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39 クエスト完了と緊急クエストとお肉

「これで依頼は完了だな」

一真とおっさん三人組は無事ダンジョンから出てこれたのだ。あれから急いで手斧を回収したのだが、魔物に当たってない手斧は刃が欠けて使い物にならなくなっていた。普通なら刃を研げば使えるはずだが、使い捨てと考えているので、安物の手斧で刃を研いでも、使い物ならない物を買っている。一真にカンダーはそう説明して、使えなくなった手斧の事を気にするなと説明した。

「それに、あのまま坊主が助けてくれなかったから、死んでたかもしれないだろう。だから気にするな。命あってのものだ」

カンダーは一真の肩を叩きながら、慰めた。そうやって一真を慰めている間にクエスト完了の手続きをしていた、エンダーとサンダーが戻ってきた。その手にはお金と四人分のステータスカードを持っていた。

「ほら、ステータスカードとギルドカードだ」

エンダーから渡されたギルドカードを見ると。


剣術1

吸収15

分離13

魔徳30


一真のスキルは順調にレベルが上がっていた。体の内部構造を変えるような細かいことを出来るようになったのは、レベル10くらいからだ。この世界で大抵のスキルはレベル10を境目に新しい能力・技に目覚めるだった。


「それとこれがお前の分け前だ」


サンダーがお金の入った袋を一真に渡してくる。きっちり四分等されているお金だ。中に入っている額は大した事はないが、役割に関わらずしっかりと四等分されているのは、このパーティーがしっかりとしているからだ。これがそこら辺の冒険者だったら、一真の分け前はこの半分も無かっただろう。


「大丈夫なのか? こんなに………」

「心配するな」


一真たちが話しているとギルドのどこからか、大きな声が聞こえた。


「緊急クエストです! 隣の街が大量の魔物に襲撃されたと言うことでした。すでに一日が経過しようとしています。街は篭城して持ちこたえていますが、いつまでもつか分かりません。至急クエストを受注して、隣町に向かってください。馬車はすでに街の西門に用意されてます。クエストの手続きはいいので、至急向かってください」


ギルドのアナウンスが終わることには、その場にいた準備が出来ている冒険者達は西門に向かって走り出していた。直ぐに動かなかった人間は、クエストが終わったばかりの冒険者かまだ準備中の冒険者だった。クエストの手続きが一切省かれるとは、かなり切羽詰まった状態なのだ。そのことが分かってる冒険者はおお急いで行動を起こす。


カンダー達はどうするか迷っていた。一真は確かにランクが足りないが、クエストを受けては行けない訳ではなかった。さっきのダンジョンではそれなりの戦力になったのだ。カンダーは一真を連れて行くか迷っていた。

「坊主、お前はどうする?」

「え?」

「緊急クエストだ」

「いや、ランクが足りないから無理なんじゃ無い?」

「あのランクは強制的に出なければいけないランクであって、ランクに制限はない。緊急クエストは受けることは出来る。どうする、俺達と来るか坊主?」

正直カンダーは来てくれれば心強いと思っていた。いや、サンダーもエンダーも来てくれれば戦力になるのではないかと考えていた。エンダーに至っては、一真の力を見て、あれだけの腕力があれば戦闘もこなせるのではないかと思っていた。

「いや、やめておくよ。たぶん、足を引っ張るかもしれない。まだ、初めてのダンジョンでの疲労も溜まってるから」

一真は断った。正直こんな面倒なことに関わるつもりは、毛頭無いのだ。一真の第一目標はこの街のダンジョンの最終階で、他のことはどうでもいいからだ。

「そうか……まあ、無理には誘うわない。俺達はこの緊急クエストで隣町に向かう。戻ってきたら、また一緒にクエストを受けてくれな、坊主」

「はい」

カンダーがそう言うと、エンダーとサンダーは西門に向かって走り出していった。流石にここで一真を説得している時間は無かった。それに本人が行かないと言っているのに、無理やり連れて行くのも悪いと思ったからだ。



「さて、帰るか」

(良いのか?我らが手を出したらあっという間に終わらせることが出来るぞ)

(別に俺の目的は街を救うことでも、ましては魔王を倒すことでもない。元の世界に帰ることだ。こんなところで寄り道をしたくない)

一真はそう言うと宿に帰ってきた。食事をする前に家に戻ってきた。


「ふう~」

(疲れたな)

(そうか?)

(一日にお金取られたりして、忙しかったから。肉体的より精神的に疲れたかな)

(……そのことなんだが、魔王に相談してみては?)

(金のことか?)

(そうだ、魔王に連絡して金を送って貰えば良い)


一真の首の付け根からゼノンの顔が伸びてくる。そして脇腹からゼノンの腕が生えて、袋からあの連絡用のクリスタルを引っ張り出す。


(これに魔力を流し込めば良いんだよな)


一真がそう言うと、ゼノンがクリスタルに魔力を流し込む。すると、クリスタルが下から上へと水が注がれたかのように発光する。クリスタル全体が光ると必要な魔力が溜まった証拠だ。魔力が貯まると点滅しだす。まるで電話の着信音のようだ。音が出ない代わりに、ピカピカと点滅する。その光が薄暗い部屋を照らす。

点滅が止まり、目の前に魔王の顔が、クリスタルから立体映像で映し出される。


「どうした、何かあったか? もうダンジョンから石版を取ってこれたか?」


魔王が驚いて聞いてくる。正直一日でダンジョンの最下層に行って、石版を取ってくることは不可能ではないと考えていた。人間の世界には色々面倒な手続きがあるので、無理だと考えていたからであった。


「いや~、あのですね。お金を貸して欲しんですけど……」

「……貴様あれだけあった金はどうした?まさかギャンブルに使ったなどとは言うなよ」

「盗まれた」


一真の言葉に魔王は呆れたような顔をする。


「貴様、金を別けてなかったのか?」

「別ける?」

魔王は頭を抱えて、ため息を盛大に付く。一真が常識を知らなかったからである。


「良いか、普通は金を別けて持っているものだ。すぐに身一つで逃げ出したり、盗まれても困らないようにだ。それが普通だぞ。貴様は俺さえ知っている常識を知らないのか?」

「知らなかった。それでその金は……」


一真が恐る恐る聞いた。


「金策ぐらい自分でどうにかしろ、大馬鹿者共」

魔王はそう言うと通信を切ってしまった。魔王は呆れて声も出ないと言う奴だ。それに一真に渡した袋だけでもかなりのサービスをしたのだ。これ以上何かを求めるのは、贅沢と言うものだ。



「あ、おい!」

「切られてしまったな」

「どうするか、金?」

「この剣売るか?」

ゼノンが持っている剣はアスカロンだった。ゼノンの言う通りこの剣は高く売れるだろう。

「やめよう、そんな剣売ったら絶対に目を付けられる」

一真がそう言うと、ゼノンが剣を仕舞った。

「地道にクエストやっていくしかないな。ご飯食べに行こう、こんな時間だ、すでに用意はされているだろう」

一真が食事を求めて下に降りていく。すると下からいい匂いが階段の所まで漂って来ていた。

「おお、丁度いい時、今娘に食事が出来たと伝えに行かせようとしていたところです」

一真が下に降りると、宿屋の主人と娘と思われる二人がいた。

「そうか、出来たのか」

取り敢えず、一真は考えるのはやめにして、楽しみにしていた食事に集中することにした。それにー

(飯だ飯! 高い金払ったんだ。我の舌を満足させられる美味しい食事が出ることを期待してるぞ)

ゼノンが心の中で翼をバタバタとさせて興奮気味に叫んでいる。正直一真は、このドラゴンが元の食事に戻れないような気がしてきた。それほどまでに人間の食べ物にご執心なのだ。


一真はゼノンに急かされて、急いで席につかされる。すでに席には食事が用意されている。これも一応工夫がされていて、冷めても大丈夫な物がテーブルの上に並べられている。そしてお客が席ついてから、温かいものが出されるのだ。なので最初にテーブルの上に並べられているのは、パンなのが中心に並べられている。

(取り敢えず、メインが来るまでパンでも食べてるか)

腹を空かせたドラゴンが体の中で、飛び跳ねまわってるのを感じて、苦笑しながらパンに口を付ける。久しぶりに食べたパンだが、元の世界のパンとは違い、少し固めのパンだった。

(少し硬いな)

(我にも食べさせてくれ!)

(わ、分かったから。そう暴れるな)

一真の肘辺りから、ゼノンが顔を出す。一真はパンを一摘みするとゼノンの口の中に放り込んだ。

(これは素っ気ない味だな)

ゼノンはパンを咀嚼しながら、感想を述べる。ゼノンのお好みの味では無いようだ。

(バターを付けて無いからな~)

(ならばバターとつけたものを!)

ゼノンが声高らかに叫ぶ。一真はパンをバターに付けて、自分自身の口とゼノンの口にバターをつけたパンを放り込んだ。

(油っぽ!?)

(美味しいな)

一真は油っぽいと叫び、ゼノンは美味しいと言ったのだった。これは今までの食べていた食事の関係だろう。ゼノンは基本肉を食べてきたのに対して、一真は普通のバランスの良い食事だ。一真には濃い油に耐性が無かったのだ。

(我にはこのままバター付きのパンで頼む)

(ああ)

一真はバターでゲンナリしながら、ゼノンにバター付きパンを食べさせた。一真自身はバターをつけてないパンをチビチビと食べさせていた。

(よく、そんな油っぽいもの食べれるな)

(これで油っぽいと言っていたら、肉など食えては行けぬ)

(まあ、肉の油ほうが凄そうだしな)

「お待たせしました~」

ウエイトレスがそう言って出してきたのは、野菜スープと、分厚い肉を鉄板で焼いてトマトで味を整えたものだ。肉は香ばしく焼ける匂いを、一真に嗅がせて、一真を虜にする。

(これは美味そうだな~)

心の中でヨダレを垂らさんばかりに、肉のことを見つめていた。

(我も食べさせてくれ!)

ゼノンが翼だけでなく、尻尾まで振り回してくる。まあ、ゼノンにとってこっちのほうがメインなんだろう。無論一真もメインなのだが。

(まずは、俺から)

一真はゼノンにそう言って、ナイフとフォークを使って肉を一口大に切り、口の中に入れる。肉の厚みも中々で、噛みごたえもある。口に入れた途端火傷しない程度に暖かい肉から染み出る肉汁。そして塩コショウで軽く味を整えられてる。そしてトマトソースが塩コショウでは足りない味を補っている。

「美味しな」

もう一口食べようと一真がすると、ゼノンが翼と尻尾を振り回す。

(我にもくれ!)

(あいよ)

一真は自分の口に入れかけていた肉を、ゼノンの口の方に放り込む。


ガキンッ!


(……おい、ゼノンなにした?)

(何もしてない)


一真はゆっくりとフォークを自分の目の間に出してみると、フォークが欠けていた。


(おい、ゼノン)

(………)

ゼノンが勢い余ってフォークごと肉を食べたのだった。フォークの先が誤魔化しようが無いほど欠けていた。

(おい、ゼノン!)

(わ、我の炎で溶かして形を整えるとか……)

(こんな所でか?)

(いや………その、すまなかった)

(はあ~、これ俺が怒られるんだけど)

(本当にすまない)

(お肉没収な)

(ああ……!?)

ゼノンは了承を流れて返事をしてしまったことが、すぐに後悔することになった。


「すいません~」

一真は近くにいた店員に声を掛ける。

「はい、どうされました?」

「フォーク欠けてるんで、新しい物に変えて貰って構いませんか?」

「分かりました、少々お待ちくださいね」

店員が早足でキッチンの方に行く。

「お待たせしました~」

一真は店員が持ってきたフォークを意気揚々と肉に突き刺し、口に入れた。


我をそう言う口実で食べさせない気だな。そうはさせないぞ!

(ちょっと待て!)

尻尾と口から炎を吐き出して、一真に静止の声を掛ける。

(何だよ?)

一真はお肉をさらに口に追加して、ゼノンに聞き返す。

(怒られてなじゃないか! 我にも肉をくれ!)

(それは結果論だよ、その怒られるリスクを背負ったのは、俺なんだよ)

一真は肉を少し大きめに切って、パンに挟んで食べ始める。

(大体高坂、さっきの言い方なら自分が壊したことが分からなじゃないか! そんな言い方があるなら、怒られることなんて無いだろう!)

(そんなことは無いよ)

一真は残っていた、肉を一口大に切って、次々と口に入れていく。

(我にも食べさせろ!)

(仕方ないな~)

一真は自分の口の中に入れていた、肉をゼノンの口へと持っていく。ゼノンはフォークごと食べることなく、しっかり肉だけを咀嚼する。

(美味しいな~、さっきは驚いて味合うどころではなかったから、もう一口くれ)

(悪いな、もう無い)

(な?!)


さっきまでお皿の上にあったお肉は、綺麗さっぱり無くなっていた。


(高坂、全部食べたのか?!)

(うん)


一真はゼノンの言葉に笑みを浮かべて答える。一真の狙いはこの問答をしている間に、肉の大半を食べることだったのだ。


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