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37 転移魔法と面倒見の良い魔王と冒険者ギルド

一真たちは街の真ん中でぽつんと立っていた。一真とゼノンは魔王の魔法によって、最初に入ったダンジョンがある街に飛ばされたのだった。街ゆく人は一真たちを興味深そうに見ているが、直ぐにその場から去っていく。


(本当に飛ばされたな)

(そのようだな……)


ゼノンも突然飛ばされたので、驚きのあまり声が出ないようだ。このような魔法を長い時間生きていたゼノンは見たことも聞いたことも無かったからだ。


(なあ、ゼノン)

(無理だ)

(まだ、何も言っていないんだが……)


一真がダンジョンを一瞬で攻略する方法を思いついたが、すぐに否定される。この転移魔法で最深部まで一瞬で転移と考えていたのだが。


(さっきのように転移魔法を使って、ダンジョンの最下層に飛びたいと考えてるんだろうが……無理だ。転移魔法自体は我でも多少は出来る。だが転移できる距離はせいぜい、高坂の目が届く距離までだ。それくらいの距離なら歩いたほうが良い。魔力の消費も馬鹿にならないからな)

(そうか……取り敢えず適当に宿を取って、寝る場所だけでも確保しよう。渡された荷物も確認したいしな)


一真とゼノンはそう結論づけると、辺りを見て宿を探した。宿は出来るだけ、いいものを選びたい。変な宿を選んで荷物を盗まれたたら、たまった物じゃないからだ。一真は見た目が小奇麗な宿を選んだ。料金が無駄に高くなさそうで、宿でものが盗まれる心配は少ないと思う宿だ。


(ここでいいかな、ゼノン?)

(我は正直野野宿が良いと考えているが……まあ、この宿でも盗まれる心配は少ないだろう)

(じゃあ、ここで決定だな)


ゼノンのお墨付きを貰ったことで、一真は宿を決めて中に入る。宿の扉を開ける。宿の中は石づくりで、椅子などの家具は木で作られている。




「いらっしゃいませ。一角亭にようこそ」


一真を出迎えてくれたのは、この宿の店主だろう。受付のような場所で、何か物を書いているようだった。そして俺たちに気づくと笑顔で迎えてくれる。


「料金を聞かせてくれ」

「一泊で銀貨40枚、朝晩の食事付きで銀貨80枚、朝昼晩食事がついて金貨一枚になります」

「そうか……取り敢えず、朝晩の食事付きで一週間頼む」


銀貨は……80×7


「え~っと銀貨「560枚だな」え?」


店主が計算をしている途中にそう言って、金を渡そうとする。店主が驚いて声を上げた、計算機も持っていないのに、自分より素早く答えを出したからだ。


「どうした、間違ったか?」


一真が慌てて聞き返す、自信満々に財布に手を突っ込んで金を出そうとしていた手が止まる。


ゼノンの貨幣の価値が間違っていたか? いやでも……蜂蜜菓子を買った時には、別に間違っていなかったし……


店主は中断していた計算を再開して、値段を確かめる。適当な値段を言って安く泊まろうとしておるのかと店主は考えていた。だが店主の考えとは裏腹に一真が出した答えは、あっていた。店主は舌を巻いていたが、それを顔に出さずにお金を受け取り、相手が何者か伺った。もしかしたら貴族の方かもしれないかと考えたからだ。それならかなりのお金を落としてくれるのは無いだろうかと考えたが、そこで考えを打ち消す。貴族とは見栄っ張りな生き物なのだ。このような小金持ちが泊まるような宿には泊まらないだろう考えた。


「いえ、お客様の計算が余りにも早かったので、驚いただけです。お客様は商人か何かですか? 売り物が無い所を見ると……違いますよね。もしかしたら貴族ですか?」

「どっちでもないよ」


それでも店主は相手がどんな人間か見極めようと、質問をする。だがそっけない返事を聞いて、店主は相手の正体を返事からも見破ろうとしていたが出来なかった。


「そうですか、かなり計算が出来るようなので、うちの宿で雇いたいくらいだったよ」

「いや~、嬉しいね。お世辞でも」


店主の探りをさらっと躱して、一真は適当に相槌を打つと、店主が差し出した鍵を受け取る。


「場所は階段上がって右曲がって、角の二番目に部屋です。お客さんの案内!!」

「今行きまーす」


受付の奥から女性が出てくる。一真はその女性の後ろをついて行って部屋まで案内してもらう。

階段を上がるって宿の部屋を空開けて、女性は鍵を渡してお辞儀をして去っていく。部屋の中には木の机と椅子、それとベッドが置いてあるだけだった。しっかりした作りで、清潔感溢れる宿だ。これなら問題は無いと一真は思い。ベッドに腰を掛ける。


(これからどうするつもりだ?)

(そうだな~、まずはダンジョンに挑戦するかな、あとダンジョンの地図を手に入れたい)

一真はゼノンにそう話しながら、魔王からもらった袋を開けて、中身を確かめていく。中には水色のクリスタルがいくつか入っている。そのクリスタルの中には、炎のようなものがメラメラと見える。

(何これ)

(説明書が入っているみたいだな)

(これか)


ゼノンが言った通り、中に紙が入っていた。


(これだな)


一真はそれを袋から引っ張り出すと、説明書を広げた。


(………読めないな)

(我の知識を使え、そうすれば読める)


一真はゼノンに言われた通りにして、読んでみるとあっさりと読めてしまった。これは人間の世界で普通に使われている文字のようだった。魔王も俺が読めるように配慮したようだが、一真がこの世界の文字を一つも読めないことは知らなかったようだ。


(……なんかすごいな、このクリスタル。ゼノンも知らなかったんだろう?)

(ああ、まさかこんなことが出来るとは知らなかった)


このクリスタルの中には魔法陣が書き込まれており、魔力を流し込むことで、その魔法陣を発動させることができる。ちなみに袋の中に入っていたクリスタルの説明を見ると、魔王と連絡を取るためにクリスタル、魔力を貯蔵するためにクリスタル、魔族の国に帰るための転移魔法のクリスタルなどなどが入っていた。


(それと転移魔法は魔力を膨大に使うので、貯蔵クリスタルと併用するように、だってさ)

(転移魔法には膨大な魔力を使うからな、日頃からその貯蔵クリスタルに魔力を貯めておけば、いいと言う訳だな)


ゼノンと二人で一真は道具に使い方を調べている。


(あ、アスカロンも入れてあるな)


袋の中に入っていたのは、没収されていたドラゴンスレイヤーの剣だった。


(……剣の手入れの道具と仕方まで書いてある)

(至れり尽くせりだな)

(あと俺たちが持っていた金だな。改見ると……少し金額が増えてるみたいだな)

(魔王は以外に面倒見がいいようだ)


それ以外に入っていたものは数日分の干し肉、水筒、着替えだ。


(まあ、取り敢えずこれは当分使わなくて済みそうだな)

(荷物整理が終わった所で、ダンジョンに行くのか?)

(そうだな)


一真は立ち上がると、アスカロンと金が入った財布を腰に括りつけて、早速外に出て行った。

階段を降りると、さっき店主がまだいた。


「おや、お出かけですか?」

「ああ、少しな」

「夕飯はどういたします?」

「ここで食べるよ」

「そうですか……食事の時は鍵を見せて頂ければ、無料で出ますので」

「分かった」



(でダンジョンの場所は覚えているようだな)

ゼノンが確認するように聞いてくる。一真は心の中で頷いて大通りを目指した。大通りを下っていけば、ダンジョンの入口に当たるからだ。大通りを見つけると、すぐに下っていく。大通りはお店と人で賑わっていて、人とぶつからない様に歩くのが難しいくらいだった。


(高坂!高坂!)


と突然ゼノンが一真の名前を連呼する。


(どうした?)

(蜂蜜菓子だ、買うぞ)


ゼノンが言う通り、近くに蜂蜜菓子を置いている店があった。一真は仕方ないと思い。店先で蜂蜜菓子を売っている売り子に声をかけた。


「ねえ、蜂蜜菓子をくれないか」

「いくつ?」

「そうだな……」

(全部、買い占めだ、買い占め!!)

「そこにあるのを五つほどくれ」

「はい」


売り子が元気よく声を上げると、手早く蜂蜜菓子が入っている袋をまとめて、一真に手渡す。


(こら!高坂、我の声が聞こえているだろ、無視をするな。買い占めるのだ!)


一真は子供のように駄々をこねるゼノンの声を無視して、五袋を受け取ると代金を払い。その場を去った。


(高坂、我は買い占めと言ったはずだ)

(それだけ買っても食べれないで、ダメにするだけだ。それに金がもったいないし。あと宿に帰ったらご飯が待っているんだ、それが食べれなくなる)

(食べなくてもいいではないか!)

(態々払ったのに金が勿体無いだろう!)


そんな風に言い合いをしていると、ダンジョンの前に付く。ダンジョンにはやはり門番がいて、4,5人が並んでいた。時間帯的にお昼だからだろう、人数が少ない。丁度ダンジョンの前から人がいなくなると一真はダンジョンに入ろうと近づくと、門番が止めてくる。



「おいおい、待て待て小僧。何勝手に入ろうとしてるんだ?」


慌てる門番に引き止められる。


「ダメなのか?」

「ダメだよ、払うもん払って貰わなきゃ」

「はぁ?!ダンジョンって入るのに金払うの?」


一真は驚きのあまり声を上げてしまう。そんな話ただの一度も聞いていない。それにー


(……いや、高坂一度聞いているぞ)


ゼノンにそう言われて、一真は記憶を探ると、ダンジョンに入る最初の日に騎士団団長に入場料が必要だと言われていた気がした。随分昔のことのように一真の頭からはすっかり抜け落ちていた知識だ。


「小僧、どこの田舎もんだ?まあ、いいや。銀貨一枚とステータスカード見せてみ」

「ああ」


一真はそのまま銀貨一枚を払って、ステータスカードを門番に渡す。門番がステータスカードの裏を見ると手が止まる。


「小僧……ギルドカードは?」

「……ギルドカードって何だ?」

「……おめさん、本当にどこから来たんだ?常識知らずにも程があるだろう」


門番が呆れたように頭を抱えている。一通り頭を抱え終わると親切にもギルドカードについて説明してくれる。


「いいか、ギルドカードってのは、冒険者ギルドが発行してくれるカードだ。そのギルドカードでランクが分かる。でそれが無いとダンジョンには入れないからな。基本的にここに入れるのは冒険者だけだ」



(……確かこれも言われた気が…)

(ギルドカードについて言われたはいないが、冒険者だけが入れるとは言われてるな。)



「何でだ?」

「そう言う決まりだ、聞くな。まあ、簡単に言うとギルドの利権のためだな。ダンジョンに自由に行き来できると、冒険者ギルドの収入が減るんだよ。詳しいことは知らないから聞くなよ。冒険者ギルドはこの大通りを上がっていくと、十字路に出る。そこを右に曲がったとことにある。迷ったら人に聞け、それとこの銀貨は返しておくぞ」

「ああ」


一真は門番から銀貨を返してもらう。


「その分じゃギルドの常識も知らないみたいだから、ギルドの受付の説明もしっかり聞けよ」

「分かった」


一真は兵士に言われた通りに大通りを上がっていく。


(面倒だな、勇者の時はすんなり入れたのに)

(なら自分が勇者だと告げるか?)

(騒ぎは起こしたくない)


ゼノンの提案を速攻蹴ると、一真は早足でギルドに向かった。早足で歩いた分多くに人間にぶつかったが、一真は気にせず、足を動かした。門番が言った通り、右に曲がるとすぐに冒険者ギルドが目に止まった。


「ギルドって言うよりは食堂だな」


お昼時だからだろう、ギルドの外はテーブルがいくつも置いてあるが、そのテーブルは食事をする団体で埋まっていた。


(食堂も兼ねているのだろう、早く中に入ろう)


ゼノンに急かされて、一真はギルドの扉を恐る恐る空ける。ギルドの中にも食堂があったが、そこも満席だ。その代わり受付には誰も並んでいなかった。ギルドの受付の一人が一真に気づくと、退屈そうにしている顔を笑顔に変える。一真はそれを見て、そこに近づく。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドにようこそ。ご要件はなんですか?」

「ギルドカードを作ってもらいたい」

「分かりました、では説明を始めさせてもらいます。まず最初にギルドに所属する場合、

「ギルド規定に従ってもらいます。規定の内容については?」

「……簡単に頼む。破った途端ギルド除名になるやつとかを中心に説明してくれ」

「では説明させていただきますね。規則は、ランク10以上の冒険者は緊急クエストに強制的に何らかの形で参加すること。ちなみに緊急クエストは街の存亡に関わるクエストです。次にギルドカードの偽装などをした場合、判明次第即刻ギルドから除名され、お尋ね者なります。この場合賞金首としてギルドに登録されるので、冒険者が全員敵なると思っていてくださいね」


そういった時の受付の笑顔は、一真に軽く寒気を走らせた。面倒事は起こされたくないのだろう、と言うことは伝わった。


「他にはクエストの途中・またはダンジョンで回収した魔物の素材などは、基本的にギルドで売買を行ってください。他で売買する場合はギルドに申告をお願いします」

「はいはい」

「そうですね、後は基本的に犯罪行為が行われたら、ギルドから除名です。次はクエストの受け方とギルドに登録しているメリットを説明しておきますね。ギルドカードを見せることによって、街に入るときの税は免除されます。それとギルドでの食堂が安く利用することが出来ます」


(あれ? 俺が村に入った時に金を取られた覚えが無いんだけど?)

一真が言っている村とは、かつて蜂蜜菓子を買っていた村のことであった。あそこの村は犯罪者かどうか確認されるだけで、金を取られた覚えが無かった。

(辺境の地だからだろう)

(どういう事?)

(辺境の地は商人が来ることは少ないだろう、なのに税金を掛けてさらに商人が来ないような要因を作る領主はいないだろう。そんなことをすれば村に何も入ってこなくなる)


ゼノンが簡単に説明をしてくれる。ゼノンは以外に俗世に詳しいのだ。


「依頼はあちらのボードに張り付いています。上に数字が大体のランクを表してます」


受付が言うように上には0~5、6~9、10~20、21~30、31~50、51~、横にはSSS、SS、S、AAA、AA、A、B、C、D、E、Fと書かれている。


「基本的にランク5以上になるまでは、討伐クエスト・ダンジョンに入ることは認められないので、ご了承ください」


「え、そうなの?」

「はい。それと戦闘能力の評価ですが……上からSSS、SS、S、AAA、AA、A、B、C、D、E、Fと評価されます。評価を上げるには試験を受けてもらいます。ランクは依頼の達成・ギルド貢献を評価しています。評価は戦闘能力です」


受付は何当たり前のことを聞いているのと思っていたが、顔には出さなかった。ギルドの説明を求め時点でかなりの田舎者だとは分かってはいたからだ。


「そうか~、まあ、いいや」


一真はそう言って頭を切り替えた。ランクと評価は足りないならあげればいいだけ、ゼノンがいることだし簡単だろうと思っていた。


「説明を続けますね、クエストを決めたらあそこにある紙を取って、ギルドカードと一緒に提出してください。こちらのほうで、クエストが成功するとランクを上げさせてもらいます。クエストで失敗が続くとランクが下がってくるので、ご注意ください。クエストが終わったらクエストに書いてある討伐証明の部位などを提出してクエストが完了します。説明はこれで終わりです。ギルドカードを作るためにステータスカードの提出と銀貨一枚をお願いします」

「ああ」


一真はステータスカードを渡すと財布に手を伸ばした。


「……無い」

「え?」

「財布がない?!」


一真はそう叫んで自分の体をまさぐった。


(ゼノン、俺財布どこにしまったけ?)

(高坂は腰に括りついていたはずだが………)

(盗まれたな……有り金全部)


一真とゼノンに絶望が襲いかかってきた。





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