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35 呼び方と食事会とお父様

「へえ~、普通に美味しいね」

俺はスープを食べて胃袋を軽く満たすと、サンドイッチに手を伸ばしていた。魔族の国だから、人間の俺の口に食べ物が合うかと心配していたが、そこまで特殊な味の物ではなくて助かった。

「そう言ってもらえると嬉しいわ」

アークの顔は嬉しそうな顔に見えなかった。たぶん言葉だけで、本心では嬉しいと思っていないだろう。まあ、正直あれだけ騒ぎを起こしたのだから、嫌われても仕方ないだろう。

「それで俺はこれからどうすればいい?好き勝手にこの屋敷を歩き回って良いって訳じゃないよな?」

「当たり前でしょう! 取り敢えずこの部屋に軟禁です。カズマはこの部屋から出ないでください」

アークはそう言うと部屋を出て行ってしまった。

「待てよ、アーク!………あれ?いつから俺のことを一真って呼んでる?」

俺は首を傾げて考える。

(魔王の話が終わってからだな)

(そうなの?)

(高坂は気づいていなかったようだが、そうだった。確認するために記憶をー)

(覗かなくていい、別にそこまで気になることでもないし)

(気にならないのか?!)

ゼノンが驚いたように問いかけてくる。

(いいか、年頃の娘が男の名前の呼び方を変えたんだ。胸がときめかないか?)

(別にそこまで深く考えてないだろう?)

(そんなことはない!乙女の心は繊細なんだぞ)

ゼノンは俺に熱く語りかける。少し前にゼノンの記憶を見せて貰ったが、ゼノンはかなりのプレイボーイのようで、幾人のもメスドラゴンと付き合っていたのだ。子供も沢山作っているらしかった。取り敢えず恋愛経験豊富だと言うことは知っている。

(ここで好きになって貰っても困る。俺は元の世界に帰るんだぞ)

(う、うむ、その通りだな)

ゼノンが意気消沈する。そんなにこいつは俺とアークにくっついて欲しかったのか? 正直色恋沙汰が好きなだけだと思う。思春期の少年少女のようだ。


「お昼までは暇だな」

(寝てればいいだろう、好き勝手に行動する訳にもいかない)

俺の独り言にゼノンが答えてくれる。確かにゼノンの言う通り、この部屋を勝手に移動するわけにも行かないし、することもない。

(それもそうだな)

俺はゼノン言う通り、ベッドにダイブした。このベッドもふかふかして寝やすかった。俺はすぐに眠りについた。ゼノンも疲れていたようで、俺に眠ることを勧めていたようだ。




俺は突然目が覚める。どうやらゼノンに起こされたようだ。

(どうした、ゼノン?)

(来客のようだぞ)

ゼノンにそう言われて、俺はベッドから体を起こす。

「誰だ?」

俺がドアに向かって叫ぶと、扉がゆっくりと開けられる。

「し、失礼します。タカサカ カズマ様」

扉の外には俺によりもふた回りほど小さいメイドが立っていた。見る限り、メイド見習いにしか見えなかった。当然全身真っ黒で戦闘態勢だ。

(面倒事を押し付けられたようだな、このメイドは)

ゼノンが気の毒そうに呟く。正直ゼノンがこう言う事に気づくのは長年の人間との関わり合いと恋愛経験だろう。

「なんだ?」

「その、旦那様が大食堂で一緒に食事をしないかと」

「分かった、案内してくれ」

俺はベッドから降りるとメイドについていく。メイドは俺に背中を見せることを恐れているようで、歩いていてもチラチラと後ろを歩いている俺を見てくる。 

「心配するな、襲ったりなんかしない」

「いえ、そのようなことは決して思っていません」

メイドはそう言うがどう見てもガチガチで、ビビっているのが見え見えだった。そもそも全身を真っ黒にしている時点で分かる。

「心配するな、怖がるなって」

「だってあのリーア様を倒したんですよね! 怖がるなっていう方が無理なんです!」

メイドは泣きそうな声を上げて訴えてくる。

「リーアはそんなに強いのか?」

「少なくても一般魔族よりは強いです! ましてはメイドの見習いの私なんかより……」

「メイドに戦闘が関係あるのか?」

「人間のメイドは知りませんけど、魔族の世界ではメイドは主人を守るために戦闘も出来なければいけないんです」

「大変だな」

俺らの会話が終わる頃に大きな扉の前にたどり着いた。

「ここが?」

「はい、ここが食堂でございます」

メイドは調子を戻したようで、冷静に返答して、扉を開けると、とんでもない広い部屋とテーブルが視界に入る。そのテーブルにはアークとシャン、それとご両親だと思われる二人の男女。

「君がタカサカ カズマ君だね。娘と息子を助けてくれて、本当に助かった」

「お父様?!」

「父様!」

二人の驚き様から頭を下げたことが、とんでもないことだと分かる。

「あなた、一体何をしてるか分かってるの?!」

「息子と娘を助けてくれた恩人に僕を言っているだけだが……何か問題があるか?」

「だって、あたな相手は人間ですよ!!」

ヒステリックに女性が叫ぶ、彼女がアークの義理母なのだろう。

「そうだ、彼は人間だ。人間の彼が魔族を助けてくれた一方。同族の誰かは私の娘を死地へ送り出した」

「そ、それはー」

そいつは義理母だろう。つまりすでに父親にはこいつにしたことはバレているという事だろう。流石にそれには怒り心頭なんだろう。

「後で話がある、分かったな」

「は、はい」

義理母は顔が真っ青だ。父親の方はこのいじめには関与していなかったようだ。

「まあ、タカサカ カズマ君席についてくれ、何、気にすることはない。気軽に席についてくれ」

俺はアークの隣の席を一つ開けて座ろうとすると、メイドがすぐ来て、席を引いて俺を座らせてくれる。

「ひとつ聞いていいか?」

俺は食事にも手をつけず質問をする。

「何かね?」

「どうしてあんたは肌の色を黒くしていない」

ここにいる魔族は全員肌を黒くしているが、こいつだけ肌を黒くしてなかった。

「魔族には白い肌を敵に見せることは恥だと言う常識があるんだ。そのため敵である人間の君には白い肌を見せないでいる」

「ならなんであんたは俺に見せている?」

「娘と息子を救ってくれた恩人にそのような失礼なことは出来ないと思ってね」

「律儀だな」

「こう言う性分でね、流石に他の魔族にまでそれを押し付ける訳にはいかなくてな……さあ、食事を頂くとしよう」


こうして俺達は食事をし始めた。正直俺たちの世界にテーブルマナーがあるのかと思ったが、周りを見る限り特には無いように思えたので、適当に食べ始めた。サラダから食べ始めたが、味は良くも悪くも普通だった。だがお肉を口にしたときは驚いた。お肉は全てが柔らかくて、口の中で溶けるようだった。俺は思わずお米を探してしまった。


(お米が欲しい、お米!!)

(この肉凄まじく美味しい!なんなんだ、この肉は!!)


俺とゼノンは心の中で絶叫しまくっていた。


「どうかな?この国名産のお肉は?」

「お、美味しいです」

俺はそう呟くと、また肉を口に入れ始める。


(本当になんだ…このお肉は美味しすぎだろ)

(タカサカ、このお肉なんの肉か聞いてくれ!)


「すいません、このお肉なんの肉ですか?」

「これかね?これは牛のお肉だ」

「牛の肉がこんなにも旨いとは思いませんでした」

「ハハハ、そんなに喜んで貰えるとは光栄だよ」


(牛の肉がこんなに上手くなるのか!? いままで牛を食らってきたが、こんなに旨いものになるとは思わなかったぞ。人間の街で食べた肉もなかなかだが、魔族に牛の肉は格別だな! これは調理すると言う行為が、馬鹿に出来なくってきた)


ゼノンはテンションが高くなって、おかしくなっていた。まあ、ゼノンはいままで生のまま食べてきたのがほとんだ。調理と言うことをしてこなかったからだろう。まあ、現代の食事で舌が肥えている俺でもうまいと言う一品だ。ゼノンがこんな風になるもの納得だろう。


俺とアークの父親は適当に喋り、その日の食事会はお開きになった。




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