30 偵察と城塞都市と問いかけ
俺たちはギブリの背中に乗せてもらい、その町の近くまで来た。街の周りはレンガで囲われて、本格的な要塞都市だった。しかもー
「見張りが多いな、これは安易に近づくことは出来ないぞ」
見張り台、入口、城壁の上にまで兵士がいる。これはアークにとっても想定外だったようで、舌打ちをする。これでは弟を救出したしても魔法と矢で蜂の巣にされてしまうだろう。
「これは空から急降下して、そのまま弟君を救出するのが理想ですね。スピードが重要です。弟君の居場所と兵士の配置が知りたいですね」
ギブリがそう言って街をみるが、城壁の上にいる兵士が邪魔して近づくことが出来ず、ここからでは中の様子を見ることが出来ないだろう。
「それで俺に中の様子を見て来いと」
「その通りだ、人間。察しがよくて助かる」
「分かった、行ってくる。お前らはここから動くなよ」
俺はそう言うと都市の門に向かいたかったが、一直線に歩くと森の中から急に門の前に出たら怪しまれる。だから一旦大きな道に出て、そこから向かうことにした。門番に見られても厄介だ。少し遠回りなるが、仕方がない。
「はい、カード見せてね」
門番に止められる。この時のカードとは定期入れに入っている。一真は定期入れからステータスカードを出して見せた。門番は何かノートを見て一真の名前を確認している。ノートには犯罪者や要注意人物が書かれているのだ。
「じゃあ、銀貨一枚払って通っていいぞ」
これは税金だ。冒険者であれば税金を払わなくて良いのだが、一真は冒険者では無いので支払って、街の中に入る。街の中ではローブ姿の一真は多少目立ったが、問題は無いレベルだった。一真は買い食いをしながら街を回ることにした。これなら多少視線をあたりに飛ばしても、売店を探してる風に見えるだろうと、考えてのことだった。
「じゃあまず最初はー」
(蜂蜜菓子!!)
「……分かったよ、ゼノン」
ゼノンが心の中で叫んだので、俺は蜂蜜菓子をひと袋早速購入した。値段は前にいた村より安く買うことができた。
「もぐもぐ」
一真は一通り都市を一周した。この都市には門が四つあり、そこには多くの兵士が見張りに立っている。中には入るのは上空からだから、そこまで問題にはならないだろう。公開処刑されると言う事だから目立つ場所で行われるだろう。街の中心に行けば処刑台が見られるはずだ。住民の処刑に関する話も耳に入れたが、かなり人数が見学に来るようだ。
「聞いたか聞いたか?!そう言えば勇者も立ち会うらしいぞ」
「そりゃそうだろう。なんせ今回の魔族を捕まえたのは勇者様だぞ。お前の情報は遅すぎる」
「?!」
(厄介なことになりそうだな、高坂)
(そうだな、どれくらい強くなったか知らないけど。魔族を生け捕りするぐらいの強さは持っているらしい)
(本当にそうなら処刑前に救出するのが理想だな。たぶん死刑にだけ勇者は立ち会うのだろう。魔族の見張りまでやっていないはずだ)
(ならどこに捕らえられているか探すべきだな。それと処刑場様子を見ておけ)
(分かってる)
まずは処刑場見に行った。処刑場にはすでに多くの人が詰めかけていた。全員魔族の殺される様を見に来たのだろう。処刑台の周りもの騎士がいて、人を近づけさせないようにしていた。処刑台は人々から見えるように高く作られている。それ以外は特に変わったことは無かった。
(たぶん魔族が捕らえられているのはこの周辺だろう。魔族を移送するのにリスクがあるだろう。処刑台の周辺で警備が厳しい建物に魔族が捕らえられている可能性が高いだろう)
(分かった、調べてみる)
一真はゼノンに言われた通り、あたりの建物を探ってみるが、どの建物にも見張りがいる様子は無かった。
(いないな、どうする?)
屋台で売っている串肉を買って、食いながらゼノンに相談する。
(下手に建物の中に入って、計画がバレるは、まずいだろう。ここは一旦引け、我らの役目は終えた)
ゼノンの助言に従って、俺はアークの元に戻って情報を伝えた。
「と、俺は持ってきた情報はこれぐらいだ。これで大丈夫か?」
「フン、人間にしはちゃんと情報を持ってきたな」
このクソグリフォン本当に腹が立つ。
「だけど勇者がいるのは、結構問題ね。すぐに逃げれば問題ないかしら。どう?ギブリ出来そう?」
「先にリーア様が処刑場に降りて、弟君の自由を確保。それと同時に私が急降、二人を乗せて急上昇すれば問題ないかと。一度地面に着地してしまうとすぐには飛び立てません」
「分かっているわ」
アークとギブリが作戦会議を始めたので、俺は街で買ってきた串肉や焼き菓子などをゼノンと一緒に食べ始めた。
(この姿になって一番良かったのは、バリバリ、しっかりとお菓子の味を堪能出来るようになったのだ。モグモグ、大きかったことは小さすぎて味を感じなかったからな)
ゼノンが美味しそうに食べる。俺も同じようにお菓子を食べる。俺も久しぶりに味のあるものを食べて、食べる手が止まらなかった。
「それじゃ私達は行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
俺は食べる手を止めないまま、一人と一匹を見送った。
(様子を見ないのか?)
分厚いステーキ肉を葉っぱで挟んだ物を食べながらゼノンが聞いてくる。
(う~ん、今はいいかな。すぐに救出することは無いだろう。まず処刑場に魔族が現れないと救いようがないからな、これを食べたら見るよ)
俺はそう言って果物を口に含む。初めて食べる果物だが、酸味が強い。少しずつ食べていった。
「ごっくん」
俺は最後の一欠片を飲み込むと立ち上がり街の方を見つめた。流石に人間の瞳ではこの距離で状況を掴むことは出来ない。なのでドラゴンの目を使おうとするが、使えないゼノンが使うのを邪魔してるのだ。
(ゼノン?)
(『ドラゴンアイ』と叫んでくれなければ出さない)
(今度はなんの漫画に影響されたんだ?全くいい加減にしてくれよ)
このドラゴン俺の中にある漫画、小説、アニメ、ゲーム、ドラマとこの系統の娯楽を貪り、時たまそれに影響されて俺にこういう事を言ってくるのだ。
(分かったよ、はぁ~)
「ドラゴンアイ」
俺のその言葉と同時に俺の目がドラゴンの目に変わる。ドラゴンの目は街の細部とまでは言わないが、処刑場の様子ぐらいは見える。その上空にはアーク達が旋回して、弟が出てくるのを待っているようだ。
(やはり、処刑場の周りには兵士がいるな、勇者の姿は見当たらないが………民衆の中に紛れているのか?)
(それはここからじゃ分からないだろう、ここからじゃしっかりと民衆の顔の見分けが、つか無い訳じゃないしな。ゼノンは見えるのか、顔?)
(高坂が今見えてる程度には見える)
じゃあ顔の判別は無理だな。俺は総結論付けると、視線を処刑所に戻した。すると処刑所には真っ黒い肌の男が処刑場の階段を登らされていくのが見えた。あれはアークが言っていた弟だろう。俺から見えたと言う事は上からも見えただろう。俺が上空に目を向けると、アークがギブリから降りる。そのまま処刑場まで真っ逆さまに落ちていく。処刑所の直前で落下スピードが落ちて着地する。混乱している兵士を蹴散らすと、剣で弟を縛っている鎖を切り裂く。それと同時にギブリが急降下してくる。アークは弟を抱えてギブリの足を掴んだ。そのまま上昇すれば逃げれるだろう。
処刑場の床が光る。
(魔法陣だ)
ゼノンが呟く。それと同時に魔法陣から鎖は伸びていく。鎖は弟とギブリの体に鎖が絡みつく。そして余った鎖がギブリの足を掴んでいた手首に絡みつく。鎖は目標を捉えると縮んで処刑場の床に縛り付ける。ギブリは地に落ち、アークの手も床にくっついた。
(捕縛用の魔法だな)
(このままじゃあいつらは死ぬな)
混乱が収まるとすぐに処刑場に兵士が登ってくるが、そこは流石魔族と言うべきが、登ってくる兵士の攻撃を剣で捌き、攻撃して処刑場から落としていく。
(どうするのだ?)
ゼノンが助けるかどうか聞いてくる。




