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48 魔法陣と金欠と奴隷


「嘘だろ………」


ゼノンは信じられないとばかりに呟く。確かに魔法陣があれば想像することを省いて、魔力を込めるだけで転移魔法を発動させることは出来る。だがこれは理論上のことだ。膨大な魔力が必要だし、さらに魔法陣に書き込む文字だって、今現在分かっているだけの文字では書けるわけが無いのだ。それをこの女は、スラスラと書いた魔法陣でそれを可能としたのだ。普通そのレベルの魔法陣を書くは、長い年月が掛かるものなのだ。最初にその魔法陣書くには、似たような効果の魔法陣を突き合わせて、魔法陣に書かれている文字の意味を調べるのだ。そしてその文字を組み合わせながら、望んだ魔法が発動する魔法陣が出来るまで、何回も試行錯誤するのだ。そしてその上で、余分な文字を削っていき、短い文字で魔法陣を書く事が出来る様になるが、それだって何回も試行錯誤しなければならない。そして転移魔法に似たような魔法は、今現在無く、最初の時点で一から魔法陣を作らなければならない。それは一人だけの人生で出来るわけが無いのだ。


「相変わらず便利な魔法陣だな」

「えへへ」


優吾はそう言うって、アンナの金色の髪を優しく撫でる。アンナは優吾に頭を撫でられて、デレデレと顔を赤くしている。だがゼノンとアルサートは正直信じられないものを見るような目でアンナを見ている。正直少しでも魔法を知っている人間ならこの凄さが分かる。一真は魔法についてあまり詳しく無いので、この魔法でダンジョンを早く最下層に行くことが出来るのでは無いかと期待している。


優吾とアンナは一通りイチャイチャすると、馬車に戻ってくる。

「それじゃ、このまま馬車でこのダンジョンを出ましょう」

アンナの言葉で奴隷は動かなかったので、ゼノンが命令して奴隷に馬車を動かさせて、冒険者ギルドまで行ってもらった。


冒険者ギルドに着くと早々に、取ってきた魔物の部位を受付に引き渡して、金に変えてもらった。四人で金を分配したが、それなりの金額になった。どうやら、頭を凍らせたりしたことで、状態が良かったらしく、買取金額が上がったと言う事だった。


ゼノンたちのギルドカードのランクも順調に上がっていく、評価をあげる試験を受けないかと言う誘いを受付から受けたが全員で遠慮した。全員色々な訳を並べ立てたが、結局の所お金が無いと言うことに尽きるのだ。アルサートは俺に借金を作っているし、優吾とアンナに関しては最初が無一文に近い、俺達もアルサートに有り金全部盗まれたから、殆どお金が無い。まさに全員が金欠状態なのだ。


俺達はまだ日が高かったが、冒険者ギルドの前で解散した。優吾はアンナに引っ張られ街中を見物に連れてかれた。どう言うわけかアンナは街中にあるものが珍しくて、見回りたいらしい。アルサートは妹の様子を見ると言う事だった。もちろんアルサートから、お金を半分徴収した。ゼノンがそれでハチミツ菓子食べたいと言ってきた。まあ、たまにはゼノンのわがままを聞いても、問題はないと思い。アルサートのお金を全てハチミツ菓子に替えて、宿の帰り道も食べて、宿に帰ってから食べてるのだが。


(中々減らないな)

(あれだけ食べても減らないのは、幸せだな)


ゼノンはそう言いながらハチミツ菓子を食べる。ゼノンは指先で、ハチミツ菓子をつまんで食べる。その食べ方は大きな図体に似合わずちまちまと食べている。聞くと『勿体無くてちょっとずつ食べたい』と言う事だった。奴隷は馬車と共に先に宿に帰していた。街中を食べ歩きなら移動するのは、馬車は邪魔だったからだ。


宿に戻ると馬車が戻ってきたのを確認して、部屋に戻るが、奴隷はいなかった。ゼノンはいないことを確認すると、部屋から出て、宿の食堂で何人かの男に取り囲まれていた。ゼノンは俺が何か思う前に、前に出て男の肩を掴んでいた。


「そいつは我の持ち物だが、何用か?」


ゼノンが威圧たっぷりに言う。ゼノンはこの状態でも二メートル近く身長がある。それに爬虫類特有の鋭い目これで睨まれて、ビビらない人間はいないだろう。片手にハチミツ菓子を抱えていなければだが。そのハチミツ菓子とゼノンにギャップでなんだが、威厳がダウンするのだ。


「お、おお、悪かった」


男たちは奴隷から手を離すが、これは恐怖からと言うより、戸惑いの色が強いだろう。男の手が離れると奴隷は直ぐにこちらに駆け寄ってくる。ゼノンはそれを確認すると、そのまま自分の部屋に戻る。戻る途中にもう、殆ど残ってはいなかったが、ハチミツ菓子を奴隷に渡す。奴隷は初めて食べ物を渡された時のように目を白黒させたが、ゼノンが食べていいと言うと、ゆっくりと口に入れる。奴隷の雰囲気からも何とも言えないように、体を震わせている。


「…………しぃ」


か細い声で奴隷が何か呟いた。たぶん美味しいと言ったのだろう。ゼノンはいつも通りベッドに倒れると、そのまま眠気に襲われる。お腹がいっぱいになったことで、直ぐに眠り入ることが出来る。奴隷はその間もハチミツ菓子を食べ続ける。ゼノンが本格的に眠りに入ると同時に俺に変わる。ベッドが少しだけ浮き上がる。俺は起き上がると、今あるお金を数え始めた。一応お金はあるとは言っても、この宿も一週間分のお金を出してあるから大丈夫だが、それも気づいたら尽きてしまうだろう。一応一週間ぐらいの宿の代金を抜くと殆ど残らなかった。


「まあ、一応明日のダンジョンに行くお金はあるな」


それを確認すると、安心してため息をつく。明日もダンジョンに潜れば普通にお金に余裕は出来るようになる。俺はお金を袋に入れながら、安心する。


「全く異世界に来て、お金の心配とか」


俺はため息をついた。ゲームだったらひたすら魔物を倒すことで、お金を貯めることが出来たが、現実はそうは行かない。現実では食べることでお金を使い、寝る所でお金を使う。寝ないで一晩中戦うことなどでいない。そして魔物を倒したからと言って、お金や装備がドロップされる訳じゃない。生活すると言うことは思った以上に金が掛かって仕方ないのだ。


俺はお金については諦める。最悪お金が無かったら、奴隷を売れば良いからな。俺はそう思って奴隷を見る。前髪は鼻まで隠しているが、お菓子を食べてご機嫌なのは、口を見れば分かる。ハチミツ菓子を食べて喜びのあま口がニヤニヤしている。人間と言うものは美味しいものを食べると、どうして顔がニヤつくものなのだ。俺はそんなニヤついている奴隷を放置して、眠りについた。






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