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キスから始まる物理系女神様の世界更生伝説  作者: 朝月ゆき
【第一章】
18/41

〜恋雨(18)〜生と死の女神

お盆あたりは少し余裕がありそうなので、更新を増やしそうです。


詳しくは、明日の19時くらいに私の活動報告にて伝えます!!

美耶は、ただひたすら歓喜していた。嬉しさのあまり、飛び上がりそうになったくらい。

平成の乙女にとっては、もはや必需品となっている物。そして、それは、美耶にとっては溺愛する弟の画像がたくさん保存されてある宝物だ。


だが、“スマホ”という物を知るわけがないその場に居座っていた三神が、美耶の手に大事そうにおさめられている物に怪訝そうにした。


「命神、一体その不思議な物はなんなのですか?」


「ーー見た事のない物だ。もしかしてお前がいたという異界の物か?」


「……?」


時神と闇神はおろか、これまで沈黙を守っていた霧神でさえ、三神にとっては正体不明の物であろうスマホに関心を向けた。

ーーとは言え、霧神は不思議そうな目をしただけだったが。


「これは、スマホっていう物!私がいた世界の物なの。ああ、まさか私のポケットにあったなんて!」


短く説明するなり、美耶はふたたび喜びに浸る。

だが、すかさず時神が質問を重ねた。


「異界の物…。面白そうですね。にしても、類斗……という者が、あなたの弟というのは本当なのですか?まさか、命神に弟がいるとは……では、あなたの弟も神なのですね?」


時神の言葉に、鋭く反応したのは闇神だった。


「……類斗」


そう呟いた彼の灰色の目は、暗い光が宿っていた。

それに気づいた者は誰もいなかったが。


「なわけないでしょ。なんで類斗が神様よ。ありえないでしょっ!」


「…いえ、ありえます。というより、ありえなくてはなりません」


「どういう事?」


眉をひそめて問いかけると、時神は厳然とした雰囲気を漂わせた。

そんな様子には、このかわいらしい少年が、本当に神だという事を明確にさせるものがあった。


「神といえども、人間と異なる点は少ない。少々力が凄まじいのと圧倒的な美貌を持っているという事しか」


「そうなの?」


「はい。ですから、兄弟神がいることも至って普通のことなのです。おそらく、命神ーーあなたは姉弟神なのでしょう」


「はあ」


自分もだが、弟までも、神と言われるのは、あまりにも非現実すぎて納得することができない。

まだまだ、なにも理解できていない。


悩みこむ美耶を、闇神はじっと見つめていた。まるで、彼女ごしに違う存在を見据えているような。

闇神の目が細められる。


「ーーだが、命神に弟がいるというのは聞いたことがない。お前達もそうだろう?」


「そうだね。気が遠くなるくらいの長い時間を生きている僕達でさえ知らない。なんでだろう?」


「……霧は、はるか昔から世界にあったもの。ですから、私も古い神なのですが……そんな情報はありませんでした」


時神と霧神の返答に、闇神はやっぱりなと、なぜか唸り声をあげた。

そんな彼に、時神は小首をかしげた。


「どうしたの?」


しかし、闇神は美耶をまっすぐに見つめた。そして、その場にいる全員に宣告するように言い放つ。


「その類斗とかいう奴は、命神の弟なんかじゃない。そいつは、おそらくーー炎神(えんしん)だ」


「ーーなっ!?炎神っ!?そんなことって!」


「推測にしかすぎないが……かつて、誰よりも命神を慕っていた愚神。あの男のことだ、命神を想うゆえに、命神に付いて行ったんだろう」


(炎神……?)


また、知らない神だ。だが、闇神はその炎神が、美耶の弟の類斗であると言う。

なんなのだ、この展開は。

類斗まで、神と言われるなんて。


「ねえ、ほんとにどういうこと?類斗は、私のいた世界で普通の人間としてすごしているんだけど。なんで、あの子が神様ってなるの?それに、弟じゃないって、まじで、意味不明なんですけど」


もう、散々だ。なぜ、姉弟そろって神と称される。意味がわからなくて、当然だろう。これまで、一般の女子高生と男子中学生として生きてきたのだ。

なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃになってきて、笑ってしまう。


「ーーお前は、過去の記憶を忘れているようだから、理解しがたいかもしれないが…。かつて、お前がこの世に姿をあらわしていた時、お前を色々な意味で慕う者たちがいた。そのうちの一人が、炎神ーー類斗と名乗っている男だ。そいつは、整った容貌をしているだろう?人間とは比較にならないほど。」


そう言われ、美耶は大好きな弟を思い浮かべた。

夜のように黒い髪に同色の目。天使のような笑顔ーーそう見えたのは、決して彼を溺愛する姉の欲目ではなく、彼は非常に優れた顔立ちだったからだ。小柄な事も相まって。彼のかわいらしい仕草のせいもあったのだろうけど。

確かに、類斗は見る者を惹き付けてはなさない美しさがあった。


ーーだが。


「やっぱり、類斗が神様だなんて認められない」


「……頑固だな」


どこか呆れたように呟きを落とし、闇神は太腿にのせたままの美耶の長い髪を自身の指に絡ませる。

熱を持ったきれいな指が美耶の髪をもてあそぶたび、全身の神経が反応した。


「だって、急にそう言われたんだよ?簡単にうなずけるわけがない」


次々と、あたりまえの事が失われていく焦りと苦しみを、平然かつ淡々と美耶の日常を壊す言葉をはなつ闇神や時神に分かるわけがない。


「命神……」


憂い顔の時神に、美耶はうつむく。


「……すみません、命神ーーあなたは、記憶を失ってこの世界に足を踏み込んでしまったから、不安と混乱だらけであるはずなのに……それを分かっていながら、あなたを色々な意味で追い込んでしまった」


紫水晶の目を伏せ、謝罪を述べた時神は、あどけなさを残した少年とは形容しがたい。美耶の胸中を悟ったこの神は、大人だった。


「だから、あなたの不安を取り除いてみせましょう」


「……?」


訝しげに時神を見た美耶に、彼はふわりと微笑む。

そして。


「ーー少し路線が外れてしまいましたが、続きを話しましょう。上を見てください」


美耶は、映像が映されていた天井を仰ぎみた。

闇神、霧神もそれにならう。


「後に、花謳という国ができる大地ーーそこに、命神が誕生した」


先ほど、時神が語ったところから説明がはじまった。


「命神が生まれた所には、一滴の水、一本の木、一つの風があった。命神ーーつまり、かつてのあなたはそれらに口付けを落とした」


命神やかつての自分、などわけのわからない事を相変わらず言っているが、突っ込むと混乱を極めるだけだと理解してしまっているので、そこには口出しをしないようにする。

時神の話を聞き、少しずつこの世界を知っていく。


だから、美耶は別のところに疑問をみつけ、問いかけた。


「なんで、キス?」


「きす?」


なぜ、そんな事をするのか、と尋ねたつもりだったが、逆に目を丸くされた。


(そうだった……この世界、英語が通じないんだった)


「ーー口付けのこと」


「ああ、なるほど。あなたの世界では、きす、と言うのですね。面白いです」


にこりと笑い、


「命神は、あらゆるものを口付けにて、神へと変化させる事ができるのです。また、血は神を癒す力を持ち、そしてーー涙は神の命を奪う」


時神は平坦にそう言った。

ーーまるで、漫画のような話だった。


「……お前が、ただの木を森神にしたんだろう?生と死を司る神。ーーそれが、お前だ」


ーー森神。

そうだ、たしか自分はこの世界に迷い込み、そのすぐ後に、一本の木に顔面を衝突させたのだ。その時に、思いっきり唇が痛んだ。

ーーあれが、口付けだったとは、とても言い難いが、頑張って見ればそう捉えることもできる。


では、あの口付け(事故)で、ただの木にしかすぎなかったものは神になったという事なのか。

美耶が、森神を誕生させたというのか。


あまりにも、信じられない。いくら妥協しても、全く。


ーー樹峯。


あなたに、聞きたい。

私を一心に守ろうとしてくれたあなたに。

あなたの柔らかい声で、教えてほしい。あなたの言葉なら、少しは信じられるかもしれない。

だって、あなたは命がけで私を守ってくれた。そんなあなただったら。

ーーこんな現実から私を救ってくれるかもしれない。


だが、その願いは叶わない。

彼はいない。ここに。側に。


死んだなんて信じない。


得体の知れぬものに足を引っ張られるような心地になった時だった。



ーードンッ!!



「「「「!!?」」」」


突如、神殿の入口の方から爆発音が聞こえた。

闇神、時神、霧神の三神は一様に驚きーーそして、瞬時に鋭い目になった。


ーーカツン、カツン。


遠くから響いてくる高い足音と焦げ臭いにおい。

だんだん、近づいてくる足音。


ーーそして。


足音が止まった。


何が起こったかわからず、呆然とする美耶は即座に闇神の腕に強く抱きこまれ、美耶を守るかのように、時神と霧神が前に歩みでる。


ーー闇神の腕の中で、美耶は目を見開いた。


視線の先ーーそこに、一人の男がいた。

男は、美耶を見ると、優しく微笑んだ。


心臓がドクン、と大きな音をたてる。




「ーー美耶さま、お迎えに参りました」




その男は、樹峯だった。


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