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キスから始まる物理系女神様の世界更生伝説  作者: 朝月ゆき
【第一章】
16/41

〜恋雨(16)〜動き始めた策略と彼女にかまう神

今話は、悠長な二神。


美耶が……笑。

「ーーお呼びですか、森神様」


月を隠した夜空の下で静かな風におい茂った葉をゆらした木の幹に寄りかかって立つ樹峯の元に、ひとりの人物が姿をあらわした。


「ーー幻影(げんえい)


幻影、と呼ばれた人物は、音もなくその場に片膝をつけ、こうべを垂れた。


「お前の力を貸してほしい。今回の敵は厄介だ。かつてのような力をふるう事が出来ない私では単独で強大な敵に挑むのは不可能だとわかった」


樹峯は拳をきつく握りしめ、抑えきれない憎悪をあらわにした目を幻影に向けた。


「何百年も私の復活を待ち続けてくれたお前に、早々厄介ごとを頼むのは気がひけるが、この件を受けてくれるか?」


「あなたの“頼み”では聞けません。ーーお忘れになられたのですか?あなたの“命令”は例えどんな事でも成し遂げてみせるとお約束した事を」


木々の葉が一度、大きく揺れた。


「ーー本来のあなたは生半端な事など言わない。今、ここにいるのはあなたに忠実なこの私だけ。偽りの仮面は外していいのです。森神様」


ーー沈黙がうまれた。

木々もそれに従うかのように葉の音を鳴らすことを止めた。

やがて。

ふっ、と樹峯が口角を持ちあげた。

それは面白そうに。

それは冷たく。


「……そうだったな、幻影。お前に虚偽の顔を見せる必要はなかったな」


樹峯の瞳が絶対的な覇者のものへと変わる。


「ーーこれは命令だ。幻影、邪魔なものはいくらでも殺していい。必ず命神を奴らから奪え。もしそれが出来なかったらーー」


冷然な態度を崩さず、樹峯は残忍な色を宿した目で幻影を見下ろす。


「この私がーーいや、この俺がお前を殺す」


本性を現した樹峯に怯むことなく、幻影は、はい、と返し、姿を森の奥へと消した。

それを見届けた樹峯は、右手を軽く振るった。

すると、大地から長い(つる)を持った植物が瞬きする間もなく出てきた。

その蔓をどこか荒っぽくちぎり、己の長い薄茶色の髪を首の付け根でそれで結んだ。

さらり、と結われた髪が背を流れる。

冷たく、艶然とした微笑みを浮かべ、樹峯は夜空を仰ぎ見た。


この漆黒の空は、美耶の瞳を思い出させる。

誰よりも愛しき少女神。

だが、この空はあの男神をも思わせる。

樹峯から、大切な少女を奪った憎き神。


「闇神……」


この夜空は愛おしく、そして同時に忌々しいもの。

相反する感情の空。

この空の下にあの二人がいる。


一人は取り返し、一人は殺す。


そうして、この漆黒の空は愛おしいだけのものへとなるのだ。


だから、必ず仕留めてみせる。


「まもなくだ。ふ……まもなくですよ。命神様、あなたを迎えに行けるのは。待っていてください。奴を殺して、あなたをこの腕に取り返す」


ーー誰のものにもさせない。



***



「この国ーー花謳は命神様が誕生したことで出来た国なのです」


何も知らない美耶のために、時神が神殿の天井に映像を映しながら、まずは美耶がやってきた花謳という国について語り出した。

天井に、何もない大地が照らされた。


「ここは、花謳という国の基盤である大地」


淡々とした時神の言葉とともに映像が動いた。

無の大地から、神々しい光をまとった女性が現れる。


「この人は……」


ついさっき、時神がこの五人以外は信じるなと言い、その五人に囲まれていた女性だった。ーー否、女性というより、少女と称した方がいいかもしれない。


「そう、この方は命神。つまり、あなたです」


断言され、思わず眉をひそめてしまった。


(私が神様なわけないのに)


今まで、普通の人間として生きてきたのだ。それなのに、急に命神などという神に祭り上げられて、素直に納得することなど出来るわけがない。

だが、この世界で誰かと出会うたび、命神と呼ばれてきた。

考え込んでいると、背後からいきなり後頭部に手が回された。

目を見開いていると、口内に何かを詰め込まれた。


「ーーふぐっ!?」


「食え」


闇神に有無を言わせぬ口調でそう言われ、咄嗟(とっさ)に、口腔に含まされた物を噛んで飲みこんだ。

口の中に、ほんのりとした甘さが広がった。


なにするのっ、と怒声を発しようとした美耶にすかさず。


「ずっと、何も口にしてないんだろう?今だけはゆっくりしていられる。だから、今の内に腹を満たしておけ」


そう言うなり、闇神は新たに、霧神が準備してくれたらしき野菜にフォークを刺し、それを美耶の口に運んだ。

思わず、差し出された物を食べてしまった。


「おいしい……」


まるで、いちごのような味だった。

見かけは、美耶が嫌う野菜ベストスリーに入る人参そっくりなのに。

予想外の美味しさに感動してしまった美耶は、闇神からフォークを奪おうとしてーー失敗する。


「俺が食わせてやる」


「………」


この神、現役女子高生である美耶をこども扱いするというのか。


(む、むかつく!!)


しかし、いきりたつ美耶に構わず、闇神は次々と野菜やスパゲッティもどきの物を勧めてくる。

……空腹は、ごまかせなかった。


おもいっきりバクリ、と差し出された食べ物に食らいつく。

その様子を見た闇神は、とても満足げだ。


(くそうっ!!)


非常に腹立たしく思いながらも、与えられる物の美味さに完敗し、闇神に抗うことが出来ない。

闇神が、整った顔に愉悦を滲ませた時だった。


「………なにをまた、いちゃついているのですか。せっかく、丁寧にお教えしているのに」


低い声が、背筋に悪寒を走らせた。

恐る恐る声の方に顔をむけると、天使の笑顔を浮かべた時神がいた。ーーその笑顔がとても黒く見えるのは、きっと気のせいではないはずだ。


「闇神、命神に手を出すなと注告したばかりだよね?聞こえてなかったのかな?」


それは、闇神に対しての言葉だったのに、美耶に冷や汗をかかせてしまう程の威力があった。


ーーが、闇神は飄然(ひょうぜん)としていて、あろうことか、時神に笑みを向けた。だが、その目はちっとも笑ってなかった。


一触触発の危機。


ふいに、脳裏にそんな言葉が浮かびあがった。


「お前、かなりうるさいぞ。俺のやる事にいちいち口を挟むな。煩わしい」


「君が口を挟まれるような行動をとるからだよ。不埒な君に命神が襲われることなどあってはいけない」


「どこが不埒なんだ?ただ、食べさせていたにすぎないぞ」


「余計なお世話だと思うよ。ねえ?命神。そうですよね?まるで子供扱いだ。見過ごせません」


「そう言って、お前は俺から命神を離したいだけだろ。お前の方が余計なお世話だ」


平行線の舌戦がその後も続いた。

よく、ここまで続くものだと感心してしまうくらいだ。

だが、いつまでもこの不毛な戦いを見続ける忍耐はあいにく、美耶は()(そな)えていなかった。


ふぅ、一度と息を吸って。


「すとぉぉぉーおぷっ!!」


「「!?」」


突然の美耶の叫びごえに、二人が何ごとかと言わんばかりに振りむく。

……きっと、ストップ、という英語を理解する事が出来なかったのだろう。


瞠目する二人に美耶は、ビシィッ、と指を突きたてた。


「そこまでよっ!いつまで口論してるのっ!?今しかゆっくりしてられないとか闇神、あなたがそう言ってたけど、あなた達の舌戦の時間がめっちゃもったいないの!てか、時神、あなた、時間の神って自称しちゃってるんだから、時間を無駄にすんじゃないわよっ!」


ーー沈黙が広がった。

流水の音がやけに大きく聞こえた。


やがて、闇神が笑い声をもらした。


「ふっ、本当に面白いな。お前」


我慢できないといった様子で背後で愉快そうに呟く。


時神も、肩を揺らし、自身の口元を右手で覆った。


「最高ですね。ふふ…笑いが(こら)えきれません。こんなに笑ったのは何百年ぶりだろう」


それぞれ呟き、二人は失笑する。

ーー二つの整った顔に浮かべられた笑みは屈託のない心からのものだった。


二神の意外な反応に、不覚にも美耶は戸惑ってしまった。


二神の笑顔は、とても綺麗で。


「……もう、これ以上怒る気になれないじゃない」


本当に神様らしい輝いた表情だ。スマホで撮って即座に保存したいくらい。


(ーースマホ??)


思わず、自分がまだ着ていた制服のスカートのポケットに手を入れた。


ーー手に当たったのは、何か硬い物。


これは。


「私のスマホおおおおっ!!!」


二神がキョトリとした。


明日は、夜の更新になりそうです。

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