第二十五話 アルバートの弱点
さて第二回戦、魔術による勝負だ。勝負内容はいたって簡単。指定された属性の魔術を使い的に当て、得点を稼いでいくものだ。的に使うのはメイドの誰かが土魔術で作ったもので、破壊された時にそのメイドがカウントするそうだ。なんとも俺に不利なルールだこと、計算が人力なわけだしメイドがみんなハンス側の陣営からなんだから、俺のカウント弄れるやん...
「では第二回戦、魔術勝負始め!!」
そうこう考えているうちに試合が始まってしまった。
「最初の属性は水!」
審判の声を聞くやいなや、視線の先に土の的が発生した。
「水の精よ我が願いを聞き入れ、かの的を射抜け《ウォーターアロー》!!」
となりでハンスが呪文を唱え、矢の形をした水が勢い良く飛んでいき、的を綺麗に打ち抜く。どうやら魔術の方が得意っていうのはホントだったみたいだ。
「先手を打ったのはハンス様っす!ウォーターアローはまっすぐ的へ飛んでいき標的を見事射抜いたっす!!」
「さぁ、お前はどうだ田舎貴族、まさか魔術すら使えないというのにこの勝負を受けたのか?ん?」
ハンスが殴りたくなるようなドヤ顔をこちらに向けている。おぉ、うざいうざい。
新たな的が作られるとともに俺はその的に手を向け霊力で針程度の細さをした水を作り出す。
「ん?なんだそのちっこいのは、やはり兄と同じで魔術はからっきしのようだな!うわっはっはっは!!」
確かに魔術はからっきしだが霊術は出来るんだぞ?と言ってやりたいがそもそも霊力の存在すら世間で確認されていないのだから言えるわけもない。
ヒュッ
俺が作った水の針は一瞬で的に突き刺さると“爆散した”。
「いよっしゃ!!上手くいったぁ!」
「「「は?」」」
ハンスやメイド、実況解説まで唖然としている。そりゃそうだ、こんな“魔術”存在しないんだから。
この技は俺とシャティアが作り出したオリジナルの霊術《霊水針》だ、文字通り霊力で作った水の針だから霊水針、ほかにも霊風針やら霊土針などもある。原理は簡単でまず1リットルほどの水を作り出し、その水を爪楊枝サイズまで圧縮、そのまま空気抵抗を少なくした針を高速で射出し、刺さった瞬間に圧縮を開放、圧縮された水が一気に膨れ上がり内部から爆散させるというものだ。人に向ければ目も当てられないような大惨事になるがかなり低燃費で高威力なため、今後の主力となるだろうと信じている。
さて、試合に戻るとするか。
「魔術なら使えるよ?」ドヤァ…
さっきのハンスを上回るほどのドヤ顔をかましてやると、ぽかんと口を開けていたハンスの顔が引き締まり、次第に憤怒の表情になってきた。
「うぐぐ...おい!!早く次の的を作れ!!おのれ田舎貴族風情が調子に乗ってぇ~!!」
その後の展開は圧勝だった。水、風、土の順番を辿り全部勝ってしまった。さて、三試合先取したわけだしもう次の勝負に移っても良いよね...
「まだだ!まだ最後の属性が残っている!!」
...焦る、俺、焦る。
「火属性で勝負だ!」
マズイマズイマズイマズイ...火はマズイ!
水風土の順番で来たからラッキーだと思っていたが、まさかここで来るとは...
ここで俺の今まで隠してきた秘密を明かそう、このことを知っているのは俺以外にシャティアしかいない。練習の最初の頃で発覚した俺の最大の弱点。俺は火が怖いんだ。おそらく前世の死因があの火事だったからであろうか、火属性の魔術を使うどころか見ることも怖い、暖炉やロウソクは“そういう用途”だから怖くはないが魔術はダメだ、そこらへんの違いが自分でも理解できないが、あのゆらゆらと揺れ動く熱と光を見ると身体が震える、足腰に力が入らなくなる、吐き気を催し目を伏せたくなるほどだ。だから俺の使う霊術の中に火を使ったものはない、使えないわけではない、イメージすれば他の属性と同じように作り出せる。だが作り出した瞬間に死んだ時のことがフラッシュバックして霊力が暴走する。暴走した霊力はそのまま発動中の火となって所構わず焼き尽くす、それにはもちろん自分自身も含まれている。
したがってこの状況は非常にマズイ、勝ち負け云々ではなく俺の身の危険、いや、この場にいる全員の身に危険が生じる。というのはあくまで建前だ、本音は怖いんだ、ただただ怖い。だから必ず阻止しよう、俺は火属性が使えない。言えばそれで済むじゃないか、ハンスに言おう。
「は、ハンス様?俺は実は火属性が...」
「ファイア、どん!」
ハンスは悪戯めいた顔で火のついた指先を俺に突き出し、演舞などで魅せるための火属性魔術を目の前で俺に見せた。
ぞわりと例の感覚が蘇る。火、火、火...熱い、燃える、焦げる、焼ける...自分の肌が燃える感覚、自分の肉が焦げる臭い、息を吸うと肺が焼け、瞼を開けると目が焼ける。ただれた肌から流れる血は蒸発し、水気を飛ばした血は固まり、チリチリと髪の毛が燃え盛る。怖い...怖い...気持ち悪い...嫌だ...嫌だ...嫌だ.........。
「うぷ...おええええええええええええ」
吐いた、それはもう盛大に。そして気を失い自分が吐いた吐瀉物の海に倒れ込んだ。
なんとなく俺TUEEEE系主人公に偏りつつあったアルバートにも弱点はありまぁす!