40 肉とスラム街と盗人
(なあ、そろそろ機嫌直してくれ、肉は明日も食べれるだろう?)
(知らん)
あれから俺達は食事をし終わって、自分たちの部屋に戻ってきたのだが、ゼノンは肉が食べれ無かったことを、未だに怒って機嫌を直してくれない。精神世界の中では、俺に背中を向けて、感情を悟られないようにしている。
(そんなに食べたらいなら、今から出かけよう)
(また下に食事でもしに行くのか?)
ゼノンが少し興味を持ったのか、振り返る。
(金が無いだろ)
(……そう言えばそうだった)
こんな宿に泊まっているから、忘れていたが、今俺達は盛大に金欠なのだ。
(でも、少し買うくらいお金ならあるぞ)
一応俺たちの手には今日依頼を達成したお金がある。余裕があるという訳では無いが、多少肉を買っても大丈夫だろうと楽観視すれば、買えなくても無い金額だ。
(……食べに行くか)
(じゃあ、適当に荷物をまとめて行くか)
俺は散らかしていた荷物を、袋の中に入れて、持ち歩けるようにしておいた。宿に残しておいて盗まれることは無いと思うが、先程盗まれたばかりだ、これは絶対に盗まれる訳にはいかない。今度はしっかりとこの袋を持っていれば盗まれることは無いだろう。そして俺達は肉を求めて外に出かけた。
(以外に露店があるのだな)
(その割には賑わっていないがいな)
肉を求めて外に出たのだが、お店の割にはお客さんが少なく、閑古鳥が鳴いている店まである。
(こんなんで良く店を出しているな。利益は出るのか?)
(今日はお客自体が少ないんだろう)
ゼノンがあたりで作られている食べ物の匂いを嗅ぎながらそう言う。今はゼノンのお眼鏡に適う肉を探している。
(どういう意味?)
(客の大部分は冒険者なのだろう。だが今日の緊急クエストで冒険者の殆どが出て行ってしまったのだ)
(あ~、それで)
丁度その時ゼノンの動きが止まる。お眼鏡に適う肉が見つかったのだろうか?
(高坂、あのすれ違ったフードを追え)
振り返ると、フードを被っている奴を見つける。俺はゆっくりとゼノンに言われた通り後を付ける。
(おいおい、ゼノン。お眼鏡に叶ったからって、流石に人間の肉を食うわけには……)
(違う! あのフードから我らの匂いが漂ってくる)
(そう……か?)
俺はゼノンが何を言いたいのか理解できないで、戸惑っていた。ゼノンもそれは分かるようで、もどかしそうに尻尾をバンバンと叩きつけて叫んだ。
(あの男が我らの財布を盗んだ犯人かもしれないと言っているのだ)
俺はそれで全部分かった。財布には俺たちの匂いがついている。その匂いかもしれないと言っているのだ。そこからは尾行がバレないように、ゆっくりと後をつけていく。フードが店の前で足を止める。俺もそこで足を止めようとすると。
(足を止めるな、そのまま進んでその向こう側の店で買い物をするぞ)
俺はゼノンに言われた通り、そのまま足を進めてフードか買い物をしている露天の隣にある露店で串肉を買う。
(あのまま不自然な所で立ち止まったらバレル可能性があった)
(ゼノンは何か色々知ってるんだな)
俺が感心したように言うと
(元はお前の知識だ。お前が読んでいた探偵物の漫画に書いてあったぞ)
もちろん俺はそんな知識があることは忘れている。正直そんな漫画見たことさえ忘れているんだ。
(おい、財布を見ろ!)
ゼノンに言われて、横目で財布を見ると確かに俺達が持っていた財布だ。
(ここで引っ捕える)
ゼノンはそう言うと服の下で腕を飛び出させようとする。
(待て待て、ここじゃ人目が多い。それに家まで突き止めてからにしよう)
ゼノンを止めて、俺達はフードを尾行し続けた。途中相手の視界に映らないように、距離をかなり取ったが、ゼノンの鼻があるから、難なくまた見つけることが出来た。
(ここからはスラムだな)
フードを追いかけると、小汚い道に進んでいく。正直鼻を摘んでも突き刺さるような匂いがきつかった。
(気を付けろうよ、騒ぎを起こして尾行がバレたら元も子も無い)
(ああ)
俺達はスラムに入っていた。
(って会話をしてスラムに入ったはずなんだけど……)
俺たちの周りには、屈強な男たちが積み重なって倒れていた。全部ゼノンがやったのだが、説得しようとしたが、話も聞かないので会話にならない。ゼノンは会話にならないと分かると会話を打ち切り全員のしてしまったのだ。
(騒ぎにはなっていない)
ゼノンが鼻息荒く主張する。確かにゼノンの言う通り、全員叫ばれる前にのしているので、騒ぎにはなっていない。
(高坂、見失っては困る。さっさと追いかけるぞ)
匂いで追いかけることは出来るから、見失うことは無いけど、俺はあえて突っ込まず、先に進んだ。
(あそこだな)
俺たちが見つけた家は、以外にしっかりと家をやっている家だった。今まで見てきた家は吹けば崩れそうな家ばかりだった。いや、家の形さえしてないものまであった。
俺達は家に近づいて中にいるかを確認した。中には明かりがついていて、しかも匂いもしっかりと嗅ぎ取れていた。ドアには鍵が掛かっていたが、立て付けが悪いことを利用して、上手くドアを外した。普通の人間の力では外せないので、ゼノンの力を使わせてもらった。ドアを壊さないようにする力加減を間違えないようにドアを外すと、ゆっくりと部屋に入る。すぐにフードを見つける。ここまで来れば逃げられることは無いだろう。
コンコン
俺は壁をノックして自分の存在を知らせる。フードが驚いたように振り返る。その手にはナイフと言うには大きいが、剣と言うには小さい刃物が持たれてる。大きさ的に忍者刀ぐらいの長さだ。隠し持ったり携帯するのに適した武器だ。こんなスラムに住んでいるんだ、直ぐに武器を取り出せるようにしているのだろう。武器を出した時点で、ウルフマンの足の筋力を使い飛びかかっていた。ドラゴンの筋力より、ウルフマンの筋力の方が瞬発力関して優れているからだ。そのまま剣を振りかざす暇を与えず、首を掴んで壁に押し付ける。フードの口からうめき声が漏れるが、喉を抑えているので、声はそれ以上出なかった。
「お前だな、俺の財布を盗んだのは」
俺はそう言いながら、ポケットをまさぐった。すると俺の財布が出てくる。だが中には金貨も銀貨も一枚も入っていなく、銅貨が数枚入っているだけだった。
「……おい、ここに入っていたお金はどうした?! 殆ど無くなってるぞ」
これじゃ財布を取り返してもお金が戻ってこないじゃないか!
フードは黙ってそっぽを向く。俺はその態度に腹が立ち、そのままテーブルの上に体を叩きつける。
「ごっふ! ハアハア!」
フードからそんな息遣いが聞こえるが、俺は気にせず問いつける。今度は喉を緩めて、しっかりと返事が出来る様にする。
「金をどうした?!」
フードは息が整っても、答えようとしないので、フードをめくって顔を確認した。めくるとケモ耳と白髪の髪が出現する。そして金色の瞳が俺を忌々しそうに見ている。
(獣人だな)
(これが……)
俺は始めている見る獣人に驚いていると
「お兄ちゃんに何してるの!!」
そんな声と共に俺の体を風が文字通り切り裂いていく。ローブを来ていた体は無論のこと腕はドラゴンの筋肉で普通の腕より頑丈になっているので、薄く切れるだけで特に何もなかった。
「うそ!?」
車椅子に乗っている少女が驚いたように声を出すが、俺は近場にあった椅子を掴み、力一杯、車椅子に向かって投げた。
「キャッ!?」
そんな声と共に車椅子から少女が放り出される。
「妹に手を出すな!!」
ローブはそう叫んで、俺に掴みかかろうとするが、首根っこを掴んでいるので、どうしようも無くもがき続ける。
(妹……にしては姿形が……)
(―似ていない。血が繋がっていないのか?)
妹の方にはケモ耳どころか耳が尖っているのだ。それはまるでエルフの耳のように。髪の毛は銀色で変わりないが、瞳の色とエルフのような耳なので、どう見ても兄妹には見えなかった。
(この容姿なら……)
(夜の客を取らせて、盗まれた金を回収するのか?)
(そうだな、それが一番手っ取り早いだろう)
俺は視線をフードに戻して、もう一度金をどうしたかを聞いた。
「………」
「妹を殺されたくなかったら、さっさと喋れ」
俺はそう言うとフードが持っていた剣を妹に向かって投げた。
「やめろっ!!」
フードが慌てて暴れだすが、もちろん脅しなので当てるつもりは無く。少女が倒れている近くの床にナイフが突き刺さる。フードはそれを見て、ため息をついて安心したようだが、俺が次台所に置いてあった包丁に手を伸ばすと観念したように喋りだす。
「わ、分かった。話すから、話すから!」
俺は伸ばしていた手を引っ込めて、フードの話に耳を傾ける。
「ぜ、全部すっちまった。あそこの近くで賭け事やって」
(どう思うゼノン?)
(嘘だな)
ゼノンの断言の言葉を聞く。流石にあれだけのお金を全部すった言うには無理があるからだ。俺は包丁に手を伸ばして放り投げた。今度は当てるつもりでだ。殺すつもりは無かったから、胴体は避けた。少女は飛んでくる包丁を見ると、動かない足を引きずって無理やり体を動かして避けた。次はよけられると言う保証は無い。
「本当のことを言え」
それでも無言なので、俺はさらに脅しを掛けることにした。
「言わないなら、それでもいい。お前に妹に返してもらうだけだ。足が動かなくても、男に抱いて貰うことで出来るだろう。いや、そう言う趣味の人間もいるかもしれないな」
俺がニヤニヤとさっきとゼノンと一緒に考えた案を口に出すと、フードの顔が真っ青になる。
「やめろ! 妹は」
「妹は……」
「妹は?」
「妹は体が弱いんだ、そんなことしたら死んでしまうからやめてくれ」
フードが搾り出すように声を出す。
「で金は?」
「……妹の薬に使った」
「あれだけの金をか?」
「妹は病弱で薬が必要なんだ、その薬が高額なんだ」
少女を見ると確かに色白で病弱に見えるが、あんな魔法が使えたのに、病弱なのか?
(魔法の威力と体力は関係はないぞ、あれは精神力の問題だ)
ゼノンにそう言われて納得すると、改めて少女を見る。
「金の使い道は分かった、それで金を返すことは出来るのか?」
俺がそう言うと少年は頭を地面に擦りつけてくる。
「頼む、少しの間待ってくれ。冒険者をやっているんだ。それでー」
「ランクは?」
俺はすかさず聞く。正直俺はあまり期待していなかった。こいつがここに残っているということは、緊急クエストを受けなくてもいいレベルという事だ。なら大したことは無いだろう思っていいた。
「ランクが23で評価がC」
「そうか……それならダンジョンに入ることは出来るよな。と言うか何で緊急クエストを受けていない?」
「妹のこともあるから、あまり遠くの依頼を受けられない。それで特別に緊急クエストから外してもらっている」
「そうか、ならこれから俺と一緒に組んでタンジョンに潜れ」
「え?」
「丁度俺はダンジョンに潜れる人間を探していたんだ」
「それで許してもらえるなら」
フードがほっとしたように息をつく。
「明日の朝に冒険者ギルドにいるようにしろ。逃げたらー」
「に、逃げないから心配するな。わ、分かったから」
フードが慌てたのを見て、俺はその家から出て行った。
(思わぬ収穫だったな)
(ああ、これで明日からダンジョンにすぐ入れる)
俺達はそんな満足した気持ちで帰り道を歩いた。
俺の心が一瞬金を取られてたことより、獣人と言う伝説の生物に会えたことに感動が勝った。俺の手がケモ耳へと伸びていく。フードは一瞬ビクッとなるが、俺が耳を触るだけだと分かると、体を強ばらせて固まった。
モフモフ
………………
モフモフ
…………………
モフモフ
…………………
「モフモフ」
「………………おい」
(モフモフ)
ゼノンまで一緒に
「いい加減にしろ、いつまでやってるつもりだよ」
「金の場所を教えるまで」
俺はそう言うと耳をさらにもふもふする。
最初ノリ乗って書いた結果こうなった (´・ω・`) 流石にキャラ的に違うから没ネタですね




