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6 呼び出し

「ハアハア、それなりに形にはなってきたな」


頼んだものができてから一真は、一日の殆どを木刀を振っている。その結果、一真の手には豆が出来ている。

真人たちには、総当たり戦前に自分だけで特訓すると言って、殆ど会っていない。一真はタオルで顔を吹いて、壁に背中を預ける。

「後1つ何か欲しいな。少し足りない」

一真は頭を盛大に悩ませる。

「やっぱりイメージが足りない。実際に見ないと実感があんまり湧かない」

誰かに実演を見せて欲しいな。でも出来る人間は限られている。こっちの世界の人間には出来ないだろうし。出来るのは秀一と野喜美だろう。あの二人には頼みづらいな。一真がそんな風に頭を悩ませていると。メイドが一真の所に来る。

「カズマ様、そろそろお食事の時間になります」

メイドが食事の時間が近くなったので、知らせに来たのだ。辺りはすっかり太陽が沈んで、暗くなっている。

「もう、こんな時間か……」

何かに集中していると時が早く流れると言っていたが、本当だな。

「汗を流したいから、お風呂と替えの服の用意お願い出来る?」

メイドは頭を下げて答える。

「申し訳ありません。湯船の方はまだ、準備が出来ておりません」

「んー、直ぐに汗を流したいんだけど、どこでも良いから流せない?」

一真の体は朝から木刀をずっと降っていたので、服が汗でびしょびしょだ。正直着ていて、いい気持ちはしない。

メイドは一真の言葉を聞いて、恐る恐る提案をした。


「その失礼ながら……我々メイドの湯船なら沸いております。」

メイド達の湯船が沸いているのは、夜の番のメイド達が今の内に、風呂に入り夜の番に備えるためだ。

「そこで良いよ、汗さえ流せれば。替えの服は持ってきておいてね」

「分かりました」

一真はメイドの後についていき、お風呂につれってもらう。

一真は脱衣場に入ると服を篭の中に放り込み。替えの服はこの服と交換で、篭に入れてくれると言うことだった。お風呂の戸を開けて入ると、湯気が充満していて、お風呂のお湯が、丁度いい温かさだと言うことが伝わる。一真は嬉々として、汗を軽く流すと湯船に浸かった。


「ふうー生き返るー」


鼻下ギリギリまで浸かる。全身の埃や汗などの不純物が流れ出ていくようだ。浸かること五分、体を洗おうと湯船から出る。運動後特有のだるさを感じながら、体を洗い場に持っていく。

「体、洗いにくいー」

一真の手には血豆が出来ており、筋肉痛で動かすのが辛いのだ。

「それなら私達がお体をお洗い致しますわ」

「じゃあ、お願いするよ…………へ?」

「承りましたわ」

妖艶で嬉しそうな声が返事をする。一真の背後から、髪の長い綺麗な女性がなだれかかってくる。

夜の番のメイドとは、殆どのメイドが、文字通り夜のメイドなのだ。彼女らメイドはメイドの中でも容姿が優れているメイドだ。そんなメイドから垂れかかってきて、嬉しくない男が居ないわけがない。



普通なら。



(こんな疲れきった時にこられとも相手は出来ないぞ。まあ、それでも体を洗ってもらえるのは嬉しい)




「ああ、頼むよ」

「ふふふ、お任せください」

メイドが笑みを浮かべると、スボンジ片手に一真の背中を洗い始める。

「逞しい体ですわ」

「そう」

男に媚びるような声を一真は適当にあしらう。湯船に浸かったかとで、気が抜けたのか思った以上に一真は自分が疲れていることに気づいて、相手をしたくないのだ。

メイドはそれを察したのか、その後は黙って黙々と体を洗ってくれる。一真はそこであることを思い出した。

「なあ…」

「ティファナでございます」

メイドは一真が自分を何て呼べば良いか、悩んでいる事を瞬時に判断し、自分の名前を教える。一真は自分が聞きたいことを何も言っていないのに、瞬時に答えられたことに驚いていた。

「どうして分かったんですか?」

「ふふふ、メイドのたしなみです」

ティファナはそう言って、先程と同じように妖艶な笑いを見せる。

「そう、ティファナ聞きたいことがある」

「何でございましょう?」

「夜中に誰にも気付かれず、二人きりになれる部屋はあるか?」

「あら、男女の秘め事をするお部屋をお探しで?」

ティファナのからかいの言葉に一真は苦笑を浮かべた。野喜美と二人きりになっても、絶対にそんな雰囲気になることが想像つかないからだ。

「…まあ、間違ってないよ。ある程度の広さと、他の人間に気づかれなければ」

「それでしたら、良いお部屋がありますわよ」

「そうか…ティファナその部屋の確保ともう1つ頼みがある」

「あら、何です?」

「招待客のお迎え」

「分かりましたわ、でその方は?」

「そいつはー」







優香が晩御飯を食べ終わって、30分ほどすると、ドアが三回ノックされる。優香がドアを開けるとメイドが一人立っていた。ティファナが優香を迎えに行きた。

「あら、何か用かしら?」

「失礼します、野喜美様」

ティファナは一真に見せたような、妖艶でミステリアスな雰囲気は無く、普通のメイドのように行動する。この王宮に遣えるメイドなのだ。これくらいの演技はお茶の子さいさいだ。

「野喜美様をお呼びするよう申し付けられて、参りました」

「誰から?」

ティファナは綺麗に90度腰を曲げる。

「申し訳ありません。ご内密にお話がしたいと言うことなので、ここではお話しできません」

「そう…分かった行くわ」

優香は直接話すのたから、名前が分かる事なのにティファナが名前を明かさない事を疑問に思ったが、最悪乱暴をされても自分が負けることは無いと考え、行くことを了承した。

「分かりました、付いて来てください」

優香はティファナの後に黙ってついていく。



優香が五分ほど歩くと、両開きの大きな扉の前で、ティファナが止まる。

「こちらになります」

ティファナが扉を開けて、優香に中に入りように促す。優香は恐る恐る中に入ると部屋の中央に天蓋付きベッドが設置されている。5人ぐらいが寝ても、まだ余裕がありそうなくらい広い。


バタンッ!


優香の体が完全に入ると、突然扉が閉まる。優香は慌てて振り返り、ドアノブを回して開けようとするが、扉は開かない。

「何なのよ!」

ベッドの上で何かが動く気配がするのを感じて、優香は振り返る。ベッドには薄いカーテンが掛かっていて、しっかりとは見えなかったが、確かに何かが動くシルエットが見えた。

優香は近くにあったろうそく立を、握り締める。いつでも襲ってきた相手に突き刺せるように、逆手持ちで。優香はゆっくりとベッドに近づいていく。そして、ベッドのカーテンに遂に手が届く距離にまで、近づいた。優香はカーテンの裾を掴むと、一気に捲り上げた。そこには………気持ち良さそうに寝ている一真の姿が。


一真は訓練で疲れていたので、そのまま寝てしまったのだった。


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