34 神と魔王と神殺し
「このカーテンにより、神々に見られることは無くなったな」
魔王が部屋を見回すようにして、カーテンが部屋をしっかりと覆っていることを確認する。
「さてこれから話すことは外で話すのはおすすめしない。天使と戦って勝てるなら別だがな。まあ天使に勝てるとしても神には目をつけられる」
魔王がそう言うが、俺は魔王の言っていることの意味の半分も理解できなかったから、はそのまま話を進めさせた。質問は話が全部終わってからの方が良いだろう。
「まずこの世界の神を知っているか?」
「神の名前は……」
(アルティースだ。アルティース)
(サンキュー、ゼノン)
教えてくれたゼノンに礼を言って答える。
「アルティースだ」
「そう、俺たちを創りし創造主だ。俺たち魔族は最初に作られた種族だった。素晴らしい肉体を貰い、知識を貰い、土地を貰った。俺達の祖先は敵対種族がいない状態で文化・技術も素晴らしく進歩した。そして神は新たな種族を生み出すことに着手していたが、祖先は無事進化していった。だが祖先達はとんでもない真実を知ってしまったのだ」
俺は取り敢えず黙って聞くことにした。
「アルティースの最終目標は他に異世界に進出して、侵略することだ。そして自分達はそのために作られたということ。そしてその結果が凄まじいことが起こることが分かった。貴様の世界とこちらの世界が融合することになる。向こうの世界の大地とこちらの世界の大地が融合する。まあ、これによって貴様の世界に帰れないことは無いだろうが……元の世界のままでは無いだろう」
魔王はそこまで言うと一旦言葉を切った。
「祖先はそれを知った結果、神にバレぬように神の目を欺く技を魔術を生み出し。神を封印する術を生み出した」
「殺さなかったのか?」
俺が魔王にした初めての質問だ。
「仮にもこの世界を創造した神だ。殺すわけにはいかぬ」
魔王は苦虫を潰すような顔で答える。
「そしてこの計画は半分は成功したが、半分は失敗した」
「どういう事だ?」
「アルティースを封じることは出来た、半分だけだが。これによって異世界に行くだけの力はアルティースには無くなった」
「ならこれで解決じゃないか?」
「神はそんな簡単に諦めるわけが無かろう。神の半分になった力でも神は神だぞ。天使と人を使い魔族と戦争を起こさせた」
「でどうなった?」
「俺たち魔族はそれも考えて対策をしていた。封印を守りきり、攻撃を凌いだ。そして神の力はその戦いで少し減少した」
「なら問題ないじゃないか?神はもうあんたらには勝てないだろう?」
「貴様は自分の存在を忘れていないか?」
「俺ら? 神にも勝てないのに、なんで俺たちに勝てるとでも思ってるの?」
俺が呆れたように言うと魔王が真顔で答えてくれる。
「ああ、神は勝てると思っているし、我らも負けると思っている。貴様の世界では極希に神に勝てる人間がいたはずだ」
「そんな馬鹿な。俺達は神と戦ったことがあるどころか、神すら信じていない人間だって多いんだぞ」
「だが貴様の世界の古き文献には出てくるだろう、神殺しが……」
「………………確かにギリシャ神話とかで聞いたことがあるが……あれが本当だとでも言うのかよ?」
「少なくても俺たち魔族は、異世界から来た住人の話と強さを考えてそう推測した。そして貴様ら過去の神殺しの力を受け継いでいる」
「おいおい、そんな力持っているなんて自覚したことはー」
「スキルだ。貴様も持っているはずだぞ、能力に差があれど特別なスキルが」
魔徳、吸収、分離
確かに俺が持っているスキルには特別なものがあった。だけどそれが神殺しの力だと言うのか………。
「そして魔王を殺させるために異世界人をこちらに呼び込むんだ」
「……あれ? なんで魔王を殺す必要があるんだ。だってその神様の封印を解けば良いんだろう? だったら態々魔王と戦わなくてもー」
「俺の異様な力を見て不思議に思わないか? 他の魔族より強さが違いすぎないと思わないか?」
魔王は不気味な笑み浮かべて笑いかけてくる。
「まさか……」
「俺の体には神の半分を封印してある。そのお陰でこの強さといくつかの能力が使える。嘘を見抜ける能力もその一つだ」
「すごいな」
「だがメリットもある。寿命が普通の魔族の半分ぐらいに縮む。それに体に半身とは言え神を封印する。並みの精神と肉体では封印の器にはなれない。そして器の寿命が近付くのに合わせて、神は勇者を送り込んでくる。上手くすれば器を変える時に妨害できる。そして、器を新しくすると馴染むのにも時間が掛かり、すぐには勇者と戦闘を行うことも出来ない」
俺は今とんでもないことを聞かされている。これは絶対に機密情報だ。
「そう機密情報だ、ここで聞いたことはみだりに外で話すな」
「それを狙われて攻撃されるからか?」
「それもあるが……神に目をつけられ、危険人物と判断されたら天使に殺される。今の貴様では天使に簡単に殺されるだろう。ここには結界を張って神に見えない様にしている、安心しろ」
魔王はそう言うって笑みを浮かべる。
「話はこれで終わりだ」
「ちょっと待って、お前を殺さないで元の世界に変える方法を教えてくれるんじゃ無かったのか?」
「すまないな、公務が立て込んでいる話はまた次の時だ」
「おい、待ってー」
俺の横をさっきと同じ攻撃が過ぎ去っていった。今度は俺の目にも微かだが見えた。
「俺は忙しいと言ったんだ。二度も言わせるな。……マルバス・アーク・リーア命令だ、しばらくこの男の面倒をお前の家で見てやれ、命令書が必要なら後で要請しろ、書いてやる」
そう言うと部屋から追い出された。
「取り敢えず、お腹空いたんだけど」
「知らないわよ、全くなんで私があなたの面倒なんて見なきゃいけないのよ」
「魔王の命令だからな。頼むよ、アーク」
「……はあ~、仕方ないわね、魔王の命令だもの。だけど家に中で不用意にものを食べないでね。毒物が混入されているかもしれないから、緊張感を持って生活してね」
そう言うとアークは馬車に乗って、俺もその後に続いて馬車に乗った。
「姉様お帰りなさい!」
アークの家に帰って出迎えてくれたのは、アークの弟であるシャンだった。満面に笑顔を浮かべてアークに抱きついている。
「でその人間はなんでいるんですか、姉様?」
シャンがアークに抱きついたまま、俺のことを睨んでくる。アークに対して打って変わった態度だ。
「おい、そんな態度を取ることもないだろ。少しの間この家に住むんだから」
「……姉様何を言ってるの? この人間は」
シャンはトチ狂った人間を見るような目で見てくる。
「少しの間、カズマを面倒見ることになったの」
「馬小屋で寝かせよう、姉様」
「おい!」
シャンの容赦ない提案にはツッコミを入れざるを得なかった。馬小屋なんかで生活はしなくないぞ。
「魔王様の命令よ。流石にそんな所で寝かせられない」
「魔王の命令じゃなかったら馬小屋に寝かせる気だったのか?!」
「まさか、倉庫に寝かせるつもりよ」
「大して変わらないような気がするんだけど?」
「布団は持ち込めるわ」
アークが何でもないように言ってくる。俺としては同居人が馬から埃に変わっただけだろう。どっちのほうがましか考えるが、正直どっちもごめんだな。
「頼むから普通の部屋で寝かせてくれ」
俺の懇願は聞き入れられ、普通の客室に案内してもらった。
「案外普通だな。人間の部屋と変わらない」
床には絨毯が敷き詰められ、ベッドは天蓋付き、風呂までついてる至れり尽くせりだ。
「いいのか?この部屋…」
「まあ、一応和が家の次期当主を救ってくれたことだし、これくらいはしてあげたいと思ってる」
「ふ~ん、取り敢えず何か食べ物が欲しいんだけど……」
「用意してくるわ、カズマはそれまでテーブルの上にある果物でも食べてて」
アークのそう言うと駆け足で出て行った。アークと共にシャンも駆けていく。俺は大人しく椅子に座って果物に齧り付く。見たことがない果物だった。
(知ってるか? ゼノン)
(いや、我も知らぬ。ここ特有の果物だろう。しかし、魔王との対面はひやひやしたぞ。いいか、高坂。お前の命はお前だけの物では無い。お前が死んだら我も死んでしまうのだぞ。軽率な行動は控えてくれ)
(悪かったよ、ゼノン)
俺はそう言うと果物を食べ続けた。喉も乾いていたのでちょうど良かった。
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「姉様、料理どうするの?」
「私が作るわ、簡単なものなら私でも作れるし」
「姉さまが作るの?!」
シャンが驚いたように声をあげる。当たり前だ、こういう時はメイドや料理長に作らせるのが普通だ。
「他のメイドは人間相手に料理を作るのを嫌がるでしょう」
リーアはそう言うと、掛かっていたエプロンを付けて料理を作り出す。
「姉さまは嫌じゃないの?」
「別に嫌じゃ……違う、違う、嫌だけど。でも魔王の命令だから! それに毒でも混入して死なれても困るし……」
シャンに嫌だとリーアは言っていたけど、シャンはとても姉さまが嫌がっているように見えなかった。だけどシャンはあえて指摘しなかった。リーアは作り置きがしてあるスープを温めながら、サンドイッチを作り始める。スープが温まる頃には、サンドイッチが出来上がって、持っていけるようになっていた。リーアはそれをスープ皿にスープを移して、サンドイッチを一口サイズにして、一真の所に持っていった。




