第七話 身の上話はお互いに
今日は一本だけ投稿です。以前までの話の改稿内容は基本的にミスったルビの振り直しがメインですので気にしないでください。
『(さて、じゃあまずキミの素性から)』
「(はぁ、しょうがない、全部話すよ。でも今から言うことは全部真実だからな、嘘臭いと思うかもしれないけど無理やり信じてくれ)」
『(わかったよ)』
「(じゃあ何から話そうか、そうだな...まずは...)」
それから俺はシャティアに全部話した。自分が違う世界の人間であること、元居た世界で一度死んでいること、気がついたらこの世界で生まれ変わっていたこと、前世は17歳で幕を閉じたことや元居た世界では魔法が存在しなかったこと。他にも前世の生活や俺の好きなモノ嫌いなモノ、マジメな話からくだらない話まで包み隠さず伝えた。俺の話をシャティアは真摯に聞き続け、まったく飽きるような素振りは見せず真面目に最後まで聞いてくれた。
『(なるほど...そう言う事だったのか、道理でキミが普通じゃないわけだ)』
「(信じてくれるのか?)」
『(信じてくれって言ったのはキミの方じゃないか、けどなんか悪いことしちゃったな、辛い話もあっただろうに...)』
「(まあ、確かに辛いことはあったけど今更どうこう出来るものじゃないしな)」
『(随分と前向きだね、そういうの好きだよ)』
「(こんくらい前向きにならないと今までもこれからもマトモにやっていけないだろうしな)」
『(はは、そうだね、なかなか興味深い話を聞かせてもらったよ、ありがとう)』
「(いやいや、俺もなんかスッキリした気分だよ、こちらこそありがとう)」
『(どういたしまして。さて、キミの話を聞いてキミの霊力について一つ分かったことがあるんだ)』
「(お、そうなのか、何がわかったんだ?)」
俺がそう聞くとシャティアはこほんと軽く咳き込み語り始めた。
『(多分、前世のキミはとてつもない量の魔力を保持していたんだと思う)』
「(どういうことだ?)」
『(言葉通りの意味だよ、前世のキミは死んだ時に一時的に幽霊になったんだよね?)』
「(あぁ、身体が異常に軽かったときか)」
『(そう、その時に保持していた大量の魔力が霊力に変換されたんだと思う、身体が軽かったのも霊力が自然と身体的なサポートをしていたからだと思うよ)』
「(なるほど、そう聞くと確かに辻褄が合うな、でも俺は前世で魔法なんて使えたこと無いぞ?)」
『(そりゃそうさ、使い方を知らないんだから使えるワケないじゃないか、詠唱も魔法陣も偶然使えるものじゃないしね)』
「(そういうものか、でもなんで俺がそんな大量の魔力なんか持ってたんだろうか)」
『(キミは一度も魔力を使ったことが無いんだよね? 元々魔力が多い体質だったってのもあるだろうけど、成長とともに肥大化した魔力限界に17年分の魔力がまるまる溜まってたってのが大きいだろうね)』
「(ん?てことは俺の前世ではみんな大量の魔力を持っていたってことにならないか? そうなったら偶然魔力を使えるやつが現れてもおかしくないだろ)」
『(それこそ体質の問題だよ、実際に見てないからなんとも言えないけどキミが偶然魔力を多く持てるだけなんだと思うよ、きっとキミのいた世界の住人の魔力限界はこの世界の人間の魔力限界よりも断然少ないと思う)』
「(なるほど、まあ俺もよく知らないけどな)」
ひとまず俺は無理やり納得することにした、追及したところで今の俺の魔力は増えないそうだし。
『(よし、じゃあこの件はそういうことにしておこう。次はボクの番だね)』
「(その前にシャティアこそ何者なんだ?なんでウチに住みついてるんだ?)」
『(ボク?そうだね、お互いのことをよく知っていた方が今後もスムーズに事が進むだろうし話しておこう)』
シャティアがそう言うと俺の時と同じように何から話そうか...と悩んでいる。
『(とりあえず、もう一回自己紹介からやるね、ボクの名前は《シャティア・ヴァロッサ》人族で、死んだ時の年齢は15歳、死んでからはたしか...40年くらいかな)』
「(40年も幽霊やってるのか、ていうか人族?エリーゼの時も思ったけどやっぱり色んな種族がいるのか)」
『(そうだよ、まあ種族についての話は長くなるからまた今度教えてあげるよ)』
彼女はそう言うと自分のことについて再び語り出した。
『(さて、話を戻そう。ボクは生きているときはかなり優秀な魔術師だったんだ、王都の学園で魔術科を首席で卒業するほどにね)』
「(へぇ、そんなに凄い人物だったのか。で、その優秀な魔術師様がなぜ卒業から1年もたたずに死んでしまったんだ?)」
『(うぐ、えと...まあ、その。有り体に言えば調子に乗ってたんだよ、ボクは)』
シャティアはばつが悪そうに頬をポリポリと指で掻きながらそう答えた。
『(入学時からほかの子よりも魔力が多くて自分で言うのもなんだけど魔術センスもとても良かったんだ。周りの大人たちはボクに対してやれ「天才だ!」だの「伝説の魔術師の誕生だ!」だの褒め称えまくってた、実際その期待に応えるべく才能を伸ばそうと9年間努力したし、おかげで全属性の上級魔法までは完璧だったんだよ、ましてや水と土の属性に関して言えば上級のさらに上、特級も使えたんだ)』
「(聞けば聞くほど不思議だ、いくら調子に乗っていたとはいえ、それだけの実力があればそんじょそこらの獣くらいどうとでもなるだろうに)」
『(ボクも最初はそう思っていたんだ、確かに単純な勝負ならボクは獣や魔物にもたいてい勝てる。けどボクが死んだのはそれらの類じゃなかったんだ)』
「(それらの類じゃない?どう言う意味だ?)」
『(うん、ボクは卒業してすぐに冒険者になったんだ、魔術科首席の実力が認められてギルドランクはAランクからのスタートだった)』
「(ふむふむ)」
『(AランクからのスタートってことはクエストもAランクから始めたんだ、これがいけなかった、もっと冒険者としての経験を積むべきだったんだよ)』
だんだんシャティアの顔に影が差してきた。
『(完全に増長してたボクは迷わずAランクの護衛依頼を受けたんだ)』
「(たった一人でか?)」
『(キミは鋭いね、もちろんパーティを組んださ、初めてのクエストだったし不安もあったからね、ただ即席で近くにいた見ず知らずのパーティに入ったのは失敗だった、結論から言っちゃうと騙されたんだ、組んだパーティのメンバーと依頼主にさ)』
「(騙された?)」
『(そうさ、依頼主とボクが組んだパーティは実はグルで、メンバーが一人足りないから入ってくれとパーティに誘い入れ、護衛の最中に後ろからバッサリと切られて金目の物や装備品を根こそぎはぎ取られた挙句捨てられたんだ、死んだあとで知ったんだけどこれはよくあることらしいんだ)』
「(よくあるってどういうことだ?)」
『(ギルドランクって言うのは最低ランクがCでB、A、S、SS、SSSといった順で上がっていくんだ。CランクとBランクのクエストは割と簡単で一人でもこなせるレベルだそうなんだ)』
「(つまりどういうことだ?)」
『(クエストの難易度がAランクから急に跳ね上がるんだ、冒険者の中でここは《ソロの壁》と呼ばれるほどにね)』
「(なるほど、今までソロでクエストをこなしてたやつらがここに来てやっとパーティに入るってことか)」
『(そういうこと、そしてそこにつけ込む悪い奴もいるわけなんだよ)』
「(で、シャティアは運悪くその悪徳パーティの罠に掛かっちまったわけか)」
『(まあ、ボクにも非があったことには違いないから一概に相手が悪い、とは言えないんだけどね)』
「(随分とあっさりしてるな)」
『(死んでからすぐに霊力使ってそいつらをいたぶり殺したからね、仇討はしたよ。残ったものは何も無かったけど...)』
シャティアは「はは...」と乾いた笑いの声をあげた。
「(なんかこっちも悪いこと聞いちゃったな、ごめんな?変なこと思い出させちまって)」
『(いや、いいさ、もう40年近くも前の話だからね、気にしてないさ)』
「(そう言ってくれると助かるよ)」
『(で、ボクがここに住みついてる理由だけど、単純にここで死んだからなんだよ)』
「(は?この家の下に眠ってるの?その...)」
『(あぁ、死体?)』
「(そんはっきり!?)」
『(う〜ん、丁度この家の下ではないけど大体ここら辺どっかに埋まってるよ)』
シャティアはそうあっけらかんと言い、この話を一旦済ませると、外を眺めて何かに気づいたかのように口を手で抑え、何かに思い悩むように言葉を続けた。
『(うーん、続きを話したいところではあるけれど、もうすぐ日が暮れるね、随分と長話をしちゃったな。続きはまた明日にしないかい? ボクはまだまだ話せるけどキミはそろそろ限界だよね)』
「(ふう、確かに随分と疲れた気がするしとてつもなく眠い...これは霊力を使い過ぎたせいなのか?)」
『(いや、見た感じまだキミの霊力は十分残ってる、単純に赤ん坊の性じゃないのかな?)』
「(そうか、俺は今赤ん坊だったな、すっかり忘れてた)」
『(じゃあこの話の続きはまた明日ということで)』
「(そうだな、楽しみに待ってるよ)」
『(久しぶりに出来たボクの話し相手なんだ、卑下にはしないよ♪)』
「(そうか、じゃあまた明日な)」
『(うん、また明日)』
俺とシャティアはお互いにそう告げたあと、俺は眠りについた。
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