41 仲間とダンジョンと急停止
一真とゼノンは宿の食事を食べ終わると、ギルドまで出かけて中でフードが来るのを待っていた。冒険者ギルドの中にはちらほら人がいるが、殆どの冒険者は緊急クエストで出払っていていないのだ。
(逆に人がいるほうが目立つな)
(そうだな~、まあ、そっちの方が都合が良いだろう。相手が見つけてくれる)
一真が言った通り、ギルドに入ってきたフードが冒険者ギルドに入って来る。俺たちを見つけると駆け寄ってくる。
「遅い」
「わ、悪かった、昨日は色々あって疲れていてー」
「知らないし、自業自得だろう。ほら、さっさとクエスト受けてダンジョンに入るぞ」
「ああ」
フードは寝坊したのは、昨日の騒ぎで一真が散らかした家を片付けて、壊された扉を直していたからだ。金を盗んだ自分が悪いことは、分かっているが、あそこまで散らかしたことに文句の一つでも言いたかったが、フードは口を閉じた。
「クエストはどうするんだ?」
フードはこの男がどう言う目的でダンジョンに行きたいのか知らなかったから、クエストを選ぼうにも選べなかった。
「クエストはあ~、適当にダンジョンにいる魔物の素材を回収するやつで良いだろう。それはお前が好きに決めろ。だけど持ち帰る素材の数にも限度があるから、それを考えてから選べ」
フードは一真に言われてクエストボードを一通り眺めると、パイアの牙を採取するクエストがある。数は10本以上。これなら特に問題が無いと思っい、フードはクエストボードから依頼書を外して、一真の所で見せた。
「これは大体どこら辺の階層にいる魔物何だ?」
「これは」
「そうか……」
一真は大体の目安を考えて、帰るときに回収すればいいと思った。
(そう言えば途中で帰ってくるんだよな?)
(言っておくがダンジョンで途中セーブして、地上に戻るみたいなことは無理だ)
(だとしたら一日でダンジョン攻略しなきゃいけないのか?!)
(普通は一日で攻略するようなものではないぞ)
ゼノンの呆れたような言葉に一真は驚く。
(じゃあ他の人間はどうやって、ダンジョン攻略をしているんだよ?)
(ダンジョンに一週間ぐらいこもる。それにしたって地図を書いて、段々と短い時間
で階層を上がっていくのが普通だ。まずは地図を書いて、道を調べなければいけない)
(め、面倒だな~)
一真はそうぼやくと立ち上がった。
「行こう、あんまり時間がないしな。お前地図は書けるのか?」
「自分で使う程度の地図なら」
「そうか、なら地図を書くのはお前に任せるから、クエスト受けよう」
一真はそう言うと受付に向かった。受付には昨日担当してくれた女性がいた。
「おはよう、アルサート君。それに昨日の子」
「エイミーさんのお知り合いなんですか?」
「別に私はよく知らないんだけどね、ダーさんが昨日褒めてた」
「ダーさんたちが……ですか?」
フードことアルサートが驚いたように声を上げる。一真とゼノンはダーさんと呼ばれる人物とは誰かと必死に考えていた。二人共そんな人間と会った覚えがないからだ。アルサートが一真に『本当なのか?』と目で問いかけてくるが、
「誰?」
「ダーさんって言っても、まだ来たばかりのあなたは知らなうてもおかしくないわね、あなたが昨日組んだ三人組のおっさんよ」
一真はそれでカンダーたちのことを思い出した。
「カンダー、エンダー、サンダーとダーが三個ついていることで、三人合わせてダーさんと呼ばれているの」
受付嬢ことエイミーが説明してくれる。
(確かに最後にダーはついている)
(ダー×3でダーさんか、面白いな)
「そのダーさんが褒めていたと?」
「はい。力も体力もあって、身体能力が素晴らしいと。将来が楽しみな冒険者だと言ってました」
「す、すごいですね」
アルサートが感心したように、一真のことを見る。
「そんなにすごいのか?」
「あの三人は経験豊富な冒険者ですからね、それが褒められたと言う事は将来有望な冒険者と言うことになりますね」
「ふ~ん」
イマイチに実感の沸かない一真はこの返事しか出来なかった。アルサートとエイミーはその返事で、どこがすごいのか分かってないのが分かったので、それ以上何も言わなかった。
「じゃあ、クエストの受注お願いします」
アルサートはそう言うと自分のギルドカードと依頼書を提出する。一真もそれにならって、自分のギルドカードを提出する。
「これで手続きは終了です」
エイミーが二人にギルドカードを返す。
「それじゃ行くぞ」
一真がそう言ってギルドをから外に出る。後ろをアルサートがついてくる。一真がそのままダンジョンに向かって歩こうとすると、アルサートに止められる。
「何だよ?」
「ダンジョンに入る前に準備が必要だろう! 何そのまま行こうとしてるんだよ」
「あ、そうだな」
アルサートの言う通り、お昼ご飯や水などがなければダンジョンの中で飢え死にしてしまうだろう。
「おい、これくらい常識とかそういう事以前の問題だぞ、大丈夫なのか?」
「一応何とかなる」
一真に関しては、水が無くなれば、魔法で飲み水を作ればいいし、食事は殺した魔物を食べればどうにでもなってしまう。
「……俺はどうにもならないから、準備が必要だ。少し待っててくれ」
アルサートはそう言うと買い物に行くために駆け出そうとする。そのアルサートの服の袖を一真の手が掴む。
「な、何です? まさか買いに行くな、何て言うんですか? 」
「いや、そんなことは言わない。俺も自分の食料だけ買う」
「結局買うのかよ」
「まあな」
一真はアルサートと一緒に食料を買う。一真は食料だけ買うと、後はアルサートの後についていくだけだった。アルサートは食料以外に水、武器の予備、投げナイフ、回復ポーションなどを買っている。アルサートは一人でダンジョンに潜るから、いつも多めにポーション、投げナイフも持っている。一人でダンジョンに入るのは非常にリスクが高いが、組み相手がいないアルサートは仕方ないのだ。
「買い終わったか?」
「うん」
「じゃあ、行くぞ」
一真はその返事を聞くと、ダンジョンに向かって早足で歩き出す。今度はアルサートが一真についていく格好になった。
「な、なあ、聞いて良いか?」
早足の一真にアルサートは追いつくと声をかける。
「何だよ」
「あんた、どうしてダンジョンを目指してる?」
「……ようがあるのはダンジョンの100層だ」
「ダンジョン全攻略を目指しているのか?」
「いや、100層に入れれば良いだけ」
「そうなのか?」
アルサートは一真のことを、ダンジョンの地図を作るために仲間を探しているのかと思っていたのだが、どうやら違うと言うことだけ分かった。
そんなことを話している間に一真達はダンジョンの入口につく。
「銀貨一枚とギルドカードの掲示をしてくれ」
ダンジョンに入る冒険者の数が減ったことで、暇そうな兵士に銀貨一枚とギルドカード渡す。銀貨一枚と一真のギルドカード見る。
「おい、お前の評価じゃダンジョン入れないぞ」
「あ! おい、アルサートお前のギルドカード」
「え、あ、うん」
アルサートは一真に言われた通り、ギルドカードを見せると、兵士は満足してダンジョンに入れてくれた。
「おい」
「何だよ?」
アルサートがダンジョンに入るなり一真に声をかけてくる。アルサートはさっきのやり取りでどうしても聞きたいことが出来たのだ。
「一体お前の評価とランクはいくつなんだよ、ダンジョンに入れないってことは評価はE以下だろう」
一真はそれを聞かれて黙って自分のギルドカードを放り投げる。
「えっと評価F…ランク1って、全くの初心者じゃねえか!」
アルサートが驚いたように声を上げる。
「ああ」
「よくこんな状態でダンジョンに挑もうと思うな」
アルサートの発言を無視して一真は四つん這いになる。
「お、おい何してるんだ?」
アルサートは一真の唐突な行動に目を白黒させる。
「乗れ」
一真は自分の背中を顎で示す。
「え、でも……」
「さっさと乗れ、そのほうが早い。道案内はお前がしろ」
「え、あ、うん」
アルサートは言われるがままに、一真の背中にまたがる。遠慮がちにゆっくりと腰を下ろす。アルサートのお尻にフカフカとした座り心地が伝わる。
これは毛皮? でも………
「それでいいのか?」
「うん」
一真が何を聞いているか分からなかったが、返事をしてしまう。
「じゃ行くぞ」
一真はそれと同時に走り出す。
「ちょ、ちょ!」
一真が走り出した勢いが早くて、アルサートはしっかりと一真の体を掴む。一真は今時速70キロ程度でダンジョンを走り抜けているのだ。一真の全身はハイウルフマンにしているので、ハイウルフマン本来のスピードで走り出す。
「何だ」
一真はアルサートに言われて、急停止する。すると慣性の法則が働いてー
「うわあああああ」
アルサートの体が中を飛ぶ。いくらしっかり掴んでいようと、時速70キロで走っていたのを急に止めたのだ。アルサートが飛んでいくのも納得である。
アルサートは本能にしたがって、咄嗟に体を丸めて衝撃を吸収する。
「だからしっかり掴んでいろと………死んだか?」
「生きてるよ、クソヤロー! あれだけスピード出していたら、いくらしっかり掴んでいても飛ばされるわ!」
「そうか」
「そうだよ!」
一真は少しの間沈黙して、頷くと。
「やっぱりお前が悪い」
「どんな考え方したら、そんな答えになるんだよ。くっそたれ!」
「ほら、無駄口叩いてないで乗れ」
一真はそう言って、背中を見せる。
「くそが」
「今度はしっかり掴んでおけよ」
「と言うか急停止はやめろ!」
アルサートはそう言いながら、一真の背中に乗ると、姿勢を低くして足と腕を一真の胴体に巻きつけて、しっかりと掴む。
「道案内しろよ」
「ちょ、少し待て」
アルサートはカバンからお手製の地図を出すと、一真の背中に押し付ける。
「もう、大丈夫だ」
「行くぞ」
一真はさっきよりもスピードを緩めた。さっきみたいに、飛んでいかれて死なれても困るからだ。
「その道を右に!」
「分かった」
曲がるときに吹っ飛ばされないようにアルサートはさらに力強く胴体を抱きしめる。




