7 一真と野喜美
優香は自分を、怖がらせた腹いせに一真を乱暴に起こす。
「おい、高坂起きろ」
優香は強引に下に引いてあるシーツを引っ張り、一真をベッドから床に落とした。
「いっつー、な、何だよ?!」
「それはこっちの台詞だ!わざわざ人を呼び出しておいて、寝てるんなんて」
「わ、悪い」
一真は優香がここまで怒っている理由は分からなかったが、ここで機嫌を損ねるのは、まずいと考えて、直ぐに謝った。
まあ、優香は真人たちのような人間が嫌いなのだから、最初から好感度は低いだろうけ。
「だけど寝て待っていたからって、ベッドから落とすことは無いだろう、野喜美さん」
だが起こすのに乱暴な手段を取ったことに、一応抗議の声を上げた。
「う、うるさい」
優香は怖がっていたことを知られたくなかったので怒って誤魔化したが、一真にはそんなことは分からなかった。
「それで話って何?そもそも、高坂があたしに話しかけてくるなんて、珍しいわね」
「頼みごとあって」
「頼みごと?」
優香が一真に訝しげに聞き返す。珍しく自分に話し掛けてきたと思えば、頼みごとあると、言われれば、そんな声を出しても仕方ない。一真は頷いて、ベッドの近くに立て掛けてあった物を優香に見せた。これは騎士団長に言って、作って貰った物だ。
「これで見せてほしいものがある」
一真の手からそれを受け取ると、それの確かめるように握り締める。
「何を見せてほしいの」
優香はそれを見ながら、一真に聞いた。
「それはー」
「いいよ、見せてあげる」
「本当か、助かる!」
30分後には二人とも全身汗でびっしょりだった。
「あたし、ハアハア、そろそろ、お風呂入りたいんだけど」
「分かったよ、これで止めにしよう」
二人はベッドに倒れ込んで、息を整える。
「ねえ」
優香が突然声を掛けてくる。
「何?」
「ねえ、何であんたは、一真と一緒にいるの?前々から思ってたんだけど、正直、あのメンバーの中で雰囲気が違うのよね」
「関係無いだろう、野喜美さんには」
一真は図星を付かれて、苛立った声を上げる。一真は自分でも、分かっていた。偶々真人と入学初日に話があって、その縁であのグループにいるだけで、本来は関わりが殆どないはずのグループだ。一歩踏み間違えたら、一真のグループは追い出されかねない。真人のグループを追い出されたら、今更別のグループに入れる可能性は0に等しい。それは学校生活が灰色になるのは避けられない。今だって、野喜美さんと会っていることがバレたら、一真のグループを追い出されることは確実だ。
日本なら、学校生活が灰色で済むだろが、この世界なら命に関わると言っても大袈裟ではない。
「嫌なら、出ていけばいいのに」
『それは強い奴だから、出来ることだ!』
一真はそう叫びたいのをぐっと堪えた。
(自らグループを作ることが出来る、強い奴ならそれも出来るだろう。だけど自分は強い人間では無い)
強い奴には弱い奴の、考えなんて分からないだろう。
一真は若干の言葉に出来ない怒りを感じていた。
「簡単に言うなよ」
「え?」
「何でもないよ、野喜美さん」
一真は優香に文句を言っても仕方ないと思いやめた。
「今日はありがとう、野喜美さん。それじゃあね」
一真はそう言って、部屋の外に出ようとドアノブを回した。
ガチャガチャ
ドアノブはそんな音を立てるだけで、回らなかった。
「あれ、開かない」
「あたしが入って来てから、開かないよ」
一真はその発言を聞いて、優香の方に勢いよく振り返った。
「ど、どう言う事です!野喜美さん?」
「え、言った通りだけど……もしかして、知らなかったの?じゃあ、どうやってここから出るの!」
「多分、朝にはティファナ…えっと野喜美さんを迎えにきたメイドが、開けに来てくれると思うけど…」
「じゃあ、あたしたち朝までここにいることになるの?あたしお風呂入りたいんだけど」
優香は大層嫌そうな声を出す。二人とも全身汗でびっしょりだ。お風呂に入りたい気持ちは、一真も一緒だ。一真はこの部屋の出入り口以外にもドアがあるので、そこに向かって、歩いた。一真の予想が正しければ……
がちゃ
「やっぱり……お風呂見つけたよ」
「嘘?!」
優香が早足で駆け寄ってくる。
「あ、本当だ。……あ、そう言う事か」
優香は大きなお風呂を見て、なぜこの部屋にお風呂があるのか気づいたようだ。お風呂はかなり大きくて、二人以上入れる大きさだ。
そう。この部屋は元々、そう言った行為の為の部屋であり、一真は風呂があってもおかしくないと考えたのだ。風呂には豪華な装飾がしてあり、入るのが末恐ろしかった。
「とりあえず、野喜美さん入れば?」
「替えの服が無いでしょ」
優香が憮然とした顔で言う。
「……」
一真は黙って、ベッドの回りをうろうろとした。一真がベッドのカーテンを捲ると、枕元の棚から篭を一つ持ってくる
「これ」
一真が持ってきた箱には、女性用下着と服が入っていた。
ティファナは、自称ではあるが優秀なメイドだ。ティファナは俺達が、そう言った行為をして、服を汚した場合の事を考えてくれているだろうと、一真は思い、服の予備を探したのだった。勿論一真の分の服も置いてあった。
「これで入れるよ」
「何で高坂は、そんなにあたしにお風呂に入って欲しいのかな?」
優香は剣先のように鋭い視線を向けてくる。
「それは……秘密」
一真の答えに、更に視線が鋭くなる。
「もし覗いたら、痣だけで済むとは考えないでね」
優香は吐き捨てるように、そう言うと風呂に入っていった。
一真は風呂に入る優香を見届けると、さっそく騎士団長に作って貰った物を手に取った。先程の訓練で自分の技がどれくらい、強くなったか確かめたかったのだ。
「ハァー」
一真は先程までの興奮を吐き出すように、ゆっくりと息を吐き出す。
一真は精神が落ち着くと、構え、そして放った。
風を切る音、体の動きのキレ、全てが30分前とは全く違った。
「スゲェェー、想像がしっかりと出来ただけで、ここまで違うのか」
一真は余りの違いに興奮した。
これならー