふと、悪寒が走った。


一触触発の危機。


(やば……)


青ざめる美耶を目端にとらえた樹峯は、彼女を片腕で抱き上げ、腰をあげた。


突然の浮遊に慌てる。咄嗟(とっさ)に樹峯の頭に抱きついてしまった。

一瞬、樹峯が恥じらった様子をみせたが、すぐに雰囲気を鋭くする。


「ーーお前は何者だ。なぜ、ここに姿を現した。答えろ」


先刻までの樹峯ではなかった。

冷淡で有無を言わせない口調だった。


彼の変化に驚き、同時にひどく戸惑っていると、小さな溜息が聞こえた。


赤毛の男が、濡れた髪を片手でかきあげながら、美耶と樹峯を刃のように見つめながら、こちらに歩を進めてきた。


途端に、樹峯から闘志が放たれる。


(なんか、樹峯ちゃん、さり気なく腰の危ないものを引こうとしてませんっ!?)


ーーこれはやべぇっ、と全力で気を失いかける。


ふっ、と赤毛の男が突如、笑った。

恐る恐る彼を見据えた美耶一人に、彼は視線を注いだ。


「ーーこれは、俺への神の褒美なのか?

闇の中で生きると決めた者は、人との接触を許されぬはずなのに。」


赤毛の男が、愉悦を滲ませる。


得体の知れぬものが近づいてくる恐怖ーー否、これは、圧倒的な何かに迫られる恐怖。

彼の鮮やかな赤毛は今、残酷な色と化する。


「いいだろう、存分にお前を愛でてやろう」


それは、血の色。


*******



ーー鋭利な音が空気を裂いた。


赤毛の男に向けられたのは、鈍く光りを放つ刀身だった。


狙いを定められた男は愉快と言わんばかりに口元を歪めた。

だが、闇に溶ける灰色の瞳は少しも笑っていない。


「俺に剣を向けるのか?面白い」


余裕を浮かべる男に対し、剣を手に殺意を放ち始めた樹峯は非情な表情をしていた。


「……何者だと聞いている。

ーーこの森は、人の入り込めぬ領域。お前が足を踏み入れることなど、決してできぬ。

だが、お前は今ここにいる。」


身震いしてしまいそうな冷たく、無情な声。


ーーでも、美耶を抱える腕は熱く、優しい。


赤毛の男が、一瞬で凍てつく気を(まと)い、瞳に冷酷な光りを露わにした。


「森神ごときが調子に乗るな。陽の元でしか生きられぬ弱神ーーお前など、ここで一掃してくれる」


物騒な言葉に、思わず美耶は息を呑んだ。


樹峯の額に微かに汗が滲む。

伝わってくる彼の焦り。それでも、必死に美耶を守ろうとしている。

樹峯が剣を構える。


「もう、俺の正体を悟っているだろう?森神」


赤毛の男が沢山の装飾品をつけた腕を軽く掲げた。


樹峯の剣を握る手に力がこもる。


赤毛の男の手に集まるのは、底のない闇。何もかも覆い尽くしてしまう黒い瘴気(しょうき)

彼の身体が闇と同化する。


「俺は闇神。静寂の夜の覇者。」


ーー 雨を喰らい尽くした夜が襲い来る。


「ーー命神も、俺が手に入れる」


甘くて、傲慢な声と言葉。

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