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56 密会と戻ってきた冒険者と三人組


「ゼノンって人間だったの?!」

「正確には今の俺はゼノンじゃ無いんだ」

「どういう事?」

「我がゼノンだ」


一真のうなじから、ゼノンの顔が生えてくる。アンナは驚きのあまり口があんぐりと開き、目を大きく開く。一体何がどうなっているのか分からなくて、アンナは混乱していた。


「な、な、な、なっ、なっ!」


「な?」


「なんだ、そりゃーー!!」


アンナの悲鳴にも似たつっこみが月夜に響いた。その声は部屋中に響いたため、一真はアンナの口に手を押し当てる。


「そんなに騒ぐな、奴隷が起きる」

「ッ!」


アンナは一真の手の上から自分の口を抑えて、ベッドに寝ている奴隷を見る。奴隷は穏やかな寝息を立てて起きる様子は無かった。アンナはそれを見て安心したようにため息をついた。それと同時に一真はアンナの口から手を話す。


「ど、どう言う事なの? なんで体からドラゴンの顔が?」

「そう言うスキル何だよ」

「そ、そうなんだ……」


アンナは興味深そうにゼノンの事を見つめる。まあ、見つめるなと言う方が難しいのだが、ゼノンはその視線に不快感を示すことなく笑みを浮かべる。正直あまり人に見せられるものでもないので、こう言う風にリアクションを取ってくれるのがおかしくてたまらないのだった。


「でそれでこれが優吾とどう関係するの?」

「お前俺がさっきまで話していた内容が頭から抜けているだろう」


呆れ声で一真に言われて、アンナは少しの間沈黙して先ほどまで話していた内容を思い出した。


「え、異世界出身者、え? え?」


アンナは更に混乱したようで、『え?』を連発する。アンナにとって一真の口から告げられる情報は驚くことばかりなのだ。混乱するなと言う方が難しいだろう。一真はアンナが少しの間情報を整理するまで、新たな情報を与えるのはまずいと思い、一旦話すのをやめた。実際アンナはブツブツとつぶやきながら情報を整理していた。


「情報は整理出来たか?」

「え、もうちょっと、うん」



「終わったか?」

「何とか」


情報を整理したことで、今度は頭痛がしてきたアンナは頭を抱えていた。だけど聞きたいことは既にアンナは決めていた。


「どうしてゼ……カズマはユウゴに会おうとしないの? 同じ異世界出身者なんでしょう?」


一真は情報を整理させなければ良かったと後悔した。まさか、そんな質問が来るとは思わなかったのだ。正直に話すと敵対されかねないので、一真は適当な事を言って誤魔化すことにした。


「ちょっとな秘密にしておかなきゃおけないんだ」

「理由も秘密なんですね」


アンナのその言葉は質問と言うよりも確認の意味が強かった。一真はそれを思い意味を持たせるように頷いた。アンナは一真の思惑通りその言葉を重く受け止めて、その理由を問いただそうとはしなかった。


「最初の質問に答えるぞ」


アンナは一真にそう言われて、首をかしげた。既にアンナの頭から最初に質問したことなので消え去っていた。これはアンナがおっちょこちょいと言う訳ではなく、あまりに衝撃の内容を聞かされて、脳内が半ば容量オーバーになってきたのだ。


「最初の質問ってなんでしたっけ?」

「……なぜ未だに魔王と連絡しているか、だ」

「あ、それです、それ!」


一真は正直こいつにこの事を話して良いのか、本気で迷っている。思った以上にアンナは抜けているのでは無いかと少し疑った。ふとした拍子にポロっと口から溢れそうな気がしてならない。既に今まで話したことを一真は半ば後悔することになるかもしれないと思っていた。。


「詳しくは話せないが、魔王は元の世界に帰る方法を知っている」

「魔王が……?」


アンナは不信感で顔を歪める。当たり前だ。今まで魔族にひどい目にあっていたんだ。不信感を抱かない方がおかしいのだ。あの魔族は他の魔族とは関係無いと言っても、不信感を拭うのは無理だろう。


「不信感を抱くのは分かる。だから無理に関わらせるつもりは無いし。魔王にお前のことを渡すつもりは無い」

「一応は信用する、だけど魔王を倒すと元の世界に帰れるって話だったけど、それはどうなったんです?」

「それはー」


一真はそれを言いかけて口を閉ざした。魔王に口止めをされているのを思い出したのだ。下手に話すと天使に目をつけられると言う事だった。やたらめったら話すのは、やめておかなければならない。一応魔王からもらった装備で、監視はされていないはずだが、油断は出来ない。


「話せないんですか?」

「下手に話すとあぶない奴らに目を付けられる。詳しい訳は魔王にでも聞いてくれ」

「わ、分かりましたけど」

「悪いな、俺が話せるのはここまでだ」


一真は一旦話をそこで切った。これ以上は自分が話していいことでは無いと考えたからだ。一応魔王が知っていることを伝えたのだ。これ以上は直ぐにアンナが決断して、一真の話を優吾にしてしまうかもしれない。魔王と言う不審物がある限り、一真の言葉を丸々信じることは無いだろう。少なくてもダンジョンの最下層に行くまでの時間は稼げると一真は踏んでいた。


「話はこれで終わりですね」

「いや、一つだけ頼みがある」

「ん、何ですか?」

「実はー」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そうですか…」

「頼めるか?」

「別に私は構いませんけど、ユウゴと相談してみます。でも……彼女は知っているんですか?」

「もちろん知らない、許可が下りたら教えてくれ」

「……分かりました、私は帰りますね」

「ああ」


一真の返事と同時にアンナは窓枠から飛び降りる。一真とゼノンは思わず、窓から顔を出してアンナの無事を確認するとベッドにそのまま体を倒した。


「寝よう」

「そうだな」


一真のその言葉でゼノンの顔は一真の体へと入っていき、一真も目を閉じる。明日から自由行動だ。新しい魔物でも探しに行くことしよう。一真は意識が途切れる前に明日の行動方針を決めたのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「寝過ごしたー!!?」

翌朝一真の後悔と驚きに満ちた声が響き渡った。一真は起きた時には、既に太陽が真上まで上がっていたのだ。既に時刻はお昼を若干過ぎている時間だった。既に朝食は片付けられているだろ。奴隷は既に起きていて、いつもと同じようにタオルと水を用意してくれていた。


「食べ損ねた」

(腹が減ったな)

(なら起こせば良かっただろう)


ゼノンの恨みがましく言うので、口調を強めて言うと『我も眠たかった』と言って視線を逸らした。ゼノンと一真の感覚は繋がっている。ゼノンとして無理にでも一真が起きてご飯を食べてくれれば、ゼノンは寝たままでもお腹が一杯になるのだ。


「はあ~、まあ、お腹が空いたから、取り敢えずギルドに行って、何か食べよう」


一真は奴隷と一緒に宿を出ると、冒険者ギルドの食堂まで出て行った。出る直前に女性の店員に『珍しいですね、寝坊ですか?』と可笑しそうに尋ねられ、『夜更かししたもので』と愛想笑いを浮かべて、食堂へと足を動かした。早く食事にありつきたかったのだ。



冒険者ギルドについた時にはお昼の時間を過ぎていた。だが冒険者ギルドは冒険者で半分近く埋まっていた。


(どうやら戻ってきているようだな、冒険者が)


ゼノンの言う通り、緊急クエストから戻ってきた冒険者が戻ってきているのだ。まだ戻ってきていない冒険者の大半は負傷して、その場に留まっているか。馬を持っていないので、帰るのに時間が掛かっているかなのだ。


「賑やかになりそうだな」


一真は周りを見ながら、食堂の席についてメニューを眺める。奴隷はいつも通り床に座る。



「おい、カズマじゃないか」


従業員に注文を終えたとことで、背後から一真の名前を呼ばれる。振り返るとそこにはカンダーがいた。その後ろにもサンダーとエンダーが立っている。


「お久しぶりです。その節はありがとうございました」

「相席構わないか?」

「大丈夫です」


一真の座っている席に三人が座る。三人とも前に会った時より傷が増えていて、治療中の傷もあるようで、包帯が巻かれている部位もある。


「結構な激戦だったみたいですね」

「まあな」

「ワイらは前線の方で戦った割にはこれでも傷は少ないんだ」

「まあ、傷がないどころか良くあそこで生き残れたと」

「これも勇者様様だな」


一真の動きが止まってしまう。『勇者』と言う言葉で心臓が激しく鼓動を打つ。一真はどうにか心臓を落ち着かせると聞き返した。


「勇者?」


一真は動揺を悟られないよに、カンダーに聞き返す。


「ああ、すごかったぞ。戦闘を始めた途端魔物の数を一気に消し飛ばしたり」

「魔法で地面に大穴を開けただぞ。あれは凄まじい魔法だったぞ」

「重傷者を一瞬で治したり」


カンダー、サンダー、エンダー三人ともその時のことを思い出して、興奮して一真にそれを伝える。


「勇者が現れたことで、そんなに戦況が変わったのか?」


一真は今現在の勇者がどれくらい強いのか気になって、カンダー達に訪ねた。


「ああ、勇者達が現れた途端、戦況がひっくり返った。今まで防御に徹していた全員が攻撃に転じられるほどにな」


(どれくらいあいつらは強くなっているのだろう?)

(見に行くのか? 一真)

(まさか、そこまでして知りたいとは思わない。……それに一度戦った)

(あれを戦ったか……一撃入れられただけだけどな)


ゼノンはリーアを救出した時のことを思い出した。一撃入れられたが、そこから一真は色々考えた結果、倒せないレベルでは無いと結論づけた。


「坊主もあの場にいればな、最後は楽だったぞ。殆ど残党狩りだったからな」


カンダーは上機嫌に言った所で、料理がテーブルに並べられる。それを待ってましたとばかりに、口に放り込んでいく。正直お行儀のいい食べ方では無かったが、その食べっぷりは見ていて悪い気分では無かった。


「坊主の方もそれなりに稼いでいたんじゃないのか? 」


カンダーは俺の近くに座っている奴隷を見てニヤニヤとして見てくる。奴隷が買えると言うことは、冒険者の中でも上位の方だと言える。カンダーはこの短期間で一真がそのレベルまで行ったと考えたのだ。


「別に買ったわけじゃー」

「じゃあ、どうしたんだその奴隷?」

「それがー」


一真はバックレていた狂犬を倒してことを話すと、カンダー達か驚きの声が漏れた。


「すごいな、あの狂犬を」

「不意打ちだったので、それにパーティーでしたし」

「まあ、複数人で不意打ちをすれば倒せないことは無いだろうな」


サンダーは顎に手をやりながら、そこで不意打ちを取って、相手を殺すことを直ぐに判断したことに感心をしていた。冒険者と言えど魔物を殺すことに躊躇せずとも人間を殺すことに躊躇いがあるものなのだ。それを瞬時に判断して、行動に移せるのは一瞬の判断の迷いが命取りになる冒険者として重要な才能と言える。実際判断に迷って、生き残れる場所で死んだ冒険者は数多くいる。特に回復アイテムの使用や、魔法の使用で判断を迷って死んだものが多い。


「よく瞬時に判断が下せたな」

「パーティーメンバーから危ないと言うことは教えてもらったので」


実際はゼノンに殺してもらったので、一真が胸を張って自慢することは出来なかった。それにゼノンに体を貸すとテレビの向こう側の景色みたいに感じるのだ。そこまで実感が無かった。


「それで明日からクエスト受けるんだが、坊主も一緒にどうだ?」

「いえ、俺は今いるパーティーが……いえ、大丈夫です。しばらくの間なら一緒にクエスト受けられます」

「別に自分たちに義理立てする必要はないぞ」


エンダーは一真が自分たちのやめに無理をしていると考えて、一真にそう言った。だが実際は当分の間はあのメンバーで行動することはないので、一真に取ってその誘いは渡りに船なのだ。


「いえ、少しの間パーティーで行動することは無いんで大丈夫です」

「そうか、なら明日から頼むぞ。どれくらい強くなったのか楽しみだ。明日の朝ここに集合だ。ご馳走様」


カンダーのその言葉と同時食べ終わると、会計をして食堂から出て行った。





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