〜恋雨(3)〜目覚めた先にあるのは
ーー優しい鳥の鳴き声がきこえた。
爽やかな風が穏やかにとおりすぎる。
ーーこのままずっと眠っていたい。
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ーーポツリ、と冷たい何かが美耶の額を濡らした。
ぼんやりとした意識の中で、美耶は力なく瞼をもちあげた。
(ーー雨…?)
身体を濡らし始めた物の正体を悟り、美耶は気怠げに上半身をおこした。
そこで、視界一面にひろがった景色に言葉を失う。
ーー見知らぬ森だった。
緑の世界。美耶を暖かく包む微かな花の香り。優しく笑う風。
まるで、美耶の訪れを歓迎しているよな。
(……でも、何で)
ーーこんな所に?
穏やかに降り始めていたはずの雨が急に勢いをました。
ーー神秘的な森が暗くなっていく。
確か、美耶は部活を終えて、家に帰っていた。
そして、その途中で雨が降り始めてーー
(………あれ?)
それから、どうしたのだろう?
漠然とさえ覚えていない。
ーーただ。
(理央……)
誰の名だろう。その名だけが、混乱を極める頭の中にはっきりと刻まれている。
まるで、母親が可愛い赤子を抱くように、大切にその名だけをかかえている。
誰にも奪われないように。誰にも傷つけられないように。
(……よくわからないけど、この名前は誰にも教えてはいけない気がする)
美耶は雨に打たれないようにとにかく走り出した。
(てゆうか、本当にここ、どこっ!?)
自分が置かれている状況を理解しようと、美耶は必死に頭をまわそうとする。
だが、雨が痛いくらいに鋭さを増したため、思考回路を回すことに失敗した。
「なんかもう、あり得ないんですけどーーっ!!」
気がつけば、綺麗だけど見知らぬ森にいた上に、記憶の一部が消えてしまっていた。そして、とどめにこの雨。
誰かの恨みでも買ってしまったのだろうか。
「んなの、しるかっ!!」
今日までずっと誠実かつ噓いつわりなく生きてきたのだ。
(ーー運命の神様のばかやろう。)
とにかく、自分をこんな状態にした奴を罵っておく。誠実さのかけらも見えない悪態をとった美耶への嫌がらせなのか、今度は雷までも美耶をおそった。
「ぎゃゃゃあっ!!無理っ、無理ーっ!!」
一介の女子高生にすぎない自分。
容赦ないこの展開。あり得なさすぎて、泣ける。
無我夢中で、この雨と薄闇と化した森から逃れるべく走り続けたが、不意に足元がふらついた。
ーー無残に転倒。
もう、泣いていいだろうか。
こけた上に、顔面を目の前にあった大樹に激突させるなんて。
「くそぉう…っ!」
呻きながら、美耶はズキズキして止まない顔を両手で覆った。
全てのものに殺意を放ちそうだった時だった。
「………え?」
美耶の顔面攻撃が見事にさくれつしたこの大樹が突如、淡く輝きだした。
そして、大樹が光を放ちながら、あろうことか凝縮した。
再び、言葉を失った。
ーー大樹の光の中から、美貌の男性があらわれた。