10 初戦
直ぐに1週間は経ち、総当たり戦の日はやって来た。総当たり戦が行われるのは、国で管理しているコロシアムでだ。コロシアムには魔方陣が刻まれており、このコロシアムでの戦闘によるダメージや魔力の消費などは、コロシアムを出ると全て無かったことになる。ならばこのコロシアムで訓練すれば良かったのでは?と思うかも知れないが、ダメージなどと同様、ここでスキルを修得しても、無かったことになるのだ。世の中そう上手くは行かないようだ。
一真は今控え室で戦いの準備をしている。一回戦は一真からだった。どうやら弱い人から、戦わせるようだ。だから、対戦相手は優吾だ。一真は優吾相手なら、作ってもらった武器を使わないつもりだ。出来るだけ、手の内を隠しておきたいのだ。
「一真~、負けんじゃないぞ~」
背後からの達也のどやしに、一真は余裕綽々と手を振ってコロシアムの中に足を踏み入れた。
「ウオオオオオオオオオ」
一真の鼓膜を破かんばかりの観客の叫び声。大勢の観客でコロシアムが溢れている。
一真は観客の服装が上に上がるほど、豪華になって行くのを見て、上の階は貴族が座っていることが分かった。
「東の方角~!タカサカ~カズマァァ~」
どうやら、アナウンサーがいるようで、プロレスのように名前を呼ぶ。
「所持スキルは~全部で4つ!しかも何とエクストラスキル三つだ~魔徳、融合、分離!未だにその能力は不明だー!最後の一つは剣術レベル1!」
一真はスキルまで、ばらされたのは焦ったが、アナウンサーは盛り上げるために、弱く見え無いようにアナウンスしたので、焦りは無くなった。
「対する西の方角からは~ユウゴ。所持スキルは2つ!一つ未だに名前が分からない、アンノウンだ!そして、剣術レベル2だ!」
……え?
一真は思わず聞き返したくなった。
剣術レベル2って、何かの間違いじゃ?…。
一真は一つ見落としていたことがあった。優吾も訓練をして、強くなっていることを考慮しなかった。
スキルのレベル1の差でどれくらい、差がつくかで変わるけど。もしかしたら苦戦するかもしれない。
一真は自分の考えとは裏腹には内心冷や汗を掻いていた。ここで負けたら、自分が一番弱いと言う事になりかねないからだ。一度ついた印象を覆すのは難しいものだ。だから初めから負けるわけにはいかなかった。
審判役の兵士が二人の間に立つ。
「審判の合図と同時に戦闘を開始するように、合図前の魔法の発動は禁止になっている。発動した場合は、仕切り直しになる。勝敗は審判による戦闘不能判断、または降参勝敗がついたら武器を引くように。それ以上の攻撃をした場合は失格とする」
「はい」
「分かりました」
一真と優吾が返事をすると審判が片腕を上げる。
「構え」
一真と優吾はそれぞれ武器を構える。
「始め!」
審判の腕が降り下ろされる。
それと同時に優吾は、斬りかかって来る。
は、速い
この前の一真と戦った時より、格段に鋭い動きになっていたのだ。剣術レベル2の知らせが無かったら、心構えが出来ていなくて、一真は最初の一撃でやられていただろう。
一真は優吾の突きを木刀で弾くと、優吾は一真から一端距離を取る。優吾は今ので、一真との実力にどれくらい差が出たのか試したのだ。お互い脳裏に過った結果はー
防御し続ければー
攻撃し続ければー
ー負ける
ー勝てる
しかし、一真が攻撃したら、スキが出来て打ち込まれて負けてしまう。一真には防御しか残されていなかった。
お互いに結論が出たところで勝負が再開する。勿論斬りかかるのは、優吾だった。優吾は一真の防御を崩そうと、連続で攻撃してくる。一真は避けたり防御しながら、優吾の攻撃をやり過ごす。
一真はこのままでは負けてしまうことが分かっているので、何とか攻撃しようとするが、スキが無い。
これは、手を抜かずにやった方が良かったな。
一真は後悔していたが、後の祭りである。必死に優吾の猛攻を凌ぐしか無かった。だが、このままでは一真が負けてしまうことは確定だ。一真はかけに出るしか無かった。一真は優吾の真上からの攻撃を待った。
一撃目、横。
二撃目、横。
三撃目、下斜め。
四撃目、上。
来た!
一真は左腕で木刀を受ける。左腕から激痛が走る。だけどそれを無視して右手に持っている木刀を渾身の力で振るった。これで決めなければ、一真の負けだ。ガードに使った左腕は使えなくなる。そうなったら、最初の一撃を凌ぐのが限界だろう。後ろに下がられとも届くように一歩は準備しておく。
当たってくれ!
その瞬間、一真の体は吹っ飛ばされた。一真は地面を転がりながら、毒づいた。
くっそたれ!アイツ、自分から!一体どんな神経してやがる。
優吾は一真が左腕で攻撃を防いだ瞬間に一真の狙いに気づいたのだ。そこで後ろに避けたのなら、まだ話は分かる。一真も実際それを想定して、一歩前に踏み出す心構えはしていた。しかし、優吾は直前で一真の企みに気づいて、自分からぶつかりに来たのだ。体当たりだ。一真の攻撃は確かに当たったが、勢いに乗る前だ。大したダメージは入らなかった。そして、不幸中の幸いか。一真の左腕も大したダメージは入っていなかった。一真は最悪骨にヒビが入るぐらいは、覚悟していたが、アザだけで済んでいた。木刀を握り締めることは難しいが、動かすぐらいは出来た。
「おおっとこれは?カズマは左腕を犠牲にした攻撃だったが、不発のようだ!先程から防戦一方、このままだとカズマ負けてしまうか?」
アナウンサーが煽るように、解説するのが、一真の勘に触る。アナウンサーの言う通り、このままだと一真の負けは確定してしまう。焦っている所に図星を突かれると腹が立つものだ
と、取り敢えず左腕を治療しよう。
一真は魔法を使い、自分の腕を直し始める。しかし、直ぐに力一杯木刀を握れるまでは、回復は出来なそうだ。
くっそ、どうする。同じ手は通じない。どうする?
そこに審判が駆け寄ってくる。
「まだやれるか?」
「……」
一真は時間を稼ぐために、考える振りをする。
「魔法による回復の時間稼ぎをしているようなら、失格にするよ?」
だが呆気なく、審判に時間稼ぎを見抜かれてしまう。
「すいません」
一真はそう言うと、魔法を使うのをやめる。
どうする?無様に負けるようなら、ここで負けを認めるのも……。
一真が先程まで魔法を使って、治療していた左腕を見つめた。その時、一真の頭に電撃が走る。
俺は何て馬鹿何だろうー。
「棄権すー「続けます」分かった」
一真は審判の言葉を遮って、続ける事を告げると、右手で木刀を構える。
審判はそれを見ると、一真から、離れ片腕挙げて、降り下ろすと同時に試合再開を告げる。
優吾は一真の行動を不審がったが、そのまま斬りかかった。一真はギリギリ片腕で受けると、一真の顔に向かって手をつき出す。優吾は拳が届く距離では無かったが、咄嗟に反応をして、後に下がる。その時一真の口から零れた言葉その意味をしる。
「ファイヤーボール」
優吾はその瞬間、熱風を顔に受けると、同時に腹部に強烈な痛みを感じた。
「こ、これは驚きだ!絶対絶命だと思われたカズマの手のひらから炎が飛びたしたぞ!」
アナウンサーが全員の驚きを代弁するように叫ぶ。
俺の武器は何も剣術だけでは無かった事を忘れていた。魔力は少ないけど、魔法があった。それを忘れているなんて、何て馬鹿何だろう。
一真の手のひらからは、他の魔法使いに小さいが、野球ボールぐらいの火の玉が飛び出した。優吾の顔に火の玉が直撃すると同時に、一真は木刀で追い撃ちをかけた。腹部に向かって、思いっきり木刀をふった。
優吾の顔には微かに火傷の後があるだけだ。一真のファイヤーボールでは、優吾に対してダメージは入らなかった。念のために木刀で、攻撃して良かったと。一真はそう思い、額の汗を拭った。
審判が一真の状態を確認している。
多分気絶しているだけだろう。俺の攻撃がそこまで強烈なものだとは思えない。
審判が立ち上がり、片腕を上げる。
「西の方角のユウゴを戦闘続行不可能と見なし、東の方角のタカサカ カズマの勝利」
一真の勝利宣言。
「勝負決まった~。戦いを制したのは、観客の予想を覆し、絶対絶命を切り抜けたタカサカーユウゴだーー!この戦士に惜しみ無い拍手を送ろう!」
アナウンサーの言葉と同時に周りの観客から、拍手が送られる。
アナウンサーも良く、こんなレベルの低い戦いを盛り上げたよ。ここまで戦いを盛り上げた、アナウンサーに拍手したいくらいだ。
一真は立ち上がると、控え室に戻るために、疲れた体を引きずった。闘技場から出ると、体の痛みと疲れそれと魔力まで、回復する。
いや、これはここに入った時と同じ状態に戻ったと言った方が正しいだろう。
一真は自分の体を観察して思った。
だけど、精神的疲労が取れた訳じゃない。
一真は戦いの後の高揚感や精神的疲労を感じていた。
心まで回復してくれる訳じゃ無いんだな。これは精神的疲労が勝負を決める鍵になるかもしれないな。特に魔法を使う人間にとって
一真はそんなことを思いながら、騎士団長に作って貰った武器を手にする。
まあ、これを使えば基本的に勝負は決まるだろうから、精神的疲労はそこまで溜まらないだろう。まあ、どうなるかは次の試合でどうせ分かるな。次も俺の試合だ。下から三番目人間と試合だ。
一真は闘技場に向かって歩き出した。