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38 スリとおっさん三人とダンジョン

俺は自分の財布が無くなっていることに気づいた。ローブをバサバサとやったり、その場で飛び跳ねたりしても金貨と金貨がぶつかり合う音がしなかった。俺の顔が真っ青になる。このお金が無くなると言うことは、無一文なのだ。


(やばいよ、どうするゼノン!?)

(我に聞かれても困る、そもそも高坂がしっかりしていないからこのようなことに……)

(なっ?! ゼノンだってそう言いながら取られているに気づいてないじゃねえか!)


「どうします?」


受付が聞いてくるが、お金を持っていないんだ。ギルドに登録をするのは諦めるしかない。


「どうした、坊主?」


そう言って俺の方に手をかけてくる。振り返ると、ガタイのいいおっさんが後ろに立っていた。


「どうやらお金が盗まれてしまったようなんです」


俺が答える前に受付が答えてしまう。受付の人も俺の挙動からお金が盗まれたことには気づいていたのだろう。


「そうか、そうか。それはまた不運だったな。ここの大通りはスリが多いから気をつけたほうがいいぞ。わいの名前はカンダーだ」

おっさん基カンダーは俺に握手を求めてくる。俺も手を差し出して握手をすると、満足したように頷く。

「ギルドの登録料、わいが払ってやってもいいぞ」

「本当ですか?!」

俺は興奮して聞く。ギルドに登録出来るなら、すぐにでもクエストを受けてお金を稼ぐことが出来るからだ。

「その代わりランクが5になるまで、わいらと組んで荷物持ちをしてくれ。それが条件だ」

(どう思う、ゼノン?)

(今の我らに手段は少ない。この提案受けようではないか。それに荷物持ちなら、我の力を使えば楽々出来るだろう)

「じゃあ、よろしくお願いします」

「おお、こちらこそよろしく頼むな」

俺とカンダーは再び握手をして、ギルドの登録料を払ってもらった。ギルドカードはステータスカードと表裏一体になっていて、ギルドランクが書いてあるだけだった。

「じゃあ、早速荷物もちやってもらうからな。ギルドカード」

俺がギルドカードをカンダーに渡すとクエストの紙と一緒に提出する。受付の人がカウンターで少し作業をすると。

「クエスト登録できました」

「じゃあ、行くか。他にもあと二人いるから紹介するぞ」

俺はカンダーに連れられて二人のおっさんを紹介してもらう。

「カンダーこいつは?」

「荷物持ちで連れてきた」

「おいおい、カンダーこんな細っこいのに荷物もち出来るのか?」

おっさん二人もカンダーのように逞しい肉体を持っていて、腕は丸太ぐらい太かった。日焼けで浅黒い肌がそれを強調する。テレビに出てくるようなボディービルダーのような、派手な筋肉では無かったが、しっかりと必要な筋肉がついていることが分かる。

「そう言うなって、こっちがサンダー、エイダーだ」

カンダーはスキンヘッドだが、サンダーと呼ばれたおっさんは金色の髪の毛で、エイダーは赤色の髪のおっさんだ。

「で持っていて欲しい荷物がこれだ」

そう言ってカンダーに指さされたのは、荷車だった。もちろんそれくらいを持つぐらい俺にとって余裕だ。

俺は持ち手を持って荷車を動かした。案外軽くて、すんなり動いてくれた。

「おお!以外に力があるじゃねえか、すげえな坊主!」

サンダーが驚いたようで、俺を盛大に褒める。まあ、殆どサバイバル生活をしていたので、それなりに力も付いたのだろう。

「これでかなり楽になるな」

エンダーは静かに呟いて、喜びを示す。

「じゃあこれからよろしくな、坊主」


こうして俺達はこのおっさん達の世話になることになった。


「今日は虫の攻殻を回収するクエストだ」

「数は?」

「30以上だ、50以上になると追加報酬がでる」


カンダー、サンダー、エンダーのおっさん三人が話し合っている中、俺はその話にじっと耳を傾けてるだけだった。正直この言う話に参加出来るほどの戦闘経験が豊富でも無いし、ゼノンの戦闘経験はドラゴンの物で応用出来るとは思えない。


「じゃあ、ダンジョンに行くか」

「え、ダンジョンですか?」

「そうだが」

「街の外に出るんじゃないんだ?」

俺がそう言うとおっさん達三人が可笑しそうに笑う。

「何で街の外に出るんだ?」

「基本的に街の外に出るのは、街に被害を出す魔物退治か、ダンジョンにいない魔物の素材が依頼された時だ。魔物の素材はダンジョンの中でも手に入るからな、態々外に出る必要はない」

おっさんの説明を納得して、早速俺達はダンジョンに入ることになった。ちなみにダンジョンのお金も払ってもらってしまった。


「じゃあ、これを運んでくれ」


カンダーにそう言われて、俺は荷車を引こうとすると、さっきより重くなっていた。


「おい、これさっきより重くなってないか?」

「まあ、さっきより少し荷物を増やしたからな」


確かに数的に増えたのは少しだが、重量がそれなりにある物が増えたようだ。

(流石に俺だけの筋力じゃこれを引くのは少しきつい)

(ゼノン)

(分かった)

肌の下で筋肉が入れ替わる、人間からドラゴンの物へと。最初の頃はこのような器用なことは出来なかったが、融合、分離のスキルレベルが上がったことで、このような器用な事が出来るようになったようだ。俺はゆっくりと力を込めて、荷車を移動し始めた。

「お、以外に力があるなら。これで動かなかったら、少しずつ荷物を分けるつもりだったが」

「大丈夫、これくらいなら何とかなる」

「じゃあ、行くぞ。目標階層は15だ」

こうして、俺達はこうしてダンジョン中に入っていた。最初に入った時とは何も変わらなかった。

「じゃあ、行くぞ」

ちなみにおっさん達に武器は近接戦専門だった。まあ、お世辞にも魔法が使えるようには見えないが。

カンダーは手斧を使っていた。魔法の遠距離の攻撃の代わりに手斧を投げて攻撃している。そのせいで予備の手斧が沢山に荷車にあるため、さっきより重くなっていた。サンダーは壁役をしている、大きな盾で魔物が近づかないようにしている。魔物の勢いを止めると、持っている片手剣で魔物の足を斬って動きを鈍らせる。エンダーは槍を使っている。サンダーが動きを鈍らせた魔物に止め刺している。

「今回は魔物が少ないな」

「偶然だろう」

カンダーとサンダー二人がそんなことを話しているが、たぶん俺のせいだろう。俺の魔徳で積極的魔物が近づいてこないだろう。ダンジョンの主は基本的に倒されているようで、戦うことなく、目的の階層までたどり着くこと出来た。

「じゃあ、ここの魔物狩るぞ。出来るだけ攻殻を傷つけないように殺せ」

カンダーは手斧を壁にくっついている昆虫型の魔物に向かって、手斧を投げつけて体を真っ二つにする。丁度上半身と下半身の節を境に切れている。

「おい、坊主。それ荷車に乗せておけ」

「分かった」

俺が近づくと、微かに足と触覚がピクピクと動く。この魔物が起き上がって、襲いかかってくるとは思わないが、喜んで触りたいとは思わなかった。足を持つと荷車に置く。

「じゃあ、次行くぞ」

サンダーの言葉でダンジョンの中を歩き回る。歩いている途中に遭遇した魔物を殺して、攻殻を回収していく。基本的にこの15階層の入口を中心に魔物を狩っていく。




「これで30だな」

エンダーが殺した魔物を俺に渡して呟いた。

「そうか……時間的にも丁度いいからここでお昼を食べておくか」

「そうだな、そろそろ腹も減ってきた」

サンダーとカンダーが武器を仕舞いながら話している。

「おう、坊主お前の分の食事も用意してるからな、安心しろ」

カンダーはかなり面倒見がいいようだ。お昼が用意してあることは嬉しいことこの上ない。カンダーは荷車から干し肉と水筒を引っ張り出すと、全員に投げて渡した。

「坊主これ使え、ナイフなんて持ってないだろう」

カンダーがナイフを渡してくれる。流石にナイフを干し肉と一緒に投げることはしなかった。

「これで干し肉を斬って食べるんだ」

俺が何で渡されたか分かってなかったので、態々説明してくれる。正直この干し肉をそのまま食べることもゼノンがいるから出来るのだが、せっかくナイフを借りたのだから使うことにした。干し肉を薄く切り口の中に入れる。決して美味しいものでは無かったが、噛めば噛むほど味が染み出てきた。味的にはパンにはさんでサンドイッチにしたら良さそうな感じだ。ご飯も食べても良いかも知れない。そんなことを思いながら水を口に含んだ。

「お、おい坊主後ろ後ろ」

サンダーがそう言うので振り返ると、いたのはここの階層の魔物だった。壁をゆっくりと歩いて、俺の肩を通り道にして、床に降りるとどこかにのそのそと歩いていく。

「おい、大丈夫か?噛まれたり、毒を流し込まれたりしてないよな?!」

慌てたようにカンダーが近づいてくる。

「大丈夫」

「ほ、本当か? 普通なら首に噛み付いて毒を流し込まれるんだがな」

「たまにはこういう事があるんじゃない?」

たぶんこれは魔徳で敵意を向けられにくくなっているからだろう。正直このダンジョンで一人寝泊まりしても、魔物に襲われることには無いだろうと思っている。

俺の状態を見てカンダーは安心すると、さっきの魔物を手斧で真っ二つにして荷車に放り投げた。

「さて食事も食べ終わったことだし、続きを始めるか。あと10匹ぐらい回収したら、上に上がろう。あまり遅くなるとギルドの方も閉まるからな」

エンダーはそう言うと立ち上がった、食休みが必要な食事でもないし、すぐに動いても問題は無かった。階段を中心に、さらに遠くに行って魔物を狩っていく。上に向かう階段から離れたためか、すぐに10匹集まる。


「それじゃあ、帰るか」

「そうだな」

「坊主、まだ大丈夫か?」

「ああ」


三人とも俺が疲労で倒れないか、ちょくちょく気にしてくれる。まあ、ダンジョン初心者に見えるからだろう。まあ、あれだけ常識知らずなことを言っていたら、誰だって初心者だと分かるだろう。ギルドカードだって作っていないのだから。



「よし、板ひいたから登っていいぞ!」

階段の上から声が聞こえる。ここは階層の階段なのだが、荷車で階段を通る時は階段に板を引いて登るのだが、行きはいいのだが、帰りは坂を上ることになる。俺たちが最初にダンジョンに来た時には、後ろで荷物の面倒を見ていたので、知らなかったが。俺が上に引っ張るようにして、後ろからサンダーとエンダーが押してくれる。正直ドラゴンの腕力を持っているから、軽々と持っていけるのだが、流石に不審がられると思い力はセーブしている。

「全員登ったか?」

上で見張りをしていたカンダーは、飛びかかってくる犬型の魔物を蹴り飛ばして、手斧を振り下ろしている所だった。

「血の匂いに誘われたのか、このままじゃまずいぞ」

サンダーはそう呟く。すでに10匹近くの犬型の魔物がこの場にいる。半分は死体になっているが、ここは次の階層の階段だ。魔物が沢山いるだろう。俺以外の三人がカンダーを援護しに走る。だが犬型の魔物は決して馬鹿ではないようで、積極的に攻撃をしてこない。たぶん周りにいる仲間が集まるのを待ってから攻撃をするのだろう。実際狙い通り三匹魔物が増えた。

「グルル」

魔物が低く唸りながら、三人の隙を伺っている。


(おい、どうするんだ?)

(そうだな……危なくなったら、それとなく援護だな)

(恩人なのに冷たいな、高坂は)

(恩人だけど、お前のことは隠しておきたい)


俺とゼノンがそんな話をしていると、さっきより数が倍近くに増えていた。


「おおわっと!」


サンダーが犬型の魔物の体当たりを盾で防ぎきれなくなって、後ろに倒される。

「サンダー!」

カンダーが盾の上に乗っていた魔物を斧で切り倒す。そのカンダーに向かって二匹の魔物が襲いかかってくる。


ブンッ!


二匹の体を何かがぶつかり後方に吹っ飛ばす。その体には手斧が深く刺さっていた、たぶん骨を砕いて、内蔵まで損傷しているだろう。


「坊主?!」


投げたのは俺だ。荷車に置いてあるカンダーの手斧を投げたのだった。


「まだ、頭下げて! 上手く投げられないから、当たっても知らないから」


俺はそう言ってさらに手斧を二本投げる。一本は外れたが、二本目はしっか絶命に至らしめた。一真の手斧の投擲は荷車に手斧が無くなるまで続いた。


「これでラスト!」


一真が最後の手斧を投げた時には、すでに殆どの魔物が死体になっていた。残ってるのは一匹だけだったが、一真が投げた手斧は綺麗に外れる。


「おらよ!」


カンダーがその掛け声とともに、手斧を投げて綺麗に仕留める。


「全員手斧を回収してくれ。ここから離れるぞ」


おっさんにそう言われて、俺達はすぐにその階層から離れた。それから俺達は特に問題なく、ダンジョンから出ることが出来た。




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