2 この世界の名はアルミクス
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ここは中世の建物のようだった。場所はどこだか、分からないけど。少なくても、先程までいた日本じゃないだろう。そして自分たちが立っている地面に書かれている魔法陣を見ると、教室の床に書かれていたものと同じものだと思われる。そして魔法陣を囲うようにローブを着た人間とドレスを着た女性が囲っている。どうやらこいつらに呼び出されたようだ。
そして全員この状況を受け入れることが出来ないで、半ばパニック状態。限界まで膨らんだ風船だった。下手に誰かが騒ぐと、風船が割れかれない。
「ここは一体どこなんですか?」
その状態を知ってか知らずか、秀一が落ち着いた調子であたりにいる人間に質問をする。その秀一の落ち着いた様子が、風船の空気をゆっくりと抜いていく。これは秀一の才能だろう。
「ここは神の国、エターニャ王国です。勇者様、どうかこの国をお救いください!」
ここの代表者のようでドレスを着た女性が答える。
「そう言う話の前に、どういった状況なのか話してくれると、嬉しいんだけど」
そう言ったのは、一真だ。一真は自分達の立場とこの国の状況が分からないまま、流されるまま助けることを承諾することを危惧したのだ。
ここには正義の塊、秀一がいるのだ。秀一のことだ、流れるように助けることを決めてしまうだろう。に困っている人を助けるのは当たり前の事だと言わんばかり。一旦その流れは断ち切ったが、この国を助けるために何かをするのは、決定事項と考えてもおかしくないだろう。このクラスは基本的に秀一に右に習え状態だからだ。一真にはそれを覆すだけの力はない。唯一あるとしたら、真人だが、黙ってこの状況を見ているだけだ。
「そうですね、まだあなた方は何も分かりませんね。王の謁見室まで案内します」
真人たちは、素材は大理石だろうか? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石作りの建築物のようで床に真っ赤な絨毯がひかれている。そしてこれまた美しい彫刻が掘られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。謁見室と言うより大聖堂という言葉がピッタリな荘厳な雰囲気の広間である。
真人はそこで気付いた。ここには自分達の学校以外からも召喚された人間がいることに。
他の学校からも召喚されている。大体合わせて30人くらいか?
「お兄ちゃん!」
突然女の子の声が上がる。
「楓、お前もいるのか?!」
その声に反応したのは秀一だった。確か秀一には中学生の妹がいたな。あの女の子がそれだな。妹は秀一の下に走りよっていく。これは、少し不味いかもしれない。多分これは妹との繋がりで、秀一は妹の学校の生徒からも率いることになるだろう。
この国の王さまだと思われる人物が玉座に座った。真人たちが頭を下げないで突っ立ていると、貴族だと思われる男性が怒鳴った。
「王の御前である、頭を下げよ!無礼であろう!」
その声に驚いて、全員が頭を下げていく。
「よい、頭を上げよ」
玉座にいる初老の男性、この国の王様だろう。この貴族の集団の中で特に豪奢で煌びやかな服を纏い、金色をベースに色とりどりの宝石が付いた王冠を被っている初老の男性が進み出てきてそう言った。初老と表現するには纏う生命力が強すぎる。顔に刻まれた皺や老熟した目がなければもっと若いと言っても通るかもしれない。
「まずはこの国の王の地位と教皇の地位についております。ローゼウス・バーレルと申します。以後、よろしくお願い致しますぞ。勇者たち殿」
現在、場所を変えて、人が何十人も座れそうなテーブルが沢山並んだ大広間に通される。正直ここで話すんだったら、最初からここに通して貰いたかった。と内心一真は不満たらたらだった。たぶん、形式美と言うものだろう。あそこで王様の姿を見せることによって、王様に威厳を持たせるための。
この部屋も他の部屋と同じように豪華な作りになっている。煌びやかな調度品や飾られた絵、おそらく貴族達が集まって晩餐会などを開く場所だろう。ローゼウスが真ん中に座り、真人たちはは左右に分かれて座り始めた。この中で唯一制服を着ていない女性がいた。秀一の妹が通っている学校の先生だそうだ。まだ、若い女性でとても頼りになりそうには無かった。この先生が一応先頭に立って、ローゼウスの左の一番前の席に座る。その向かいに真人たちいつものメンバーが座る。先生側には秀一たちいつものメンバーが座る。
全員が座ると後ろで待機しているメイドや執事達が金属で出来た入れ物に飲み物を注いでくれる。全員美女とイケメンだ。
全員に飲み物が行き渡るとローゼウスは話し始める。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。最初から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を聞いて下され」
この世界の名前はアルミクス。この世界には多くの生物が住んでいるのだが、主な勢力は人間族、亜人族この中の主な民族はエルフや獣人、そして魔族と魔物である。人間は陸地が広がる北側、魔族は海が広がる南側、亜人族はそれぞれ色々な森や雪山それぞれにあった場所に生息している。そして魔物はそこら中に生息している。魔物はランク付けされていて下級、中級、上級、最上級に分けられている。上級以上の魔物は人と話すことが出来る。
そして人間と魔族の戦争が何百年も戦争を続けている。魔族は高い戦闘能力を持っていて、個人の持つ力が大きい。その力の差を人間は数の多さでカバーしてきた。魔族と人間の境目で小競り合い程度の戦闘が起きたが、大規模な戦争は起こっていない。しかし、ここ最近魔族が活発に行動するようになってきた。数の不利をひっくり返すために、街の内部に潜入して人間を大量虐殺して離脱とする、そのような戦術を取ってきたのだ。街の中には魔族と対等に戦える戦士がいると限らない。これにより人間側の数というアドバンテージが崩れ始めた。つまり、人間が滅びの道を辿っていると言う事だった。
「私たち人間が崇める神で聖十字教の唯一神にして、この世界の創造神アルティース様。私達は言い伝えられていた神の助けが得られる魔法陣を使い、私達とアルティース様の力を合わせて召喚しました。あなた方はこの世界より上位に存在し、アルティース様から選ばれた全員が強力な力を持っています。魔法陣から召喚されたのは、アルティース様ご意志。どうか魔族を打倒し私たちを魔族の魔の手からお救いください」
数刻の沈黙のあと口を開いた人間がいた。
「俺は、俺はここで戦うと思う」
秀一はそう言って、椅子から立ち上がった。
「この世界の人間達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて事は人としてできない」
秀一は一真の予想通り正義のヒーロー気取りで、この世界の人間を救うことを安請負いする。しかも、この流れに勢いを付けるように幸助が出現する。
「秀一お前が参加するなら、俺も参加するぜ。一緒に人間の未来を救おう」
「幸助」
「あなたたちだけだと無茶をしかねないから、あたしも参加する」
「優香」
「はぁ~三人が参加するなら私も参加するよ」
秀一、幸助、優香はこの戦いに参加する気満々な三人と困った顔をした楓、四人の友情ごっこで全員が影響されて、この戦いに参加する気満々になる。この空気が周りに広がり、全員がやる気満々になる。
一真も含めてこれが命を奪うことだと言うことは実感が無いはずだ。一真はそれが不安で仕方なかった。ゲームの画面越しにキャラクターを動かして、戦闘をするわけじゃない。生身の体で少なからず命を掛けて戦うことになる。
しかし、一真はそんな事は言えない。この国を救う流れが強くてそんなことを言い出せない。言い出した途端ー
「ま、待ってくれ、つまり僕たちに戦争の手伝いをしろと言ってるんだよな。悪いけど僕は戦争に参加しない今すぐ家に返してくれ!」
「おい、優吾。お前この国を見捨てるのか?」
ーこうなる。
優吾の弱気な言葉に秀一が侮蔑の視線を向ける。周りにいる生徒とメイド達や執事達からも侮蔑の視線が優吾に刺さる。この国を救うと言う流れを乱すものは、他の生徒たちに空気を読まない奴、貴族たちには目障りな人間に思われて、これからの生活がしづらくなることは避けられないだろう。
そんなこともわからない優吾を一真は本当に馬鹿だと思っていたが、今回だけは感謝した。もしここから変える方法があるなら、自分だけでも帰ろうと思っていたのだ。
「優吾君と言ったかね。悪いと思うが………君を元の世界に返すことは現状帰す事が出来ない」
『帰れない』
この事実が生徒たちを黙らせた。こ徒たちの中には危なくなったら、家に帰して貰えば良いと考えていた生徒も幾人かいただろう。
「ふ、不可能って!? 召喚出来たなら普通は帰せるでしょう!?」
一人の女子生徒が泣きそうな声で叫ぶ。どうやらこの女子生徒は、簡単に家に帰してもらえると思っていたようだ。
「あなた方を選んだのはアルティース様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法を使うにはアルティース様です。あなた方が帰還できるかどうかもアルティース様の力を借りなければ出来ません」
「と言う事は人間を救うために召喚されて、救済さえ終われば返してくれると言う事はありますか?」
別の男子学生が半ば興奮気味にローゼウスに聞く。自分たちの役目が終われば帰ると言う可能性が出てきたのだ。喜ばずにはいられないだろう。
「それはわかりませんが……言い伝えによれば魔王を倒せば元の世界に帰れると言われてます」
結局、一真たち全員はこの戦争に参加しなければいけないようだ。それしか元に戻る手段は無いのだから。