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43 狂犬と再会と奴隷

「それじゃ慎重に近づいていくぞ」

「分かった」


俺達はそのバックレ屋を捕まえるために、足音の元に近づいていった。三人から四人の足音は安定している。こちらに気づいた様子もない。別の二人分の足音もゆっくりと歩いている。こちらはダンジョンの出口を目指しているようだった。そして三人から四人の足音はダンジョンの奥へ。


「ぶつかるな…」

「え?」

「このままだと二つの足音がぶつかる」

「どうする?」

「いや、このまま行くぞ。いざとなれば逃げる」


俺はそう言ったが毛頭逃げるつもりなどない。こいつらが攻撃を仕掛けてきたら、即効でたたきつぶすつもりだ。


俺達は決断を下して、ついにアルサートにも足音が聞こえる距離まで近づく。それでもかなり距離がある。


「これ四人いるよ、もうひと組は二人で間違ってないけど」


アルサートはそう言って剣を抜いて臨戦体勢を取る。


「油断するな、たぶんかなりの手練」

「足音でそこまで分かるのか?」

「何となく、経験から分かる」


アルサートは俺の背中か降りる。俺もアルサートが降りたことで四足歩行から二足歩行に変える。


「このままだとこの二つが接触する」

「急ぐぞ」


俺達は出来るだけ足音を出さないようにして急いだ。そして曲がり角で止まる。その曲がり角の向こうには、あの足音の二組が接触していた。


「遅かったな」

「しっ! 何か話している」


アルサートはそう言って、横から少し顔を出して様子を伺う。


「あれは?!」

「どうした?」


アルサートが驚いたように声を上げると、すぐに顔を引っ込める。


「片方の足跡の正体は分かった。狂犬と呼ばれている冒険者のパーティーです」

「なにそれ?」

「強さも折り紙つきですが、それ以上に犯罪スレスレ、または犯罪をしているパーティーです」

「どうして捕まってないんだ?」

「証拠が無いからです! とある冒険者が悪事の証拠を掴もうと尾行をつけたんですが、翌朝尾行した人が無残な姿で見つかったと言われてます」


アルサートが焦ったように早口で告げる。アルサートはその危険な事をしっかりと理解してるからだろう。


「もうひと組の方が知りません。ボロボロのマントを着ている白髪と金髪の美少女です」

「そうなんだ」


俺はアルサートの報告を聞いて、アルサートと同じように横から顔を出して様子を伺った。そして俺の視線は白髪に止まり、声を上げそうになって、すぐに顔を引っ込める。俺の焦りようを感じ取ったのか、アルサートが疑問の視線を投げかけてくる。


「ア、アルサート、この世界にこんな感じの獣人っているのか?」


自分のことを指さしながら聞くと、アルサートは変な顔をしながら答える。今の俺の顔はハイウルフマンの顔だ。


「何を突然…いる訳ないじゃありませんか! 獣人だってかなり人近い姿です」

「ああああああ! ど、どうしよう」


俺は狼狽えていた。白髪の男に見覚えがあったからだ。


「どうしたんですか?」

「正体を知られるとまずい人間なんだよ、あの白髪は」


俺は小声で焦りのあまりアルサートに八つ当たりのように怒鳴る。あの白髪は優吾だった。かなり雰囲気が変わっていたが、横寺 優吾に違いなかった。


「なあ、何か……」


俺は咄嗟に自分を誤魔化せないかと焦っていた。


(馬は…無理だ…馬面の獣人なんてゼノンの知識にはない。あ~、ゼノン!!)


俺は漫画を読んでいるゼノンに助けを求めた。


(そうだな~)


ゼノンは今の事態を分かっているようで、冷静に回答してくれる。


(あれはどうだ、リザードマン。一応種族として成り立つぞ)


俺はゼノンにそう言われて、アルサートにリザードマンが通用するか聞いてみた。


「まあ、このあたりにもいますけど…」

「わ、分かった」


俺はハイウルフマンの体から、ゼノンの体を拝借した。具体的には体の表面をウロコで覆い。顔をゼノンに変えて、後ろからから尻尾を生やした。正直尻尾を生やして動くことに慣れていなので、邪魔で仕方なかった。


「ど、どうだ。これでリザードマンに見えるか?」

「見えますけど……」

「分かったー」


(ーゼノンチェンジ!)


俺は体の主導権をゼノンに押し付ける。


(な、何するんだ!?)

(あいつに俺の正体がばれるのは、まずいのは分かっているだろう!)

(確かにばれるのがまずいと思うが……)

(中二病全開にしてもいいから!)

(……本当か?)

(本当だ、だからー)



「おい、そこに隠れてるネズミども出てこい!」



「もう、お前が騒ぐからバレちまったじゃないか!」


アルサートは俺にそう怒鳴って、大人しく姿を見せていく。


(わ、我も行くのか?)

(行けよ!)


ゼノンに後に続いて出るように言うと、ゼノンもゆっくりと体を見せる。


「ほお~、ネズミかと思ったら、トカゲと犬っころじゃないか。女がいないのが残念だな」

「だけどあのリザードマン金色だぞ、あれは奴隷商人売ったら、かなりの金額がつくんじゃないか?」


俺はそう言われて思い出した。


『ゼノンは黄金竜』


ゼノンのウロコで体を覆ったんだ、金色で当たり前なんだ。あいつらの話を聞く限り、金色のリザードマンは珍しいみたいだ。と言うかこれしかいないだろう。


「我は特別でな、魂と一緒で鱗も高貴な色である金色に染まってしまった」


アルサートは俺のこと、と言うかゼノンのことをぎょっとしたような目で見る。それはそうだ、突然喋り方も、声も変わったんだからな。


「ほお~、ではさぞかしいその高貴なリザードマンは売れるだろう。そこの金髪と一緒で」


男はそう言うと優吾と一緒にいる金髪を見て笑みを浮かべる。通路に挟まれるような状態でも、この男たちは俺たちに勝てるつもりなのだろう。実際それぐらいの実績もあるようだし。


「、に、逃げようぜ」

「不意打ちで一人ぐらいやれるだろ?」

「う、運がよければやれるけど……その後殺される」


アルサートのそんな言葉をかき消すように、ドスの聞いた声が響く。


「お前、今なんて言った、おい、もう一度言ってみろ」


優吾が青筋立てながら、狂犬を静かに怒鳴りつける。その声は刃物のような鋭さを持っていた。


「だからその金髪と一緒に高く売れそ、ガッ?!」


そう言っていた男の口に何かが突っ込まれる。頭をこちらにむけているので、こちらからは分からない優吾と男の距離はかなり空いていたはずだが、一瞬でその距離を詰めたのだろう。


ゼノンはそれを見ると同時に動いて、こちらを向いていた男の頭に向けてパンチを放つ。


「竜のドラゴンパンチ


頭蓋骨が砕ける感覚が、俺にまで伝わってくる。うん、ドラゴンと言うだけあって、強烈なパンチだ。だけどそれを口にするのは正直恥ずかしい。何だよ、ドラゴンパンチって……中二病発言は許可したけど、小学生向けテレビだって、もう少しマシな名前を付けるだろう。これはMPメンタルポイントが削れる。


次に動いたのは金髪だ。いや、正確には一方も動いていないが、足元から氷の一人の男に走り、男の足にたどり着くとそこから全身を凍らせて、男の氷像の完成だ。


(あれだけの魔法を呪文なしでか!?)

(そんなに凄いのか?)


ゼノンが興奮して言う。俺にもゼノンの知識があるから、興奮している理由は分かる。呪文無しであれだけの魔法を使うことは普通の人間には不可能と言うレベルだ。使われた魔力も肌で感じる限り少ないようだった。


最後に動いたのはアルサートだった。アルサートはヤケクソ気味に走り、剣で喉元を突き刺す。アルサートがビビるほど、反撃されることも無く。あっさり殺される。


「言うほど強くはないな。あっさり倒せているではないか」

「そ、それは不意打ちだからだ。普通ならこんあ上手くは行かねよ!」


アルサートは息せき切りながら、反論する。まあ、味方の三人がいきなり殺されれば、スキも出来るだろうよ。


「お前ら敵か?」


優吾が男の口の中に突っ込んだものを出して、俺達に突きつける。男の血で赤く染まっていたが、綺麗な銀色が見える。それは拳銃だった。いや、俺が知っている拳銃よりも銃身が、かなり大きかったが、間違いなく銃だ。だけど発泡音はしなかった。火薬で銃弾が撃ち出される訳じゃないのか?


「い、いや、俺達はあんたらと敵対する意思はない」


アルサートは向けられたものが、すでに強力な武器だと認識して、剣を鞘に収めて、すぐに撃たれないように敵意が無いことを示す。


「我が名はゼノン。銀髪の少年よと金髪の少女よ、名を名乗れ」


ゼノンは特に拳を構えることも無く、自然体で話しかける。


「……俺の名前は優吾、そしてこいつはアンナ」


(ゼノン、ここで変わった名前と言うんだ!)

(それは相手の機嫌を損ねることにならないか?)


ゼノンが心配そうに聞いてくるが、ここでこれを疑問に思うのが普通だ。口に出すかどうかは別だが、ここではあえて口に出して置いたほうが良いだろう。


「優吾……変わった名前だな」


ゼノンは俺の思考を読み取ったのだろう、素直に名前をについて言ってくれる。


「良く言われる」

「お、俺はアルサート」


アルサートは少しビビリながら名乗る。


「俺の目的はこのダンジョンから出ることだが、出口は知っているか? 出来れば案内してほしい。ここに来るまで戦い続けて、疲れているんだ」


優吾はそう言うが、とてもじゃないが疲れているように見えない。と言うか落ちてからずっとここにいたのなら、数ヶ月ダンジョンにいた事になる。よく生き残れたなと俺が思っていると。


(高坂、あれは本当にお前の記憶にある人間なのか?)


ゼノンが少し驚きながら聞いてくる。


(どうしてただ? 確かに風貌は変わっているが、同じ人間だと認識できないほど変わってはいないだろう?)

(風貌や雰囲気の話ではない。銀髪の少年から溢れ出る魔力だ。我の魔力の半分くらいはあるだろう)

(ゼノンの魔力の半分って……)

(そうだ、高坂の記憶だと録に魔法も使えなかった人間が、短期間でこれほどまで成長するのは異常だ。一体何をすればこれほどまでの魔力をー)


「で連れてってくれるのか?」

優吾が首を傾けて聞いてくる。正直それは脅しているようにしか見えないのだが。

そしたら、それに負けたせいか、アルサートが俺に断りもなく返事をしてしまう。


「べ、別に構いません。俺たちも上に帰ることですし」


俺はアルサートに文句を言ようとしたが、ここで顔なんて出したら、優吾にばれるので諦めた。ゼノンを通して文句を言うことも出来るが、そこまではする気にならなかった。


「まあ、いいや。取り敢えず狂犬のギルドカードと金と装備もらってきましょう」


アルサートはそう言うと、狂犬の死体を漁って、ギルドカードを回収すると。武器と金目の物に分けてダンジョンの床に並べていく。


「近くに物資が入ってる車があるはずだから、探してくれ」

アルサートにそう言われて、ゼノンはあたりをキョロキョロし、匂いを嗅ぐがそれらしい匂いを捉えることは出来なかった。


「この当たりにはそのような物の匂いは感じない」

「たぶん臭い消しを使ってると思う。そこらへん見て回って」

「うむ」


ゼノンは辺りを見て回る。正直俺としては荷車どうでもいいのだけど……金がない今、なんでもほしい所だ。


三分ほど歩いたところで、馬車を見つける。狂犬はかなりリッチなようで、馬がいる。


「見つけたぞ!」


ゼノンがそう叫ぶと馬車に近づく、するとゼノンに向かって何かが飛んでくる。ゼノンをそれを掴んで飛んできた方向を見つめる。飛んできたのは弓矢で攻撃したのは馬車の後ろに隠れている薄汚服を着た人間だった。死ぬほど痩せこけてはいないが、正直性別を判断するのも難しいだろう。首には鎖がついている。


ゼノンはさっきの攻撃と持っている弓を見て、攻撃されても傷一つつかないだろうと考えて、そいつを無視して馬を歩かせ、アルサートたちの所まで歩かせた。その間絶え間なく人間が弓矢で攻撃してくるが、無視する。その内攻撃も来なくなった。たぶん矢が尽きたのだろう。そしたらゼノンに向かって飛びついて、拳をぶつけてくるが、細っこい腕で殴られても対してダメージが入るわけも無く。そのままアルサートたちのところまでもってくる。


「持ってきたぞ」

「おお、悪い……な? その、ゼノン、あんたにしがみついている、それは?」


アルサートは仕分けしていた手を停めてゼノンにしがみついてる物体を指差す。


「知らん、我がこの馬車を見つけた時に突然攻撃してきてな」


ゼノンがなんでも無いよう言うが、ナイフを突き刺したりしているが、全く傷つけない。


「それは奴隷だな……たぶん、狂犬に命令されて、馬車の見張りをしていたんですよ」


アルサートはそう言うと、ゼノンに抱きついている子供の肩を叩いて、死んでいる狂犬たちの姿を見せる。その姿を見せるとゼノンから離れて、狂犬の屍の所まで歩いて行って、死んでいることを確認している。


最初は指先でつついて、そのあと思いっきりケリを入れる。最後にはナイフで切り裂く始末だ。


「そこまでして、死んでていることを確認したいのか?」


(いや、違うだろう、ゼノン。あれはどう頑張っても憎悪だろ!)

(冗談だ)

(そうかよ)


「あれは主人が死んでいるか確認してるだけだろう」


精神世界でも現実でもツッコミをしっかり入れられるゼノン。


「でこの時の奴隷の所有権はどうなるんだ?」

「たぶん最初に見つけたゼノンに移るよ」

「わ、我にか?!」


ゼノンは随分驚いたような声を上げる。


(おい、やめろよ。食費とか掛るし、それに匂いがきつい。風呂は魔法でどうにかすればいいけど。奴隷を養う余裕はないぞ)

(高坂の言う通りだな)


「アルサート買い取らないか?」

「そんなお金があるとでも?」


(だよな~)


「では優吾」

「俺たちにもそんな金ないぞ」

「そうか」

「でも外に出れば奴隷は売れるから!」


アルサートがそう言って落ち込んだゼノンを励ます。ゼノンは気を取り直して、奴隷に命令を出す


「今から我の後について来い。別に馬車に乗っていても構わない。いや、馬車に乗っていろ」


バレルは奴隷の体の細さを見て、このダンジョンを歩く体力は無いと考えて、馬車に乗るよう命令を出した。奴隷は命令を聞くと黙って、馬車の荷台に乗る。


「これからダンジョンから出る。アルサート道案内は頼むぞ」

「ああ」


アルサートは頷くと先陣切って歩いてくれる。ゼノンは馬車を引っ張り、その後ろから優吾たちがついてくる。今の所優吾が俺に気づく様子はない。と言うかこの姿で気づかれた方が驚きだがな。



俺達は上がる途中29層。そこでクエストのパイアの牙を回収して、上に上がっていく。順調に行くかと思いきや、魔物が寄ってくる寄ってくる。最初に入って全く魔物が襲われたことが嘘のようだ。正直敵になるような魔物はいなかった。


「そう言えばあんたたちはどうしてこんな所に?」


アルサートが後ろにいる優吾に聞いてくる。


「ちょっと色々俺たちもあってな、ダンジョンの……逆算すると80層ぐらいか? まで落とされてな」

「アハハ、それは大変だったな」

アルサートは笑って言うが、たぶんアルサートは冗談か何かだと思っているのだろう。だが俺にはそれが本当の事だと言う事が分かる。

80層を上がってきたかと思うと怖いな。二人だけでよくの階層まで上がってこれたと関心する。


(と言うかそんな深くまで落とされたのか)

(それだけ深くまで落とされて、よく生きてられたな。この横寺と言う少年は、記憶だとそこまで強いとは思えないんだが)

(落ちた先で何かあったのだろう)

(改造手術でもされたのか、髪の毛の色も黒から白に変わっているし)

(そんな訳があるか! 漫画の読みすぎだ)

(漫画ではない、特撮だ!)

(似たようなものだろう)


ゼノンが魔物を相手にしながら話していたが、何もしなくて言いと言うのは、ものすごく楽だだな。このままなら食事もしなくていいんだ。一日中寝ていても問題ない。




「やっと地上だ!」


アルサートのその言葉と同時にゼノン達は外に出た。




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