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28 グリフォンと魔族と思い出


深い森の中、ハイウルフマンが殺した魔物の肉を食らっていた。ハイウルフマンはウルフマンの上位互換のような魔物だ。単純にウルフマンを強化しただけの魔物なので、冒険者が自分のレベルを確かめるために戦う魔物のとして有名だ。ハイウルフマンは魔物の肉を食べるのをやめて、あたりを見回す。ハイウルフマンの五感で、あたりに何か生き物が居ることをと言う事が分かる。すると観念したように黒い服に身を包んだ人間が出てくる。いつものなら人間は敵として認識しているハイウルフマンは襲いかかるのだが、なぜか敵意を抱けなかった。不思議に思ったが特に考えず、ハイウルフマンは鼻を鳴らして、食事を再開した瞬間目の前が暗くなった。




(やっぱり敵意ないやつを殺すのは抵抗あるな)

(じゃあ、やめるか?)

(いや、食料も必要だし、それに強くなるためにも魔物を吸収しなきゃいけない)

俺とゼノンは心の中で会話している。精神同士の会話するのも、上手く出来るようになってきたのだ。そう言うと腕の先から出たゼノンの顔がハイウルフマンの体を食らう。

(手足は残してくれ、吸収するから)

(分かっている)

俺はゼノンが残したハイウルフマンの手足を吸収して具合を確かめた。そこで俺は他の魔物を生きたまま吸収すれば良いのではないのかと思った。

(やめておけ)

(どうしてだ、ゼノン?魔力も増えて良い事尽くめだと思うんだけど……)

(その生きている魔物が高坂に反抗したら、殺されることになるからだ)

そう言うとゼノンの腕が俺の腹の辺りから飛び出て俺の首に触れる。

(こんな風に内部から殺される事になりかねない、せめて言葉がわかる程度の知能があるやつだと良いだろう)

ゼノンの手が俺の首から離れていく。

(分かった)

(分かれば良い。………結構吸収したな、もう良いのではないか?高坂)

(そうだな、もう一通り使える物のストック出来たしな)

俺の体の中には使い捨てにしても良いくらいに、魔物からだがストックされている。

(そうだな……あとは翼を吸収しよう。今は我が翼をコントロールしているが、高坂が自分で飛べるように練習するために)

(そうだな~、そうするか)


俺とゼノンが空をキョロキョロと見て、飛んでいる魔物を探す。三分ぐらい探していると、丁度空を飛んでいる魔物を見つける。

(ラッキーだな、あれはグリフォン)

俺からは何かが飛んでいることしか分からなかったが、ゼノンには正体が分かったようだ。流石ドラゴンの目と言うものだろう。

(我がやってしまっても良いか?)

空中に関してはゼノンが翼を操作してくれなければ、空は飛べない。それにグリフォンという事なので飛ぶスピードも速いだろう。ゼノンに全てを任せたほうが良いだろう。

(ああ、頼む)

俺はそう言うと、自分の腕を引っ込め、ゼノンの腕と交代した。ゼノンの頭は俺の背中の辺りから首から生えている。

(飛ぶぞ)

ゼノンのその呟きと共に浮遊感が俺を襲う。グリフォンはいる場所をより上空に飛び上がると、グリフォン目掛けて急降下する。

「うわああああああああああ!!」

俺は思わずそのスピードに叫び声を上げてしまう。あまりの向かい風に目を瞑る。正直異世界でスカイダイビングの真似事をするとは思わなかった。落ちる途中で何かに当たる音がする。たぶんグリフォンを空中で落としたのだろう。

(このまま地面に落として殺す、もう少しで地面に着地する。3、2ー)

目をつぶっている俺にゼノンが説明してくれる。カウントダウンが途中で止まり体に衝撃が走る。

「どうした?!」

俺が驚いて声を出して聞くと同時に地面に叩きつけられた。ゼノンが咄嗟に翼で体を守ってくれたので、怪我はしなかったが、地面に落ちた衝撃で息が上手く出来なかった。

「高坂、大丈夫か?」

(ああ、何とか)

声を出すことが出来なかった俺は、心の中で返事をした。

「ごほごほ」

(一体何があった?)

「わからん、何者かに空中で攻撃された」

目を開けて俺は立ち上がって辺りを伺った。

「攻撃してきた奴は見当たらんないぞ」

「攻撃してきたんだ、どこかで隠れて様子を!息を止めろ」

ゼノンは俺にそう言うと体を翼で覆った。それと同時に翼越しに熱を感じる。たぶん炎の魔法で攻撃されたのだろう。ゼノンは息を吸って俺が肺を火傷しないように息を止めろと言ったのだろう。ドラゴンの翼越しに熱を感じるとは相当な熱量だ。

(すまない、やはりこの体では戦いににくい。交代してくれ)

ゼノンは俺の体を動かすことが出来ないので、地上戦は基本的に俺がすることになっている。

(分かった。炎が引いたら翼を引っ込めろ。後は俺がやる)

(攻撃は真後ろから来ている)

(分かった)

熱が引いたのを感じたらすぐに翼が引いた。俺は同時に真後ろにダッシュをして攻撃元を叩こうとした。真後ろには草が生えていて視界が悪かったが、構わず飛び込んだ。体が何かにぶつかるのを感じた。俺はそのままそいつの体を掴んで地面に押さえつけようとした。


ザシュッ!


脇腹に凄まじい痛みが走る。

(大丈夫か?!)

その痛みはゼノンにも伝わったらしくて、慌てて聞いてくる。両腕を斬られた時より痛い。たぶんあの時はアドレナリンが出ていて、痛み感じにくかったのだろう。俺は刺された脇腹の痛みに耐えることに必死で、相手に反撃を許してしまう。傷口からナイフを抜くと同時に腹を蹴飛ばされて体が中に浮く。俺はそのまま後ろに下がって距離を取った。

「くっそ」

ゼノンの翼を出すために、上半身のローブをはだけさせいたから、ナイフが刺さってしまったのだろう。このローブならナイフぐらい防いでくれるはずだ。俺は服を着直した。

「はぁはぁ」

俺はそこで敵の姿を始めて見た。黒い肌、黒い髪、黒い瞳、黒いマント。全身黒尽くめだ。いや、一つだけ暗くないものがあった、真っ赤に染まっているナイフだ。あれは俺を刺したものだろう。

(おい、あれは……)

(魔族だな)

俺の質問にゼノンが冷静に答えてくれる。正直こんな所で魔族に会うなんて思わなかった。俺は刺された部分を抑えて出血を抑えながら治していく。ゼノンの魔力を使えるので、すぐに傷が治った。

(相変わらず、高坂のその集中力には感嘆する)

(……………)

魔族は俺を刺したナイフを、軽く振って血を落とすと懐に戻してレイピアを抜く。俺もそれに倣ってアスカロンを抜いた。だが剣術のレベルの差は歴然だった。剣を三回ほどぶつけ合っただけで分かった。たぶんゼノンの腕力を使って斬り合っても勝ち目は無いだろう。

(剣術じゃ太刀打ち出来ないぞ。魔法だ、魔法を使え!)

ゼノンが焦ったように叫ぶ。俺は何を焦っているんだと思っていた。このローブを来ている限り斬られる事は無いだろう。だが次の瞬間理由が分かる。

(確かにそのローブなら斬られる事は防いでくれるがー)

目の前から魔族の姿が消える。

(衝撃を防いでくれる訳じゃないんだぞ!)

俺の腹に衝撃が走る。体が勢いで吹っ飛ぶ。その衝撃でアスカロンも手放してしまう。



「いててて」

俺は腹を押さえながら体を起こす。魔族は俺が気を失っていないことに驚いているようだった。

(危なかったな)

(た、助かったよ)

俺の上半身は顔以外ゼノンの鱗で守られていた。先程の衝撃を緩めてくれたのだ。ゼノンの咄嗟の判断で鱗を生やしてくれたのだ。

(あいつさっきより速く動いたな)

(当たり前だ!まずは相手の戦闘スタイルやレベルを確かめる、その後本気を出して戦うんだ。これは戦闘の基本だぞ?)

(んなこと知らねえよ、俺は)

俺は不貞腐れたように答えると目の前の敵に集中する。『剣術三倍段』漫画なんかでよくある言葉だが、実際相手が剣を持っている分、接近戦では相手の方が有利だ。ゼノンの言った通り魔法で戦闘した方が良いだろう。だけど動きが速いから下手な魔法だと当てるのが大変そうだ。たぶんあの技が一番良いだろう。この膨大な魔力が無ければ出来ない技だけどな。魔族が腕を引いて剣を構える。レイピアと言う武器を考えれば当然の構えだ。俺は目の前から魔族の姿が消えたと同時に魔法を使った。


水壁すいへき!」


俺の目の前に水の塊が出現する。この技はあの闘技場で俺がやられた技だ。俺の素早い足を止めるために、周りを水で満たす。だけど俺のは規模が違う、何て言ったってドラゴンの魔力を使った魔法だ。厚さは5メートルぐらいあり、幅は10メートル、高さは2メートル。10万リットルって所かな? もはや壁と言うより箱だな。

(随分と贅沢な魔力の使い方をしたな)

ゼノンが呆れたように言う。

(まあ、これで倒せただろう)

水の中にはさっきの魔族が捉えられている。水の中から出ようとジタバタとしているが、咄嗟のことで何が起こっているか分かっていないようで、すぐに口からブクブクと泡を出して、意識を失う。

(あと2,3分はこのまま魔法を維持かな)

俺がそう思っていた所に何がか飛びかかってくる。

「何だ?!」

俺は転がりながら立ち上がりぶつかってきた物体を見た。

「グルル!」

そこには翼を血に染めたグリフォンがいた。たぶんあの飛んでいたグリフォンだろう。ゼノンの攻撃でグリフォンの翼は傷ついて飛べる状態では無かったが、それでもまだ襲いかかってくる元気があるようだ。俺はグリフォンに攻撃されたせいで、魔族を閉じ込めていた水壁の魔法が解けてしまった。

「グルル!!」

グリフォンは唸り声を上げて遅いかかかってきたが、翼に傷を負っていることもあって、動きが鈍かった。

(ゼノン)

(分かった)

俺の手の平から更にゼノンの腕が生えて、グリフォンの体をがっしりと捉える。

(捕まえたな)

(このまま握り潰すぞ)

メキメキとゼノン腕を通してグリフォンの骨が軋む音が分かる。グリフォンは必死にゼノンの腕から抜けようと体を動かすが、ドラゴンの手から逃れることは出来ない。

「その子から手を離しなさい!!」

いつの間にか意識を取り戻した魔族だ。

「ハァハァ、出なきゃこれを放つわよ」

魔族の手には特大の炎の玉が出来上がっていた。だけど息が荒く、意識を保っているのもやっとのようで、炎の玉が揺らいでいる。

「もう一度言う、離さないぉ……」

特大の炎は消え去り、魔族が倒れる。

(倒れたな)

だがゼノンは何を考えたか、グリフォンから手を放してしまう。

(おいおい、何放してるんだよ!)

グリフォンはゴホゴホと咳き込んでいる。すぐには俺を攻撃してくることは無いだろう。

(殺したくない)

(はぁ?!何言ってんの?)

俺の頭にある記憶とイメージが飛び込んでくる。それはあの洞窟の騎士団と戦った事だった。

(あの魔族とグリフォンを俺たちに重ね合わせているのか?)

(……ああ、そうだ。)

(ゼノンお前そんな理由で!?)

(そんな理由でだ)

ゼノンの言葉に怒気が含まれるのが分かる。ゼノンの心を通して、あの出来事がゼノンにとって大切な思い出だと言うことが伝わるが、俺にはそんなことを関係ない。

(分かった、だけど俺は殺すぞ)

(させると思うか?)

ゼノンの腕が俺の腕を掴み、動きを止める。

「ふざけるのも大概にしろよ、ゼノン! あいつらは俺を殺そうとしたんだぞ!」

「我らが先に殺そうとした」

ゼノン顔が生えて俺と睨み合う。結果ー


「分かったよ」

俺が引いた。正直ゼノンが邪魔をしたのでは、俺に勝ち目は無いのだ。

「すまないな」

「いいよ、それにより二人を運ぶ」

「え?」

俺の発言を意外そうな顔をするゼノン。

「こんな所にほっとく訳にはいかないだろ」

「くくくく、優しいな」

「うるせい」

結局何だかんだで、お互いにお人よしと言う事だろうか?

俺はそう言うと女の方を担いだ。グリフォンの方は付いてくるように言うと、警戒しながらも付いてくる。これも魔徳の効果だろうか。






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