15 ダンジョン
そしてダンジョンに入る当日。騎士団団長とその騎士、そして一真達でダンジョンに入る。今回はパーティーを決めてパーティー行動は無いと言うことだった。ただパーティーとしての戦闘はするようで、闘技場の戦績の結果が良かったものは、戦うのが後になるという事だった。ダンジョンは階層が下になるほど魔物が強くなるからだ。
「すいません、団長」
一真は装備を整え終った団長を呼んだ。団長は全身を金属の鎧で覆うようなことはしていなかった。腕と脚それと胴体だけだった。肩や膝などには装備していなかった。ダンジョンの中では音が騒がしい全身アーマーは好まれない。その騒がしい音で魔物を呼びかねないからだ。
「自分の隊列を最初の方に回せませんか?」
一真の言葉に騎士団団長は驚いたように目を見開く。
「またそれは一体どうして?」
「えっと……俺の闘技場で見せたあの強さは武器が限定されているんです。だからこの大剣だと、そこまで強くはなれないですよ」
一真は苦笑していた。団長はこの発言を聞いて団長は自分の剣の柄を撫でるようにして、少し沈黙する。
「そうか……まあ、闘技場で君が見せた武器は少々特殊な形をしていたからね。分かった、隊列を変更しておこう」
「ありがとうございます」
一真はそう言って頭を下げる。
「いやいや、これも私の職務の一つだ。気にするな」
団長は何でもないようにそう言って、一真が下げている頭をポンポンと叩く。
「それに本当なら、君たちみたいな子供、しかも異世界の住人を戦わせるのは間違っているのだから」
「え?」
一真は思わず聞き返してしまったが、団長は失言とばかりに視線を逸らし、一真との会話を打ち切った。
ダンジョンに行く前にこの国の王様のローゼウス・バールレからの有難いお言葉を聞き、最初にここに召喚された時にいたドレスを着た女性も一緒にいた。どうやら彼女はこの国のお姫様のようだった。名前はミレーユ・バーレル、愛称はミレイ。なぜ愛称が分かったかと言うとー
「秀一様お気をつけて」
「大丈夫、ミレイ。心配いらいないよ」
秀一はいつの間にかお姫様とお友達になって、愛称を呼ぶような仲になっているからだ。
こいつはいつも女子と仲良くなるのが早いな。こいつの事が好きな人間は疲れそうだな。俺はあたりの女子を伺うとうちのクラスだけでなく、中学生のグループの女子まで、秀一とお姫さんを交互に見ている。まあ、お姫さんの反応からして、秀一に好意を抱いているのは、明白だからな。一真は呆れたような目で秀一を見ている女子を見ていると。
「お兄ちゃんがモテるのが羨ましいですか?」
後ろから小声で茶化すように話しかけてくる楓だ。
「羨ましくない訳ではないが、ただ冷める」
「冷める?」
「あんなアイドルみたいに好きになられても冷めるだけ」
「ふ~ん」
楓は俺の言葉を聞くと俺から離れていった。あいつは何しに来たんだ?
話が終わると一真たちはダンジョンに潜ることになった。ダンジョンに潜る人数は40人隊列で8×5だ。一隊列に騎士団の人間が二人入って戦闘をサポートすると言うことだった。それと荷物運びの馬車。ダンジョンの入口には兵士が見張りに立っていた。初めての城の外は綺麗に整っていて、住人が一真たちに手を振って送り出してくれる。その盛り上がりようはお祭りのようだ。ダンジョンの入口は大理石のような白いもので出来ていて、二階建てのビルぐらい高かった。横は30人ぐらいなら横並びしても余裕が出来るほどだった
「それじゃ、お気をつけて」
見張りの兵士二人が敬礼して、一真たちを送り出してくれる。
ダンジョンに入ると壁と床はレンガで作られていた。通路はレンガと同じような素材で作られていた。魔物がここにいるとは信じられなかった。さらに音が全くしない、それが余計に感じさせる。一真がそんなことを思っていると、団長が話し始める。
「さて、これからダンジョンについて重要な話をする」
ここでかよ!
一真は思わず突っ込んでしまった。重要な話なら入る前に話してくれれば良かったのに、入る前に説明すればいいのに。
「ダンジョン入口近くには魔物は現れない。ダンジョンの入口に近ければ近いほど魔物は現れにくくなる。ダンジョンの次の階層が近づけば近づくほど、魔物は強くなり数も多くなる。これがダンジョンの基本だ。これを覚えていないと迷子になったときや未攻略のダンジョンに入ったとき非常に困るからな。次にダンジョンは100層で構築されている。そしてダンジョンの次の階層の入口にはダンジョンの主が居てそいつを倒さなければ、次の階層にはいけない。ダンジョンの主は一ヶ月ほどで復活する」
ダンジョンごとに中ボスがいるのか。そいつを倒さなければ下の階層にいけないと。
「そして地図が作られた階層を攻略したと言う。ダンジョンは既に40層ぐらいまで、攻略されている。ダンジョンに入るなら地図は多少高額で売られているが、買うことをおすすめするよ。今回は10層までの地図を持ってきている。後今回は王の命によりダンジョンを貸し切りにしている。他の人間には会うことはないからこれから、迷子にならないようにしてくれ」
団長はそう言うと数枚の用紙を俺たちの目の前に出す。持っているものを見る限り、動物の皮を使った紙だろう。
「これで話は終わりだ。それじゃあ一番隊前にしてダンジョンを進め!」
一番最初の隊には優吾と美羽と木村先生と俺がよく知らない中学生三人と騎士の二人だ。ちなみに俺がいるのは三番目の隊だ。前衛は中学生男子の二人と優吾と騎士二人、後衛はちはる先生と美羽と中学生女子だ。適当にダンジョンを歩いていると、魔物が現れる。50センチぐらいありそうなカエルが一匹。前衛の中学生二人が距離を一気に詰めて、剣と槍で突き刺す。それでカエルの魔物は息の根が止まる。
「案外呆気なかったね」
「うん」
中学生二人は安心したように感想を述べている。
「二人共油断するな!!」
騎士の一人が怒鳴る。
「「え?」」
曲がり角から先ほどと同じくらいのカエルが三匹飛び出してきたのだ。三匹のカエルは二人に体当たりしていた。二人は油断していたこともあって、押し倒される。それを見て後衛にいた後衛にいた中学生の女子が魔法使おうと魔法と唱え始める。
「待って!今魔法で攻撃したらあの二人を巻き添えにしちゃうかもしれない」
「わ、分かりました」
優吾の言葉で女の子は呪文を唱えるのを中断する。
「先生は攻撃系の補助魔法を僕に掛けてください。天海さんは回復魔法を二人に」
「わ、分かりました。オーラアップ」
「う、うん」
ちはる先生が優吾に補助魔法掛けて攻撃力が上がったことが、優吾の体に赤く光ったことで分かる。それと同時に優吾は走り出す。美羽は回復魔法使おうとして、呪文を唱え始める。優吾は走った勢いを使用して、乗っかっているカエル二匹を蹴り飛ばすと、一匹に剣を突き刺す。余っていた一匹が優吾に飛びかかっていたが、騎士の一人がいつの間にか優吾の隣いて、そのカエルを斬り伏せる。カエルの体は真っ二つになり、レンガの床に内蔵をぶちまける。もう一人の騎士は優吾が蹴り飛ばした一匹に剣を突き刺している。そこで回復魔法で中学生二人が回復する。見た所対した怪我は負っていなかったが、かなりビビっていたようだ。
一通り戦闘が終わると、騎士からの戦闘に関する指導が入る。
「まず、前衛の二人は飛び出して行くのは良くない。他の人間がサポート出来るような距離を保つこと。それと敵を倒したからといって、油断しないこと周りの確認を怠らないように。先生は戦闘が始まったら、まず補助魔法を掛けてください。それと天海さんとみのりさんは、自分のパーティーでの役目をしっかりと自覚することと、状況をしっかりと認識してください。優吾さんは初めてとして出来は良かったですが、戦闘前にパーティーメンバーにさっきのように指示を出すことです」
どうやら後衛の魔法使いの女子はみのりと言う名前らしい、もしかして騎士達は全員分の名前を覚えているのだろうか?
「「「「「「は、はい!」」」」」」
全員直立不動でき返事をする。先程まで遠足気分が残っていたが、一真たちから消し飛んだ。油断をしたら怪我をするだけでは済まないと言うことが伝わったからだろう。それから三回ほど戦わせて、次の隊に後退する。戦闘毎に騎士達にどこを直すべきが言われて、直していく。そんな感じだ。そしてついに一真たちの番が来た。隊のメンバーは一真の二回戦目の対戦相手、葉山 和夫と楓だった。それ以外は特に知らない格好から男子二人と女子一人の魔法職だという事が分かる。前衛は俺と騎士二人、後衛は五人と隊列になった。
「作戦はどうします?」
騎士の一人が全員の顔を見渡しながら聞いてきた。たぶんこれは俺たちで作戦を考えろという事だろう。俺は自分が出来るだけ戦わないで済む作戦を考えていたので、口を開いた。
「この隊は前衛が三人しかいない。だから後衛の攻撃で最初は魔物の数を減らし、残った魔物を前衛で潰すと言うことで。奇襲をかけられた場合は前衛が対処する。それでいいですか?」
このメンバーでの序列なのでは決まっていないので、俺も発言をしやすかった。特に作戦も無いので、全員が了承して、移動が始まった。
魔物と出会って戦闘が始まったが、俺の狙い通り最初の魔法職の攻撃で敵は大抵息の根が止まって、前衛は特にすることは無く楽だった。一層と言うこともあって魔物が弱い。三回ほど戦うと交代して次の隊に回される。俺は一回も魔物と戦うこと無かった。




