51 優吾とアンナと出会い
取り敢えず技名を決めたことで、話は終わった。話が終わると同時に馬車も階段を下がり終わる。下の階層は暗くなっていたりはしなかった。普通のダンジョンに戻ったようだった。
「優吾」
「何だ?」
「あのような特殊な階層はあといくつぐらいあるんだ?」
ゼノンが優吾に聞く。あんなふうに特殊な階層があるなら、準備も必要だろうと考えたからだ。溶岩や吹雪の階層があれば、準備が必要になるだろう。
「そうだな……詳しい階層は覚えてないけど、火山地帯や氷山地帯みたいな所があったな」
優吾はそう言うと馬車の屋根に座る。また優吾が見張りをやるようだ。優吾の狙いはやはり俺たちの強さを見ることだったのだろう。まあ、適当に手を抜いたから大丈夫だと思うけど、やはりあまり強すぎると色々と問題が起こりそうだからだ。
そんな事を考えていると外で戦闘音がする。外で魔物の対応をしているのだろう。ここら辺の階層になってくると、魔物に俺のスキルが効きにくくなるのだろう。魔物がこちらに態々来て襲って来ることは無いよだが、出会ったら襲いかかって来ているようだ。全部の戦いを優吾とアンナに任せてしまった。ゼノンは少し不満そうにしていたが、先ほど戦ったのだから我慢するように言うと、おとなしく引き下がってくれた。
七十層でグローツラングと言う蛇に像の頭をつけたような魔物だ。馬車を見つけてくるなり、突進してくる。グラーツラングと呼ばれる魔物は真正面からぶつかり合うのは、危険だと言われている。だけどそんな魔物は問題では無かった。
「ビャクガンだと!?」
俺はその言葉を聞いて、外に飛び出してしまった。俺の目に入ったのは、あの時出会った魔物と同じだった。
「久しぶりだね、勇者君、まさか生きていたとはね」
この声、魔王軍幹部のアガレスとか言っていた魔族。少年のような声、人を小馬鹿にしたような口調。
「魔物が喋るか」
アルサートは驚いた声を出したが、喋った事に驚いた訳では無く。アルサートはビャクガンが魔法を使えること警戒したのだろう。
「心配するな、この魔物は魔法を使わない。喋っているのは、この魔物の飼い主だ」
優吾は怒りに満ちた声を出す、マリアは目を見開いて動きが止まる。
「おや、十三号もいるじゃないか。まだ生きていたのかい欠陥品が」
忌々しそうにアガレスが十三号と呼ばれる物の事を言う。だが俺にもゼノンにも十三号が誰だが分からない。
「じゅ、十三号?」
アルサートが呟いて、周りにいる人間を見る。今いる中で十三号と言う名前のやつはいない。だけど一人だけ名前が分からない人間がいた。その結論に至ったゼノンとアルサートが同時に、馬車の御者席に乗っている奴隷方を見る。奴隷はゼノンとアルサートに視線をぶつけられて、一瞬身をすくめる。
「違う、違う。そいつじゃないよ。そこにいる金髪のことだよ」
俺たちの中で金髪と言えばアンナしかいなかった。
「アンナ?」
「おや、今はアンナなんて名前があるのかい。欠陥品の癖に」
明るい声から、『欠陥品の癖に』と言う所でいきなり口調が変わり、憎々しげになる。
「大切断!!」
優吾の声と同時に爆発音にも近い音がダンジョンに響き渡る。
「二度とアンナを十三号なんて呼び方をするな、クソ魔族が」
殺気が視認出来るくらいの怒りようだった。ビャクガンもこの攻撃なら死んでいるであろう」
「おいおい、いきなり何するんだい? びっくりするじゃないか」
ビャクガンは無傷だった。体を覆っている装甲には傷一つついていないのだ。最初にダンジョンに出会った時より強くなっている。
「君との戦いの後、少し改造してね。ビャクガン改とでも呼ぼうか? アハハ、こいつはこの前みたいには倒せないよ」
取って置きのおもちゃを見せるような笑い声を上げて、俺たちを馬鹿にするように言う。優吾は自分の攻撃が効かなかったことに、驚いて信じられない物を見るように目を見開く。
「ユウゴ!!」
アンナが叫ぶのと同時に、左手から炎の塊が飛ばし、その後右足を伝って氷がビャクガンまで伝い、ビャクガンを凍らせる。
「逃げよう! 私達じゃ勝てない!」
アンナが悲痛に満ちた悲鳴にも似た声を出して逃げるように言う。動けなかった全員がアンナの言葉でその場から逃げ出す。優吾だけが一瞬躊躇したが、悔しそうな顔をして馬車まで走ってくる。
「前と同じように温度差で装甲を壊そうとしていたけど、僕が作った魔物が同じ手で倒せるでも? それと~」
人を小馬鹿にした声から突然声の調子が変わった。
「失敗作の癖に生きてるだけじゃなく、僕の邪魔までするのかぁぁぁ!!」
怒りに満ちた声と同時にビャクガンの氷に砕ける音と共に突進してくる。この前みたいにゴロゴロと転がってこないだけマシなのだろうけど、そんな比較している余裕は優吾達には無いだろう。奴隷は既に馬車の馬にムチを打って、馬を既に走らせている。方向転換して、階段の方に戻ろうとしないのはいい判断だった。もし戻ろうとしていたら、方向転換と階段で追いつかれていたからだ。走る馬車に全員が飛びつく。奴隷は俺たちの為に一瞬馬のスピードを緩めようとしたが、馬車の荷台にしがみついている優吾がそれを察して叫ぶ。
「気にせずこのまま走れ!」
奴隷はその言葉を聞いて、更に馬車のスピードを上げる。優吾が落ちないように必死にしがみついている。後ろからビャクガンがものすごい勢いスピードで、後ろから追いかけていた。
「……と言うか我は逃げる必要は無いのでは?」
ゼノンが冷静に呟く。確かにゼノンならあの魔物と真正面からぶつかっても勝てそうだと思うけど。
(それは今はやめた方がいいな、足止めの魔法を使おう)
(足止めの魔法だと?)
(土の壁出したり、水の壁出したり)
(承知した、やるぞ)
「地からいでよ、鋼鉄門よ。侵入を防いだように、侵入も防いでみるのだ!」
ゼノンがそう言うとダンジョンの地面から金属製の門が出現する。金属同士が衝突する大きな音ダンジョンに響いたが、門は破られるどころか、びくともしない。
(呪文はともかく、すごい魔法だな)
(呪文もすごくかっこいいだろう!)
俺の言葉を聞いて、呪文も素晴らしくカッコイイ事を訴えてくるが、俺はあえて無視する。
それから無茶苦茶にダンジョンを走り回って、追ってくる音も気配が無くなったので、ようやく足を止めることが出来たようだった。
「追ってきてはいないよな?」
アルサートは馬車の後ろを見て追ってきていないことを確認してから、気が抜けたのだろうか深くため息をつく。
「何とか逃げられた~」
アルサートは喜んでいたが、アンナと優吾は対照的だった。アンナは今にも泣き出しそうな顔をしていて、優吾は憎々しげに馬車の後ろ見ていた。
「そろそろ話を聞きたいのだが、いいか?」
ゼノンはそう言ってそんな二人を見つめる。俺も気になっていた所なので、俺はゼノンを止めはしなかった。
「それは……」
アンナが話しにくそうに顔を背ける。正直アンナが十三号と呼ばれていたことと、失敗作と呼んでいることから、アンナにとってあの魔族は親のような関係なのは推測する事は出来る。だけどとてもじゃないけど、魔族の娘には見えない。
「分かった、話す。俺達がこのダンジョンの最終層に向かっている理由も。大丈夫か、アンナは?」
「うん、大丈夫」
アンナは優吾の近くに行くと優吾の右手を握り締めて頷いた。優吾はそれに手を握り返すことで答えた。
「数ヶ月前にダンジョンに入った時に、あの魔物ビャクガンと遭遇した」
「よく生きていましたね、ユウゴさん」
アルサートが驚いたように呟く。確かにあの魔物を見て、生きて帰って来れたのは奇跡に近いだろう。
「たまたまだ。………俺は友達を逃がすために、あの魔物と戦って逃げる時間を稼いだんだ」
「え、他にも仲間が?」
「まあ、40人近くでダンジョンに入ったからな」
「それはまた大規模なパーティーですね」
「話を続けるぞ、結局足止めには成功したが、転移魔法であの魔物と一緒に下の階層まで連れてかれたんだ」
優吾の言う通り、優吾は魔物一緒に俺の目の前から姿を消した。ほとんどの人間が優吾が死んだと思っていただろう。
「よく、生き残れましたね」
アルサートが驚いたように呟く。ゼノンは腕組をして、黙って話を聞いている。
「死にかけていた俺は。回復ポーションを飲んで傷を直ぐに治して、何とか命をつなぎ止めたけどな」
俺はその話を聞いて、疑問に思ったことがあった。優吾が飲んだと言う回復ポーションだ。あの重症を瞬時に治すようなポーションは、優吾には配られてなかった。だけど俺の疑問を解消する質問する訳にもいか無いので、黙って話を聞いていた。
「生き残った俺にあいつは生きるチャンスをやると言って、あるゲームを持ちかけてきた」
「ゲームですか?」
「ああ、そうだ。その階層でビャクガンから逃げ切り、下の階層に来れたならば、俺を生かしてやると言った。そして俺はどうにかしてそのゲームに勝ち、生き残った」
「それで終わりって訳ではありませんよね、ユウゴさん」
「助かった俺を待っていたのは、あの魔族の実験材料になることだった」
「…実験材料」
「そうだ、髪の毛が白いのはそのせいだ。元々黒髪だったんだけどな、変な薬品入れられて、髪の毛の色が白髪になった。色素が抜けたんだろうな」
「よく死ななかったな」
「あいつもせっかく手に入れた実験材料を直ぐに殺すようなことはしなかったさ。まあ、死にそうになったのは………両手では数え切れないくらいだな」
優吾は指を折り、死にそうになった回数を数えていたが、途中でやめて、乾いた笑いを浮かべる。
「まあ、そのおかげで生き残ることは出来たんだけどな」
全員が優吾の発言に疑問に思ったが、誰も喋らず、優吾の次の言葉を待った。
「そしてついに俺に飽きて、殺す時が来た。やつはビャクガンの餌にしようとビャクガンが住み着いている階層に放り込まれた。そこでどうにかビャクガンをアンナと協力して倒すことが出来て、地上を目指していて、そしてお前らにあった。これで全部だ」
「「(えっ? )」」
唐突な話の終わりに、俺とゼノンとアルサートが素っ頓狂な声を上げる。
「どうした?」
「いやいや、一番とは言いませんけど、気になる所を飛ばさないで下さいよ!」
「そうだ、どうやってビャクガンを倒したなど、その他諸々が抜け落ちているぞ! 」
「わ、分かったから落ち着け」
優吾はアルサートとゼノンの追求の勢いに驚きながら話を続ける。
「俺は飛ばされた所でビャクガンと戦ったんだ」
「だからどうやってだ、そのまま戦っても死ぬだけじゃないのか?」
「俺が持っているエクストラスキルだ。回生起死と言うスキルで、死にかける度に強くなってくスキルだ」
「死にかけるたびに強くなるスキル。すごいスキルですね」
アルサートが興奮して、鼻息を荒くする。確かに優吾は一つだけスキルを持っていた。 「?」で表示されていたけど、死にかける度に強くなる。飛んでもないチートスキルだった。話を聞く限りだと強さに上限は無いと言う事だった。この世界に魔法がある重症を負ったとしても、瞬時に魔法で治すことが出来る。やっぱり俺の推測は正しかった。優吾も勇者としての強さを持っていたんだ。俺が優吾のスキルの性能に戦慄していた。
「まあな、死ぬたびに魔力や筋力も上がって行くからな。まあ、そのスキル以外は何も持っていないけどな」
確かにたぶんそのスキルで容量みたいなのが一杯なのだろう。ほかのスキルは、多分努力すれば習得することは可能だろう。だけど生半可な努力じゃむりだろう。それだったら持っているスキルを使った方が良いだろう。と言うか魔力も上がるのか……だとすると、魔法もある程度使えるだろう。適正が無いから膨大な魔力が必要だけど。
「俺は何回も死んだことによって、ビャクガンを抑えるくらいには強くなっていた」
「抑えるですか……」
「そうだ、倒すだけのち力は無かったんだ」
「そこで私はユウゴと出会いました」
突然会話に女性の声が入った。俺たちの視線は、アルサートに向けられる。
「私はアガレス様……アガレスに作られたホムンクルスです」
アンナは物凄く不安そうな顔をして、その不安を和らげるように優吾の手を握り締めている。
「ホムンクルス?」
「人造人間のことだ。作られた人間と言うことだ」
「作られた人間………」
「私の体は色々な種族を混ぜ合わされて作られた」
ホムンクルスの意味を知らなかったアルサートにゼノンが教える。ホムンクルスと言っても、俺もゼノンも実感は沸かなかった。SF映画に出てきたホムンクルスのように人形みたいだったり、無表情で命令が無ければ動かない者でも無かったからだ。
(ゼノン多分これがー)
(ああ、多様な匂いがしていた理由なのだろう、魔族、獣人、吸血鬼、エルフ、人間を混ぜ合わせたのだろう)
「私は失敗作として、ビャクガンの餌にするために捨てらました」
『感情なんかを持ち、自分の主に意見するような失敗作は餌になってもらうよ』
アガレスにそう言われてビャクガンがいる階層に放り込まれた。ビャクガンから逃げ、アガレスの目を誤魔化してどうにか生きていたと言う事だった。
「何とか魔物を食べることで、命を繋げたけど、これ以上隠れて生きていくのには限界が来ていた。そんな時ユウゴと会ったんです」
「そこでアンナに助けられた。膠着状態だったのをどうにか抜け出して、体勢を整えてビャクガンを殺した」
「この前はどうやって、殺したんです? 」
アルサートが喜々として聞く。多分今回もそれで倒せると考えていたのだろう、だけどー
「無理だ。前回はアンナの魔法で装甲を壊して殺した。だけど今回はそれに対策はしてあった」
さっきの魔族が言っていた『前と同じように温度差で装甲を壊そうとしていたけど、僕が作った魔物が同じ手で倒せるでも? それと~』火と氷の魔法で装甲を破壊したのだろう。だけどそれは使えない手だ。
「あの魔物はとても不安定な生き物です。装甲の下は脆いので、装甲さえ無ければ殺すことは可能ですけど……」
その装甲を剥がす方法が無いのだ。正直あの魔物を倒すことはゼノンが本気を出せば容易だ。ノリでゼノンと一緒にここまで逃げてしまったが、殺せないことはない。だけど殺すなら見つからないように殺したい。
(さてどうしたのものか……)




