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55 奴隷と事件と夜中の密会

ゼノンとアンナは取り敢えず話をやめて、ギルドに戻ってきたのだった。誤魔化せるギリギリの時間だったようで、適当にトイレが混んでいたといって、お互いに誤魔化した。そこまで不審な目を向けられることは無かったので、二人はほっと胸をなでおろした。


「それじゃ今日の所は解散と言うことでいいか」


アルサートは確認するように全員に言う。全員は頷くが、アンナとエリルだけは、頷いた後に二人で修行する旨を伝える。そう言えばアンナがエリナを鍛えると言っていたけど、どんな風に鍛えるのだろう。少しだけ興味があったが、今日の夜どうせ会うことになるので、その時に聞かせてもらおう。


「我は帰る」


奴隷を背後に連れて、ゼノンは自分の宿に帰宅する。ゼノンは帰宅すると同時に奴隷に水を持ってくるよう命令を出した。奴隷は一瞬命令を出されたことに驚いた様子だったが、奴隷は初めての命令に喜々として行動した。自分が主人の役に立てるのが嬉しいのだ。


(珍しいな、ゼノンが奴隷に命令を出すのは)

(水を飲みたくなっただけだ、心臓に悪いハプニングがあったからな)


ゼノンのため息と共に俺と入れ替わる。一真は懐からクリスタルを出すと荷物が入っている袋に放り込んだ。半ば八つ当たりで、思いっきり放り込んだので、荷物にクリスタルがあたる音がする。


(我らの事をどこまで話す気だ?)

(そうだな、優吾がどこから来ていたのか知っていたら、同じ場所から来たこと。更に勇者だってことも知っていたらな、それも教える。下手に隠しだてして、不信感を覚えられても困る。魔族との関係は絶対に話さなきゃいけない)


だけどこれは事前に優吾の事をどこまで知っているかに知らなきゃいけない。それと優吾には絶対に知られる訳にはいかない。



(と言うか帰りが遅いな? 奴隷、水を汲んでくるのにどれだけ時間を掛けてるんだ?)

(あれから既に五分近く経っている)

(様子を見に行くか……)


ベッドから立ち上がると、階段を降りて、宿の裏手にある井戸を覗き見ると、奴隷にのしかかる男が一人、腕を抑えている男が二人、計三人の男が奴隷に襲いかかってきていた。奴隷は怖くて叫べないのか、体をジタバタさせるだけだった。


(殺していいか?)


ゼノンの殺意に満ちた声が心の中で響く。別段奴隷が襲われていたことに怒っていた訳では無い。ゼノンは水を飲むのを邪魔されたことに怒っていたのだ。こんなくだらないことで、邪魔されたことに。


(まあ、手足を砕くくらいなら良いんじゃないか? それ以上は許可が欲しいな。こんな所で犯罪者にはなりたくない)


ゼノンに答えたのと同時に一真とゼノンが交代する。ゼノンはそれと同時に拳が飛んでいく。奴隷にのしかかっていた男がゼノンの拳で吹き飛ばされた。骨が折れたで済めばいいが、内臓破裂で死んでいるかもしれない威力だった。二人の男からは酒の匂いがする。こいつら相当酔っているようだった。


「あ、何だよ、お前?」

「お前も参加するか?」


ニヤニヤと嫌な笑いを向けて、おっさん二人がゼノンに問い掛けてくる。未だにのしかかっていた男が殴り飛ばされたことに気づいていなかったようだ。ゼノンが最初に喋った男に蹴りを入れる。それ以上何も言えないように顎を狙ったようだ。つま先の感覚で相手の骨が折れた事が分かるが同時に一真のつま先の骨が折れた痛みが襲う。


(ゼノン、もう少し手加減してくれ。俺の体が壊れる)

(う、うむ、すまない)


ゼノンは一真の体がそこまで脆いとは考えていなかったようで、つま先の骨が折れた痛みに戸惑っているようだった。


(悪かったな、脆い体で)

(いや、その、悪かったな)


ゼノンの心の声が聞こえたので、拗ねたようにゼノンに言っておいた。正直お互いに心が見えるのも考えものだと思う一真だった。


(と言うか男の奴隷なんて襲って何が楽しいだ?)

(本当だな)


ゼノンは残りの男も殴り倒した。今度は手加減したので、体の骨が折れることは無かった。折れたつま先を治すと、そこに騒ぎを聞きつけて、宿の店主が覗きに来たのだった。


「何があったんですか?」

「俺の奴隷が襲われたんだが?」

「それは、大変申し訳ありません! 今すぐ連れて行かせますんで!」

「ここの宿に泊まっている人間か?」

「いえ、たぶん酔っ払って迷い込んだと」

「さっさと追い出してくれ」


これはゼノンの言葉だ。正直水を飲むのを邪魔されたのだけでなくて、自分の所有物が怪我しそうになったのが、気に障ったのだろう。実際に目の前でやられたことで、より一層怒りを感じたのだろう。


(お、おい、一真……)

(な、何だよ)


ゼノンの物凄い動揺が一真の心にも伝わってきた。一体何がゼノンを動揺させているのか? ゼノンの視界をよく覗くと、ゼノンが動揺している理由も分かった。


「(女?!)」


破かれた服から微かに膨らんだ胸が見えたのだった。それは紛れもなく女性に象徴であった。


(え、でもこのまえ体洗った時は胸なんてなかったよ)

(………この前体を洗ったときは骨が見えるよう状態だった。栄養失調と言う奴だろう。体が育つだけの栄養が無かったのだろう。ここ最近はしっかり食事を取っていたことで体が育ったのだろう)


奴隷は助けた時にあった意識を既に手放していた。一真は体を隠そうとするが、隠すものが無いので、部屋に抱き抱えるかオロオロしていると、宿の女性店員がタオルをかけて見えないようにした。一真はそれでやっと部屋まで抱き抱えることが出来た。


「よいしょと」


一真はタオルで包まれた奴隷をベッドに寝かせる。正直この奴隷が女性だったと言う衝撃の事実から立ち直れていなかった。


(まさか女だったなんて)

(我も気づかなかった)


二人揃って性別を間違えていた事を恥ずかしく思いながら、奴隷に新しく宿屋の主人からもらったお古の服を着せるのだが、女性と思うと妙に小っ恥ずかしくなって、着せにくかったので、ゼノンに変わってもらった。変わる時に色々と言い訳を並べて一真と変わろうとはしなかったが、次の一言で変わるしな無くなった。


「だってゼノン人間に欲情しないんでしょう」


ゼノンは泣く泣く一真と変わった。ゼノンは服を着せた後、自分の喉が渇いていることに気づいて、井戸に水を飲みに戻った。ゼノンが服を着替えさせたことで、妙な汗を掻いて更に喉が乾いたようだった。井戸の水を飲んで、帰ってくると奴隷が起きていて、ゼノンに抱きつてくる。ゼノンはその瞬間一真と入れ替わった。


(お、おい、ここで変わるのか?!)

(これは一真の体だ、それに我は先ほど着替えはしただろう!)


「…………・・・ないで」


奴隷のか細え声が、一真とゼノンの言い合いを止めた。奴隷は泣きそうな声だと言うことだけが伝わる。


「え?」


「捨てないで!」


奴隷は今度こそ泣きそうな声で内容がはっきりと聞こえる。『捨てないで!』そう言って一真に抱きついているのだ。奴隷の声を始めて聞いたような気がした。


「売るんでしょう、私」


そう言えば奴隷の前で何度も奴隷商人に売りつける話をしていた事を一真は思い出した。そしていよいよ奴隷商人が戻ってくる。つまり自分が売られると言うことになる。


「私はご主人様のそばに居たいんです。だから売らないでください」


奴隷の突然の発言に一真は困惑していた。ゼノンも優吾と同じように困っていた。奴隷は一真が無言いることに怒っているのかと思ったのだろう。奴隷の顔がみるみると青ざめていく。


「すいません、奴隷の分際でこのような事を」

「あ、いや、別に怒っている訳じゃないんだけど」


この言葉が逆効果のようで、奴隷は更に萎縮してしまう。奴隷はその後口を開かず、部屋の隅っこに体育座りで、頭を膝に入れて、眠ったように動かなくなる。


(どうする、ゼノン?)

(流石にこの街だけならともかく、他の街に行くことになったり、色々すると流石に面倒が見切れないだろう)

(それに……俺は自分の世界に帰った後も面倒が見れない)

(……我に一つ提案があるのだが)

(何?)

(それはー)


ゼノンは一真にその提案を話した。


(まあ、ある意味いいかもしれない)

(少なくてもしっかり面倒は見てくれるだろう)



そして夜になりアンナが訪問してきた。既に奴隷は寝ている。一真はゼノンの姿でアンナを話すことにした。最初から人間の姿を見せるのは優吾の事をどこまで知っているで、ばらすかばらさないか決めている。


「悪いな、こんな夜に。優吾は?」

「大丈夫です。寝ています」


アンナは月夜をバックにそう言うと窓の枠に腰掛ける。金髪の髪がキラキラと月光で輝く。それがまた幻想的で、本の中から出てきたお姫様のようだった。少しの間ゼノンと一真は見とれていた。アンナが気まずそうに咳をすると、一真とゼノンは正気に戻って気まずそうにする。


「そ、それじゃ説明をするか……まずどこから説明して欲しい?」

「魔族との関係」

「魔族とはたまたま知り合ったんだ」

「たまたま? たまたまで知り合えるものなんですか?」


アンナが不審そうに聞いてくる。まあ、魔族と知り合うなど普通に生活していなくてもありえないだろう。


「その魔族と色々あった。簡単に言うと魔族を助けたんだ。内容は割愛するぞ」

「なんで敵である魔族を助けたんですか?」

「それは……なんでだっけ?」


一真は既にその事を忘れていた。たしか必死に頼まれて、だから仕方なしに助けたんだっけ?


「忘れたんですか?」


アンナが胡散臭そうに見てくる。一真はその視線をどうにかやめてもらうとしたが、言い訳のような事しか言えなかった。


「まあ、必死に助けを求められたから?」

「なんで疑問形何ですか?」


胡散臭そうな視線から呆れ声と呆れた視線に変わって、一真とゼノンに突き刺さってくる。一真とゼノンはお互いに顔を心の中で、顔を見合わせながらため息をついた。どうやら完全に忘れているようで、どうも思い出せなかった。たぶんあまり深く考えていなかったのだろう。一真とゼノンはそう結論づけると、話を進めた。


「そこから魔王に知り合った」

「それでなんで魔王と未だに連絡を取っているですか? 」

「それについては………お前は優吾の事をどこまで知っているんだ? 」


アンナは不審そうに一真の事を見る。魔王と連絡に優吾がどう関係しているのか、疑問に思っているのだった。


「優吾がどこから来たのか知っているのか?」


アンナは一真のその言葉で、その言葉の真意を理解したようだった。アンナは一真の顔をじっと見つめる。一真の顔が人間では無いことを不信に思っていたのだ。一真はその視線で優吾がどこから来たのかは知っていることを確信した。


「……優吾が異世界から来たことは知ってる。だけど詳しいことは分からない。優吾もあまり話しがたらないから…」


アンナは自分が答えなければ、話しが進まないと考え、意を決したように答える。正直この話を濫りにして良い物では無いと思っている。


一真はそれで姿をゼノンから自分の姿に戻した。アンナより大きな体が、みるみる内に縮んでいき、ウロコで覆われていた肌は肌色で人間の肌になっていく。


「え? え? 何?!」


突然の体の変形にアンナがパニックで変な声を上げる。まあ、目の前で人の姿がいきなり変わっていくのだ。それも仕方ないのだろう。


「これが俺の本当の姿だ。俺の名前は高坂 一真。優吾と同じ異世界出身者だ」


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