25 尻尾とゼノンと騎士団
「へっくしゅん!うう、さみ~」
俺はマントで体を包んで焚き火の前で体を温めていた。
「風邪か?」
「ああ、たぶん。この前村に行った時に風邪を貰ってきたらしい」
俺は鼻をずるずるさせる。取り敢えず体温めて寝ようと考え、焚き火に近づいてく。
「これを着てみろ、暖かいはずだ」
ゼノンは尻尾で何かを引っ掛けると、俺の顔目掛けて服を飛ばしてきた。
「わっぷ……何これ?」
「服自体が熱を有している服だ。どうしても卵から離れなければいけない時に卵を温めるのに使っていた。暖かいはずだ」
「ふ~ん」
俺は早速その服を着た。見た目はそれほど暖かそうには見えなかったが、来てみると服が暖かいのが分かる。ホッカイロよりは三段階くらい温度は低いけど、常時着ているには、これくらいの温度でなければ、低温やけどをしてしまうだろう。
「暖かいな。じゃあ寝るから」
俺はそう言うとそのまま地面に寝転がった。地面の冷たさは特に気にはならなかったが、地面の硬さがやはり眠りにくかった。
「ううん」
俺は喉の渇きで目が覚めた。俺が起き上がって水を飲もうと歩くとこけてしまった。
「イッテー!なんだ?」
何に足を引っ掛けたかと見ると、そこには金色の尻尾。ゼノンの尻尾だった。ゼノンは一真の下に尻尾を引いて、体が地面に直接触れないようにしていてくれていたのだ。寄
「……なんだ、やっぱり面倒見いいじゃねえか」
俺はそう呟くと水を飲みに行って、帰ってくると元の位置でまた眠りに入った。翌朝起きると、ゼノンは自分から離れて寝ていた。
「おはよう」
俺は一日寝ていたら風邪は治って元気になった。昨日体をしっかりと暖めたのだが、良かったんだと思う。
「元気になったようだな」
ゼノンが済ました顔でそう言う。俺は心の中でお礼と今度蜂蜜菓子を沢山買うことに決めた。口で行ってもゼノンは、どうせ認められないだろう。こう言う奴には黙ってお礼しておくのが一番だろう。
「水飲んでくるよ」
俺はそう言って洞窟の外に出た。
一週間後、俺はいつもみたいに村に買い物をしに出かけた。俺が村に行くといつもと違う様子だった。村が妙に小奇麗になっていたのだ。
「どうしたの、おばさん?こんな村が綺麗になってるけど?」
「いや~、それがね、王国の騎士団が泊まりに来てるのさ。その騎士団が来ているもんで、街を綺麗にしてるんだよ」
俺は王国の騎士団と聞いた途端自分の中で警戒警報が鳴り響く。騎士団があそこに遺体が無いことに気づいて、俺のことを探しに来たのか?いや、そうだとしてもここに来るわけがない。どう頑張ってもここと繋がるわけがないからだ。それに冷静に考えれば俺はドラゴンに食べられたと考えられて、遺体が存在していなくてもおかしくは無い。だとしたらなぜこんな片田舎に?
「それでこんな辺境の地に騎士団がなんで来たの?」
「さあ、私らにも分からないよ」
おばさんは困ったように首を振る。
「全く商売を放って、街を綺麗にしろなんて、いい迷惑」
「あはは、お疲れ様です。いつもので」
「はいよ」
おばさんから果物を受け取ると俺は蜂蜜菓子を買い行商人の所に急いだ。
「ありゃ? おっちゃん、いつもより商品多いね」
行商人の荷車には沢山の荷物が積み込まれていた。
「騎士団のための商品でな。いつもより嗜好品を多く積み込んでるだ。いや~、売れる売れる、騎士団様様だよ」
行商人の言う通り荷台には多くの嗜好品が積み込まれていた。
「いつものだな」
行商人はそう言うと蜂蜜菓子を渡してくれる」
「あ、いつもより多めで頼む」
「おう、こんな感じでいいか?」
行商人はいつもの倍の蜂蜜菓子を渡してくれる。
「こんなに沢山渡して大丈夫なのか?」
「な~に、騎士団のためにいつもより多く積んでいるから大丈夫さ。遠慮せず持って行きな!でも金はしっかり払っておくれよ」
行商人は茶目っ気たっぷりに言うと、手のひらを差し出してきた。
「全く、しっかりしてるよ」
俺はそう言うと蜂蜜菓子の金を払った。
「毎度!!」
行商人は威勢良く言うとお金をすぐに数え始める。そう言えばこいつ騎士団に付いて来ているみたいだから、今回こんな所に騎士団が来た理由がわかるかも知れない、尋ねてみるか。
「そう言えば、おっちゃん」
「ん?なんだ?」
おっちゃんがお金を数え終わると懐の財布にしまうと俺の方に向き直った。
「今回なんで騎士団が来たか分かるか?」
「いや~俺にも分からん。ただ騎士団の装備を見る限り魔物退治には違いないと思うぞ」
「魔物退治?」
「ああ、だけどここ最近魔物の被害にあった村は聞いてないけどね。しかもこんな辺境の地は基本冒険者ギルドの仕事になるんだけどね」
「そうなんですか……」
俺は顔を見られるとまずいと考えて、すぐにその場から立ち去った。急いで洞窟に戻ろう。あそこなら騎士団も来ないだろう。俺がそう思って早足で帰り道に向かったが、なぜ騎士団がそこにいた。
「ちっ」
俺は舌打ちをして森の獣道を通って、洞窟まで遠回りをすることにした。途中魔物にあったが、戦闘になることなくすんなり通してくれる。これも魔徳と言うスキルのお陰だろう。獣道と言うこともあって中々森の中を進むことが出来なかった。
「はあ、仕方がない」
俺はそう呟くと手足をウルフマンにする。ウルフマンは二足歩行でも四足歩行でも歩ける魔物だ。俺は四足歩行で森の中を走り回るために荷物を首に掛けて走り始めた。正直顔にぶつかってくる枝が邪魔だったが、贅沢は言えない。俺は森の中を疾風の如く駆け回った。正直獣の足はこう言った道を歩くのに適している。まあ、森の中で生活しているから、当たり前だけど。遠回りしていたことあり、いつもよりかなり遅れて洞窟についた。俺は二足歩行に変えて首から荷物を外して駆け足で洞窟の中に入った。その途端何かの匂いが俺の鼻を通り抜けた。
「何の匂いだ?」
嗅ぎ慣れた匂い。それ故にその匂いの正体が分からなかった。俺は嫌な予感がして、ゆっくりと洞窟の中に入っていく。そして洞窟の奥で見覚えのある鎧と地面に倒れるゼノンの姿。ゼノンの体が流れ出る赤い液体。俺が嗅いだ匂いは血の匂いだった。俺の手から麻袋が落ち、麻袋の口から蜂蜜菓子がこぼれ落ちる。
「うそ……だろ」
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一真は何かの衝動に襲われるように叫んでいた。洞窟の中での一真の叫ぶ声が獣の声のように響き渡る。一番近くにいた騎士の二人が一真に気づいて、剣を向けてくる。
「何だ?」
「あれは……獣人だな」
「なら斬っても問題無いな」
騎士の二人は一真の手足を見て、獣人と判断して斬りかかる。一真は動きの速い四足歩行を瞬時に判断して犬のように飛びかかる。獣人は確かに獣ようだが、四足歩行では歩かない。騎士の二人は予想以上に動きの速い一真に驚いて動きを止めてしまう。その隙に一真は距離を詰めて、前足を振って騎士の喉を掻き斬る。騎士の喉から血が吹き出し、一真を真っ赤に染める。一真を殺すのは初めてだが、そんなことは気にしていられなかった。魔物の力で容易く人の命が奪えるのも原因だろう。一真は気にせずもう一人に騎士に飛びかかる。だが流石騎士と言うべきか、すぐに相手が只者ではないと分かるとすぐに切り替えて、味方の死体もろとも剣で貫く。一真は飛び上がりそれを避けて騎士の真上から襲いかかろうとする。騎士は空中で移動出来ないことを見越して、剣を空中に向ける。
「フン!」
一真は手のひらを騎士に向ける。
こいつ剣を手の平を受け止める気か?馬鹿め!
騎士が心の中で笑みを浮かべたが、次の瞬間笑が消える。自分の目の前に巨大な盾が出現したからだ。剣は縦に弾かれ、そしてー
グシャ
騎士の体は潰れた。騎士はその音共に騎士はこの世を去った。騎士が盾と思ったのは甲羅だった。リキッドタートルの甲羅だ。騎士はその重さで、体を肉塊へと変えた。
「はあ、赴任早々もう死人が出やがった。この二人は獣の相手もまともに出来ないのか?」
洞窟の奥から騎士の中でも見られない鎧を来た人間が出てくる。そいつは呆れたような声をだした。剣も騎士団が持っている剣とは違う。只者で無いことは明らかだ。
「いえ、団長。そのようなことは決して」
「馬鹿、真面目に答えんな! 独り言だ。それにあそこにいるのがただの獣だとも思わないしな」
一真は視線が向けられると同時に甲羅を体の中に収めに襲いかかる。
「俺がやろう」
団長がそう言うと同時に、一真の手が団長の首を切り裂こうと伸びる。団長はそれを余裕で避けていく。騎士の団員が団長の戦いの邪魔にならないように、その場から離れる。騎士の団員が弱いから戦闘に参加しないと言う事ではなく、団長は新しく赴任したことで、騎士団員との戦闘で連携が取れないからだ。また騎士の団員は戦闘によって疲労もある。だから団長一人で戦うことにしたのだ。
「じゃあ、ちゃっちゃと済ますぞ」
それと同時に一真の片腕、正確にはウルフマンの片腕が斬り飛ばされた。団長は一人でも一真を倒せることは、騎士団員は知っていた。何せ騎士団団員相手に対一で、勝ち抜くような男なのだ。一真一人倒すなど、赤子の手を捻るより容易いだろう。次の瞬間には、もう片方の腕も切り落とされる。一真は何をされたから気づかずに、無様に地面に顔面から倒れる。地面に顔面をぶつけた痛みが、一真を現実に戻してくれる。先程まで一真を突き動かしていた衝動はすでに無くなっていた。
「おお、流石団長!相変わらず強いっすね」
「流石団長!」
「褒めるのはいいが、お前らこいつの手を縛って……いや足を縛っておけ」
「治療しますか?」
「いや放っておけ、生かす理由ないからな」
「了解しました」
一真は足を縛られるのに抵抗しなかった。一真は黙って足を縛れる。一真を縛っていた騎士団がいなくなって、要約一真は体を幼虫のようにくねらせて、ゼノンに近づく。一真自身も理由は分かってない。だけど必死にゼノンの元に近づいていく。ゼノンの生死を確かめたかったのだろう。




