24 昔話と少年とドラゴン
一真がゼノンの所で生活をし始めて、数日が経とうとしていた。一真は何とか我慢して、体の中にソリッドタートルの甲羅とウルフマンの手足を体の中に入れる事が出来た。ウルフマンの腕力を使えば、甲羅は引きずって動かせるぐらいは出来るようになった。一真はゼノンに色々なことを教わった。
「おっちゃん、いつもの」
「はいよ、蜂蜜菓子な」
一真は今村に買い物に来ているのだった。村に買い物来るたびに蜂蜜菓子を頼むので、行商人とも知り合いになった。ちなみに蜂蜜菓子がゼノンに買ってくるように頼まれたのだ。ゼノンはあれから蜂蜜菓子にのめり込んだのだ。一真が村に買い物に行くたびに、買ってくるように頼むだ。
「兄ちゃんが買ってくれるから、いつも黒字だよ。これサービス」
行商人が一真に蜂蜜菓子を余分にくれる。
「あ、どうも」
一真は感謝の言葉は短く行って、次の買い物に移った。一真は特に感謝はしていなかった。なぜなら、行商人はこの先に行っても蜂蜜菓子は売れないので、その余り物をサービスとして渡しただけだからだ。今後も贔屓にしてくれると考えての投資したのだ。今度はいつも果物を買う店だ。
「あら、いらっしゃい」
女将さんとは世間話をする仲ぐらいにはなっていた。
「いつもので。はい、袋」
俺はおばさんに麻袋を渡した。
「はいよ」
おばさんはいつもみたいに麻袋に入れてくれる。
「そう言えばお兄さんさ?」
「何です?」
「どこに住んでるの?村の外だってことは分かるんだけど……前々から不思議でね」
おばさんは一真を伺うような顔をしている。一真は特に気にせず山を指差した。
「あのあたり」
「あんたそんな危ない所に住んでるのかい?!」
おばさんが血相変えて叫ぶ。
「な、何が危ないんです?」
一真は驚いたような顔をして質問をする。正直あの山に危ない生き物が住んでいるとしたら、村の行き帰りで襲われるかもしれない。
「それはあそこにドラゴンがいるんだよ」
「ド、ドラゴンですか?」
一真の脳裏に同居しているドラゴンが過る。
「50年に一回生贄の少女を差し出さなければいけないドラゴンでね~」
で、でもドラゴン違いかもしれない?と一真は思ったが、次の言葉で確信にを持つ。
「ドラゴンは金色の鱗に覆われた。黄金竜と呼ばれるドラゴンでね」
……思いっきりゼノンじゃないかよ。どうしよう?一真は冷や汗を書いて洞窟に戻るのが怖くなった。
「50年のたびに少女が差し出されるの。村のお金がある時は奴隷を買って、奴隷を差し出すんだけどね」
「そ、そうなんですか~」
「あ、ごめんなさいね。奴隷とか苦手でした?」
一真の様子を見ておばさんは自分の話で一真の気分を害したと思って謝ってきた。
「いえ、そう言う訳ではないです。アハハハハ」
一真は笑ってその場を後にした。
「ただいま」
一真が帰ってくると待ってまたとばかりに、走り寄ってくる大きな足音が近づいてくる。
「タカサカ帰ってきたか、あれはあるか?」
ゼノンは一真が持っている麻袋に顔を近づけクンクンと匂いを嗅ぐ。
「買ってきたよ」
一真はそう言うと、いつもみたいに蜂蜜菓子をゼノンの顔目掛けて投げる。ゼノンは口を開けてそれをキャッチする。
「モグモグ、ごっくん。……やはりもう少し大きくならないだろうか?小さくてすぐに食べ終わってしまう」
「ドラゴン用の大きな蜂蜜菓子を作ってくれる人間なんていないからな」
一真はそう言うと自分の口の中に蜂蜜菓子を放り込む。一真は口の中に蜂蜜菓子が無くなると、早速買ってきた果物を座って食べ始める。
「なあ、聞きたいことがあるんだけど」
一真が何でもないように装いながらゼノンに声を掛けた。
「何だ?」
「実はさ……」
一真は村で聞いた話をゼノンに伝え、事の真相を聞いた。
「ふむ、そのドラゴンは我で間違いは無いだろう」
「ゼノン……お前人間なんて食べるのか?」
「まさか……何度が食べたか正直美味しくない。あれを好んで食べるドラゴンもいるが、我は違うぞ」
ゼノンはそう言うと不快そうに尻尾を地面に何度か叩きつける。
「じゃあなんで?」
ゼノンは懐かしそうに目を細めて語りだす。
「今からかなり昔の話だ。我がここを財宝の隠し場所にした時にある人間の男にあった時だー」
その洞窟にはゼノンと一人の人間がいた。人間はドラゴンの姿に驚きと感動で瞳を満たしていた。
「ここに何のようだ、人族の少年よ?今日からここは我の財宝置き場になるのだ。二度と立ち寄るでない」
「い、嫌だ!ここは僕が昔から秘密基地にしてたんだい!」
「ほう!我に口答えするか?」
ゼノンはドラゴンの自分に怖気づき、少年が自分に向かってきたのを面白く思った。
「そ、そうだ!」
少年はそう言うとゼノンに、向かって拳を振り上げて攻撃してきた。拳はゼノンの鱗によってあっさり無力化される。少年は自分の拳が効かないことに、絶望的な表情を浮かべる。ゼノンは追い打ちを掛けるようにデコピンで少年を吹っ飛ばす。もちろん手加減はしているが、それでも子供にとって人生初めての衝撃だった。
「うう」
少年が涙を堪えながら立ち上がる。ゼノンはその少年が逃げ出さない事に感心していた。そんなことを何回か繰り返した。少年の体は砂だらけで、見るも痛々しい姿になる。
「少年よ、まだ我に向かってくるか?」
「ハァハァ」
少年はゼノンの質問に対する返事を行動で示した。ゼノンに向かって拳を振り上げてそのまま気を失った。ゼノンはその少年の体を治療すると魔法で村の近くに移動させた。少年の頑固さに舌を巻いた。最初のデコピンで泣いて逃げると思っていたからだ。それから数日後少年はまたやってきた。
「ほう、久しぶりだな少年」
ゼノンがニヤニヤと笑みを浮かべながら少年を向かい入れる。
「…今日は追い出さないんだな」
「ククク、この前の君に敬意を示して入ることを許したのだ」
「そ、そうなんだ」
少年は照れたようで、顔を背ける。ゼノンは少年のその態度に気を良くして景気のいい事を言う。
「少年よ、お主の頑張りの褒美として我が一つだけ願いを聞いてやろう」
「願い?」
「そうだ、一つだけ」
少年は少し悩むと口を開いた。
「今は特に無いや。いつか聞いてもらう」
「願いは保留か」
それからゼノンと少年はたまに会い話していた。別段特別な話は無かったが、少年とドラゴンの間には確かな友情が。そして長い年月が経ち、少年が青年へと変わった。そんなある日のことだ。
「願いを聞いてくれ、ゼノン!」
青年がゼノンに頭を下げてきた。青年の慌てようとは逆にゼノンは冷静だった。
「何をして欲しいだ?」
「村のある娘を攫って欲しい」
「訳を全部話せ」
流石にゼノンも突拍子も無い青年の頼みの訳に知りたくなって尋ねた。
「実は……」
青年には恋仲である娘がいるのだが、その娘が貴族に見初められてしまい、お妾さんに来るよう強要されてしまったのだ。村の中で青年とその娘が恋仲であることは周知の事実であるが、相手が貴族なだけあって、誰も反対することが出来ない。そこで考えたことが、ゼノンに村を襲ってもらい。『襲うのをやめて欲しければその娘を贄に差し出せ』と言い、娘を貴族の手から救い出した後、青年がゼノンの所に行って、青年と娘は愛の逃避行をすると言うことだった。
そうしてゼノンはその作戦の通り行動し、娘を攫ってゼノンと共に洞窟で青年が来るのを待っていた。その間にゼノンは娘に財宝の本の一部を分けてあげた。
「こ、これは?」
娘がゼノンから巾着袋一杯の銅貨、銀貨、金貨だった。このお金で人生の半分くらいは過ごせるだろう。
「結婚の祝い金だ」
ゼノンの言葉に恥ずかしさと嬉しさで娘が顔を赤くする。ゼノンはその娘の反応が面白くて笑ってしまった。その時、青年が娘を迎えに来た。青年は既に荷物をまとめている様で、すぐにでもこの村を出ることが出来るようにしていた。
「ゼノン、今回はありがとう」
「気にするな、昔一つだけ願いを聞いてやるって言っただろう。我は約束を守っただけだ」
青年は懐かしそと寂しさを合わせた笑みを浮かべた。
「そんな約束もあったな。じゃあこれでゼノンの会うことも無いだろう」
「元気でな」
「お、お世話になりました」
青年と娘は洞窟から出て行きました。ゼノンもその後の二人ことは知りません。
「そんなことがあったんだ」
「ああ、我もあの時は若かったの。年端もいかない少年に酷いことをしていた」
ゼノンは自分の顎を撫でながら懐かしそうに話す。
「でその話が50年に一回贄を出さなければいけない話になるんだ?」
一真がジト目で見つめると、ゼノンが困ったように笑う。
「いや、生贄の話はその時だけだったはずなんだが、我がそのれか50年後に戻ってきたら、生贄が差し出されたのだ」
「でどうしたんだ?まさか食ったのか?」
「まさか、食べないさ。我は贄などいらない村に帰れと言ったのだが……その娘は村で厄介者扱いされていたらしくてな。ちょうどいいからドラゴンの贄にしようと言う事だった。娘はそんな村に戻りたくないと言う事だったので、我の所で生きてくのに必要な知識と金を与えてやった。まあそういう事が多々あったのだ」
「ゼノンって以外に面倒見いいな」
「長生きしてると、暇潰しのために自分から面倒事に巻き込まれに行くようになるものさ。我にとってあれは暇つぶしだ。決して面倒見がいい訳ではないぞ」
ゼノンはそう言うとそっぽを向いてしまった。
「そうかよ、へっくしゅん!」




