黒髪の少年
「 ──うわっぷ?!
なっ何だよ〜~~ 」
セロフィート
「 大丈夫です?
勇敢な坊や 」
黒髪の少年
「 ──ぼ…坊や……だぁ?
誰が『 坊や 』だよ! 」
セロフィート
「 はい?
君の事です 」
黒髪の少年
「 馬っ鹿野郎!!
オレは『 坊や 』じゃない!!
……確かに御世辞にも背が高いとは言えないけどだな── 」
店員
「 流石は守護衛士ですね〜~!
自分よりも大きな相手にも怯む事なくハッキリと物申すなんて感動しましたよ〜~ 」
黒髪の少年
「 そりゃどうも。
えーと……其処で突っ立ってる背の高い真っ白ずくめのアンタ。
そろそろ退いてほしいんだけど… 」
セロフィート
「 はい? 」
黒髪の少年
「 『 はい? 』じゃなくてだな~。
アンタが退いてくれないとオレは宿屋や呂ろ亭ていから出でられないんだよ。
分わかってる? 」
セロフィート
「 あぁ──。
ワタシの事ことです? 」
黒髪の少年
「 さっきからそう言いってるだろ?
──退どいてくれるよな? 」
セロフィート
「 ………………………………………… 」
黒髪の少年
「 うん?
どうしたんだよ?
オレの声こえちゃんと聞きこえてるよな? 」
店員
「 御お客きゃく様さま?
大だい丈じょう夫ぶですか? 」
セロ
「 ……………………はい? 」
黒髪の少年
「 おいおい…『 はい? 』じゃないだろ~?
まぁ、いいけど……。
所ところでアンタは此こ豚とん常とこ処こ呂ろ亭ていで何なにしてんの? 」
店員
「 ウ豚とん常とこチ呂ろ亭ていに御ご宿しゅく泊はくしてくださる御お客きゃく様さまですよ〜~ 」
黒髪の少年
「 ふぅん?
良よかったじゃん。
最さい近きん『 客きゃく足あしが宜よろしくないよね~~ 』って噂うわさを聞きいてたしさ 」
店員
「 噂うわさを真まに受うけないでください!!
確たしかに御お客きゃく様さまは減へってますけど…… 」
黒髪の少年
「 アンタ、チェックインしたの? 」
セロフィート
「 いいえ……。
これからです 」
店員
「 此方こちらの御お客きゃく様さまは≪ レドアンカ都みやこ ≫に来こられたのは今こん回かいが初はじめてらしいですよ〜~ 」
黒髪の少年
「 へぇ?
アンタ…旅たび人びとなんだな。
ようこそ≪ レドアンカ都みやこ ≫へ!!
守しゅ護ご衛えい士しとして歓かん迎げいするよ 」
セロフィート
「 有あり難がとう御ご座ざいます 」
黒髪の少年
「 因ちなみにアンタの職しょく業ぎょうって何なんなの?
≪ レドアンカ都みやこ ≫に新あたらしい職しょくを探さがしに来きたの?
それとも転てん勤きんして来きたの? 」
セロフィート
「 ワタシは吟ぎん遊ゆう大だい詩し人じんです 」
黒髪の少年
「 ………………は?
吟ぎん遊ゆう詩し人じん?? 」
セロフィート
「 いいえ、違ちがいます。
吟ぎん遊ゆう大だい詩し人じんです。
“ 大だい ” を付つけ忘わすれないでください 」
黒髪の少年
「 ──えっ?
あ、あぁ……そうか??
そ吟ぎんん遊ゆうな詩しの人じんを職しょく業ぎょうにしてんの?
何なんの為ために? 」
セロフィート
「 さぁ?
『 何なんの為ために 』と聞きかれても困こまります。
──あぁ…でも…ワタシは労ろう働どう許きょ可か証しょうを持もっていない正しょう真しん正しょう銘めいの吟ぎん遊ゆう大だい詩し人じんです 」
黒髪の少年
「 はぁあ?
労ろう働どう許きょ可か証しょうを持もって無ないだぁ?
今いま時どきそんな奴やつは居いないだろ!
今いまは遊あそび人にんだって労ろう働どう許きょ可か証しょうを持もってる時じ代だいだぞ 」
セロフィート
「 そのようですね 」
黒髪の少年
「 ………………なぁ…アンタ、役やく所しょへ行いくか?
アンタさえ良よければだけど、オレが連つれてってやるけど?
吟ぎん遊ゆう詩し人じんも職しょく業ぎょうだからな。
申しん請せい書しょを提てい出しゅつすれば、1週しゅう間かん後ごには労ろう働どう許きょ可か証しょうを発はっ行こうしてもらえるよ。
今いまは労ろう働どう許きょ可か証しょうを提てい示じしないと宿しゅくホ泊はく施しテ設せつルでチェックインをしてもらえないし、チェックインが出で来きない宿やど屋やも増ふえて来きてるんだ。
買かい物ものをするにしても労ろう働どう許きょ可か証しょうを提てい示じしないと入にゅう店てんさせてもらえない店みせも増ふえて来きてるしなぁ…。
知しらないのか? 」
セロフィート
「 ははぁ……。
そうです?
それは知しりませんでした 」
黒髪の少年
「 アンタ……旅たび人びとなんだろ?
大だい事じな事ことだろ~~。
何なんで知しらないんだよ!! 」
セロフィート
「 そう言いわれましても……。
宿やど屋やに泊とまれないとなると……困こまりました。
路ろ上じょうで野の宿じゅくは嫌いやですし…… 」
黒髪の少年
「 野の宿じゅくだぁ?
何なに言いってんだよ、アンタは!
都と内ないで野の宿じゅくなんて出で来きないぞ。
野の宿じゅくなんかしてみろ。
都と民みんに通つう報ほうされて警けい備び兵へいに、しょっぴかれるぞ 」
セロフィート
「 そうです? 」
黒髪の少年
「 そうなの!
都と内ないの治ち安あんと都と民みんの安あん全ぜんと安あん心しんを守まもる為ために路ろ上じょうで野の宿じゅくしてると “ 不ふ当とうな輩やから ” とか “ 浮ふ浪ろう者しゃ ” として通つう報ほうされる事ことになってるんだ。
警けい備び兵へいへの通つう報ほうは都と民みんの義ぎ務む!!
今いまや旅たび人びとの常じょう識しきだぞ 」
セロフィート
「 そうです?
……警けい備び兵へいに連つれて行いかれるのは困こまります 」
黒髪の少年
「 全ぜんっ然ぜん困こまってるようには見みえないけど?
──此こ処こレドアンカの役やく所しょは17時じで閉しまるし……。
今いまから此こ豚とん常とこ処こ呂ろ亭ていを出でても到とう底てい間まに合あわないから役やく所しょへ行いくのは明日あしたにするとして……。
問もん題だいは今こん夜や一ひと晩ばんをどうするか──だな 」
セロフィート
「 何なんとか宿やど屋やに泊とまれません? 」
黒髪の少年
「 だ〜か〜ら〜~~!
さっきも言いったろ?
此こ処こレドアンカ の《 宿しゅく屋や街がい 》の宿しゅくホ泊はく施しテ設せつルや宿やど屋やは労ろう働どう許きょ可か証しょうを提てい示じしないとチェックインが出で来きなくて泊とまれないの!
労ろう働どう許きょ可か証しょうを提てい示じしなくても泊とまれるのは民みん家かくらいで──。
……………………仕し方かた無ないか… 」
セロフィート
「 どうしました? 」
黒髪の少年
「 ………………うん。
今こん夜やは特とく別べつに、オレん家ちに泊とめてやるよ 」
セロフィート
「 君きみがワタシを泊とめてくれます? 」
黒髪の少年
「 ──うん。
初しょ対たい面めんだけどさ、言こと葉ばを交かわした自じ称しょう吟ぎん遊ゆう詩し人じんが警けい備び兵へいに連れん行こうされるのを見みたら、此方こっちオレの目め覚ざめが悪わるくなりそうだしな 」
セロフィート
「 それは助たすかります。
どうも有あり難がとう。
親しん切せつな坊ぼうや 」
黒髪の少年
「 誰だれが『 坊ぼうや 』だ!
オレは『 坊ぼうや 』じゃないぞ!
さっきも言いったろうが。
オレより背せが高たかいからって子こ供ども扱あつかいするなよ! 」
セロフィート
「 どう見みても子こ供どもです 」
黒髪の少年
「 子こ供どもじゃない!!
オレは、こう見みえても立りっ派ぱな守しゅ護ご衛えい士しだぞ!
それにオレは16歳さいだ。
ちゃんと成せい人じんしてるんだぞ! 」
セロ
「 ……………………そうです?
てっきり12歳さいの少しょう年ねんかと…… 」
黒髪の少年
「 失しつ礼れいな奴ヤツだな、アンタは!
この≪ エルゼシア大たい陸りく ≫では15歳さいの誕たん生じょう日びを迎むかえた若わか者ものは成せい人じんとして扱あつかわれるようになってるんだぞ。
無ぶ事じに成せい人じんを迎むかえられた事ことへ対たいして〈 大たい陸りく神しんエルゼシア様さま 〉へ感かん謝しゃの祈いのりを捧ささげる儀ぎ式しき〈 成せい人じんの儀ぎ 〉が執とり行おこなわれるだろ。
……………まさか…それすらも “ 知しらない ” なんて言いわないよな?? 」
セロフィート
「 安あん心しんしてください。
その事ことは知しってます。
ただ…あまりにも君きみが幼おさなく見みえるので──。
つい♪ 」
黒髪の少年
「 何なにが『 つい♪ 』だよ!
( コイツはぁ〜〜〜!!!!
警けい備び兵へいに通つう報ほうしてやろうか!!
いやいやいや…、落おち着つけ、マオ!
相あい手ては腐くさっても吟ぎん遊ゆう詩し人じん“ 自じ称しょう” だ。
騒さわぎを起おこすのは良よくないって。
それにオレは守しゅ護ご衛えい士しだ。
成せい人じんもしている大人おとななんだ。
確しっかり心こころを落おち着つかせて、目めの前まえの相あい手て── 世せ間けん知しらずっぽい残ざん念ねんな吟ぎん遊ゆう詩し人じん “ 自じ称しょう ” ──と接せっするんだ!
うん、オレは今いま〈 大たい陸りく神しんエルゼシア様さま 〉から人にん間げん性せいを試ためされてるんだ!!
そうに違ちがいない!
オレは守しゅ護ご衛えい士しなんだ。
簡かん単たんに〈 大たい陸りく神しんエルゼシア様さま 〉の “ お試ためし ” には引ひっ掛かからないぞ!!
オレは “ お試ためし ” を無ぶ事じにクリアしてみせる!! )」
セロフィート
「 どうしました?
気き分ぶんでも優すぐれません? 」
黒髪の少年
「 ──は?
え??
何なんだよ?
アンタ……オレの心しん配ぱいしてくれたの?
何なんでだ?? 」
セロフィート
「 急きゅうに黙だまり込こんだのです。
心しん配ぱいにもなります。
おかしいです? 」
黒髪の少年
「 ──っ(////)
べっ別べつに、おかしくない……と思おもうぞ?
そりゃ、そうだよな?
さっき迄まで話はなしてた奴ヤツが急きゅうに黙だまり込こんだら心しん配ぱいぐらいするよな?
……うん、する。
オレもアンタと同おなじように心しん配ぱいすると思おもうよ。
…………その…心しん配ぱいしてくれて……有あり難がとな(////) 」
セロフィート
「 どう致いたしまして。
見みず知しらずのワタシに対たいして親しん切せつにしてくれるのです。
当とう然ぜんです 」
黒髪の少年
「 だよな!
──あっそういえば、未まだ名な乗のってなかったよな?
オレの名な前まえは、マオだ。
守しゅ護ご衛えい士しのマオ・ユーグナル。
短みじかい間あいだになるけど宜よろしくな☆
──で、勿もち論ろんアンタもオレに名な前まえを教おしえてくれるだろ? 」
セロフィート
「 …………マオ?
随ずい分ぶんと短みじかい名な前まえですね。
珍めずらしい 」
マオ
「 そうかぁ?
まぁ、他ほかの奴ヤツの名な前まえに比くらべたら短みじかいかもな…。
──で、アンタの名な前まえは?
何なんて呼よべばいいんだ?」
セロフィート
「 そうですね── “ 偉い大だいなる吟ぎん遊ゆう大だい詩し人じん様さま ” とか、どうです? 」
マオ
「 ふ・ざ・け・ん・なっ!
アンタ、もしかして……名な付づけて貰もらえなかった名な無なし人びとなのか? 」
セロフィート
「 いえ、両りょう親しんが名な付づけてくれた名な前まえはあります 」
マオ
「 だったら、言いえよ 」
セロフィート
「 人ひに頼たのむ態たい度どではありませんね、マオ 」
マオ
「 オレ、ちゃんと言いったよな?
名な前まえ、名な乗のったよな?
何なんでアンタが怒おこってんの?
オレが悪わる者ものみたいになってんだよ?! 」
セロフィート
「 ふふふ──なんちゃって。
冗談ジョーダンです♪ 」
マオ
「 じょ…冗じょう談だんだぁ?? 」
セロフィート
「 はい♪
ワタシの事ことは “ セロ ” と呼よんでください。
それが今いまのワタシの名な前まえです 」
マオ
「 ………………は?
今いまの名な前まえ?? 」
セロフィート
「 はい♪
親したしみを込こめて “ セロ ” と呼よんでください。
ああ、でも “ どうしても ” と言いうのであれば “ 偉い大だいなる吟ぎん遊ゆう大だい詩し人じんセロ様さま ” と呼よんでくれても構かまいません。
呼よびたいです? 」
マオ
「 …………呼よびたくないな。
長ながいだろ!
“ セロ ” って呼よぶよ。
親したしみを込こめて呼よぶのは難むずかしいと思おもうけどな!!
何なにはともあれ宜よろしくな、セロ 」
セロフィート
「 はい♪
此方こちらこそ、宜よろしくお願ねがいします。
マオ 」
マオ
「 ──ってぇ、頭あたまを撫なでるなーーー!!
オレは右みぎ手てを差さし出だしてんのに、何なんでセロはオレの頭あたまを撫なでるんだよ!! 」
セロフィート
「 あぁ……本ほん当とうですね。
すみません、マオ。
丁ちょう度ど…撫なで易やすい高たかさに頭あたまがあるものですから……つい♪
ふふっ 」
マオ
「 『 つい♪ 』じゃないっ!!
嬉うれしそうに笑わらうな! 」
セロフィート
「 だって──、ねぇ? 」
マオ
「 オレに同どう意いを求もとめるなよ…… 」
セロフィート
「 ふふふ。
マオは面おも白しろい子こですね。
一いっ緒しょに居いて楽たのしいです♪ 」
マオ
「 そうかよ。
オレは楽たのしくないけどな!
不ふ愉ゆ快かいだけどな!! 」
セロフィート
「 マオとワタシ、仲なか良よくなれそうですね♪ 」
マオ
「 ………………なれないと思おもうよ? 」
店員
「 え〜と……御お客きゃく様さまはウ豚とん常とこチ呂ろ亭ていには宿しゅく泊はくされない──という事ことですか? 」
マオ
「 あ〜……そうなっちゃうよな。
御ご免めんっ!! 」
店員
「 いえ、どのみち労ろう働どう許きょ可か証しょうを提てい示ししていただけない御お客きゃく様さまへのチェックインは、お断ことわりさせていただくようになっていますから、私わたくし共どもとしては逆ぎゃくに助たすかりました。
有あり難がとう御ご座ざいます。
御お客きゃく様さま、良よかったですね〜~。
断ことわる神かみあれば、拾ひろう神かみあり──ですね〜~ 」
セロフィート
「 ふふふ。
マオに拾ひろわれました♪ 」
マオ
「 拾ひろってないだろう?
まぁ、いいや。
オレん家ちに案あん内ないするよ 」
セロ
「 はい♪
御お世せ話わになります 」
宿やど屋やに宿しゅく泊はくが出で来きないセロフィートは、親しん切せつな守しゅ護ご衛えい士しの──、何ど処こからどう見みても見みた目めが少しょう年ねんに見みえてしまうマオと共ともに豚とん常とこ宿やど呂ろ亭てい屋やを出でた。